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169 勝敗を別つ一撃

 放たれたのは光だった。


 周囲を埋め尽くす程の眩い光。


 その光に包まれて、辺りを異様な熱が満たす。


 木々は一瞬で炭と化し、地面は黒く焼けただれ、熱せられた岩が弾けるように割れる。


 炎は上がらない。いや、上がる間も無くそこにあるものをチリと化しているのである。


 そんな場所に生き物が居たとすれば、瞬く間にその命を刈り取られる事となるだろう。


 ところが、その場所には二人の戦士が絶命すること無く対峙していた。


 一人は全身鎧に包まれ、この異様な熱の原因を作り出している人物。そして、もう一人はその熱を、魔力を用いて防いでいる状態であった。



 ヴァルキュリアの一人、ミカゲ・ディエスが放った攻撃は魔法であった。


 範囲内のものを全て焼き尽くす【業火】。文字通り木々も大地も岩も、そして空気さえも触れた物全てをチリと化す魔法である。


 その魔法に対して、ファライヤは全身を魔力で覆う事で耐えているのだから驚きである。


 魔力を展開したところで、その魔力さえも燃やし尽くす概念が込められた魔法を防げるわけも無い。


 ミカゲは弓を構えた状態で、その有り得ない光景に目を細めていた。


 魔法は絶対的な概念を創り出すものである。


 それを触れた状態で耐えるという事は、決して有り得る事ではない。だというのに、ファライヤはその有り得ない事をやって退けている。


 どのような技術を以ってそれを成し得ているのか。ミカゲの瞳は冷静にその事象を分析していた。


 全身を覆う魔力の壁。それが【業火】により焼かれていくのは見て取れる。しかし、その魔力の層が表皮の一部分だけを霧散させ、内側まで燃やし尽くして行かない。


 恐らくは波状型に魔力の壁を作り出しているのだろう。魔力の護りを何枚にも重ね、上部が消し飛んだ瞬間には次の層が現れるように護っているのだ。


 だが、浸透する概念を、魔力を波状に出したからといって防ぎ切れるものでは無い。


 より目を凝らし見ると、表層の魔力を消失させた際、展開させた【業火】の一部も僅かではあるが相殺されているようにも見える。


 ―――魔法を、相殺する魔力。


 つまるところそれは、概念を宿した魔力―――魔法でしか成し得ない。


 ファライヤの護り。その全身を覆う技術そのものが、既に魔法であったのである。


 ミカゲがその事実に気が付いた時、思わず驚きの声をもらした。


「なんと美しい魔法でしょうか」


 ファライヤの扱う【操術】は、身体を強化する為だけの単純な効果しか生み出さない。魔力を纏えば攻撃力となり、防御力となる。ただそれだけの魔法だ。


 しかし、魔法である以上、その魔力には概念が宿されている。攻める。守る。思考による判断にしかなり得ないその概念は、至極単純である。


 だが、概念である以上は、他の魔法が宿すものと同等に現実を捻じ曲げるだけの力を持っているのである。


 ファライヤの【操術】は、複雑な行程を一切排除した単純の極み。魔力を当てがい身体を強化させ、その攻撃を、その守りを盤石とする為に与えられたものに過ぎないのだ。


 その単純な守るという概念が、ミカゲの魔法に対して働きかけている。強力な範囲魔法の中に在っても、肉体の周囲だけは、守るという概念が覆っている。その部分の魔法が互いに相殺し合い、幾重にも張り巡らせた魔力の層がファライヤへ概念を届かせない鉄壁の護りとなっていたのである。


 肉体を使った単純な暴力を行う為に極まった技術。魔力効率を極限まで追求して至った終着地点。


 それが、身体を強化するだけの魔法―――【操術】の本質なのであった。


 その洗練された技術の果てに生み出された魔法を見て、ミカゲは美しいとすら感じた。


 精密な魔力操作が生み出す【操術】の壁は即座に、幾重にも張り巡らされ、そのことごとくがミカゲの【業火】に触れて相殺されていくが、結局【業火】による概念がファライヤへ届く事はなかった。


 暫くして、周囲に満ちた光が消え去った。


 ファライヤは全身を弛緩させると大きく息を吐き出す。荒い呼吸を繰り返すが、その瞳に疲弊の色はみられない。


「あら? 消してしまうの? もう少しで倒せたかもしれないのに」


「いいえ、十分ですよ。あれではあなたを倒せない事がわかりましたから」


「そうかしら? さすがに熱を帯びた空気を吸い込む事は出来ないし、ずっと息を止めていたのよ? あと少し長ければ酸欠で死んでしまったかもしれないわ」


「……ご冗談を、そうなれば無理に突破しただけのことでしょう? それと、あなたの戦い方はわかりました。あなたは、魔力総量を考えて戦っていますね。あなたの魔法は魔力消費が酷く効率的です。自身の魔力を十使用して相手の百を削る戦法。その戦い方であれば、時間はかかれど魔力総量が上の相手も倒す事が出来る」


「やはり、理性的な相手は少しやり難いわね」


「先人に学んだだけですよ。そのやり方で七日七晩戦い続けた末、大英雄は吸血鬼の真祖をも倒す事に成功しています」


「水も食事も取らずに、七日も戦えるわけがないでしょう」


「さて、事実はわかりませんが、相手の血肉をも食らって戦ったと残されていますよ」


「そんな化物と一緒にしないでもらえるかしら?」


「一緒にはしていませんよ。ですが、カインという男はそんな大英雄の名を語っているのです。そして、彼に技術を叩き込んでいるのはあなただ」


「そうだとしても、私がそこまで出来なきゃいけない理由にはならないでしょう?」


「やれと言っているのではなく、それだけの事はやりそうだと警戒しているのですよ」


 ミカゲがそう言った時、山向こうから大きな爆発と土煙が上がった。


 二人はそれを見て、薄っすらと目を細めた。


「あちらも時間はかけないつもりらしいので、こちらも趣向を変えませんか? あなたが魔力消費の高い魔装を纏わないのは、私の魔力をあなたが考える一定値にまで削り切れていないからでしょう」


「だったらなんだというのかしら?」


「互いに本気で勝つ気であれば、それこそ七日七晩かかってしまうかもしれません。ですので、一撃で決着をつけましょう。単純な力比べです」


「敗北を許されないあなたが、そのような条件で戦って良いのかしら?」


「問題はありません。いかなる条件下であっても、我々ヴァルキュリアが敗北する事はありませんので」


「とんでもない自信家ね。けれど良いわ。私も時間をかけたいわけではないのだから。後悔しても知らないわよ」


 そう言うと、ファライヤは赤黒い魔石を取り出して声を上げた。


「【魔装】!」


 ファライヤの体が黒い霧に包まれる。そして、その霧が晴れると、龍の鱗を幾重にも重ねた様な鎧がその身を包んでいた。


 赤黒く血管の様な筋が脈打つように明滅しているその鎧だが、その形状はどこかヴァルキュリアが纏っている鎧に似ている。


 禍々しい色合いとうねる尾の部分は、似ても似つかないが。


「その魔装は……」


「あら? 知っているのかしら?」


「いいえ、しかし文献にはそれと酷似した魔装の事が記されています。大英雄が倒した吸血鬼の真祖。以降シグルズを率いて共に戦ったその魔族が、脈打つ鎧を纏っていたとか」


「そう? 貰いものだし、私にはこの魔装の出所なんてわからないわ」


「……貰う? まったく、あなたという人物は興味が尽きませんね」


 そう言葉を交わすと二人は同時に構えた。


 そして無言のまま、内に宿す魔力を極限まで高め合う。


 魔力総量の争いではない。これは、どれだけ魔力を高め、相手へとぶつける攻撃力を生み出せるかの争いである。


 セイナやミズシゲが行ったように、不必要な概念など込めない。純然たる魔力の胎動を感じ、ファライヤは拳に、セイナは手に持つ魔剣へと魔力を乗せた。


 合図などは何もない。


 しかし、二人の準備が整ったのはほぼ同時である。


 そして二人から、全力の魔力を込めた一撃が放たれたのもまた同時であった。


 互いの全てを破壊し尽くそうとするその一撃は、双方の拳と剣がぶつかり合うと大気を揺るがした。


 巻き起こる旋風。軋む大地。


 ぶつかり合った力は、鍔迫り合いのような拮抗は生まない。激しい衝撃と共に周囲を破壊に包み込んだのだった。


 空高くもうもうと立ち昇る土煙。


 その土煙が立ち昇る中心には、巨大な穴が空いていた。その穴を中心にあらゆるものが飛散するように蹴散らされ、強烈な破壊の跡を残す。


 破壊の中心には、一つの影が残っていた。


 その影が大きく手を振るうと、巻き起こる旋風によって土煙が一気に霧散する。


 そして、見通しのよくなった巨大な穴の中心には、姿勢良く立つミカゲの姿が露わになった。


「山を消し飛ばす程の力を込めた筈ですが……この程度で収まってしまうとは」


 そう呟いたミカゲが向き直り、視線を向けた方角で赤黒いなにかが蠢いた。


 穴の外へと弾き出され、地中に埋まるようにして倒れていたファライヤは、むくりと起き上がると何事もなかったかのように首を鳴らす。


「一撃で決着がつかなかった場合はどうするのかしら?」


「何を言っているのですか。爆心地より近しい場所に立っている私の勝ちでしょう」


「はあ? 勝手なルールを設けないでもらえるかしら? 私はこの通りまだまだやれるのだけれど」


「いえ、ですから最初に言ったでしょう。一撃で決着をつけると。互いに無事なのならば、その優劣はぶつかり合った場所からどちらの方が離れているかで決めるのが適切です」


「……呆れたわ。あなたたちは最強なのではなく、ただの負けず嫌いではないのかしら?」


「ふふ、確かにその通りなのでしょうね。ですが、争う理由が無くなってしまいました。どうやらセイナとミズシゲの間で話はついたようです」


 そう言うとミカゲは武器をしまって魔装を解いた。


 黒く長い髪に整った顔立ち。巫女装束のような袴姿に肩当てを装備した清楚な出で立ち。柔らかく微笑む姿は、最強とは程遠い優しげな表情であった。


 毒気を抜かれたのか、ファライヤも魔装を解くと腰に手を当てて溜息を吐く。


 ミカゲと違い、その姿は傷だらけだ。


「仕掛けて来ておいて、本当に勝手な連中ね」


「ふふ、そうですね。お詫びに傷の手当てをして差し上げましょう」


「……結構よ」


 満足そうなミカゲに対して、ファライヤは突き放すような言い方をして不満そうな表情を浮かべる。


「……まったく、消化不良もいいところね。この不満はあとでカインにぶつけるしかないわ」


 そう呟いて、ファライヤは再び溜息を吐いた。

読んでくださりありがとうございます。

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