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164 掛け合わせる型

 槍での突き技とは元来、予備動作を余り必要としないものである。


 しかし、相応の力を込めて速度を増す為には、剣術や体術と同様に足先へ込められた力を腰から伝達することが必要不可欠となる。そこへ魔力による強化を施し、連動する力をより大きなものへと変える事で力や速度は限界を超えて増して行く。


 その為、動き出す瞬間には体に僅かな変化が生じ魔力が揺らぐ。その力の流れが見える者にとっては多少なりとも、初動を把握する事は可能なのである。


 ところが、ルネイスの突きはそれらの僅かな揺らぎさえ掴めない程に静かで、打ち出された時には引き戻されているという、常識外れの動作を行なっていたのである。


 それ程の域に達した突きを連続して放たれたイセリアは、顔を引きつらせて必死に動いた。


 槍先に注視して打ち出される角度だけを目安に、槍の軌道上から体をズラし、予測ではなく勘だけを頼りにその攻撃を捌く。


 それでも、瞬速の突きに強弱をつけられると、それすらも直ぐに難しくなった。


 捌き切れなかったひと突きが、イセリアの頰を浅く傷付けた。


「チッ! やりにくい!」


 イセリアが声を上げるが、ルネイスはそれに反応する様子もなく、淡々と突きを放つ。


 機械のように精密な動き。それでいて、不規則に変化する速度。真っ直ぐに突かれている為、狙われている位置だけは把握出来るが、槍がいつ動き出していつその場所へ到達するのかがわからない。


 攻撃を躱す為にどうしても大きな動作となってしまい、それに反して相手は最小限の動作を以って仕掛けてくるのである。そのような攻防を繰り返していれば、何れは捌き切れなくなる。


 故に、ルネイスの槍がイセリアを捉えたのは必然であった。


 遂にはイセリアの中心を捉え、その胸元を穿とうとしたその時。イセリアの剣が閃めいた。


 イセリア流剣術【七之型・引】。


 胸を貫かれようとした正にその時、イセリアの剣が淡い光を放ったのである。すると、真っ直ぐ胸に向かっていた槍の一撃が、イセリアの剣に吸い寄せられるように軌道をズラし、剣に触れるとピタリとその動きを止めた。


 そのまま、弾くように剣を振るうと、ルネイスの槍は大きく外へと振れる。


 弾かれた槍。


 次の瞬間には、イセリアが動き出していた。


 イセリア流剣術【四之型・突】。


 高い熱量を宿した、ルネイスにも負けず劣らない速さの突き。


 その突きをルネイスは、槍の持ち手を回転させて受けた。


 しかし、イセリアの突き技は止められない。何故ならその突きは、カインの扱うレイピアが繰り出す【四之型・突】とは違い、熱量以外にも厚く張られた魔力が、空気をも削ぎ落とすが如く渦巻いていたからだ。


 カインのレイピアに組み込まれた術式とは違い、イセリア自身が扱う剣術は既に魔法の域にまで達している。


 様々な特性を持つ、九つの型を自在に操る。それが、イセリアが独自に編み出した最強を自負する剣術。イセリア流剣術なのである。



 【四之型・突】がルネイスの守りを突破すると、銀色の鎧に到達する。


 鉄をも容易く貫くそのひと突きが触れれば、並みの鎧であれば紙同然に貫かれただろう。だが、ヴァルキュリアが纏う鎧は、ただの鎧とは違う。


 大英雄の時代より数多の戦に用いられ、未だその表面に傷を残さないほど強固に造られたそれは、如何なる攻撃を以ってしても、容易く打ち破る事など出来るはずも無い。


 イセリアの突きは、ルネイスの鎧にその先端が届くとコツリと音を立てて停止した。


 ヴァルキュリアの鎧ですら貫けると確信していた自身の攻撃が阻まれ、イセリアに驚きの表情が浮かぶ。


 ルネイスも己の守りを突破し攻撃を届かせたイセリアに対して、僅かな苛立ちを見せ、唇を強く引き結んでいた。


 そして、大地を深く踏み締め、ルネイスが再度槍による攻撃を繰り出した。


 先程よりも更に鋭い突き技に加え、槍をクルクルと回して横薙ぎや振り下ろしを加えてくる。


 そもそも反応し切れていない攻撃。それに真っすぐではない攻撃が加えられては、予測や反射神経のみで対応するのは不可能であった。


 繰り出された瞬間にそれを感じたイセリアは、自身の剣術を信じる。


 イセリア流剣術【二、七之型・龍】。


 イセリアの繰り出した技は、【二之型・流】と【七之型・引】の合わせ技。剣に纏わせた魔力が龍のように渦巻き、相手の攻撃を引き寄せ、引き寄せた瞬間に受け流す。


 反応し切れない攻撃すらも自動で引き寄せ、受け流してみせるこの技は、イセリアにとっての鉄壁の守りを誇る技であった。


 イセリアは【二、七之型・龍】を扱いルネイスの攻撃をいなして行くが、ルネイスはそれでも構わず攻撃を仕掛けてくる。


 しつこく、淡々と放たれる攻撃ではあるが、イセリアに対しては非常に効果的であった。


 型を掛け合わせられるのは二つまで。【二、七之型・龍】を同時に扱っている間、イセリアは攻撃に転じる事が出来ない。つまり相手の攻撃を受け続けなくてはいけないのである。


 相手の体力や魔力を消耗させる目的があれば有効的ではあるが、無尽蔵の魔力を無駄なく効率的に扱うルネイスが相手では、魔力切れを誘発させる事も難しい。


 加えてイセリアの剣術は、その一つ一つの特性は高いものの、魔力効率という面が大きな弱点となっている。


 それ故に、この拮抗した状況が続く事は、イセリアにとってはあまり好ましい状況とは言えなかった。


 どうやって状況を打開するか?


 そう考えていたイセリアであったが、意外にも別の行動へと移行したのはルネイスの方が先であった。


 ルネイスの体から魔力が膨れ上がる。


 何をするつもりなのか。


 イセリアがそう考えた時、既にそれは放たれていた。


 膨れ上がった濃密な魔力を全て乗せたひと突き。


 そのひと突きは、あまりにも巨大過ぎた。


 ルネイスが高めた膨大な魔力を手にした槍が全て吸収すると、その槍先を人の身ほどの大きさへと変化させたのだ。


 それ程の大きさでありながら、その速度を衰えさせる事なくイセリアへと迫ったのである。


「そんなのありかよっ!」


 慌てたイセリアが手にした剣を縦に掲げると、地からせり上がるようにして生み出された透過した剣が幾重にも重なり、丸い円を作り上げる。


 イセリア流剣術【三之型・(つい)】。


 本来であれば、周囲の魔力を用いて複数本の刃を生み出す技であるが、イセリアはルネイスの一撃を躱し切れないと判断しその剣を幾重にも重ねて盾を作ったのである。


 周囲を揺るがすような衝撃が走り、それでも巨大な槍の勢いを止め切れない。イセリアの重ねられた剣は弾き飛ばされ、その身に添えた剣ごとイセリアは大きく吹き飛ばされた。


 木々を何本もへし折り、岩にめり込むようにしてようやくその勢いを止めたイセリア。


 そのイセリアに対して、息を吐く間もなく次の一撃が放たれていた。


 目を剥いたイセリアは、痛みに悶えるのも忘れて転げるように岩から這い出ると、次の瞬間には、その空間を岩ごと丸い大きな円が抉りとっていた。


 更に攻撃は続く。


 だが、距離が開いた事により、イセリアにも僅かではあるが対応する為の間が出来た。


「んにゃろうっ!」


 イセリア流剣術【二、三之型・応龍】。


 複数本の刃が龍のような螺旋を描き、ルネイスの巨大なひと突きを巻き込んだ。


「ぐっ、うぉおおおりゃあああ!」


 強引にその一撃を逸らし、イセリアは肩で息をした。


 間を置いて、岩に激突した時の痛みがやってくる。


「いてて、無茶苦茶な攻撃しやがって」


「無茶苦茶なのは、お前も同じ。普通、あの攻撃は避けられない」


 いつの間にか、見える場所までやって来ていたルネイスが、イセリアの呟きに答えた。


「そりゃどうも。なんたって私の剣術は、地上最強の剣術だからね。なんだって出来るのさ」


「最強? 防戦一方だったのに?」


「何言ってんだい! その鎧を着てなきゃ、私の剣術はあんたを捉えていたっての!」


「それこそ勘違い。確かに良い突き技だったけど、それが届かなかったのはこの鎧の所為じゃない」


「なら、なんだって言うんだい?」


「馬鹿なの? それを敵に教えてやるわけない。自分で考えろ」


「はんっ! 見当ぐらいついてるさ。試しに聞いてみただけに決まってるだろ。馬鹿な奴だね」


「馬鹿はお前」


「いいや、あんただね!」


 子供のように言い合った二人が互いを睨み付けると、再びその手に持った武器を構えた。


 そして。


 なんの合図も無く放たれた二人の攻撃が、突如として空間を揺らした。


 予備動作無く放たれるルネイスの突き。それに合わせるかのように、イセリアが【四之型・突】を用いて攻撃をする。


 寸分違わず互いの一撃がぶつかり合い、その衝撃で二人の間には余波による振動が生み出された。


 それが幾度となく繰り返される。衝撃が巻き起こる度に周囲は揺れ動き、地は抉れ、砂埃が辺りに立ち込める。


 二人の視界が砂埃により完全に覆われた瞬間、イセリアは大きく跳躍した。探知の糸が互いに触れ合っていないこの状況であれば、相手の位置は視界と気配でしか判断出来ない。その一つである視界が塞がれた状態で、瞬時に飛び上がる動きをヴァルキュリアといえども完全に把握することは不可能である。


 イセリアは飛び上がった状態で、ルネイスに対し【五之型・斬】を放とうとしてギョッと目を剥いた。


 飛び上がった空中で、目の前にはルネイスの姿があったのである。


 ところが、イセリアと同じくルネイスもそれには驚きを見せていた。


 まさか、同時にそれも同じ行動に出るとは予想してなかったのか、空中で鉢合わせた二人は僅かな間硬直をする。



 二人が動き出したタイミングもほぼ同時であった。


 しかし、判断した行動は異なる。


 真っ直ぐと槍を突き出したルネイスに対して、イセリアは体を捻って剣を掲げたのである。そして、ルネイスの攻撃をギリギリ避けると、【三之型・対】を用いて空中に剣を精製し、それを足場にして空を駆けたのである。


 空中で動き回るイセリアに対して、流石のルネイスも即座に対応する事は出来なかった。そして、回り込むように接近したイセリアの剣が、遂にはルネイスを捉えた。


 力の籠もった容赦のない一撃。


 防ぐ術はないだろう。そう思えるほどに完璧な一撃は…………ルネイスの手甲により受け流されてしまった。


 先程と同様に鎧へ攻撃が届いた瞬間、纏っていた魔力が分散し、勢いを削ぎ落とされたまま鎧へ剣先がぶつかる。


 その出来事に、イセリアは顔を顰めて空中に出現させた剣を蹴ると、ルネイスから一旦距離をとって地面へと着地した。


 間を置いてルネイスが静かに着地をする。


 イセリアは顎に手を当てて考えた。


 ―――当たる瞬間、私の魔力が強制的に霧散した。その所為で、あのやたらと堅い鎧を貫けなかった。魔力そのものを変質させ、魔法の領域へと至っている私の魔力を霧散させる技術。それはもう、紛れも無い魔法による効果だろうね。

 その特性はなんだ? 込められた概念は、魔力を霧散させる事だけか? ええい、考えるのも面倒だね。


 イセリアは考える事を放棄して、剣を構える。


 ―――魔法を扱っているってんなら、使われる前に打ち込めば良いだけさ。


 これだけの攻防を繰り広げながらも呑気にそんな事を考えるイセリアと違い、ルネイスの瞳は炎のように揺らめき、強い感情を滾らせていたのであった。

読んでくださりありがとうございます。

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