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160 一子相伝の魔眼

 踏み込んだのはほぼ同時だった。


 僅かな狂いも生じさせない同じ動き。


 手にした武器を振り上げる様子もなく、ただ一歩踏み込んだだけの二人は、気が付けば互いの武器をぶつけ合い鍔迫り合いを行なっていた。


 打ち合った衝撃だけで木々がなぎ倒され、硬い大地がヒビ割れる。


 並みの人間ならば、受けることすら出来ずに、チリと化してしまうであろう程の衝撃。それだけの攻撃を二人は初手から平然と放って見せた。


 それだけではない。


 それほどの衝撃を受けても折れる事ない、セイナの持つ青白い炎を纏った剣と、ミズシゲの持つ紅く魔力を散らせる刀。


 膨大な魔力を宿すそれは、あるだけで周囲に異様な圧力を生み出していた。



「ここでは互いの邪魔となる。移動しようと思うのですが?」


 ヴァルキュリアの一人、ミカゲ・ディエスがファライヤへ向けて提案すると、ファライヤはそれに頷いて承諾した。


「では、少し上へ行きましょうか」


「良いでしょう」


 そう言って二人は、大木を軽々飛び越え、直ぐに姿が見えなくなった。


 イセリアとルネイスも、ファライヤたちと同様に移動を始める。


 そして、その場に残されたミズシゲとセイナ以外の面々は、動けずに固まっていた。


 谷のように裂けた大地の向こう側で争っていた、獣人の集団とゲンゴウ、リンドーの二人。


 獣人たちもそうだが、リンドーも両者が生み出す衝撃に、口をあんぐり開けて唖然とした様子であった。


「ゲ、ゲンゴウさん! ちょっとこっちもヤバそうなのですが?」


「ミズシゲが本気で戦ったのならそうなる。当然ではないか!」


「いや、当然とか知りませんし! 距離を取らないと巻き込まれますよ!」


「だから引くのならば、お前だけ引けば良かろう! 俺は此奴らを足留めすると言っているのだ! 引くのは、此奴らが引いた後だ」


「わ、私だってカッコつけた手前、ゲンゴウさんを残して逃げるわけにも行きませんよ!」


「知るか! ならば精々巻き込まれないように気を付けろ!」


 冷たく言い放つゲンゴウではあったが、内心では葛藤があった。


 ヴァルキュリアとの争いが起これば、こうなる事は十分に予想が出来た。だが、多少の諍いの後、カインがその場を取り纏めるだろうと予測していたのである。


 しかし、蓋を開けてみれば、両者が全力でぶつかり合っている。それも、剣を交える事はないと思っていたミズシゲがである。


 何故、ミズシゲがこの場で本気を出すのか?


 何故、同じヴァルキュリアと争うような真似をするのか?


 ミズシゲの根幹にある基準が理解出来ず、ゲンゴウは取るべき行動を決めかねていたのである。


 留まれば何れは、巻き込まれる。


 しかし、従者として不用意に下がるわけにもいかない。


 己が何を成すべきなのか判断が出来ず、ゲンゴウはただ、獣人たちとミズシゲたちの両方へ注意を向けて、長刀を構える事しか出来なかった。




 互いに込められた力は互角。


 合わされた剣と刀が拮抗し、ぶつけ合う魔力の粒子が弾けるよう散っていく。


 その拮抗した状態を、先に崩したのはミズシゲであった。


 刀をセイナの剣の上で滑らせ、その身をくるりと横に旋回させると、押さえ込んでいた剣が音すら立てずに振り抜かれる。その剣をギリギリで躱し、旋回した勢いのまま、刀をセイナへ向けて振り下ろした。


 しかし、振り抜いた剣を力任せに引き戻したセイナは、その一撃を剣の腹で受け流す。


 受け流された勢いのまま、再びくるりと回るミズシゲから、再度刀が振り下ろされた。


 先程よりも速い一撃。


 だが、それも同じようにセイナが受け流し、反撃に転じようとした時、三度ミズシゲの刀が振り下ろされていた。


 セイナの眉間に皺が寄る。


 受け流した瞬間に、振り降ろされる一撃。


 それを今度は勢いを削ぐ為に、流さずに受けようとすると、受けた瞬間にミズシゲの刀が剣の上を滑る。


 滑った瞬間に、四度目となる振り下ろしがセイナへと迫っていた。


 振り下ろされる度に、くるりと旋回して速度を増すミズシゲの剣技。


 その攻撃は、気が付けば振り降ろされた瞬間に次の一撃が来るほどにまで、その剣速を増していた。


 勢いを削がれる事なく、クルクルと回りながら打ち出される剣技は、目を凝らしてみるとまるで舞を踊っているかのように軽やかで、規則正しい動きを見せている。


 ほぼ同時に打ち込まれているとも見えるその攻撃に対して、セイナは最小限の動きと力加減で剣を扱い、時には纏った鎧を使って全てを打ち払った。


 竜巻のような攻防は、周囲に土煙をのぼらせ、強烈な旋風がそれを霧散させていく。


 両者一歩も引かない攻防の中、ミズシゲが更に仕掛ける。


 規則正しく打ち込まれた斬撃が空間に残り、それは一つの魔方陣を完成させていたのである。


「【舞術】、【手追連枝しゅついれんし・連】!」


 ミズシゲが声をあげると、魔方陣が淡く輝きミズシゲの籠手へと刻み込まれた。


 そして、尚も続くミズシゲの攻撃に対して、追撃を放つべく、籠手の魔方陣から魔力の刃が飛び出したのだ。


 隙間無く打ち込まれる攻撃。その攻撃全てに魔力の刃による追撃が加えられる。


 ミズシゲの速度は更に上がり、既に一太刀で全方位から攻撃を仕掛けているのと変わらない状態となっていた。


 さすがのセイナを以ってしても、全方位から同時に、それも隙間無く打ち込まれた攻撃を捌ききるのは難しい。


 セイナは受け切ることを諦め、地面に向かって己の剣を突き立てた。


「【懐剣・同】!」


 セイナが声を上げると、突き立てた剣が肥大化して即座に地面からせり上がった。


 ミズシゲの剣速に劣らぬ速さで、地から放たれる一撃。その一撃は、セイナとミズシゲの間を遮断するように突き上げられ、ミズシゲの放つ連撃をたった一撃で全て弾き返した。


 即座に間合いを取るミズシゲ。


 ミズシゲがセイナから離れると、地からせり上がった巨大な剣はガラスが割れるように消えていった。


 しかし、消えた剣の向こう側で、セイナは既に次の一撃を放つべく構えていた。


 膨れ上がる魔力。周囲を飲み込まんばかりに広がるその魔力は、セイナの剣へ集約された。


「【懐剣・崩】」


 声をあげると、セイナがその剣を振るった。


 時間が止まったかのような、俊速の一振り。


 相手がセイナと同じヴァルキュリアでなければ、その攻撃を知覚することすら無く勝敗は決していただろう。


 いや、ヴァルキュリアであったとしても、咄嗟にその一撃を受けきれたかどうかも怪しい。


 それほどまでに、セイナの攻撃は刹那の間に行われていた。


 だが、振り抜かれたその先にミズシゲの姿はなかった。


 セイナの振るった一撃が、遠方の木々を切断し、そびえる山の頂を一部切断する。


 雪崩のように崩れ落ちる岩や土が、遥か遠くで土煙を上げた。


 そして、セイナは剣を向けた先から、随分と逸れた場所に立つミズシゲへと視線を向けた。


 涼しげに立つその姿は、今の一撃に動じた様子さえない。


「それが歴代のレーヴェンたちが扱ったとされる【天眼】の力か……」


「その通りです。東国の国主となる者は、この瞳が無くては務まりません。力でのし上がったあなた方と違い、レーヴェンとなる者は、生まれながらに決まっているのです」


「強さこそが絶対のヴァルキュリアが、血に縛られるとはな」


「私もそうは思います。しかし残念ながらレーヴェンとなった者たちは等しく強い。そのような懸念が生まれる余地もない程に」


「ならばその勘違いを正してやろう。強さとは生まれながらの才能が決めるものではない。積み上げた努力で決まるという事をな」


「失礼な。レーヴェンに成るべくしてウエスギ家に生を受けた私が、何の努力もしていないと思っているのですか?」


「努力の質が違うと言っているのだ!」


「そうですね。歴史と国を背負って生まれて来た私の方が、苦労は多かったでしょうね」


「ぬかせ!」


 そう言って放たれたセイナの剣は、カインへ振り抜いた時と同様に、距離の概念を無視してミズシゲへと迫った。


 だが、パールのような瞳を見開いたミズシゲは、剣が振り抜かれるよりも速く、その軌道上から身を引いてみせた。



 ミズシゲの持つ特異な瞳、【天眼】。


 それは、ウエスギ家の子孫に発現する、全てを見通す魔眼である。


 物体の構築。魔力の性質。相手の行動予測。人の心や未来さえも見通すとされるその瞳は、東国最初の国主、ケンシンが得たとされる一子相伝のギフトであった。


 ウエスギ家の当主は、子孫が天眼を発現させた時点でその力を失う。


 その為、【天眼】を発現させた子供は、国主の座とレーヴェンの称号を引き継がせる為に、幼き頃より苛烈な教育が施される。


 ステータスを上昇させる為に、ファライヤがやって来たようなスキルと魔法の教育を、年端もいかない頃から受けるのである。


 死ぬ事も挫けることも許されず、ただひたすらに強くなる為の訓練を施され、その力で親を打ち倒した時、ようやくその日々から解放されるのだ。


 ミズシゲが自身の母親を打ち倒したのは、十二歳の頃であった。


 その年齢は歴代の当主たちの中で、誰よりも早かった。


 技量において、その才能が優れていたからではない。


 ミズシゲは誰よりも、その瞳の扱いが上手く、見通せる範囲が広かったのである。


 それ故に、醜い人の感情にあてられ、心身に大きな負担をかけられたミズシゲは、その瞳を閉じた。


 見え過ぎる為に好きにはなれなかったその瞳。


 だが、実戦においてこれほど有用なものはない。


 互いの一手を、刹那の攻防の中で読み合い、騙し合う戦いの中、次に打たれるであろう一手を見通すことが出来るのである。


 技の特性も、相手が放つ魔法の概念さえも理解し、対応することが出来るその魔眼は、先のダンジョンで相対した冒険者の持つ目とはわけが違う。


 本物の魔眼。正しく最強の能力であると言えよう。


 対抗出来る能力などない。


 常人であればそう考えるだろうが、セイナは薄く笑う。


「見えているだけでは、何も変わるまい。躱し切れなくなる未来をお前に見せてやる」


 そう言ったセイナの周囲に、再び膨大な魔力が広がった。

読んでくださりありがとうございます。

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