014取り繕わない言動
7/17 誤字修正
今後の行動方針が決まりそれぞれが納得した後は、現状の状況確認と旅程についての話し合いが行われた。そして、各自に旅程の準備が割り振られた為、会議は解散となった。
会議が終了したのち、カインは階下に設置してある魔道具。ラインの下までやって来た。
冒険者プレートを青いサークルへと掲げ、魔道具を起動させる。
ラインは、登録した者同士で伝言を送り合える、言わば掲示板の様な機能を持った魔道具である。
秘匿性に優れ、相手が内容を確認すると文字が緑色から白色へと変わるなど、様々な機能が搭載されている。
ラインを開くと初期画面にあるギルド用のグループが緑色に点滅を繰り返していた。
ギルドから冒険者たちへの伝達事項もこちらの魔道具を用いられている。
初期画面の一番目立つ位置に設置された、全体告知を行う為のグループが点灯している際、冒険者たちは必ずその項目を確認することを義務付けられている。
ギルド側が周知出来ていることを確認する意味もあるが、一番の理由としては各冒険者の生存確認を行う意味合いが強い。
いつ何時、命を落とすとも知れない冒険者たち。パーティーが全滅することもあれば、ソロで魔物討伐を行い行方の知れなくなる者たちも少なくはない。
そんな者たちが手放すことになる冒険者プレートを手に入れて、悪用しようと考える者たちも世の中にはいる。
様々な恩恵が与えられる冒険者プレート。
その冒険者プレートを停止させ、悪用を抑止するのが目的である。
ラインによる全体告知を、申請もなく半年間以上目を通さなかった者の登録を停止することで、偶然拾われたプレートなどの使用が出来ないようにしている。
プレートを持っていればラインを使用することも可能なので、あくまでも抑止する為だけに留まってはいる。だが、半年に一度とは言え、ギルドへと足を運ばなければ登録を継続することができない為、それなりの効果は出ていると言えるだろう。
ギルド用のグループが緑色の点滅を行なっているのを見て、カインはそのグループの伝達を確認した。
『天秤の塔の攻略者に対する情報求む』
報酬額は応相談と書かれたそれを、カインは溜め息とともに閉じた。
ローレンたちが話していた通り、今現在で攻略者の情報は、デバイスレインとエラー教との間で留まっているようだ。
ギルド用のグループを閉じたあとも、緑色に点滅しているグループがあった。
みれば、自分が残した伝言の表題が緑色へと切り替わっている。伝言を指で触ると、カインの残した文字が白色へと変わっており、カインに対しての返信も来ていた。
『てめぇ! 勝手に集合場所を変えるんじゃねぇ! 』と、罵倒する内容の他、あと三日ほどでペルシアに到着する旨が記載されている。
その内容に苦笑いを浮かべると、カインは追記で『ベンズマスト領のゲネードへ向かう』と書き込んだ。
ようやく連絡があったところで、直ぐに遠方へ移動しなければならなくなったことに心の中で謝った。申し訳ない気持ちが込み上げてくるが仕方ない。
自分がやるべき道は示されてしまったのだからと言い訳をして、カインはそっとラインの魔道具を終了した。
暫くの間、ギルド内の丸テーブルに腰掛けて待っていると、準備を終えたローレンがやって来た。
カインは立ち上がり、ローレンの下へと向かうと声を掛ける。
「旅路を急ぐ前に、一つ処理しておかないといけないことがある」
「エラー教か」
「そうだ。俺の仲間として行動を共にするのはいいが、お前たちは一応、エラー教に雇われている身だ。放っておけば、デバイスレインがただの裏切り者として広まってしまう」
「事実、雇い主を鞍替えしているのだから、裏切り者で間違ってはいないが?」
「それだと俺もお前も困るだろ。第一エラー教には、有力な貴族も付いているんだ。それこそ放っていたら、村の存続にも関わってくる事態になり兼ねない」
「確かに。その通りだが。奴らになんと説明する」
「ギルドにある伝話機で、エラー教と連絡はとれるか?」
「ああ。それは大丈夫だ。ボルド支部の番号は控えてある」
「なら、一度連絡を入れて、俺と代われ。こちらで話をつける」
わかったと頷きローレンは、受付へと向かって行った。
受付で伝話機の使用申請をして、待つこと数分。承認が下りたあと銀貨一枚を支払い、ローレンが受話器を取った。
エラー教のボルド支部へと取り次ぎ、伝話越しの相手と一言二言会話をすると、ローレンの表情がなにやら重苦しいものへと変わる。
しかし、カインは構わず受話器をローレンからひったくると、通話先の相手を確認し耳元に当てた。
「よう。数日振りだなエルマさん」
「これは、カイン殿。ご無沙汰しております」
受話器の向こう側からは、四日前に耳にした恰幅の良い大神官、エルマの声がややくぐもったように響いて来た。
腹の内に抱えているモノをみせない、人当たりの良い姿が目に浮かぶ。
「煩わしい挨拶は抜きで単刀直入にこちらの要件を伝える。今回のことは水に流してやる。二度目はない。わかったな」
「……カイン殿が何を仰っているのかわかり兼ねます」
カインの有無を言わせぬ物言いに言葉を詰まらせたエルマは、やや間をおいてから低く唸るような声で言った。
「白々しい。デバイスレインや他の冒険者を雇って俺たちを襲撃したことだ。お前たちがそこまで短慮な行動に出るとは思わなかったぞ」
「そのようなこと! 我々は指示した覚えが御座いません。マリアン殿には聖女になっていただく為に敬意を払っております。危害が及ぶことなど決して行うわけが御座いません」
「俺はお前が雇った冒険者どもから依頼主を聞いているんだよ。マリアンを拉致し、俺を消そうしたことは明白だ。そんな誤魔化しが通用するとは思わないことだな」
「それこそ勘違いというものです。確かに我々は冒険者を雇いましたが、そのような指示を出した覚えは御座いません。我々が冒険者に依頼したのは、マリアン殿が街を出られたので、人知れず護衛を行って欲しいとお願いしたのです。たしかにカイン殿にお伝えせずに、こちらがいらぬ気を回してしまったことは大変申し訳御座いませんでした。ですが、そもそも、カイン殿が何も仰らずに街を出られたので、お伝えする機会がなかったのです」
やや慌てた様子のエルマの声は、僅かながら上ずったように聞こえた。
伝話越しにカインの声が聞こえて来たことで、自分たちの策略が失敗に終わったことは察したのだろうが、ここまで直接的な言葉で言及してくるとは予想していなかったらしい。
それでも、動揺を隠しながらもこれだけの嘘を咄嗟に吐けるのだから大したものである。
「良く回る舌だが、話の本筋を変えようとするな。冒険者どもは襲撃して来たんだ。護衛と襲撃。いくらアホでもその二つを聞き間違えるような冒険者はいない。言い訳としては苦しいぞ」
「疑われてしまっては正直にお話するしかありませんが、私共はカイン殿ことを余り良くは思っておりません。聖女となられるマリアン殿が一介の冒険者に所有権を有されているなど、容易に看過できる問題ではありませんので」
「それで俺を始末することにしたと」
「いえいえ。そうではありません。看過できない問題とは言え、神の契約で結ばれているモノを人である我々がどうこうできるものではないのです。ですが、我々としては不満を抱いてしまうことも事実。冒険者たちに依頼を出す際、愚痴のようなものを吐露してしまうことは仕方ないとは思われませんか?」
「なるほど、今回は冒険者たちが便宜を図り、勝手にやったことだと言いたいわけか」
「我々としては事実そうであったのだとしか申し上げられません。ですが、ご迷惑かけたことは事実。なにかご入用の物があれば、教会はいくらでもご用立てする覚悟が御座います」
「ふん。まあいい。どの道今回の件でお前たちを問いただそうとは思っていない。今日はただ、意図して行ったことだろうとそうでなかろうと、二度目はないと釘を刺しておきたかっただけだ。ああ、そうだ。お前が護衛の為に回した冒険者だがな、デバイスレインの連中は連れて回ることにした。残っているクランの連中に何かあっても、俺はお前たちを見切るつもりでいるからそのつもりでいろ」
「……肝に銘じておきましょう」
重々しい空気の中、エルマが応じるとそこで通話は終了した。
「今ので大丈夫か?」
カインの後ろで腕を組んだまま話を聞いていたローレンは、不安そうな顔で訊ねた。
カインはローレンに向き直ると言葉を返す。
「これぐらいでいい。こちらが全て承知の上で許したという前提があれば、今回の失敗によって自棄になることもないだろう。相手さんはこちらの……主にマリアンとの繋がりは切りたくないのだからな」
「そう言った駆け引きはよくわからないな。闘っている方が気が楽だ」
「俺だってそうだ。だが、エラー教の存在は今後も無視できない以上。上手くやっていくしかない」
そう言ってカインは肩を竦めた。
英雄に成る為の足掛かりを得て、カインの物語は既に始まってしまったのだ。
息を潜め、力を蓄える時間は終了した。
これからは、誰かを助ける為の最善を尽くしていかなくてはいかない。
だから、敬遠していた貴族や宗教家とも折り合いをつけて付き合っていく必要があるのだ。
己の力が我儘を通せるほどに至るまでは。
今回の件も雑なやり方ではあったが、脅しとしては十分であっただろう。
教会は即席とはいえそれなりの実力者を雇ったはずである。その雇った冒険者十二名を退ける事態。この事実だけで安易には手出しできないのだと理解できるはずである。加えて、カインは教会側が仕向けたことを承知の上で許したとなれば、これ以上の軋轢を生む行為は愚かともいえる。
「それよりも頼んだ件は大丈夫だったのか?」
「ああ、ゲネードに向かう商隊はなかったが、近隣のダイアスに向かう一団に加われた。出発は明日になるが問題ないよな?」
「問題ない。俺たちの扱いはどうなった?」
「積み荷として運んでくれるらしい。Bクラスの冒険者四人とAクラスの冒険者が同行してくれるんだ。過剰な戦力ではあるが、いざという時の護衛にもなるし、断られる理由はなかったよ」
「そうか」
頷いて、カインはローレンと共に冒険者ギルドを後にした。
そして、準備を整えた仲間たちと合流し、その翌日にはベンズマスト領に向けて旅立ったのであった。
次話、明日の7:00投稿予定
話を作るのに時間が掛かり過ぎて、プロローグの改稿ができない……。
筆が早くなる方法を誰か教えてくれないものか……。
そんなことより、読んで頂きありがとう御座います。




