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137 襲撃者

 カインたちがテンペストへ到着してから十四日の時が流れ、戦闘技術を高めるとともに、希少な素材の回収を終えたカインたちはテンペストを後にすることとなった。


 ダンジョンの各階層に巣食っていた、地竜、火竜、翼竜、黄竜を倒すには至ったが、ダンジョンの最奥には災害指定の黒竜が巣食っていた。その為、ダンジョンを攻略し切るには至らなかったが、それでも十分な稼ぎと経験は得ることができた。


 期間も十分に稼いだ。今頃はルクスの方も上手くやっているだろう。


 あとは予定通りラントックスの街へと戻り、ある程度回収した素材を売り捌いた後に襲撃者を撃退するだけである。


 程なくして、街へ辿り着いたカインたちは、それぞれが手筈通りに行動を開始する。


 予めルクスに扮して話を通していたジェドが、宿屋の主人とこっそりと襲撃の算段を付け、カインたちを所定の宿へと誘い込む。


 人数も多くなって来た為、この宿に宿泊するのは、カイン、マリアン、ファライヤ、ミズシゲ、アーマード、ジェドの六名。他の面々は別の宿をとって待機する。


 エリシュナ、ヴィレイナ、トリティの三名は街の外で待機している。


 予定と違い、マリアンが飛竜を飼い始めてしまった所為で、その二頭の扱いに困ってしまったのである。


 街へ入れるわけにも行かなかった為、三名には飛竜とアグニーの世話をしてもらい、街の外で待機してもらうこととなった。


 そして、リンドーたちが一日中に捌ける量の素材を売り払いに行っている間、カインたちは宿の一室で休息を取りながら話し合いをしていた。


「今夜の食事には、毒が盛られる事になっている。耐性は付けて来たとはいえ、あまり食べ過ぎるなよ」


「ねえ、わたし耐性ないんだけど。そしたらわたしだけご飯食べれない事になっちゃうとおもうけど」


「薬はこちらで用意した睡眠作用のあるものだ。念の為、解毒剤もあるから食べる前に飲んでおけば大丈夫だろう。どの道お前は襲撃時に何もすることはないから、眠りこけていても問題ない」


「寝てる間に全部終わっちゃってるとか、寒いんですけど!」


「だったら、ちゃんと解毒剤を飲んで、食べる量を減らせ。そうすれば何も問題ない」


「わざわざ、わかっている襲撃を受ける必要性があるのですか?」


 マリアンが口を尖らせていると、ミズシゲが発言した。


「ルクスの裏切りを直ぐに露呈させない為だ。あちらの段取り通り素直に襲撃に合えば、ルクスの裏切りが暫くはわからない。単純に襲撃が失敗しただけならば相手も次の手が打てるが、間者の存在がバレているとわかれば、国境を越える際に強引な手段に出られる恐れもある」


「こちらが国境を越えるまでは、ルクスの裏切りを相手に悟らせたくないというわけですか」


「そうだ。襲撃を受けて慌しく行動していれば、ルクスも報告を入れる隙がないからな。相手も色々と可能性を考えて手が鈍るだろう」


「そう上手い事行くかしら?」


 ファライヤが腕を組んで、口元へ手をやる。


「どの道、直接国境へ向かえば足止めされる可能性が高い。ルクスの情報によれば、相手は随分とマリアンにご執心なようだ。相手の心理はわからないが、どうしても手に入れたいものを前にして力のある人間がとる行動は二つ。

 確実に手に入れられる機会を伺うか。それとも強引な手段に出るかだ」


「強引な手段に出るような相手ならば、襲撃者を迎え撃つ意味はないのではないかしら?」


「その通りだが、直接国境へ向かえば相手が慎重になる機会を失わせる。ここにルクスがいれば連絡を入れてもらい仕切り直すよう伝えて貰えるが、俺たちはルクスが居ない状態で国境を越える事になるんだ。ルクスから何の連絡もなく俺たちが想定外の動きをすれば、相手はルクスの裏切りを確信するだろう」


「なるほど、そうなると慎重な相手でも強引な手段に出るしか無くなるわね。けれど、どちらにせよ襲撃に失敗した場合は、戦力を国境付近へ集めるのではないかしら?」


「そうかもしれないな。結局は、無駄なことかもしれない。だが、その無駄な事に大した労力はかからないだろう?」


 カインがそう言うと、ファライヤはニマニマと笑みを浮かべた。


「俺たちも強くなった。それに、ファライヤもミズシゲもいるこの状況で、多少の手練れが来たところでなんの問題もない」


「過信は良くないわ。世の中には、どうしようもなく強い連中が幾らでもいるのだから」


「過信じゃない、俺は今までお前よりも強い奴を見たことがないだけだ。それに、もし単独でファライヤを倒せるような奴がいるとするならば、わざわざこの国に俺たちを誘い込むまでもなく、マリアンを奪いに来ている筈だ」


 カインがそう言うと、ファライヤはやれやれと息を吐いて。


「カインの考え方はマリアンに似ているわね。その行動には必ず明確な根拠がある。理屈屋の私では、あなたの意見についつい賛同してしまうわ」


「理屈で納得できるなら良いだろう?」


「そうね。けれど、世の中には理屈ではなく、勘というものが命運を左右することが多分にあるわ。理屈だけでなく、そういった感覚を無視しないように気を付けて欲しいものね」


「何か嫌な予感でもするのか?」


「いいえ、私はただ、あなたの意見に口出しをしてその根拠が誤りでないかを再確認させているだけよ。けれど、その理屈通りの根拠が必ずしも正しいとは限らないというだけ」


 ファライヤの言う事は正しい。


 例えどのような理屈をこねたところで、全てが理に沿った事象となるとは限らないのである。


 何よりも、全ての理を想定する事は不可能に近い。


 しかし、人の感覚というものは、時として理屈に合わない現象を感じ取ることがある。


 その事は、カインも経験上理解はしていた。


「……勘か。なるほど、肝に銘じておこう」




 そうして、夜がやってきた。


 毒を盛られた食事を済ませたあと、カインたちはパーティー用の大部屋で就寝する。


 念の為、それぞれが解毒剤を飲んで、武器を装備したまま寝床へと入る。


 ファライヤとミズシゲが窓際に立って警戒をし、一同は襲撃者が現れるまでの時間を静かに待った。


 そして、深夜を過ぎた頃に動きがあった。


 カインたちの寝泊まりする宿の周辺に、別々の方向からポツリポツリと人が集まりだしたのだ。


 拙いながらも、カインは探知を駆使してそれらの状況を探っていた。相手に魔力を目視出来る程の手練れがいた場合、カインたちが警戒している事に気が付かれはするが、そもそもこの技術は寝ている時でも使用出来るように訓練している。


 相手の技量は不明だったが、探知に精通している者であればその事にも考えが及ぶだろう。


 故に、探知を使用していようがいまいが、あまり関係ないのである。


 そして、易々と探知にかかる相手の技量から察するに、それ程の高い技術を持った者たちではないことが伺える。


 当然ながら、探知にかからない者もいるのかもしれない。しかし、それらはファライヤやミズシゲが警戒しているので問題はない。


「セト王国の暗部は、この程度の連中なのかしら?」


 窓際に立って外を警戒していたファライヤがそう呟いた。


「……暗部らしからぬ動きですね。気配どころか、足音さえ消しきれてません」


 反対側の窓際側ではミズシゲがそう言った。


「二重三重に控えているのかもしれないわね。ひとまず先行してきた連中は大した事はないわ」


「よし、全員起きろ。ジェド、準備が整ったら、連中に襲撃の合図を送れ」


 カインが言うと一同はベッドから這い出て毛布を丸めて膨らみを作る。


 ところが、マリアンはスヤスヤと寝息を立てたまま、起き上がってくる気配はなかった。


「アーマード、その寝坊助を抱えて行動してくれ」


 カインが呆れ顔でそう言うと、アーマードは頷き毛布にくるまったマリアンを慎重に持ち上げた。


 肌に触れてしまうとマリアンのギフトにより、魔力が霧散してしまう為、マリアンを運ぶにはそれなりの注意が必要なのである。


 アーマードがぎこちない様子でマリアンを抱えるのを確認して、ジェドが外へチラチラと光を送り込み合図を出す。


 その合図を受けて、控えていた襲撃者は一斉に動き出した。


 静かに宿の中へと突入し階段を駆け上がる。


 そして、カインたちの部屋へと侵入すると、一際小さな膨らみのベッドへ駆け寄り、布団を捲った。


「なにっ!」


 襲撃者が声を漏らす。


 その瞬間、カインたちは一斉に動き出した。


 壁際のカーテンの裏から飛び出し、襲撃者たちへ武器を振るう。


 容赦はしない。


 例えどのような事情があろうと、寝込みを襲ってくるような輩には手心は加えない。


 カインの刀が一人の首を刎ねた。


 続くようにファライヤの短刀が閃き、二人三人と一振りで葬り去る。


 マリアンを抱えたアーマードの前にジェドが立ち、近付く者を短剣で斬り捨てる。


 窓から侵入を試みた連中には、ミズシゲが対応した。


 ガラス越しの相手を、窓ごと撫で斬りにして打ち倒すと、ミズシゲは窓を蹴破り外へと飛び出す。


 外で待機していた襲撃者たちは驚きに固まるが、ミズシゲはそれすらも容赦なく切り捨てていった。


 逃げ出した者たちも居た。


 しかし、それら全ては宿を囲むように待機していた、ゲンゴウ、バッカー、ウルスナ、ミーア、リンドー、そしてカデナとガナックにより打ち倒された。


 約二十名ほどの襲撃者たちは、僅かな時間でカインたちによって全滅させられたのであった。


「おかしい。やはり手応えが無さ過ぎる」


 宿から出てきたカインが、外の待機組と合流するとそう言った。


「……暗部ではありませんでしたね。彼らは獣人です。それも、奴隷として扱われている」


 ミズシゲがそう言うと、倒れ伏している者たちへ視線が集まった。


 血を流し倒れている獣人たちの首には、奴隷を表す刻印がされている。


「追撃も無いようね。この程度の連中でどうにかなるとでも思ったのかしら?」


「わからない。だが、襲撃者は全員始末した。騒がれる前に街を出るぞ!」


 カインの言葉に一同が頷き行動を開始した時だった。


『カイン、大変です。軍隊が動き出しました! 旗は見えませんが、かなりの数が街へ迫っています!』


 カインの脳裏にヴィレイナから『伝意』が届く。


 ―――軍隊? ルクスからはそんな話は聞いていないぞ?


 なんとも嫌な予感を覚えつつも、カインたちは街の外で待機しているヴィレイナたちの元へと急ぐのであった。

お読みくださりありがとうございます。

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