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135 古竜種

 魔物が巣食う場所を回避して道を大きく迂回していたところ、結局は元の場所まで戻ってきたカインとヴィレイナ。


 そこで、カインはとある事に気が付いた。


 ダンジョン内は魔力が充満しており、探知を行なっても正確な流れはわからない。しかし、所々に点在する魔力が集中している箇所がある事は把握していた。


 その場所へ辿り着くと、必ず魔物たちが巣食っていたことから、カインは最初、魔物たちが発する魔力がその場の魔力量を上昇させているのだと考えていた。


 しかし、見事に迂回させられ、偶然にも一周させられて最初の位置へと戻ることがあるだろうか?


 もしそれが意図的なものだとしたら?


 カインはそう考えることで、魔力の高い位置は、魔物によって発生しているのではなく、ダンジョンが意図的に発しているのではないかと思い至ったのだ。


 魔物が偶然道を塞いでいるのではなく、魔力濃度の高い場所へ魔物が集まっている。


 集まるように仕向けて、知能の高い者を長時間足止めする事により、その者の魔力を多く吸収する。


 そこには、確かにダンジョンの意思のようなものが介在していた。


 もしそれらが、ダンジョンの意思によって生み出されたものであるとするならば、それは逆に出口への道順を教えてくれているようなものである。


 何故なら、迂回路に続く道をわざわざ封鎖する必要がないからである。


 湧いている魔力量は少なくはない。


 故に、魔力を蓄えたいダンジョンが、そこまで綿密な計算を働かせているとは考え難かった。


 個人を的にしているのではなく、不特定多数を的にしている場合、単純な仕掛けの方が効果は高い。


 仕掛けに気が付いた者はさっさと出て行ってもらい、気が付かない者を食い物にする。


 その方が、ダンジョンとしては効率がいい筈なのだ。


 つまるところ、カインたちは魔物が巣食っている場所を突破していけば、最終的には出口へと辿り着ける計算になる。


「つまり、あの変異スライムの群を倒さなくてはいけないということですね」


 カインから説明を受けて、ヴィレイナがそう結論付けた。


「そうだ。だが、それほど苦戦はしないと思う」


「スライムというのは、倒すのが難しい魔物だと聞いたことがありますよ?」


「竜種と比べれば難易度は格段に下がる。それに、おそらくだが、あいつらは弱っている筈だ」


 カインの説明によると、スライムという魔物は核と呼ばれる部分が本体であり、その核が液状の粘液を纏っている。量にもよるのだが、核がそれらを維持する為には相応の魔力量が必要になるのである。


 そして、このダンジョン内では魔力の吸収が起こっている。


 体を維持する為にスライムたちは他の魔物よりも多くの魔力を必要とする。それ故に、自身の魔力を吸われそれを補おうと魔力が湧く場所へと集まっている事が予想された。


 群がっている変異スライムたちは数こそ多かったが、一匹あたりの大きさはそれほどでもなかった。それは魔力の減少により、体のサイズを維持できなくなっているとも考えられる。


 つまり、変異スライムたちは道を塞ぐことができる大きさで、ダンジョンによって生かされているのだと思われた。


「鋭刃化を施して攻撃すれば、硬化してようが軟化してようが関係なく刃は通る。直接核を狙えれば、一撃で倒せる筈だ」


 カインの説明を受けて、ヴィレイナは納得した様子で強く頷いた。




 カインたちは最初に道を引き返した通路までやって来ていた。


 距離の離れた位置から眺めていると、変異スライムたちは、ブヨブヨと大きさを変えて、軟化と硬化を繰り返すだけで襲い掛かっては来ない。


「俺が先行するから、撃ち漏らした奴らを頼む」


 カインがそう言うと、銀とミスリルを用いて作られた錫杖を構えたヴィレイナがしっかりと頷く。


 それを受けてカインは前へ視線を戻すと、刀を抜いて先行する。


「行くぞ!」


 カインが声を掛けて疾駆する。


 迫るカインに対しても、変異スライムたちは気にする素振りも見せず、静かに形状を変えて蠢いていた。


 しかし、カインが直前まで迫ると変異スライムの表面が一斉に銀色へと変わり、守るための硬化を行う。


 透度の高い軟化の状態と違い、硬化をされると核の位置が正確にわからなくなる。


 だが、それは一般的な話であり、探知を行えるカインやヴィレイナにとっては問題にはならなかった。


 魔力が一段と強く感じられる位置、そこに核があることは間違いない。問題なのは、硬化したスライムたちの表面を破ることができるかどうかだったが……。


 それも問題はなかった。


 地竜の鱗をも切り裂くカインのひと太刀は、変異スライムの表面を容易く突き破り、正確に核を両断する。


 両断した瞬間に、スライムの体は地面に染み込むように消えてなくなった。


 硬化が意味をなさないと理解したのか、スライムたちは軟化すると、触手のように粘液を伸ばして反撃をしてくる。


 その攻撃をカインが刀で器用に捌くと、後ろからヴィレイナが錫杖を突くように振るった。


 ヴィレイナの錫杖が核を潰すと、今度はヴィレイナへ向かってスライムたちが一斉に粘液を伸ばす。


 だが、そうすると今度はカインが横合いから刀を振るい、隙だらけのスライムの核を切り裂いていったのだった。


 鈍く反応する事しか出来なかった変異スライムたちは、カインとヴィレイナにより程なくして全滅させられた。


「大丈夫か?」


「はい、問題ありません」


「全滅させると時間がかかり過ぎるな。次から、必要な分だけ蹴散らして突破しようと思うが、行けそうか?」


「だ、大丈夫です!」


「無理なら無理と言えよ。危険を冒してまで急ぐ必要はない」


「大丈夫です。初めての魔物でしたので、少しドキドキしただけなので」


「そうか」


 実戦に慣れないヴィレイナを気に掛けながら、カインは先を急ぐ事にする。


 そして、その後も変異スライムが巣食う場所を目安に、二人はダンジョンを進んで行った。


 途中、変異スライム以外の魔物ともいくらか遭遇したが、どの魔物も弱り切っていて、倒すのに苦労をすることはなかった。


 そんな危なげのない戦闘を繰り返し、暫しの時間を要したあと、カインたちは最奥地と思われる場所まで到着した。


 奥には更に部屋が続いているようだが、その広間全体を魔方陣が埋め尽くすように広がっている。


 魔方陣に描かれた文様を二人に読み解くことはできないが、転移に関係する一文が刻まれていることから、おそらくはそれが外へと続く転移魔方陣だと予想ができた。


「ヴィレイナ、転移した後は気を抜くなよ。どんな場所へ飛ばされるかも、何が待ち構えているかもわからないんだ」


「はい、注意します」


「あと、もう少し肩の力を抜け」


 カインに言われたことがわからなかったのか、ヴィレイナは首を傾げた。


 ヴィレイナは真面目で真っ直ぐな性格だ。


 それ故に、ミスを犯してこのダンジョンへ飛ばされたのは、自分の所為だと思っている。


 ダンジョンへまともに潜った事もなく、戦闘経験も少ない彼女にとっては知らない事の方が多い。その為、初めて遭遇した魔物に意表を突かれることなど、誰しもが最初はやらかすことなのである。


 慣れない者がいる時は、慣れた者が注意を促し適切にフォローをするのが冒険者の中では常識だ。


 つまり、迷宮フロッグに不意を突かれた際に、遅れをとってしまったのは、リーダーであるカインの責任なのである。


 その事を理解していないのか、ヴィレイナはここに来てからずっと肩肘を張って行動していた。


 別に緊張感を持つことは悪い事ではない。しかし、適度に気を抜かなくては、人間は直ぐに疲れてしまう。


 その蓄積された疲れは、以降に大きなミスへと繋がる。カインはその事を気にかけているのである。


 とはいえ、その事をこの場で説明したところで直ぐには治らないだろう。カインはやれやれと肩を竦めて、ヴィレイナの腰へと腕を回した。


 突然、抱き寄せられるような格好となり、驚いたヴィレイナが目を見開き、次第に顔を赤らめていった。


「……あの、カイン?」


「転移は別の場所へ飛ばされる事もある。その場合でも、しっかりと密着していれば一人として認識されるから、こうしておけば離れることはない」


「……そう、ですか」


 顔を赤らめながらも、カインに密着出来る大義名分を得たヴィレイナは、そのまま肩の力を抜いて身を寄せてカインへと抱き着いた。


 これで少しは息も吐けるだろうか?


 そう考えていたカインであったが、ヴィレイナが先ほどよりも別の意味で緊張していたとは、考えもしなかったのであった。


 そうして、二人は抱き合ったまま、魔方陣へと踏み出し、ダンジョンの外へと向かって行った。



 転移の光が収まると、そこは薄暗い空間だった。


 苔の光が届かず、辺りの状況もよくわからない。


 だが突然、カインがヴィレイナの腰へ回した腕に力を込めた。


 一瞬ドキッと胸を高鳴らせたヴィレイナであったが、カインが僅かに見せた緊張の理由を直ぐに把握する。


 探知を行い、目に見えない周囲の様子を探った二人は、辺りに漂うとてつもない魔力量に警戒の色を強めたのだ。


 この魔力は何処から?


 二人がそう思った時、直ぐ側の壁がズルリと動き出した。壁が動き出し、その奥にある壁が現れると、カインたちの周囲に苔の光が差し込む。


 そして、視界が開けると、それは姿を現した。


 カインたちを見下ろすように現れたのは、山のように巨大な黒色の竜。


 薄暗いと思われた空間は、巨大な黒竜が苔の光を遮っていた為に暗くなっていただけであったのだ。カインたちが壁だと思っていたのは黒竜の体の一部で、体をずらして光が差し込むと、その姿がはっきりと見えるようになった。


「こ、これは!」


 ヴィレイナが驚きに声を上げる。だが、カインはヴィレイナに反応することなく思考を巡らせていた。


 どう行動すべきかと。


 テンペストには昔、巨大な黒竜を目撃したという噂があった。


 その噂は時代と共に薄れ、ここ数十年の間はめっきりと語られることもなかった。


 だが、カインはその噂を耳にしたことがある。


 テンペストに巣食う黒竜。Sクラスの冒険者たちと闘千数名が返り討ちに合い、冒険者ギルドによって災害指定を受けた魔物。


 古竜種、黒竜ゼノデュロスであった。

お読みくださりありがとうございます。


マリアンたんモードに脳みそが切り替わらなくなて、遅くなりました。

ゴールデンウィークは、ペース上げれると思われます。まあ、十日しかないですが……

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