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132 二頭の飛竜

 壁中の苔が淡い光を放ち、蝋燭で照らされたような明るさを保つダンジョン内。


 その場所で、人の身の数倍はあろうかという大岩が動き出した。


 巨大な体から亀のように手足と首を出し、地を鳴らして突進を繰り出すのは地竜。


 その地竜の突進を、カインは刀を前に突き出し正眼の構えで正面から待ち受けた。


 カインが手にしている黒曜鉄で打たれた刀から、僅かに魔力の揺らぎが起こる。


 そして、地竜が体重を乗せて頭から突進してくるのに合わせて、カインが地竜の斜め右上から、振り下ろすように力を加えて刀を振った。刀が触れると、地竜は横から殴られでもしたかのように、体を斜めにしてバランスを崩す。


 そこへ間を置かずにカインが動き、ぐるりと体を回転させると、今度は刀を水平に振って真横から地竜の体へと叩き付けた。


 鋭い一撃によって、バランスを崩していた地竜の体は横倒しとなり、直ぐに起き上がれないのか手足をバタつかせてもがく。


 続けて腹を見せる地竜に向かって、カインは突きを放った。


 その突きは、腹部まで覆う硬質な鱗を容易く突き破り、低い位置にある地竜の心臓へと抵抗なく到達する。


 すると、心臓を貫かれた地竜が大きく痙攣をしたあとのたうち回る。


 そして、暫くすると地竜はその動きを完全に停止させた。


 七日に渡る地竜との攻防の末、カインは武器に魔力を這わし、その魔力を変質させる事が出来るようになっていた。


 魔力を纏わせ強度を高める硬刃化。それと、魔力に切れ味を持たせる鋭刃化。この二つを用いることで、刀を振るうだけで、殴打も斬撃も繰り出す事が出来るのである。


 新たに覚えた二つの技術を用いて、カインはたった一人で地竜を倒せるほどまで成長していたのだった。


 ドスンッと地を揺らす音がカインの後方で鳴り響いた。


 見れば、桃色の髪をした魔術士―――ミーアが息を荒げて片膝をついていた。


 その隣には横倒しとなり、ぴくりとも身動きしない地竜。


 更にその後方からも地鳴りが起きた。


 トリティとヴィレイナが、倒れた地竜を前に、疲れ切った表情を浮かべながらもガッツポーズを決める。


「みんな覚えが良くなったわね。今のは、なかなか良かったわ」


 息を吐く一同に対して、ファライヤが珍しく称賛の言葉を口にした。


「褒めてくれるのは嬉しいが、まだ終わってないぞ」


 カインの言葉を受けて一同が視線を向けると、エリシュナ監督の下、ジェド、カデナ、ガナックの三名が未だに地竜との攻防を繰り広げていた。


 地竜の突進をジェドが受け、隙を見計らってカデナとガナックが攻撃を仕掛ける。


 しかし、二人の攻撃は未だ地竜の硬質な鱗を破れず、その尽くが弾き返されていた。


 そんな三名に向かってファライヤが声をかける。


「その位でいいわ。二人は下がってジェドが決めなさい」


 ファライヤの指示に従いカデナとガナックが下がると、ジェドが短剣を抜き放ち一人で地竜と対峙した。


 変わらず猛攻を仕掛けて来る地竜に対して、ジェドは巧みな身のこなしでその苛烈な攻撃を躱していく。そして、地竜の攻撃に僅かに強い力が込められたのを見極めると、その攻撃を躱して短剣の柄を地竜に向かって叩きつけた。


 バランスを崩した地竜に対して、今度はジェドの猛攻が開始される。


 両手に握った短剣を何度も斬り付けると、攻撃に耐え切れなかった地竜が横倒しとなる。


 見せた腹に向かって再び攻撃を仕掛け、その鱗を削りとると、ジェドは大きく右手を引いて構えた。


 一拍の間を置いて繰り出された突き。


 鋭い突き技ではあるが、短い短剣の刃ではカインの時のように、地竜の心臓を貫くことは出来ない。


 しかし、ジェドの突き出した短剣の刃はそのまま心臓へと届き、巨大な地竜を容易く絶命させた。


 その様子をファライヤは満足そうに見つめて言った。


「良いでしょう、今日はここまでよ。獲物を解体して拠点へ戻りましょう」


 ファライヤの指示に頷き、それぞれが解体作業へと移る。


 まだ時間は昼を回ったところではあったが、倒した地竜は四体。その巨大な体を解体するには相応の時間がかかる。


 そして、ここまでとは言っていたが、地竜を解体する為には、刃物を鋭刃化させなくてはそもそも刃が通らない。


 結局のところ、魔力操作の訓練は引き続き行われるのであった。




 夕方になって、解体を終えたカインたちは、ダンジョンの外で設営した拠点へと戻って来た。


 拠点へと辿り着いたカインたちであったが、そこで驚きの声を上げ、警戒の色を強めることとなった。


 戻って来た拠点には、二頭の飛竜が待ち構えていたのだ。


 慌てて戦闘態勢に入るミーアとジェド、そしてトリティであったが、カインが声を上げてそれを制した。


「待て! 武器を収めるんだ」


 カインの言葉に躊躇いながらも従う一同。そして、カインの視線の先を目で追うと、そこにはテンペストの中腹へ向かった面々が、休息をとっているのが視界に入った。


「マリアン! この飛竜はなんだ?」


 カインが叫ぶと、倒木に腰掛けていたマリアンが立ち上がりちょこちょこと駆け寄ってくる。


「トラマルとムネカツって言うの」


「名前なんて聞いてない! 何故飛竜がここにいるのかを聞いているんだ」


「えー、わたしたち飛竜を捕まえに行くって言ったとおもうけど?」


「俺は卵を獲りに行くとしか聞いてないぞ」


「そうだっけか?」


 すっとぼけるマリアンであったが、流石に誤魔化し切れないと思ったのか、渋々何があったのかを説明し始めた。


 卵を回収したマリアンたちは、ひょんなことから、飛竜の群れに襲われることとなった。


 無事、飛竜を撃退したマリアンたちであったが、倒した飛竜から素材を回収していると、息のあった二頭が突然起き上がったのである。


 ミズシゲが鮮やかに打ち払った二頭は、気絶をしていただけで死んではいなかったのであった。


 再度戦闘が開始されそうになったのだが、何故か飛竜の方が尻込みをして体を低くして服従の姿勢をとったのであった。


 自分たちが容易く気絶させられたという事実もあったのだろう。もしくは、目の前で同族が解体されている姿に恐れをなしたのかもしれない。


 ともあれ、飛竜たちは己よりも強い者に従う姿勢を見せたのであった。


 元々、飛竜の卵を獲りに向かったのは、調教の難しい飛竜を卵から育てることで扱い易く教育する為であった。


 だが、従えるのは難しいと言われていた飛竜がこうもあっさりと服従してしまうとなると、卵を孵化させるまでもなく連れて帰った方が効率は良い。


 そう話し合いが行われたのち、二頭は首輪を嵌められ、ミズシゲによってトラマルとムネカツという名前も与えられ、マリアンたちに飼われることとなったのであった。


 そう上手くいくものか? と疑っていた者もいたのだが、飛竜たちは意外にも従順な態度を示した。


 特にマリアン、ウルスナ、ミズシゲの言う事は良く聞く。


 飛竜が女性好きという話は、巷では聞いたこともないのだが……。


「アレノンの匂いがするな」


 カインの後ろからひょっこり顔を覗かせて、鼻を鳴らしながらエリシュナが言った。


「え? わかる? 芳香油を作ろうと思って途中でアレノンの雫を煮たの」


「そんな事をすれば、飛竜に集られただろう」


「うん。それで戦いになっちゃって、みんながやっつけたらこの二頭が仲間になりたそうにこっちを見ていたのよ」


「飛竜を従える為の常套手段だな。奴らはアレノンの雫を好み、その香りが漂う強き者に従う」


「え? そうなの? じゃあ、アレノンの香りがしなくなっちゃったら?」


「さあな。飛竜が何を考えて行動しているのかなど知らん。だが、実の香りが消えるまでは、その者に従うだろうな。少なくとも魔国の飛竜にはそういった習性があった」


「あー、私たちに特別懐いてたのは、そういうことかあ。女の子が好きなのかとおもった」


「飛竜に人の性別が理解出来るものか。だが気を付けろよ。腹を空かせていたら突然ガブリと噛み付く事もある」


「だって。みんな気を付けてね!」


「一番気を付けるのはお前だ!」


 エリシュナの心配を他所に、マリアンは呑気なものであった。


「……マリアン、毎度のことだが勝手なことをするんじゃない。その二頭を今すぐ捌くか、山に返して来い」


「えー、ちゃんと面倒みるから良いでしょう」


「犬や猫じゃないんだよ! そもそも、飛竜を連れて国境を越えられるわけがないだろうが!」


「空を飛んでいけば良いんじゃない?」


「飛行許可がなければ撃墜される。他国へ逃げてもお尋ね者だ。国家間の問題に発展するぞ!」


「むー」


 マリアンが膨れていると、ファライヤが助け舟を出した。


「カイン、その飛竜が勝手に空を飛んで国境を越える分には問題ないわ」


「そこまで従順になるほど、調教出来るわけないだろう」


「いいえ、最悪逃げてしまっても良いのよ。勝手に国境を越えて来たら儲けもの。何処かへ行ってしまったらそれまで。それなら別に害はないでしょう?」


「こいつらが突然襲って来なければな」


「であれば、その辺りはしっかりと教え込んでおきましょうか」


 そう言うと、ファライヤは蛇のように獰猛な瞳を飛竜へと向けた。


 ファライヤに睨まれた飛竜がビクリと反応する。


 そして、ファライヤがゆっくりと飛竜へ近付くと、飛竜は怯えるように後退ったあと体を丸めてしまった。


 そんな飛竜の背を優しく撫でながら、ファライヤは言った。


「言葉がわかるとは思わないけれど、何かあったら即座に始末するから気を付けるのよ」


 飛竜たちにファライヤが言った言葉は理解出来なかっただろう。


 しかし、おそらくではあるが、飛竜たちは逆らえば命に関わるという事実を本能的に理解しただろう。


 飛竜の気持ちはわからない。


 けれど、その場にいた誰もが、こいつらは逆らわないなと、根拠もなく確信したのであった。

読んでくださりありがとうございます。

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