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013浄化の当て

7/16 誤字修正

 その少女は薄汚れた東国の衣装を纏い、疲れ切った表情のまま倒木に腰掛けていた。


 手入れのされていない長い黒髪は艶をなくし、手足は折れてしまいそうなほどに細い。何日も食事を摂っていないのか肌の血色は悪く、眠たそうな瞳は漂うように虚空を見つめていた。


 まるで生気のない姿。けれど、姿勢よく腰掛けた少女の瞳は血のように紅く、獣のように縦に裂けた瞳孔が出会った者に恐怖を植え付ける。


 人も獣も、虫でさえも少女に近付こうとするものはいなかった。


 木々の隙間から木漏れ日が差し込む森の一角。


 その場所には、鳥の囀りも、虫の鳴く音も、木々の騒めきさえない。まるで、その場所だけが隔離されてしまったかのような静寂が支配していた。


 時が止まったかのようなその場所で、ただ一つ微かな音を立てるものがあった。


 ドクリドクリと早鐘のように鼓動を高ぶらせ、普段聞き取れないであろう微かな筈の心音を静寂の中に響き渡らせる。


 少女の眠たげな瞳がチラリと音の方へと向けられた。


 視線の先にはまだ成人を向かえていないであろう、若い男の姿があった。

 少年は少女に瞳を向けられて早まる鼓動を抑えるように、苦しげに胸を抑える。


 血のように紅い瞳。獣のように獰猛な視線。

 その視線が少年の心を乱し、全身の血液を沸き立たせる。


 怖いのではない。


 未だ目にしたことのない紅色の瞳が、胸の内を熱く騒めかせるのだ。

 世界から隔離されたような静寂の中。血のように紅い瞳を向ける薄汚れた少女のことを、少年はただ、美しいと思ったのだった。


 意を決したように少年は少女へと歩み寄った。

 ガサリと草木を掻き分け、枝葉を踏みしめる音が普段の何倍もの音で周囲へ反響するように感じた。


 騒がしい音を立てて近付く少年のことを、少女は不思議そうな顔をして見つめる。乏しい表情の変化からは、少女がなにを思っているのか読み取ることは出来なかった。

 しかし、少女はゆっくりと近づく少年のことをみつめるだけで、立ち去ろうとも声を発しようともしなかった。


 少年が少女の下へと辿り着き、なにやら険しい表情をみせた。震える足を、乱れる呼吸を落ち着かせるように全身を強張らせる。


 そして、震えたままの手を少女に差し出し、強張ったままの表情で無理やり笑顔を作り言った。


「俺と友達になってくれませんか」


 少年の意外な一言に、少女の表情が僅かに揺れた。

 相変わらず眠たげな瞳のまま、少女は少年の瞳を覗き込むように見つめる。


 少女の表情は乏しい。しかし、その瞳の奥底は驚きと戸惑いの色が宿っていた。

 なぜ? そう問い掛けようとした少女の言葉を知っていたかのように、少年は言葉を続けた。


「その瞳が綺麗だったから。母さんが言っていたんだ。自分が綺麗だと感じたものは悪いものじゃないって」


 緊張で震える声を押さえ付け、気丈に笑って見せる少年の姿をみて、深く暗く沈んだ少女の心の底に一粒の雫が落とされた。


 波立ち波紋を広げるその一粒の雫。それは、少女の心の扉を叩く最初の一粒。


 そして、僅かに波立つ心の動きを無視できず、少女は無意識に少年の震える手に自身の手を重ねていた。


「……ヨミ」


 聞き逃してしまいそうなほどか細い声。けれど、少年には少女が自分の名を名乗ったのだとハッキリと理解できた。


「俺はカイン! よろしくな。ヨミ」


 嬉しさのあまり思わず緩みそうになる顔を引き締め、それでも満面の笑顔を向ける少年の姿に、ヨミと名乗った少女は口元をほんの僅かに緩めて笑った。


 それが、カインとヨミの出会いだった。






 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






「それでは、緊急会議をはじめたいと思います」


 銀色の髪を躍らせながら立ち上がった少女は、長机の中央から全員の視線が集まっていることを確認すると、そう言った。


 サファイアのような碧い瞳を爛々と輝かせ、その場にいる全員の注目を集めたのは、言わずもがなマリアンである。

 その美しい顔立ちで快活な笑顔を向けると、周囲からゴクリと生唾を飲み込む音が聞こえてくる。


「では、大英雄への第一歩として、大金貨二百枚を手に入れる為に設立しました『マリアンズ』の団長兼、我が所有者様であるカインから、本会議の概要についてご説明させていただきたいとおもいます」


 それではどうぞと、マリアンから話を振られると、周囲の視線が一斉にカインの方へと集まった。

 腕を組み険しい表情のカインは、重々しい雰囲気を漂わせ、努めて冷静な思考を巡らせる。


 どうしてこうなった……と。


「ツッコミどころが有り過ぎて処理しきれないのだが、まず一つ確認しておきたいことがある」


 なんでしょうと可愛らしく小首を傾けるマリアン。


「状況的にローレン達がこの場にいるのはまだいいだろう。だが、そもそも何故こいつらがここにいる!」


 ズビシと指を差した先には、分厚い筋肉に覆われた大柄の男が腕組みをして、どっしりと椅子に腰かけている。その横に肘をついてニマニマと笑みを向ける和装の美人。

 獣道を抜けた先で挟撃を受けたカインたちは、この二人の登場で窮地を脱することができたのである。であるが、そもそも何故この二人があの場所に湧いて来たのかが、未だに謎なのであった。


「助けてくれたんだから。ここに居るのは当然だと思うけど?」


「そういうことを言ってるんじゃねえ。何故こいつらが、お前に従って付いてきていたのかを聞いているんだ!」


「その二人は雇いました。報酬は金額には変えられない私の笑顔です!」


「まあ、なんてお買い得なんでしょう! とでも言うと思ったか! つか、俺の許可もなく、勝手に人を雇ってるんじゃねえ!」


「えー。でも、二人はとっても戦力になると思うけど。まあ、確かに団長の許可をとらなかったのは失敗しました。ごめんなさい」


「誰が団長だ! 俺を勝手に怪しげな組織に取り込むな!」


 カインはこめかみを抑えて唸った。


 二人のやり取りをニマニマと愉快そうに眺めるファライヤ。その姿がカインの目に留まり、苛立ちを増幅させる。


「それとファライヤ。お前は何故生きている!」


「馬鹿ね。死んでいないからに決まっているじゃない」


「上半身を潰されて、生きている人間を俺は知らないんだが」


「……カイン。見ての通りだけれど。上半身は潰れていないわ」


 そう言ってファライヤは自分の胸を強調するかのように寄せてみせる。

 埒が明かないと思い、カインは厳めしい表情で腕を組んだまま微動だにしない男へ視線を向けた。


「アーマードどういうことだ」


「俺に聞かれても困る」


「お前が、後処理をしてくれたよな?」


「ああ」


「冒険者ギルドに報告したんだよな?」


「ああ」


「じゃあ、何故だ!」


「細かいことを気にするな」


 カインは頭を抱えたくなった。

 そんな様子を相変わらずニマニマと楽しそうに眺めるファライヤを睨みつけ、カインは切り口を変えて質問をする。


「なら、左腕はどうした。確かに切断した筈だが?」


「酷いことをするのね」


「俺は質問をしてるんだよ!」


「そんなにカリカリしないで頂戴。左腕は……そうね」


 ファライヤは指先を口元に当て僅かに思案すると、なにを思いついたのか名案だと言わんばかりの笑顔で言った。


「生えてきたのよ」


「生えねーよ! アーマードどういうことだ!」


「俺に聞かれても困る」


 まともな奴はいないのかと、カインはこめかみに手を当てて、疲れた表情をするのであった。




 ローレンたちに襲撃された後、カイン達は事後処理の為にコント村へと立ち寄った。襲撃して来た冒険者たちを縄で縛り上げ、村の入口に転がしたままあとは長居することなく村を立ち去っている。


 村人たちには仲間同士の諍いである為、一日あとに解放して欲しいと頼んである。


 そんな面倒なことをよく村人たちが了承してくれたと思われるだろうが、そこは例に漏れずマリアンのお願いが炸裂したとだけ言っておこう。


 当初、ペルシアへ向かっていたカインたちであったが、急遽仲間に加わることとなったデバイスレインの面々と今後の方針や予定を詰める為に、モリスタンの街へと立ち寄ることにした。


 そして、街の冒険者ギルドでパーティー用の個室を借り入れ、現在の状況に至っている。


「俺からも確認したいことがある」


 ミスリルのプレートを着込み、厳めしい顔付きで声を発した男。クラン、デバイスレインのリーダーであるローレンが手を上げて発言した。


 既に疲れ切ったカインはおざなりに手を振って話を促す。


「具体的な内容は置いておくとして。そもそも、お前に大金貨二百枚もの大金を手に入れるだけの当てがあるのか?」


「まあ、なくはない」


「ならまずそれを聞かせてくれないか? マリアンちゃんがお前を大英雄にするという話は理解しているし、俺たちも協力は惜しまないつもりでもいる。だが、それはあくまでもキリエ村のガキどもが救われることが前提だ。助ける為の方針が決まらない限り、俺たちは安易に動けない」


「大丈夫だよ。最悪わたしが寄付を集めればなんとかなるとおもうし」


「だからそれはだめだと言っただろう! お前は世の中にどれだけの借りをつくるつもりだ! そんなことをしたら今後身動きが取れなくなるに決まっているだろうが」


「じゃあ、どうするのよ」


 口を尖らせて可愛らしくマリアンが抗議するが、カインはそれを無視してローレンへと視線を戻す。


「ローレン。そもそもお前たちは大金貨二百枚という金額で、どうやって村の呪いを解くつもりだったんだ?」


「浄化の力を持つ神官か神子を雇うつもりだった」


「それにしたって金額がでか過ぎるだろう。それだけあれば、王都に中規模の商会が作れるぞ」


「コルネリア領には浄化の力を持つ神官がいないのだから仕方ない。個人的な理由で他領の神官を雇うには、相応の金額が必要になる」


「貴族どもの袖にいくら入るやら」


「それも仕方ない。力のある貴族に目を付けられたら、例え呪いを解いたところで、村が存続できるかも怪しくなる。それで? お前の当てはなんだ」


「方法はお前らがやろうとしていたことと変わらない。だが、金は掛けないが」


「神官か神子を金も払わずにどうやって雇うというんだ」


「直接交渉するんだよ。なんと言ってもウチには人をたらし込む専門家がいるからな」


 カインはチラリとマリアンをみて言った。その仕草でローレンはなるほどと直ぐに納得する。


「対価なしっていうのも難しいと思うが、仲介を排することで馬鹿らしい金額は払わなくてもすむことにはなる」


「浄化が出来るほどの神官と直接交渉ができるコネでもあるのか?」


「いや。ベンズマスト領に一人だけ、平民の治癒を行っている神子が浄化の魔術を行使できると聞いたことがある。そいつを口説き落とすのが手っ取り早いと思っている」


「ねえ。それならエラー教に誰か紹介して貰えばいいとおもうけど」


「それも考えたが、ローレン達はエラー教と契約して、俺たちを襲ってきたんだぞ。目的が呪いを解くことなら、金銭契約じゃなくて神官の一人でも派遣して貰うだろう。つまり、エラー教では、目的の神官か神子が用意できなかったということだ。そうだろう?」


 そう言ってカインはローレンへと視線を向ける。


「その通りだ。エラー教の本部はアルトマイト領にある。優秀な者たちは皆、アルトマイトの神殿に入ることを希望する為、浄化を行えるだけの神官がそこにしかいないのが現状らしい。アルトマイト領は遠い。ハーバール領まで飛空艇を利用したとしても、コルネリア領まで三週間はかかる。そんな旅路をはした金の為に移動してくれる奴はいない。転移魔術も同じだ。人を移動させるには相応の金額と失敗の危険が伴う。命がけになりかねないリスクを負ってまで、人助けをする奇特なやつはいないということだ」


 ローレンの説明を受けて納得したのか、マリアンはそうなんだと言ってなにやら思案し始めた。


「それにしても、ベンズマストか……。遠いな」


「馬車を使って二週間ほどだ。だがマリアンが居る以上、無闇に金を集めるよりは可能性が高いと思うが?」


「早急に解決できるに越したことはないが、もともと雲を掴むような話だったんだ。往復の時間ぐらいどうということはないが、一つ心配なことがある」


「なんだ?」


「マリアンちゃんの容姿が類をみないほど美しいのは理解しているが、それだけで頑なな連中を口説き落とせるとも思えない。ましてや神子は女だ。綺麗な女性というだけで、果たして篭絡できるのか?」


「マリアンの見た目だけで算段を立てているわけじゃない。ベンズマストの神子はミリアム教徒だ。そして、マリアンはミリアム大聖堂で与えられた神の恩恵だ」


 カインがそこまで言うとローレンは眉を顰めた。


「それは、カインが攻略者であり、マリアンちゃんがギフトであるであることを教えるということか?」


「聖女の肩書を利用するつもりだが、話にならないようなら、それも構わないと思っている。どの道そいつは放って置いても目立つ。どうせバレるなら上手く利用した方が良いと考えを改めた。それとな、交渉に失敗した場合はベンズマスト領から飛空艇に乗ってアルトマイト領へ直接向かってもいい」


「なるほど。確かに理には適っている」


 カインの説明にローレンは納得し、静かに頷いた。


休み明けに上げるつもりで7/15に投稿と記載した。

そして、7/15に投稿した。けれど、予約は7/16だった。さらに、7/16は祝日だった。

私は己がバカだったことに気が付いたOTL

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