012 そして始まる英雄譚
「はい。そこまで!」
突然、緊張感のない声が響いた。
パンパンと手を叩き、マリアンが争いは終了だとその場を仕切る。
アーマードとファライヤは素直にそれに従い、武器を収め従者のようにマリアンの後ろへと控える。
状況は良くわからなかったが、なんだか気の抜けてしまったカインも、警戒だけは解かずに手にしていたレイピアを鞘に戻した。
しかし、ローレン達は自分たちが不利な状況下に置かれていることを理解しているにもかかわらず、警戒を強めたまま構えた武器を下ろそうとはしなかった。
ローレンの前にマリアンが歩み出て言った。
「武器を収めてくれないかしら?」
透き通る水の様に澄んだ声を響かせると、マリアンは被っていたフードを脱いで自身の素顔を晒す。
その姿を目の当たりにした瞬間、ローレン達は口を開けて唖然とした表情になった。
かき上げた銀髪がふわりと踊り、木漏れ日を受けてキラキラと輝く。透き通るような碧い瞳は宝石のようで、微笑んだその姿はまるで天使のように美しかった。
「武器を収めてくれないかしら?」
微笑みを浮かべながらマリアンが再び言った言葉は、聖女の様な優し気な声音だった。半ば聖女の様な立ち位置であったが、普段と違った大らかな雰囲気を漂わせるマリアンにカインは胡散臭いと言わんばかりの視線を向けた。
しかし、そんなマリアンの姿を目にしながらも、ローレンは頑なに武器を下ろそうとはしなかった。
「……それは、できない」
「なぜ?」
「俺は、カインをぶち殺して、お前を教会に引き渡すからだ!」
頷くようにジェドとミーアも己の武器を強く握りしめた。
「それは難しいと思うけど?」
「それでもだ! 俺達には戦う理由がある!」
「……なら、その理由を教えてくれる? 話し合いは不可能だと判断したなら、遠慮なくあなたたちを倒してこの件はおしまい。でももし、あなた達の抱える問題がわたしの手の及ぶ範疇であるなら」
言葉を切ってマリアンはニコリと微笑む。
「手伝えることがあるかもしれないわ」
そう言ったマリアンの姿は、神々しいまでの輝きがあった。
木漏れ日が後光の様に差し込み、艶のある銀色の髪をより輝かせる。
芸術の様に均等のとれた顔立ちで、柔らかく笑う仕草はまるで一枚の絵画のようであった。
ローレンはまるで強大な敵とでも対峙しているかのようにたじろいだ。
そして、観念するように言葉を絞り出した。
「……金がいる。俺達には金が必要なんだ。理由はそれだけだ」
その言葉を聞いて、何がおかしいのかマリアンはくすりと笑いを漏らした。
「いいえ。お金は本質的な理由にはならないわ。私はなぜお金が必要なのか。得たお金をなにに使用するのかが知りたいの。そもそもお金で解決するような問題は、大した問題ではないとおもうけど」
「大金貨で二百枚以上だ! それだけの金をあんたに用意できるのか!」
「ことと次第によっては」
即答するマリアンにローレンは言葉を詰まらせた。
そして、終に観念した。
マリアンの自信に満ちた碧い瞳が、嘘をいっているようにはとても思えなかったからだ。
「石化の呪いを直したい奴らがいるんだ」
そう言って、ローレンは自分たちのことを話し始めた。
クラン、デバイスレインはキリエ村の孤児たちが冒険者となり立ち上げた。自分たちと同じ孤児たちが、辺境の地でも仕事があぶれないようにと考えたのが切っ掛けらしい。
現在の構成員も八割が孤児院出身の者で、クランの収益の半分は周辺の孤児院へ寄付を行っている。
その所為もあってか、コルネリア領の南方ではそれなりに支持の高いクランとなっており、孤児院の子供たちの憧れの的となっていた。
ある日、コルネリア領に隣接するセト王国から一人の魔族がやって来た。その魔族は石化の魔眼を用いて人々を石に変え、村々の人間を石像へと変えていった。
領主から騎士団が派遣され辛くも魔族の撃退に成功したのだが、戦いの傷跡はローレンたちの故郷であるキリエ村まで及んだ。
その魔族が残した魔力の残滓が呪いとなって残ってしまったそうだ。
呪いは病のように伝染し、突然発症する。
発症すると体を足元から徐々に石へと変えていき、時間と共に全身を石へと変えていくのだ。徐々に進行する石化が胸の位置に達すると、その者は息絶え完全な石像へと変わる。
そんな呪いに、ローレンたちの家族ともいえる孤児院の子供たちが一人、また一人と侵され始めた。
デバイスレインは子供たちを救う為、クラン一丸となってあらゆる手段を模索した。
しかし、呪いを解く術はなかった。いや、その呪いを解く為に、大金貨二百枚もの金額を稼ぐ必要があったのだ。
ローレンたちはギフトを得て、そのギフトを利用して大金を稼ぐつもりだったらしい。だが、結果としてギフトはカインに奪われることとなってしまった。
それでも、ローレンたちは、自分たちではない誰かがギフトを取得してしまうことを想定していたようだった。だから、天秤の塔から転移する可能のある都市。転移した者がまず目指すであろう三都市に戦闘向きではないクランのメンバーを残し、情報を集めていた。
ギフト持ちの情報を各所に売る算段を付けていただけで、そのギフトを奪うということまでは考えていなかった。そもそも、戦闘向けのギフトを持っていたとするならば、その力は一騎当千。一クランが束になったところでどうにもできないだろうと思っていたからだ。
しかし、先日、教会から一つの情報がもたらされた。
彼らはカインという名の冒険者について情報を集めていた。そして、何故かカインが天秤の塔へ攻略に向かったメンバーにいなかったかと執拗に問い正してきたらしい。
彼らは千載一遇の機会を得たと、情報を共有した。
そして、天秤の塔を攻略する際に影もなかった絶世の美女と、神の契約という言葉で一つの結論を導き出した。
天秤の塔を攻略したカインは、神ミリアムにこの世で最も美しい女性と、それを支配する権利を願ったのだと。
カインが戦闘向けのギフトを得たのでないとわかれば簡単な話である。ギフトとして与えられた女性を奪ってしまえばいい。
彼らは、教会以外に攻略者の情報を明かさないことと、カインを抹殺しマリアンを捕獲するという内容で、今後マリアンによってもたらされるであろう莫大な利益の一部を得る契約を取り付けた。
そして、現在に至る。
話を聞き終わると、マリアンは小首を傾げながら、うんうんと唸り、何かに納得したのか笑顔を向ける。そして、気後れすることもなくあっさりとした口調で言った。
「わかりました。では、必要なお金は用意しましょう」
「おいっ! マリアン勝手に話を進めるな!」
とんとん拍子で進行する会話にカインが待ったを掛けた。
「困っている人が居るのだから、助けてあげればいいと思うけど?」
「そいつらは、俺の命を狙い、お前を攫おうとしていたんだぞ」
「でも、やむを得ない事情があったみたいだよ?」
「事情は理解したし、そいつらの判断が間違っているとは思わない。だが、そいつらは、身内を救う為に他の誰かを不幸にする決断をしたんだ。同情する価値はない」
「救うのは彼らじゃないよ。呪いに苦しんでいる村の人たちを救うの。結果的に彼らも救われてしまうのが気に入らないというのなら、それは少し器が小さいと思うけど」
カインは大きな溜息を吐いた。
「お前はわかっているのか? 今はそいつらに構っている時間はない」
カインの返答にマリアンは首を傾げながら、しばし沈黙した。
「うーん。カインはさ、どうして英雄になりたいの?」
唐突な質問にカインが困惑の色を浮かべる。マリアンが突然話題を変えるのはいつものことではあったが、その問い掛けにはカインの心の底を見透かすようななにかがあった。
「……それは、前にも話しただろう」
「うーん。理解したつもりだったけど、わたし、勘違いをしている気がするの。だって、英雄になりたい筈のカインは、権力やお金を手に入れることも、人助けをすることも重要視していない気がするもの。世界最強の力を求めたり、災害指定の魔物を倒すことを考えたり、英雄というより、なんだか自分が強くなることが優先なのかと思って」
「…………」
「英雄ってさ。成し得た功績に対して人々から贈られる称号であって、強い人だけがそう呼ばれているわけじゃないでしょう? 人々を正しい道へ先導した人も、癒しを持って救った人も、偉業を成し遂げて尊敬された人はそう呼ばれているわ。力を振るわなくても英雄になる為の道はいくつもあるとおもうけど」
「マリアン。俺は別に見ず知らずの人間を助ける為に英雄になりたいわけじゃない。俺は、俺自身の為に英雄になりたいだけだ」
「誰かを救ってこその英雄でしょう? 自分を救いたいのであれば、英雄である必要はないわ」
「違う! 俺は俺が守りたい者を守りたいだけだ。その為に英雄という称号が必要なだけだ」
「それでも同じことだと思うけど。不特定多数を救う気がないのなら、それこそ英雄である必要はないもの」
「そんなことはない! 俺の声は届かなかった! 慣れ親しんだ村の連中は俺の言葉よりも、見ず知らずの英雄の言葉に耳を傾けた! その英雄は罪もないアイツを、さも当然のようにその手に掛けた! そんな理不尽を行ってもあの男は称賛され、その悪行が正当化された! 俺はあの時知ったんだ。ただ一人、大切な者を守る為に英雄という称号も圧倒的な力も必要だということを。俺が守りたい者を守る為には、あの男と同等以上のモノを持ってなくちゃいけないんだ!」
怒気を孕んだ声音でカインが叫ぶように言った。
その様子にマリアンは少し驚いた様子で、困惑した表情を浮かべる。
「……カイン。私の所有者様はカインだから、カインの決定には従うけれど、本気で英雄になろうと思うのなら、救える者には手を差し伸べるべきだと思う」
「…………」
「カインが昔、どんな理不尽な目にあったかは知らないけれど、見知らぬ誰かに手を差し伸べられない人間を英雄とは呼ばないわ。小を犠牲にして、大を助ける選択も時には必要なのだと思うけど、カインの言うその男が、無意味に罪のない誰かを手に掛けたというのなら。その男は決して英雄なんかじゃない。その行いは英雄として相応しくない」
「いいや。それでも、あの男は紛れもない英雄だ。その行い自体は決して間違ったモノじゃなかった」
カインがそう言った瞬間、マリアンは眉を顰めて悲しそうな表情を見せる。
「どうして? わからないよっ! 罪のない人間を無意味に殺すことが、正しい理由なんてわからない!」
マリアンが叫ぶように言った。
眉間に皺を寄せ、零れそうな涙を堪えるような表情に、カインの胸がズキリと痛んだ。
マリアンは決して、カインの取ろうとしている決定を否定しようとしているわけではなかった。
ただ、何故そうするのか。どうしたいのかを理解したかっただけなのだ。
けれど、問い掛ければ問いかけるほど、カインの心がわからなくなった。
英雄に成りたいのはいい。であれば、自分の名を売る為の行動を率先して行えばいいのではないか。大金貨で二百枚という大金も、マリアンを使えば決して無茶な金額ではないのだから。
カインがそれを把握しているかはわからない。けれど、金額を問題にしているのであれば、『同情する価値はない』などと切り捨てるような言い方はしないだろう。
エラー教の聖女の件もそうだ。
多少の制約が生まれたとしても、あれだけの待遇を目の当たりにしたのだから、資金面や多くの人材を扱い易くなることは間違いないだろう。
計画の練り直しなどと悠長なことを言わず、うまく利用すればいいのだ。でも、カインはそれをしようとしない。
英雄という名の称号。偉業を成し得た一握りの者にしか与えられない、そんな名声を得ようしているというのに。
だからマリアンはわからなくなった。
英雄に成ろうとしている男が、英雄としての行動を否定する理由が。
そして、最後の問い掛けで、自分の見ている英雄像とカインが求めている英雄像が決定的にすれ違っているという事実に、言い知れぬ悲しみが込み上げてきた。
カインの心情を理解できない自分に苛立ちと悔しさが溢れて来たのだった。
カインとマリアンのやり取りを、その場にいる者は黙って聞いていた。
そのやり取りに口を挟もうと思う者は誰一人としていない。
沈黙の中、今にも泣きだしそうなマリアンの様子をみて、カインは気まずそうに頬を掻くとポツリ言葉を漏らした。
「……アイツは。……ヨミは人間じゃなかった」
カインの言葉で、マリアンはあっと声を上げた。
「ヨミは魔族だったんだ」
その一言でその場にいる者全てが、カインが何にこだわっているのかを理解した。
魔族。それは、人に仇なす悪意の権化。その身に膨大な魔力を宿し、破壊と殺戮を糧とする悪魔と呼ばれている。
事実がどうであるかは誰も知らない。だが、少なくとも人々の間では、魔族は畏怖され決して共存できない存在だと言われている。
現在、人間と魔族は完全な棲み分けがされており、魔族はリーンベルト大陸の南東にある魔国と呼ばれる地域からは出てこない。
国境付近には堅牢な要塞が並び、魔族に唯一対抗できると言われる闘千と呼ばれる戦士たちが魔族の侵入に日夜目を光らせている。
それでも、時折人の世に紛れ込む魔族がいる。
紛れ込んだ魔族の大半は破壊と暴力の限りを尽くし、そして人々に更なる忌避感を植え付けていく。
そして、そんな魔族たちは、英雄と称される人間の手によって必ず打ち倒されて来た。
魔族を見つけたら打ち倒す。それが、今現在、人の世で持たれている常識なのである。
「マリアン。ヨミを殺した男は、間違いなく人々の英雄だった。あの男がとった行動は人の世では正しい行為だったのだからな。
だが、俺はあの男が正しかったとはどうしても思えないし、納得もできない。なぜなら、ヨミは優しかったんだ。誰よりも安寧を求めていた。最後まで誰一人傷つけることもなかった。そんなあいつを魔族というたったそれだけの理由で、悪と定める世の中を受け入れることなんて俺にはできないんだ。
魔族を救いたいと考えることは、この世界では異端であり悪だ。俺が守りたい者を守ろうと思うこと自体が、悪とされているんだよ。だが、それでも、俺は俺の考えを貫きたい。俺の我儘を押し通したい。その為に、力が必要なんだ」
「…………」
「お前の言葉は間違っていない。救える者には手を差し伸べる。それこそが英雄の在り方だと俺もそう思う。だが、俺はそんな当たり前の英雄になりたいとは思っていない。法を仰ぎ当然のように魔族を狩る英雄になど、これっぽっちも焦がれていない。
正しくなくてもいい。これは俺の我儘だからな。だから、俺は助ける相手も選ぶ。選んだからには全て掛ける。……それが。それが俺の目指す英雄だ。
だが、その全てを救えるだけの力が、我儘を貫く為の力が、今の俺にはない!」
だから、今は手を差し伸べないのだと、困っているという理由だけでは選べないのだとカインの瞳がそう語っていた。
マリアンはようやく全てに納得した。
カインの願いは人々から称賛される英雄になることではなかった。
己が助けたい者に手を差し伸べられる力を持ち、助けたその相手にとっての英雄であればいいという、極々ありふれた願いだった。
しかし、その願いを叶える為に、多くの人々から称賛されて与えられる、英雄という名の称号が必要だという矛盾。
伸ばしたいその手は、人々に畏怖され悪と定められた魔族にも及ぶというそれだけの事実。
その正義と信じた行いが、必ず悪とされる逆説。
故に、不整合を起こしたその願いを叶える為に、反発する者をねじ伏せ己が我儘を貫き通す圧倒的な力が必要だったのだ。
剣技を学び、戦う術を強欲に追い求め、終には天秤の塔にまで至った。英雄として称賛される為ではなく、全ては己の我儘を貫く為の力を得る為に。
無謀とも言える願い。叶えることのできない理想。人の身に余る望み。
例え英雄になったとしても、人類を敵に回す可能性を秘めたその願いを成し遂げることは不可能に近い。
そんな無謀ともとれる想いを口にするカインの姿をみて、真剣な眼差しを向けていたマリアンであったが、気が付けば口元が自然と緩んでいた。
「……たった一人。我儘を貫き通した英雄がいる」
ぼそりと呟いたマリアンの言葉にカインがピクリと反応した。
その反応だけで十分だった。
マリアンは確信する。
カインが目指している英雄。見据えている英雄の姿。
―――カール・マークレウス。
歴史上ただ一人、人と魔の共存を成し遂げた伝説の英雄。約三百年前、アルストレイ帝国の礎を築き上げた大英雄である。
その英雄の物語はアルストレイ帝国で今もなお語り継がれ、老人から子供に至るまで知らぬ者はいない。
一人の王女と一人の魔族、そして一人の少年が願ったささやかな願い。
共に過ごすことのできる居場所をつくりたいという、ありふれた望み。
たった三人だけが望んだ理想を叶える為に、国を興し、障害を退け、大陸を股にかけて奔走した英雄のはなし。
三人だけが望んだ我儘を、圧倒的な力で現実に変えてしまった、そんな英雄のはなしだ。
今現在、アルストレイ帝国に魔族はいない。建国の大英雄、カール・マークレウスがこの世を去って直ぐ、アルストレイに居た魔族たちは何故か一斉に魔国へと帰って行ってしまった為だ。
だが、その時代の慣習は今も残されており、他国では忌避されている亜人と呼ばれる種族や、妖精、精霊の類に至るまで、多くの種族がアルストレイでは人間と共に暮らしている。
「……カインを英雄にするだけなら、それほど難しいことじゃないと思っていたの」
マリアンが静かに言った。
「カイン。もう一度聞かせて。あなたはどうして英雄になりたいの?」
三度目の問い掛け。
その問いにカインは自分の本心を偽ることなくハッキリと口にした。
「ヨミを……ヨミのような奴等を守れる男になりたいからだ。人間も、魔族も、亜人も、精霊も関係ない。この世の理不尽から優しい奴を、頑張ってる奴らを守りたい」
「カインの願いは夢物語かもしれない。それでも理想を追い続ける気がある?」
試すような言葉に、カインは戸惑うことなく、あると強く答えた。
「当たり前だ。理想に溺れて死ぬことになったとしても、俺は最後まで泳ぎ続けると既に決めている」
その答えに、マリアンは満面の笑みを浮かべた。
どんな悪意も容易く浄化してしまいそうなほど無垢な笑顔。天使の放つ神々しさがあるわけでも、陽だまりのような眩しさがあるわけでもない。けれどその笑顔は、まるで澄み渡る水のように透明で優しく、染み込むようにカインの心を濡らした。
「うん。じゃあ、手始めに彼らの村を救ってあげましょう!」
「だからお前は、話を聞いていたのか!」
突然いつもの調子に戻ったマリアンに、カインは反射的に言葉を返していた。
「聞いてたに決まってるでしょう。人間も魔族も関係ないんでしょ? だから助けようよ」
「攻略者として手に入れたのがお前じゃなくて、まともなギフトだったらそうしただろうな!」
「ならいつ助けるの? 言っておくけどアルストレイに行っても、大英雄の強さの秘密は絶対にわからないとおもうよ」
そう言われてカインは言葉を詰まらせた。
天秤の塔を攻略し、目的のギフトが手に入らなかったことで、カインはアルストレイで力を付けることを考えていたからだ。人の領域をはるかに超える力を持つとされた、アルストレイ建国の大英雄。その強さの秘密を探ることが、戦闘能力を高める為に必要不可欠だったのだ。
見透かされたような言葉にカインが苦い顔になった。
「……何故そんなことがわかる」
「うーん。だって私、ずっと神に軟禁されてたんだよ。その間、持て余す時間を潰すには本を読んだり、世界を覗いたりするしかやることないじゃない」
「それとこれとでどんな繋がりが―――世界を覗く?」
「そうだよ。大きな鏡みたいのがあって、自分が見たいモノを映し出してくれるの。その中でも、カール・マークレウスの英雄譚は、とっても見応えがあったわ。わたし好きになっちゃったもの」
鼻息を荒くしてマリアンがそう言った。
「まて! 何をみていたって?」
「カール・マークレウスの英雄譚を最初から最後まで観ていたの」
「……つまりお前は、大英雄の強さの秘密も、その力を得るまでの過程も全て知っていると?」
「そうだけど?」
さも当然のように答えるマリアンだったが、その口元が直ぐにニヤリと笑う。
「でも、あれね。こんなこと他人に知られるとまずいかもしれないね」
それはそうだろう。マリアンが何を見聞きしてきたかはわからない。だが、世界に名を馳せた英雄の秘密を知っている。その情報だけでも血眼になって求める連中は多くいるのだから。
そして、そんな重大なことを、他人であるデバイスレインのメンバーや、アーマードとファライヤの前でマリアンは暴露する。カインはやられたと頬を引きつらせた。
「さて、他人には話せない内容だけど、身内なら問題ないと思うの。あなた達はわたしとカインの味方かしら?」
そう言ってマリアンは、アーマードとファライヤに視線を向ける。
アーマードはいつも通り静かに頷き、ファライヤは何故か興奮しているかのように頬を朱に染めて、ニマニマと笑いながら頷いた。
続けてマリアンはローレン達へと視線を向けて、あなたたちはどうかしら? と問いかけた。
ローレンは、急な話の流れに一瞬だけ躊躇うような仕草をみせたが、真っ直ぐにマリアンとカインの瞳を見つめると深く頷いた。
それに追従するように、ジェド、ミーアも頷く。
「さあカイン。みんなあなたの味方みたいだけど? 仲間の大事な人たちが、この世の理不尽で困っている時はどうするの?」
そう言ってマリアンが意地の悪い笑顔を向けた。
答えなど言葉にするまでもなく決まっていた。
正直、その愛らしい表情も、所有者の許可なく物事を進める性格も、人を見透かしたような態度も全て気に入らなかったが、この少女の思惑にのることがカインの理想を叶える最善の選択だと思えた。
「ちっ、わかったよ」
渋々ながらも了承すると、マリアンがカインの腕に巻き付きながら、嬉しそうな笑顔を向ける。
カインは大きな溜息を吐いた。
聞き流していたはずのマリアンの言葉がカインの脳裏を過る。
―――世界最強の美少女。
その言葉の通り、屈託のない笑顔を向けるこの少女に敵う人間など、この世には存在しないのかもしれない。
例えそれが、所有権を有しているはずのカインでさえも。
そう思い、カインは再び大きな溜息を吐いたのだった。
そして、理想を叶える為の足掛かりを得て、カインとマリアンが紡ぐ英雄譚が始まった。
ここまで読んでくださった方々、ありがとうございました。
自分で読み返すと恥ずかしい文章でなんか申し訳ないです。
序盤の描写不足。しつこい言い回し。息継ぎできない戦闘描写等々、友人に指摘された箇所も多々ありますので、徐々に改稿していこうと思います。




