表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

117/174

117 秘密裏に進行する事業

 ケルナドの街にあるエラー教会の一室。


 その一室では厳かな空気を漂わせ、密談が行われていた。


 背の低いテーブルを取り囲むようにして、ソファーへと腰掛ける面々。その一つに腰を下ろしていたのはシュヴァイツだった。


 マリアンのもたらした恩恵により、若くしてエラー教の大司教に抜擢された彼は、現在多忙を極める。


 しかし、そんな多忙の身でありながらも、カインたちが本拠地と定めたケルナドの街へとわざわざ足を運んで来ていた。


 薄い金色の髪を左に流し、まだ若さの残る顔付きには、真剣な表情が浮かぶ。


 そして、シュヴァイツの隣に腰を下ろしているのはベネディレイ。


 顔に刻まれた皺の数から、相応の年齢を重ねていることは伺えるが、実のところ彼女の歳はよくわからない。


 ミリアム教の大司教を任されており、柔らかい物腰と気さくな口調。何より足が軽い彼女は何処へでも直ぐに赴き、その行動力は若者などよりよっぽど高いのだ。


 故に、彼女がこの場に居ることは不思議な事ではないのだが、顔を合わせて居る面子に違和感が残る。


 シュヴァイツとベネディレイと対峙するように、ソファーへ腰を下ろして居るのは、三名の男女。


 岩のような巨漢。厳しい顔付きに皺を寄せ、両腕を組んで真剣な眼差しを向けているのはアーマード。


 その左側には、室内であり、大司教二人と対峙しているにも関わらず、広いツバの付いた帽子を深々と被り表情を見せないウルスナ。


 そして、アーマードの右側では、艶やかな金色の髪に女性が好みそうな端正な顔立ちをした男、バッカーが両手を頭の後ろで組み、退屈そうに欠伸をしていた。


 本来であれば、大司教の二人が赴くこの場には、カインやマリアンといった、マリアンズを代表する二人が応対して然るべきなのだが、何故か本日はこの三名が対峙しているのだ。


 大司教相手にやや失礼な態度を取る三名ではあったが、シュヴァイツもベネディレイもそんな事は気にも留めない。


「それではリンドー、例の物を」


 シュヴァイツが何処か落ち着かない様子で声を発した。


 すると、聖騎士の鎧を纏い、姿勢よく背筋を伸ばしてアーマードたちの後方に控えていたリンドーが恭しく頷き、布に包まれた何かをテーブルの上に置いた。


「こちらになります」


 そう言って、リンドーは置いた何かの布を一枚一枚丁寧に解いていく。


 そして、布の中から現れた物を見て、シュヴァイツが驚きの声を上げた。


「―――これは!」


 シュヴァイツの目が細められ、テーブルの上に置かれた木像を凝視する。


 布の中から現れたのは、十分の一マリアンたんフィギュアであった。


 左足を上げて右手は元気いっぱいに掲げられたその姿は、なんとも躍動感に満ちている。


 マリアンたんフィギュアに取り付けられている小物や服も全てミニチュアとして作られ、鮮やかな色彩は肌や髪の質感をリアルに再現していた。


 銀色の長い髪が舞い、碧いサファイアのような瞳が輝く姿は今にも動き出しそうなほどの完成度である。


「……素晴らしい」


 感嘆の吐息と共にシュヴァイツはそう声を漏らした。


「あらあら、これはなかなか」


 覗き込むようにして見たベネディレイも、感心したように声を上げた。


「基礎となる木像はアーマード殿が、小物や衣類はウルスナ殿が、色付けはバッカー殿が担当しております」


「驚くべき才能ね」


「衣類や小物は着脱が可能となっております。服の下は水着姿のマリアンたんとなっており、衣類を脱がした後も神々しいそのお姿は衰えません。寧ろ増すと言っても過言ではありません。且つ、別の衣装に着替える事も可能であり、こちらは試作の段階ではありますが、エラー教もしくはミリアム教の神官服をご用意しております」


「なるほど、これは確かに売れる。リンドー、販売価格は幾らに設定している?」


「設定はしておりません」


「なに?」


「現在は量産する為の体制が整っておらず、こちらを作成するに当たり、七日間の製作時間が掛かります。加えて現在これを作成出来るのはこちらに居る御三方のみとなっております」


「……つまり?」


「最初の値段はシュヴァイツ大司教とベネディレイ大司教に決めていただきたい」


 リンドーがそう言うと、シュヴァイツは腕を組んで難しい顔をした。隣のベネディレイは、うふふと笑みを漏らす。


「台座の下には、製作順に番号を刻んでいく予定となっております」


 付け加えるようにリンドーが言うと、シュヴァイツはマリアンたん像をひっくり返してみる。するとそこには、【001】という数字と、【AUB】という製作者を示すロゴが入っていた。


「【AUB】は、御三方の頭文字から取らせて頂いてます。基本的に御三方のお手製以外には【アウブ】とロゴを入れる予定です。これは量産に入り市場に出回ったあと、個々の製品に付加価値を付ける目的があります」


「つまり、製作番号一であり、そちらの三名の手製である印の付いたこれは、相応の価値となる可能性があるということか……」


「はい。そして、手製の木像を売り上げた金額を元に、量産の体制を作り上げていく予定となっております」


 そう言われてシュヴァイツは頭を押さえた。


「リンドー、言いたい事はわかった。要するに若い番号を買った者ほど、この木像の製作に資金面で大きく貢献したという実績をも売ろうとしているのだね?」


「仰る通りです。木像製作に関しては、カイン殿の預かり知らぬところで進行しています。よって、製作費用、人、資材、設備は我々が用立てる必要があるのです」


「マークレウス様に相談した方が良いと思うけどね。マリアンズの運営資金を調達する為だと言えば、あの方なら理解を示してくれるんじゃないかな?」


「はい、カイン殿でしたらご理解いただけると私も思っております。ですが……」


 ですが?


 シュヴァイツは首を傾げる。


「ファライヤ殿に知られた場合、我々は殺されてしまいます!」


「ころっ! 確かに彼女の話は私も聞いている。だが、そこまで理不尽な事はしないように思えるが?」


「違うのです、シュヴァイツ大司教。我々が木像作りに本気を出し過ぎているのがいけないのです。ファライヤ殿は早急に戦力を強化する必要があると考えています。その為、我々は日々体力の限界まで訓練に費やす事となっているわけなのですが……」


「よくその状況でこれを作り上げたね」


「はい。ですので、ポーションで僅かに回復した体に鞭を打ち、私は販売までの計画を、御三方は製作をと、睡眠の時間を削りようやく完成に漕ぎ着けたのです」


「時間を作って作業をこなしていたのだから、責められるいわれは何もないと思うけどね」


 シュヴァイツがそう言うと、リンドーは大きく溜め息を吐いた。


「シュヴァイツ大司教はわかっていらっしゃらない。ファライヤ殿の怖さを。あの方は最大効率で我々を強くしようと試みているのです。つまり、ファライヤ殿の中では、我々の体力は限界にきており、これ以上はダメだというところまで追い込まれている。しかし、実際は夜な夜な作業に没頭していた。そんな余力がある事が知られれば、我々へのしごきはより一層激しいものへと変わるでしょう」


「そ、組織の運営に関わる事をしているのだから、理解を示してくれるのではないかな?」


「これがマリアンズにとってどうしても必要な事であれば、認めてくれるでしょう。しかし、ダンジョンで回収した素材や鉱石などがあり、組織の運営は賄えているのです。今後はテンペストへ赴く予定もあり、そこで竜種を狩れば資金はより潤沢になるでしょう。つまり、我々が行なっている事は趣味(・・)であり、今必要にかられてまでやる事ではないのです」


 捲し立てるリンドーに対して、シュヴァイツは苦笑いを浮かべた。


「しかもです、詳しくはお教え出来ませんが、ファライヤ殿の訓練によって、現在デバイスレインのメンバーが徐々に才能を開花させています。その彼らを密かに木像作りへと取り込み、職人を増やしていこうという目論見がもし露見でもしたら……」


 リンドーがブルリと体を震わせた。


「よ、よくわからないが、君たちが必死だという事はわかった。事業拡大に向けて資金が必要だということもね。では、これは今後の運営資金も兼ねて、大金貨十枚で買い取らせてもらうということでどうだろうか?」


「では、私は大金貨二十枚をお支払いします」


 シュヴァイツが金額を提示すると、被せるようにベネディレイが言った。


 シュヴァイツはヒクッと頰を引きつらせて、ベネディレイへと顔を向ける。


「どういうおつもりで?」


「あら? 製作番号一番はただ一つで、ここには二人の大司教が呼び寄せられたのよ? この意味がわからないわけではないでしょう」


 ベネディレイの言葉に、シュヴァイツは眉を顰めた。


「リンドー、君は誰の味方なんだ!」


「当然、マリアンたんの味方です!」


 堂々と言い切るリンドーに呆れ顔を向けながらも、シュヴァイツは渋々状況を受け入れる他なかった。


 結局、二人の大司教による競り合いの結果、マリアンたんフィギュア一番は大金貨五十五枚でシュヴァイツが手にする事となった。


 顔を引きつらせていたシュヴァイツではあったが、後にその木像には、競り落とした金額以上の価値が出る事となる。


 その事をこの場にいる者たちは、知る由もなかったのだった。

読んで頂きありがとう御座います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ