115 帰ることの出来る場所
ど遅刻しましたけど、二章最後だからあげちゃう。
ケルナドの街にあるエラー教会の一室。
その一室にマリアンズが勢揃いしていた。
エラー教からはネイロフとミローネ。デバイスレインからは、ローレンとカデナが参加している。
三つ用意されたガラス張りスクリーンの前に設けられた席。その席の中央にカインが腰掛け、右隣りにはマリアンとヴィレイナ。左隣りにはエリシュナが腰を下ろしている。
他の面々は、後ろで威圧感を出しながら立ち並び、物々しい雰囲気となっていた。
「時間ですので、お繋げ致します」
ミローネが丁寧に言うと、魔道具を操作する。
そして、暫しの間を置くと、三つ用意されたスクリーンには、それぞれ別の人物が映し出された。
それぞれの視線が動き、互いの伝話機に映像が映し出されていることを確認すると、まずはカインが口を開いた。
「初めましてだな。領主、オルトランド・コルネリア。俺がカイン・マークレウスだ」
カインが不遜な態度で名乗りを上げる。
それに続いて右側のスクリーンに映し出された男―――シュヴァイツが挨拶をした。
「皆さま既にご存知かと思われますが、エラー教会大司教、シュヴァイツと申します」
続いて左側のスクリーン。
そこに写し出された老齢の女性が声を発する。
「ミリアム教会大司教、ベネディレイです。マークレウス様にお会いするのは初めてでしたね」
ベネディレイの言葉に軽く目礼を返して、カインは中央のスクリーンに映し出されたオルトランドへと視線を向けた。
そこに映し出された白髪の男。たくわえた髭を撫でる厳格な顔付きの男が重々しい声を上げた。
「私が領主オルトランド・コルネリアだ」
目の奥をギラリと輝かせ、堂々と発した声。その雰囲気は、さすが国から一つの領土を任されるだけのことはある。
「オルトランド、俺は実のない話し合いは嫌いだ。貴族共がやる無意味な前置きにも興味がない。だから、さっさと本題に入らせてもらう」
カインが言うと、オルトランドは視線を緩めないまま、小さく頷き了承した。
「連絡もなく騎士団を派遣し、俺たちを妨害して来たこの一件。どう落とし前を付けるつもりだ」
カインが言い放つとオルトランドは髭を撫でながら、首を傾げた。
「妨害? 報告によれば、ダンジョンを先に占拠したのは騎士団だと聞いておるが? それを問答無用で突破し、刃を向けて来たのはお主らの方だと聞いておるぞ?」
その返答を受けてカインは溜め息を吐いた。
「なるほど、惚けるつもりか。それならお前と話す事は何も無いな。……残念だ、今からお前の首を取りに行くから震えて待っていろ」
そう言って立ち上がったカインをシュヴァイツが慌てて止めた。
「お、お待ち下さい。マークレウス様! その結論は急ぎ過ぎです!」
「何を言っているシュヴァイツ。俺は最初に実のない話し合いは嫌いだと言った。俺たちの中でオルトランドの非は確定している。こいつのくだらん言い訳を聞く為にこの場を設けたわけじゃないんだぞ?」
「だとしても、腰を据えて話し合うべき内容です。今の内容では、我々とて兵を上げる為の動機に欠けております」
「シュヴァイツ。お前はわかってないな。こいつは前提から惚けようとしてるんだぞ? 何を話したところで、結局は聞かされてなかった。兵が勝手にやった事だと言い逃れをするわけだ。貴族連中のやってるような言葉遊びに、付き合う気は無い」
「それでも、落とし所というものは、そう言った話し合いで見出して行くものです」
「お前もズレてるな? 確定している前提に対して、どうするのかを話しているのに、何故前提を揺るがす話し合いをする必要がある? 俺たちが時間を掛けて魔族と交渉しているところに、情報を得た領主が武力を以って横槍を入れて来た。それ以外の事実は無い。その事実を否定するなら、武力を以って理解させるしか無いだろう」
そう言ってカインはオルトランドを睨み付けた。
厳格な表情に僅かに皺ができ、瞳の奥に微かな揺らぎが起きる。
「シュヴァイツ。理由があるとはいえ、この様な野蛮な男を英雄に祭り上げるとは、嘆かわしいな」
「あら、騎士団まで動かして、武力で収めようとした誰かさんは、野蛮では無いというのかしらね」
柔らかく笑みを浮かべたまま、ベネディレイが口を挟んだ。その言葉にオルトランドは明らかな嫌悪を表情に出す。
「虚勢を張るのはやめた方が良いわオルトランド。ここに居る彼らは一国を揺るがせるだけの力を本当に持っているわ。あなたの言い逃れを聞き入れてくれる様な方々では無いのよ」
「相変わらず口うるさい奴め」
「あらあら、貴方の為に言ってあげているというのに……。まあいいわ。けれど、ハッキリと言わせてもらうけれど、余程彼らの主張がズレていない限り、我々ミリアム教は、マークレウス様に従います。ミリアム様の恩恵であられるマリアン様こそ、我が信仰の象徴なのですから」
そう言ったベネディレイは、オルトランドから視線を外し、チラリとシュヴァイツを見た。
その視線に気が付いたシュヴァイツは、慌てて声を上げる。
「我々とて、マークレウス様とマリアンたんに従う意思はあります。あくまでも、もう少し穏便な解決策は無いのかと危惧しているのです」
「つまりは、先ずは私が非を認めなければ、どちらも敵に回るという事か……」
「私たちだけでは無いわ。彼らを敵に回せば、貴方を苦しめた魔族も敵に回るということよ。自慢の騎士団を潰した彼らを、貴方に相手出来るのかしらね?」
オルトランドの眉間に深い皺が刻まれた。
オルトランドからすれば、そもそも騎士団に手を上げる連中こそが悪であり、国に逆らう国賊なのである。それを行った彼らに対して、自身に非があるとは毛の先ほども思ってはいない。
加えて、目的が魔族を説得するなどと惚けた事を言う連中など、その意思を尊重するまでも無い事だったのである。
その様な輩は本来であれば、武力を以って制圧するべきなのだが……。
状況が余りにもよろしくない。
一つにオルトランドは二年前、魔族に敗北した事実を公にはしたくない。そして、今回の件についてもである。自慢の騎士団が、僅か十数名の冒険者に敗北したなどと、口が裂けても公言するわけにはいかないのだ。
そして、魔族をも取り込んだマリアンズという組織と事を構えた際、個人の所有する戦力だけでは太刀打ち出来る保証が無い事は分かっている。
他領から支援を受けることも出来る。しかし、目の前で、三大宗教の内二つの組織が、目の前の男に協力する姿勢を見せているのだ。
争いとなった場合、それは大きなものへと発展しかねない。
領主といえども、容易に強気となれる場面ではなかったのだ。
オルトランドは、眉間の皺をさらに深く刻むと、重々しく声を上げた。
「……マークレウス。お主は私に何を求めるのだ。金か? 名誉か?」
「金も名誉も求めてない。ただ、もう少し魔族に理解を示せ」
「そのような世迷いごと……」
そう言ってオルトランドは口を噤んだ。
そう。世迷いごとではないのだ。目の前で不遜な態度を取る男の横に、大人しく腰掛けている存在。
場を荒らすこともなく、静かに耳を傾けているその姿は、オルトランドの想像する魔族という種族とはかけ離れていた。
魔族が何を考えているのかはわからない。だが、少なくとも無闇やたらと暴力を振りまく存在では無いのだろう。知性的な物の見方は出来るのだろうということは、現状でもわかる。
顔を顰めてオルトランドは言った。
「領主である私が、民の意識を捻じ曲げてまで、理解を示すなどあり得ん。そうさせたいのであれば、先ずはお主が、民衆の意識を変えてからにしてもらおう」
「まあ、それはこっちで勝手にやるさ。なら具体的に提示するが、こいつが―――エリシュナがコルネリア領で生活する事を黙認しろ」
その言葉には、オルトランドだけではなくエリシュナも眉を顰めた。
「カイン、私はお前に付いて行くのだぞ? お前がひと所に居るならばまだしも、この地で過ごすと決めているわけでは無い」
「わかっている。俺もお前を置いて何処かに行く気なんて無い。だが、帰る場所は必要だろう?」
「……帰る……場所?」
「俺もそうだが、帰る場所が無い。だから、キリエ村やケルナドを拠点にして今後は活動しようと思っている。帰ってきた時までゴタゴタしたくは無いだろう?」
「む、それは、そうだが……」
そう言って、エリシュナはチラリと領主へ視線を向けた。果たしてカインの言う主張を、この男が認めるのだろうかと。
「……公に住民登録をする事は出来んぞ。問題を起こせば即座に対応する必要もある」
「問題を起こさなきゃ、黙認するって事でいいのか?」
「……好きにしろ」
オルトランドの言葉に、エリシュナは目を丸くする。
カインと知り合うまで誰一人として受け入れてくれなかった自分を、目を瞑るという形ではあるが、こうもあっさりと受け入れるなど、今までは想像も出来なかった。
「良かったな」
そう言ったカインの笑顔が眩しくて、エリシュナは思わず目を逸らしてしまった。
「お主の主張はそれだけか?」
硬い口調のままオルトランドは言う。
それさえ認められれば、今は何も必要ないのだが、カインの後ろに立つリンドーから声が上がった。
「恐れながら、許可を頂きたいものが御座います!」
「……なんだ? 言ってみろ」
「コルネリア領における、飛行許可を頂きたい!」
「飛行許可? 空輸する手段でもあるのか?」
「先の話になりますが、我々は後にテンペストへと向かう予定があります。そこで捕らえた飛竜を使い空輸を行う事業を検討しております」
「ふむ、資源の少ない我が領では余り需要は無いと思うが、飛竜の調教具合をこちらで確認出来れば許可しよう」
「はっ! ありがとうございます!」
「他にはないか?」
オルトランドの言葉にカインは首を振った。
「そうか。マークレウス、私は間違った判断をしたとは思っておらぬ。魔族は悪であり敵である。いくらお主がその事実を否定しようとも、現実は違う。そこの魔族がいつとも暴れ出さない保証はないのだ。
今後、そこの魔族にこちらから手を出さない事は約束するが、非を認める事はまだ出来ん。
そして、くれぐれも問題は起こすなよ。黙認出来ないような事になれば、我々も動かざるを得ない」
「気をつけるとしよう」
「ふん、では私はこれで失礼する」
そう言ってオルトランドが写し出されていたスクリーンは暗転した。
一同が息を吐く。
「全く、マークレウス様とマリアンたんには頭が上がりませんね」
シュヴァイツが声を発した。
「おっしゃる通りに会話が運びましたね」
そう言ったのはベネディレイ。
「いや、ベネディレイが事前に領主の性格を教えてくれていたからだ。とは言っても、長ったらしい問答を省きたかっただけだがな。どちらにせよ、向こうに大して損のないこの落とし所には着地した筈だ」
「いいえ、彼が意固地になってしまったら、他領も巻き込んで争う事になってしまったかもしれないわ。早々に強気で押し切った事が効いたみたいよ」
うふふ、と笑みをこぼすベネディレイ。
「でも、そちらを拠点とするなら、ケルナドの街にミリアム教会も建てなくてはいけないわね。エラー教ばかりが頼りにされても困るもの」
「そっちは勝手にやってくれ」
「ええ、そうさせてもらうわ」
「それよりもリンドー。空輸とはなんだ? 聞いてないぞ!」
「ああ、それは私が言わせたのですよ」
答えたのはシュヴァイツだった。
「こちらから色々運び入れるのも大変ですからね。テンペストで竜種を狩りに行くとお伺いしましたので、ついでにお願いしたのです。私の立場で言い出すのもおかしな内容でしたので」
「……そうか。なら良いが」
「お伝えしなくて申し訳ない、隙があればという程度でしたのと、ケルナド周辺を拠点とすると方針が固まるまで提案も出来なかった次第です」
シュヴァイツの言い分に納得して、カインは次いでローレンに声を掛けた。
「お前らは本当に良いのか?」
「ん? デバイスレインがマリアンズの傘下に加わるということか? それなら領主の返答がなんであれ、そうすると話し合いで決着している。魔族の件もガナックたちが折れた状態では、誰も文句を言う者はいなかった」
「……そうか。なら、取り敢えずの問題は全て解決したな! 随分駆け足だったから疲れたな。暫くゆっくりするとしよう」
「ダメよカイン」
カインが伸びをしたところで、ファライヤから横槍が入った。
「やる事はまだまだあるの。目的の一つを遂げたからと言って、休める時間なんてあなたにはないのよ。せめて私を倒せるようになってもらわないといけないのだから」
「ダンジョンの床を五階層もぶち抜く奴に、勝てるわけねえだろ!」
「あら? 随分と腑抜けた事を言うのね。少し甘やかし過ぎたかしら?」
「ちげえ! 皮肉で言ってんだよ!」
「それなら尚のこと教育し直さなくちゃいけないわ」
ファライヤはカインの襟首を掴むと、ニマニマと楽しそうに笑みを浮かべて、ズルズルとカインを引きずっていった。
その場に残された一同は、可哀想にと思うだけで誰も止めに入ろうとはしなかった。
エリシュナだけが、キョトンとした顔をしている。
「はいっ! じゃあカインは放って置いて、残ってるみんなは飲み行くわよ! シュヴァイツとベネディレイも参加して良いからね!」
マリアンがそう言うとシュヴァイツは苦笑いを浮かべる。
「お誘いは有難いですが、さすがにそちらへ向かうのは難しいかと……」
「うふふ、あら、それなら参加しちゃおうかしら?」
「……どうやって」
シュヴァイツはそう思ったが、ベネディレイの行動範囲の広さに思い至り口を噤んだ。恐らく彼女は転移系の魔術を習得しているのだろう。
自分も覚えようかな。などと思いながら、シュヴァイツは別れの挨拶を済ませて通信を切った。
そして、この日の宴は、夜遅くまで続くこととなった。カインという主役を忘れたまま。
これにて二章完結となります。お付き合い頂きありがとう御座いました。
魔族を仲間にするだけのつもりが、こんなに長くなるとは……。三章はもっと簡潔に纏められればと思います。
書き溜めてないので、更新スピードは上がりませんが、ちょっと構想を練ってから直ぐ再開する予定です。週末には三章開始できるとかと……たぶん。
あ、誤字脱字報告くださった方、ありがとう御座います。修正後にお礼を言おうと思ったら、消えてしまって闇の中になってしまいました。申し訳ないです。
毎度になりますが、ご意見ご感想、ご指摘に至るまでなんでも頂けると嬉しいです。
面白いと思って頂けたら、評価、ブクマをして貰えるとテンション上がります。どうぞよろしくお願い致します。




