102 堅牢な護り
アーマードたちを残して先へと進んだカインたちは、ダンジョンの最深部、十二階層へと辿り着いていた。
二度の戦闘を行ってはいたが、何度も往復したこの場所の道筋は把握している。魔物に遭遇することも、妨害を受けることもなく順調に足を進めて、攻略を開始してから一日中にここまでやって来ることが出来た。
十一階層で暫しの休息をとり、体力、気力ともに万全の状態である。
「カイン。討伐隊は既に広間へと到着しているようですね。争いの気配を感じます」
十二階層へ辿り着いて直ぐ、ミズシゲはそう言った。
「詳しい状況はわかるか?」
「いえ、大きな魔力がぶつかり合う様子しかわかりません。ですが、相手にも相当な手練れがいるのは間違いありませんね」
「そうか。なら、予定通り俺たちは後ろから攻めて、敵を挟み討ちにするのが妥当か……伏兵はいないな?」
「おそらくは。魔力はひと処に集まっています。それと、挟撃するのは問題ありませんが、倒し切るのに相応の時間が掛かりますよ?」
「時間をかけ過ぎれば、何が起こるかわからないって言いたいのか?」
「それもそうですが、五階層の時と同じやり方では、突破することはおろか、倒し切ることも難しいと思います。一人一人、確実に息の根を止めなくては、際限なく回復してきますよ」
そう言われてカインは片目を瞑り、苦い顔をした。
ミズシゲの言う通りであった。
五階層では広間を突破することだけに重点を置いていた為、カインは相手をなるべく殺さないようにと指示を出していた。
だが、ここから先はそうもいかないだろう。奥には魔族がいるとはいえ、カインたちの戦力は五階層の時の半数。加えて敵の数は最初に相手をした五十名の四倍である。
相手を確実に死に至らせなくては、数を減らすことも難しい。手を緩めていれば、魔族にも、仲間たちにも何が起きるのかわからないのだ。
カインはグッと拳を握りしめて、眉間に皺を寄せる。
「これは、戦争だ! 互いの目的を果たす為に、互いが全力でぶつかり合っている。どちらかが正しいなんてこともない。だが、俺は思う。誰かを傷付けようとする奴は、自分が傷付けられることも覚悟するべきだと」
カインは一度、全員の顔を見渡す。そして、言葉を続けた。
「俺の目的は最初から決まっている。理不尽に傷付けられた者に手を差し伸べて、そいつの味方になってやることだ。つまりそれは、助ける誰かの為に俺自身も誰かを傷付ける覚悟があるってことだ。そこに正義なんてものはない! 」
だから、例え相手を殺めたとしても目的を遂げる。そして、その所為で己が傷付けられることも、仲間たちが傷付く事も覚悟している。カインの瞳はそう語っていた。
「バッカじゃない。私たちは冒険者よ? 争いが起きたなら、奪い奪われるのが日常の稼業をやってきてるの。今更言われなくても、そんな覚悟なんてものはとうの昔に出来てるのよ」
ウルスナが呆れ顔でそう言った。
「間諜やってる俺からすっと、五階層のやり方はちとぬりぃ気がしてたぐれえだぜ」
ルクスは、肩を竦めてみせた。
「あまり得意じゃないですけど、私も冒険者になってから、色々覚悟は決まっていると言いますか……」
ミーアがチラリとジェドへと視線を向けた。
「……俺たちは、カインが思っている以上に、血生臭い目にも合ってきている」
「ふむ。では、殲滅するつもりでやりましょうか」
ミズシゲは、呑気な様子でそう告げた。
「……助かる。だが、それでも我儘を言わせて貰うと、お前たちには出来る限り人を殺して欲しくない」
カインがそう言うと、一同はやれやれと言った感じで、顔を見合わせた。
最奥の広間へと続く通路では騎士たちがひしめき合っていた。
巨大ヘビに挟撃された通路に隊列を組み、隙なく整列している。
騎士に紛れて、数人で纏まっている冒険者の姿もチラホラと見えた。
広間へと入り込んでいる者を含めれば、数は想定通り二百名といったところか。
それでも、通路は巨大ヘビが二匹並んで這えるほどの広さしかない。二百もの敵を一度に相手にすることもないだろう。
問題は相手の指揮と練度がどれほどのものかということだが……。
「……様子を窺っていても、時間だけが過ぎる。準備が出来たら直ぐに行くぞ!」
カインの言葉に一同は頷き、問題ないと告げた。
それを確認して、カインが大きく手を振った。
それに合わせて、ミーアとウルスナを除く全員が『爆風』の魔晶石を投げ込む。
「敵襲!」
騎士の一人が声を上げ、同時に隊列の前衛が抱えていた大盾を前に構えた。
魔晶石が弾けて、『爆風』の魔術が騎士たちを巻き込む。
しかし、騎士たちが構えた大盾は、魔術を全て打ち消したのだった。
「ミーア! ウルスナ! 詠唱を破棄しろ! 魔術は全て防がれる!」
カインの指示に、ミーアとウルスナは即座に準備していた魔術を破棄した。
代わりに腰袋から取り出したのは、大型のボウガン。番えた太い矢の先は丸みを帯びていた。
それを二人はカインの後ろから別々の方向に構える。
騎士の中央から怒声が鳴り、騎士たちは一斉に魔晶石を投げ付けた。
百にも届きそうなほど大量に投げ込まれた魔晶石。その魔晶石がカインたちに届く前に、その全てをミズシゲが斬った。
『一水千里』、『流し千面』。
魔法の領域に至る千の斬撃は、正確に魔晶石を捉え、断ち斬っていく。
初めてその技を目にした者たちは驚愕する。それはそうだろう。これだけの魔晶石をたった一振りで斬りつけられる者など、これまで一度として見たことがなかったからだ。
それ程にあり得ないことをやって退けることができるからこそ、この技が魔法と称される由縁でもある。
魔晶石をミズシゲが断ち斬った後は、ミーアとウルスナがボウガンの矢を上方に向かって撃った。
山なりの軌道を描くそれは、頂上に到達するとパカリと割れて広がる。そして、割れた先端に取り付けられた縄が広がり、網となって騎士たちに降りかかった。
騎士たちは剣を取り出して網を斬りつけるが、丈夫に編まれた網を容易く切ることは出来ない。一部切られた箇所もあったが、二重、三重と編み込まれた部分が補い、完全に切り離されることはなかった。
網が騎士たちに降りかかるとカインが声を上げた。
「引け!」
左側をカイン、ジェド、ウルスナ。右側をミズシゲ、ルクス、ミーアが網に繋がった縄を掴んで力一杯引き込んだ。
網の周りが窄み、騎士たちを締め上げる。他の騎士に寄られて網に引かれる騎士たち。
目一杯の抵抗を試みたが、引き込む力が異常に強い。
そう、カインたちは全員がファライヤ仕込みの身体強化を使用できる。その強化効率は、通常の身体強化の数倍から数十倍にも及ぶ。加えて、倍率の基準ともなる基礎値をスキルによって上昇させているのだ。
男女混合の三人で引いているとはいえ、十数名の騎士に力負けするわけもなかった。
カインたちに強引に引かれた騎士たちが、仲間を巻き込みながら転倒していく。
引き倒したカインたちは、直ぐさま騎士たちとの間合いを詰めた。
転倒している騎士の首筋を狙って次々と刀を振るうカインとミズシゲ。ジェドとルクスは短剣の柄を使って首筋を打ち込み、ミーアとウルスナも杖を振り上げて兜を被った頭部に容赦のない一撃を振り下ろす。
打ち込まれた兜が歪にへこんでいるところからみて、その一撃は相当に重たかっただろう。
このまま数を減らす!
カインたちがそう思っていた時、転倒した騎士を飛び越えるようにして、冒険者の集団が前へ出た。
剣士、槍使い、斧使いに格闘家。騎士とは違い、装備の違う冒険者たちはそれぞれが得意とする攻め方で攻撃を仕掛けてくる。
騎士たちとは違い、一見すると統率の取れていない動きにも見える。だが、息の合った連携で絶え間無く攻撃を仕掛けられ、カインたちはたまらず後ろへと下がった。
魔術士だと思い油断したのか、ミーアとウルスナのいた場所には、二、三人の冒険者が昏倒していた。
そして、倒れて気絶していた前衛の騎士が叩き起こされ、一人、二人と守りの位置へと戻っていく。
立て直しが完了するのを待って、冒険者の一団は再び騎士の後ろに下がっていった。
一瞬、優勢かと思われたカインたちであったが、何人か騎士を打ち倒しただけで、直ぐに最初の状態に戻されてしまった。
思っていたよりも堅い護りに、カインは舌打ちをして眉間に皺を寄せる。
さて、どうしたものか。
険しい表情のまま、カインは考えた。次に繋がる一手を。
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