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Alone




「ねぇ真理、何か最近付き合い悪くない?」

「ん、いや..そんな、何で?」

「何か私の事避けてる感じするんですが。」

「...いや、避けてないよ、ちょっと最近忙しいだけだよ。」


「そう...何か最近楽しくないっていうか。」

「高二にもなれば楽しい事ばっかじゃないだろ、将来の事考えなきゃなんないんだから。」


「将来..将来って何?そんなに先の事って真剣に考えなきゃいけない事なの?何かもっと大事な事ってある気するんだけど。」


「..みんなとりあえずそう生きてるんだよ、特にしたい事が無くても何となく自分の道を決めて行く、今より大人になったらもっと考えなくちゃいけない事だと私は思うけど。」


「それって、楽しい?」


「..どうしたのさ、何かあった?」


「何かあったっていうより、楽しくない、何をしても楽しくない感じが取れなくて、だから何か寂しいってより、孤独っていう何かそんな感じの..」


「もう子供じゃない、って事じゃないの、自分が少し成長したって考えたら良いじゃん。」


「..そうなのかな、何か違う『距離』を感じるような..周りから取り残されて行くような。」


「...私だっていつまでもあんたの隣に居られる訳じゃないからなぁ、あんたもそれに慣れる必要があるって考えた方が良いんじゃないかな。」


「..ほら、何か距離を感じる、前のような感じじゃない、私が感じてたあの頃とは違う..」

「..結奈。」


「ごめん、大丈夫、何か調子悪いのかも。ごめんね、んじゃまた明日、後で連絡する。」


「後で連絡する。」と言い残し、結奈はその日私に連絡する事は無かった。あんな言い方しか出来なかった事、今でも後悔してる。結奈の抱えている孤独の深さを見抜けなかった事、私は私でもう「私」ではなかった事。あの子の気持ちを救いながらも自分も自分の真実を受け入れる余裕など何処にも無かった事。私は私であり、私ではない。人でもなければ、何なのか。

鏡に映る自分を眼にした時、それはもう「こっち側」の存在ではなかった事。


結奈の憧れた「それ」は私の一部になっていた。「魔法少女になりたい」と結奈が繰り返したあの言葉、私はそんな言葉を表面上見下した素振りをしながらもあの子よりもきっとずっと憧れていた。


「魔法少女。」


あの不思議な感覚を覚えた日から私は自分が憧れたそれなのではないか、そう考える日が続いていた。そしてそれは疑問ではなく確信に変わったのはあの日部屋の隅にひっそりと立て掛けてある全身を映す鏡を見た時、それは前の私ではない、「別の何か」が映されていた事、身体全体を覆う発光した淡い光、薄緑に変わった鋭い瞳の色、微かに風が吹き上げたなびき揺れる黒く長い髪、私は直感的に恐いというよりもその姿を鏡で見た瞬間悟った感覚の方が強かった事、これは人間ではない、本来の私ではない、「私ではない私とは何なのか」、その時に全てを悟ったように私は部屋で1人小さく呟いていた。


「..私、魔法少女、だったのね。」



ーーー



「ねぇ、お母さん。」

「どうしたの、結奈。」


「お母さんは、生きてて楽しいって思った事はある?」

「..どうしたのよ急に、調子悪いの?」


「..いや、何でもない。」


「調子悪いなら明日学校休んだら?それにね、私はあんたがどういう生き方をしようと何も言わない、あんたの人生なんだからあんたが選びなさい。迷った時は私に甘えて良いんだから。」

「..うん。」


娘が娘ではない感覚、を私はずっと持っていた。私の母と娘が似ていて、私は取り残された感覚、私は必要とされていない感覚..。


娘がこんな事を今まで私に言った事は一度も無い。ただ、私は親だからこそ娘の気持ちは分かる。まだ子供である事、もう子供ではない事、正直こんな事を言い出す歳になったんだなと内心嬉しくも思っていた。


何を考えているのか分からない、そういう娘が少し心配だったのだがこうして一番思い悩んでいる事を私に打ち明けてくれた事、少しだけ親として誇らしく思える瞬間を迎えた気持ちにもなった。学校の事、自分を取り巻く人間関係の事、色々な事で悩んでいるのだろう、そう思いながらも娘の方から向けられる言葉を待つ事、そしてどういう言葉が心の安堵感に繋がるのかを考えた上で最小限の言葉を向けてあげる、娘にはただ幸せになって欲しい、それをオブラートに包んでそれとなく伝える、まだ幼い、これから大人になって行く娘との時間は私にとって一番大切なものである事、私の時代よりも大変な時代を生きる娘の事を考えると、本当は子供は産まない方が良かったのかな、まだ娘が幼い頃良く考えていた事でもあった。それでも娘が成長して行く程に「この子が幸せな世界であって欲しい」、強くそう思う事がとても多くなって行った。

私には何の力も無いが、出来る事なら何でもする、娘の為なら何でもする、私はそう決めて生きて来た。


「生きてて楽しい?」なんて、毎日楽しいに決まってるじゃない、可愛い可愛い娘との時間を「楽しくない」なんて言う親はいないのだから。結奈、あんたは私の宝物だよ、そんな事は言葉にせずとも、私はあんたの後ろ姿をいつも見ている。楽しい時も哀しい時も、あんたの事はそっと離れた所でずっと見守っている。


ーーー



独りぼっち、とはいったいどういう事を言うのだろうか。


友達がいる事、恋人がいる事、単純にそんな事で孤独を計れる事なのだろうか。人は誰でも独りなのだ、一人で生まれて一人で死んで行く、そんなありきたりな言葉で片付く問題なら皆幸せに生きているはずではないか..どうしてか私の心の中にある「穴」のようなもの、これは私の空虚な思いなのか、私だけの思いならこんな感覚にはならないのではないか、そんな堂々巡りな報われぬ感覚に悩まされる日々が続くようになっていた、と言うより、日々見えない何かが降り積もって行くようなこの晴れない不毛な感じ。というか私は充分幸せを享受して生きているではないか、衣食住に困る事も無く平穏な日々を送っているではないか、なのに、私の心の中に日々色濃く灰色の「何か」が降り積もって行くこの感覚、真理なら..いや、誰に頼るでもなくこの想いは私が処理しなければならない、私の何かがそう言っているように感じ私は何も無い日は部屋のベッドに倒れ込む日が多くなっていった。


当時はこんな想いを呟いたりしながら互いに慰めあったりしていたのだろうな..何となく羨ましくもなり今の時代と照らし合わせてみたりもした。

screenで多くの人達と繋がり合える分皆誰も本音を言おうとしない、「誰にも知られたくない」、その思いが逆に誰かの本音が分からなく見えない、哀しくても笑って、笑って自分を誤魔化し悟られないようにする、そんな奴らばっかだと私はscreenを開く機会も少なくなったような気がする。


私は私の繋がりたい人達と繋がりたいのだ、そう強く願う度にそういう存在はこの世界にはいないのではないか、いつもそんな事を考えるようになっていた気もする。「魔法少女」、その言葉を頭の中で何回も反芻する度に彼女達の世界を覗きたい、どうすれば見る事が、感じる事が出来るのだろうか、


「あぁ、彼女達に近付けば良いのか..」


でもどうすれば..おばあちゃんは言っていた、「私は魔法少女の生き残り」だと、今思えば何でそんな子供騙しのような言葉を信じていたのだろう、我ながら可愛い所もあるのだな..ぼんやり部屋の天井を眺めながら考えた。


「ねぇおばあちゃん、私ってもしかしてさ、魔法少女になりたいんじゃなくてさ、魔法少女そのものなんじゃない?」


ふふ、と笑いながら小さく呟いた。Twitterに呟こうか迷ったが、止めた。そういや前に冗談でそんな事呟いたっけな、誰にも聞かれたくない、私の本音。


部屋が一瞬大きく揺れた。地震かな、そう思いベッドから這い上がる。立ち眩みがして床に倒れ込む。


「私がね、化粧してあげる!」


と小学生の頃真理が張り切って私に化粧をしてくれた。あの時は確か私の誕生日、その時に貰った手鏡がさっきの揺れで机の上から落ちてしまった。こんな所に置いた覚えは無いのだが、不思議に思いその手鏡を机の引き出しの中に仕舞おうとした瞬間、私の身体から血の気が引いて行くのを全身で感じる事になった。



「..何よこの眼、何で青く光ってるの、何よこれ..ねぇ何なの、嫌だ..怖い、怖い!」



ーーー




ねぇ、結奈、何であんな事Twitterで呟いたの?誰も見てないとでも思ったの?あんな事呟かないでよ、あんたのせいじゃん、ねぇ、どうすれば良いの?どう生きて行けば良いの?ねぇ、結奈、ねぇ、



『あなた、魔法少女なんじゃないの?』













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