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anna



最近身体が重い。特に結奈と一緒にいると身体が重く感じる。この前も勉強があると言って早めに別れてしまった。どうしてか分からないが、胸の中が熱くなるような、少し気持ちが重くなる感じ。結奈には悪いが、少し物理的に距離を置かなければ一緒にいるのが辛い。結奈は私がいなきゃ駄目なのは知っている。あの子は独りで生きて行けるタイプの子ではない事を。でも何故だか分からないが、結奈の気持ちではない、知らない誰かの想いのようなものを一緒にいると感じてしまう。哀しいような、切ないような、報われぬ想いのようなもの..。

結奈は何も感じないのだろうか。私だけがこんな不思議な感覚を味わっているのだろうか。こういう事だけはあいつには言えない事だった。


ーー


部屋のベッドに腰掛け、screen起動ボタンを押してWhiteRingを外し机の上に置く。浮かび上がるscreenの画面をぼんやり眺めながら、


「BGM、歌い手。」


とscreenに向かって呟く。画面が変動し検索モードが発動し、


「こちらで宜しいでしょうか?」


という文字が浮かび上がる。


「それ。」


と呟きscreenから曲が流れる。an‘naというアーティストの曲を良く聴いていた。女性アーティスト、という情報だけで詳しい事は分からない。

アコースティックで弾き語る彼女の歌声。彼女の哀しいような、この世界そのものを憂うような歌い方が好きだった。きっと彼女もこの世界の何かを諦めていて、報われぬ想いを曲にしているのだろう、私は勝手にそんな事を想像しながらベッドに横たわり彼女の曲を聴いていた。これが「思春期」特有のものなのかは分からないが、何をしても楽しくなかった。あいつと一緒にいても、友達と話をしても何処か虚しくなるこの想い、私は魔法少女になれるのなら本気でなりたいと思っていた。でも高校二年にもなるとそんな事言ってはいられない時期と重なり考えているだけで楽しかったそれらが色褪せるような、あまり夢を持てなくなって行く感覚が日に日に強くなって行くものを感じていた。

あの頃は2人で魔法少女になれた気がした、今は..私も真理ももう子供ではないのだ、そう思うと同時に私の世界そのものが色褪せて行く感じ、眠気と共に虚しさに蓋を閉じるように眼を瞑る、その瞬間鏡に映る自分が薄く光っているように見えたが、気のせいだと思い眠りに落ちて行く。

虚しいan’naの歌声は部屋で静かに響いたままで。


ーーー


「魔法少女はね、自分が魔法少女である事を自覚しなければそのまま魔法少女になる事はなくそのまま人生を終えるのさ。だが、子供から大人へと意識が変わる時、その子が魔法少女の素質を持っている場合は注意しなければいけない。その時期の純粋な生と死に対する願望、その想いが高まった時、魔法少女である事を自覚してしまった時魔法少女へ覚醒してしまう恐れがあるのさ。あんたはその素質が無くて安心さ、普通に生きて行く事が出来る。ただ..私の孫が心配でね。」



私の母が言っていた意味不明な言葉。こういう事を悪びれる事なく語る母の姿が許せなかった。母は自分の事を「かつて魔法少女だった者」と語った。それを娘の私に言って何になるのか、それを信じた所でどうしろと言うのか。母の言っていた事が許せなかったのは私の娘、結奈に対する言葉、「孫が心配」と言いながら結奈に自分が魔法少女である事、その他諸々の事を結奈に吹き込んでいた事、まるで孫が魔法少女になって欲しいと言わんばかりに。私は母の言っている事は全く信じていなかったがそういう所が大嫌いだった。母が亡くなった時、正直哀しいというよりホッとした、そんな気持ちを抱いたのは確かでこれで結奈が真っ直ぐ育ってくれれば..ただそう願っていた。

でも母が亡くなった時幼い結奈は大泣きし母から離れようとはしなかった事、その姿を見た時母と結奈はそっくりだと思ってしまった。私だけ何かが違う、二人の間に入れない何か、その「何か」分からないものだけが残り結奈は大きくなった。少し掴みどころが無いけれど良い子に育った、友達を大切にし誤った道に行く事も無く普通に育ってくれた、育ってくれたのに、何故だかあの子は「普通」が似合わない、その母の残した拭いきれないもの、私には無くてあの子にはあるもの、それが何なのかは分からないが、私の娘なのにまるで私の子ではないような、私だけが取り残されたような不思議な感覚は母が残した罪のような、母の言っていた事を信じてやれなかった後悔のような。


母としてちゃんとするとはどういう事なのか、私の母を拒絶したそれが結奈を見ているとたまに襲って来るそれらを拭うように、結奈に


「お帰り。」


と毎日私は言っていた。




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