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「私がね、哀しむとこの世界は壊れちゃうんだって。だからもう無理、ねぇDia、これ、あなたに預けたい。」
「..Alice。」
「これ以上は無理なの。でもまだ世界は大丈夫、あなたに私の全てを託したい。だから持っていて欲しい。」
「..うん。分かった。」
「だから哀しんでは駄目、ほら、にっこり笑うの。」
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「Twitter始めました!宜しくね!」
「でも何を呟けば良いのか良く分かりません。まぁその時の気分で適当に呟きたいと思います。」
「Aliceって言います!読書大好き女子高生なので絡んでくれると嬉しいな。」
「まぁ、飽きるかもしれませんが。」
ある晴れた日の空の下、空を眺めるでもなく小さな画面を眺めていた。世界は広いがそれらをやんわり拒否するように、ぼんやりと。腕から浮かび上がるその世界に私は夢中になっていた。現実にはない、存在しない「何か」がこの世界にはある、何処かでそれらを感じながら私はその画面に指を器用に走らせていた。
今時Twitterをやっている人達は誰もいない。今では「screen」が主流で私達は浮かび上がる半透明な画面を眺めながらお喋りしたり情報を共有したりしている。結奈はそういうかつての共有を感じたくてTwitterを始めてみた。私達の前の世代はこういう交流をして皆繋がっていたんだ、それらの空気を感じながら過去を知る感覚、そんな事をしている物好きは私の周りには誰一人としていない、その孤独性に浸り優越感に浸る、そんな無意味な遊びをして暇を潰す日々を過ごしていた。
結奈はTwitterのアカウントを開設し適当に呟いた。飽きたらアカウントを消す、本当に気分で始めたようなもの。ありきたりな日常に少しの暇潰し、その程度の事でクラスメイトが知らないアカウントをぼんやり眺める。フォロワー数0、増える事の無いその画面を眺めながら何となくその0の数字が1に変わる瞬間を少しだけ期待している、そんな自分の思いも何処かにありながらのふとした時間。
結奈が通う高校は進学校で、真面目に勉強しないと留年が確定するような、住んでいる街の中にある高校の中でも入るのが難しい進学高の一つだった。高校二年の女子高生、華のある高校生活、とまではいかないが幼稚園からの幼馴染の真理とは付き合いが長く、小学校、中学とクラスは離れてもいつも一緒に遊ぶ事が多く、高校も同じ高校に入り相変わらずな関係が続きお互いクラスは違えどたまに時間が合う時は一緒に良く帰っていた。
とある放課後、腕に付けた「WhiteRing」の起動ボタンを押しscreenを起動させながら結奈は真理に喋りかける。
「ねぇ!この前Twitter始めたんだよ!フォロワー数0!女子高生だとフォローして来る人いると思ったんだけど全くいなくてさ!」
「Twitter?いつの時代のやってんの?面白い?」
「面白..くはないよ。『フォロワー』いないし。前は自分で『フォロワー』を増やして繋がりを増やす、なんて事みんなやってたんだよ!それで趣味が合う人達探してみんな繋がりの輪を広げてたっていう、screenは勝手に自分の好みを繋げてくれるのに前は自ら探しに行かなきゃだったんだよ!ねぇ、真理もやって私のフォロワーになってよ!」
「嫌。」
「何で?」
「何で今更そんなのやらなきゃいけないのさ。screenあれば充分じゃん。それよりこれからやんなきゃいけない事沢山あるのに大丈夫?」
「..別に一日中やってる訳じゃないし、それに飽きたら止めるしね。」
「本っ当適当、あんたらしいって言えばあんたらしいけどね。」
真理はどちらかと言えば結奈のお喋りの聴き役で、たまに突っ込みを入れてまた結奈のお喋りを聴く、そんな関係が小学校から高校まで変わらず、家族ぐるみの付き合いで親友と言うよりある種家族の一員のような、そんな幼馴染のような付き合いになっていた。
「何でまたTwitterなんて始めたのさ。」
「..敢えて昔の空気を感じてみる、その心がその人の心を豊かにしてくれる..私はそう思ってる。」
「真面目っぽく言ってもダメ、あんたの性格知ってるとその言葉そのものが凄い可哀想になって来る。」
「酷い!何でいっつもそんな言い方ばっか!」
こんな調子で二人の関係性は幼稚園の頃からずっと続いていた。結奈は真理の事を醒めたノリの悪い人、真理は結奈の事を飽きっぽくて適当な人、幼いなりにそれらを互いに感じ合っていた為に最初の頃は凄く仲が悪かった。それでもお遊戯会、運動会などのイベントになると不思議とペアになる事が多く、次第に互いの家に遊びに行く仲になり家族ぐるみの付き合いが普通の景色になって行った。
「Twitterやって何したいの?」
「..何か誰も使っていないようなもので繋がる、そういうもので繋がり合うって素敵かなぁって思って。何か『本物』って感じしない?運命みたいな、出逢うべくして出逢った、そんな感じのさ。」
「それで出逢ったとしてどうするのさ。その人と会いたいの?」
「そういうんじゃなくてさぁ、わっかんないかなぁ〜。」
「..んで、アカウント名何にしたの?」
「Aliceだよ!」
「Aliceって..あの魔法少女の?」
「そ!可愛い名前でしょ?」
「いや、私もうそういうの良いから。」
私達が仲良くなったきっかけ、それは魔法少女、幼い頃仲が悪かった関係を修復したものが魔法少女だった。
昔この惑星を守ったとされる伝記に残る存在。本当に存在していたのかいなかったのか幼い頃の私達にはそんな事はどうでも良い事で憧れと希望と夢の象徴、お互いに魔法少女の話をしていたらあっという間に時間が過ぎる、その話をしていられたらそれで良い、その時間が何よりも楽しい、お互いに理想を並べながら空想の魔法少女を創ったりしながら良く遊んでいた。
「Aliceって、あんたが小学校の時描いた魔法少女に私が名前付けたやつじゃん。」
「うん、そ、何で?嫌?」
「嫌っていうか..他に名前無かったの?」
「良いじゃん!魔法少女好きなんだから!」
「あぁ、はい、はい。」
ひたすらに結奈は喋り続ける。それを呆れた顔で真理は聞き流す。高校生にもなって魔法少女の話をしてるなんて..それでも悪い気はする事はなく、こんな調子で私達の会話は途切れる事なく日々続いていた。当たり前の景色、当たり前の会話。ありふれた空気感だけを残しながら夕陽はいつもの帰り道を照らし街を仄かに赤く染め上げていた。
ーー
その日、真理はTwitterのアカウントを開設した。アカウント名「Dia」、アカウント名「Alice」をフォローする。これで満足だろう、幼馴染なりの付き合いで付き合ってやる、でも自分がTwitterをやっているとは言わない。フォローして結奈が喜ぶのならそれで良い、真理なりの優しさで結奈をフォローしてやる、0から1に変わる瞬間を結奈が見て喜んでいる姿を想像して少しだけ微笑んでいる自分が気色悪く感じられてとっさにscreenをログアウトする。
腕に付けたWhiteRingを外してベッドに潜り込み眼をそっと瞑った。