プロローグ 恐怖の前奏曲
「な、なんだよ…これ…」
車に乗り、仕事に行く見慣れた景色。のはずだった
農道を出て国道に出る時に気付いた
車が進まず大渋滞を起こしていて、目に見える所全ての道が車で埋め尽くされていた
「うわー、事故でもあったか?」
このままでは間違いなく遅刻してしまう。正確には寝坊して完全に遅刻しているのだが
忙しい時間だからか、会社に電話しているのだが一向に繋がらないから困ったものだ
「渋滞酷いっすね、事故ですかねー?」
とりあえず、車から降りて話す人達に声をかけよう
「おー大河か、おはようさん。電話も繋がらないしなぁ、困ったもんだ」
ーー顔見知りの人がいてホッとしたよ
顎髭をしっかりと整え、毎日剃っているであろうスキンヘッドを光らせる近所の秋山忠治さん
「おっちゃん、おはよう!」
「なんかテロでも起きたんじゃないか?」
おっちゃんの冗談まじりの言葉を聞いて、オレは何か胸騒ぎを感じた。いや、そんな訳ない。日本でテロなんてここ数年、起きてないし
「怖いこと言うのやめてくださいよー」
その場にいた皆んなに笑顔が出る。本当にこの人は場を明るくする天才だ
ボォーーーーーーーン!!!
明るい空気を断ち切るかのように、聞いた事のない轟音が町に響き渡った。よく戦争モノのドラマや映画で聞いた事のあるサイレンの音、日本人はこの音を聞いて何か本能的に警告を感じ取れるはずだ
「お?甲子園の開幕か?」
冗談言ってる場合じゃないだろ!
「なんか、ヤバくないっすか?」
周辺の人も皆、慌てている様子だ
『避難警報!これは訓練ではありません。屋外にいる人は直ちに丈夫な建物に入り、隠れてください!繰り返します、避難警報ーーー…』
っえ!?マジでテロじゃね?
「大河!すぐ家に戻れ!!」
さっきまでふざけていたおっちゃんも事の重大さに気付き真顔になっている
「分かった!おっちゃんも早く家に!」
「おぅ!ちょっくらここらの人達を手助けしたらすぐ帰る!」
本当にお節介なんだからこの人は
「おっちゃん、無理すんなよ!」
サムズアップして走り去っていく後ろ姿を見ながらまた嫌な予感がする。オレの予感は当たらないから大丈夫のはず…
「とりあえず、テレビ!」
家に帰ってすぐにテレビを付けるがどのチャンネルも砂嵐で何も映らない
マジでヤバイやつじゃね?
電話もテレビも繋がらない。電波を出す大元が壊された?でも全部を同時に壊すなんて、考えるのは後にしよう。何も分からないんじゃどうも出来んし
!!!!!!!!!!!
窓のカーテンを閉めようとした時に爆発音が聞こえ、国道の方から煙が上がってる
空を何か飛んでる?煙が上がっている場所の上空に飛行機のような、でも生き物にも見える何かが弧を描くように飛び回っていた
それは見慣れた生物だった。理解するのに時間は必要無かった。ゲーマーなら、イヤ、人間なら誰しも絵や映像で見たことのある生物
〝ドラゴン〟
開いた口が塞がらない
…… 言葉が出てこない
おっちゃんは!?
すぐにおっちゃんの身が心配になった
でも、体が動かない
完全にビビって動けなくなってしまった
『グォォォォォォォォオ!!!』
「ひっ!」
ドラゴンの叫び声に驚き尻もちをついてしまう
「どうしよう、どうしよう、助けに行った方が…」
いや、オレなんかが行ったところでだよな
自分を正当化して、目の前の事から逃げた。本人はそんかつもり毛頭無いが。事実、我が身大事の逃げに過ぎなかった。誰かがなんとかしてくれるだろうと
ドッドッドッドッドッドッドッドッ!!!
ドラゴンが国道辺りに降り立って暴れまくってる姿をカーテンの隙間から覗いていたら希望が見えた
「自衛隊や!」
小声で呟きガッツポーズをする。戦闘ヘリが1、2、3…6機!これであのドラゴンも!
数秒の希望だった。機銃も効いてる様子無く、更にはドラゴンが口から出した炎がヘリを全て玉砕した
「こんなの…夢だろ…」
夢に決まってる!夢じゃないと分かっていても夢だと思い込みたい自分がいる
壁にもたれかかって災いが過ぎるのを待った
待つしかできなかった
ーーー
「うわっ!!!!!」
ドラゴンに食われは夢を見て飛び起きた。身を縮めて隠れていたらいつの間にか寝てしまっていたようだ
辺りは真っ暗になっていて、ドラゴンの姿も気配も感じなかった。夜だから見えて無いだけかもしれないが
「おっちゃん、大丈夫だよな」