ねがえり
反省事
あれは、丁度娘が4カ月を超えた頃だった……と思う。
それ位になると、『寝返り』をするもんらしいと、ネットとかで見た……様な気がする。
そして、寝返りの練習にコロコロ転がすとかそんな情報も。
今思うと、アホな事をしてしまったなと、そう思う訳です。
え?
なにをって……。
寝返りの練習させようと左右に転がしたのですよ……。
娘を。
「ポッコリーナー? 寝返りの練習しようかー」
その頃の娘はまんまる。
赤ちゃん特有の、はち切れそうなぷっくりした顔に、関節はゴムで留めてあるようにみえるあんな姿だ。
最近見る赤ちゃんは、ほっそりスラリとしてる子が多い様な気がする中、ぷっくぷくの我が子がとっても不思議だった。
成長曲線って言うヤツで見るなら、『身長平均・体重上限ギリギリ』ってところだったかな。
自分も夫も、『肥満体形』だからそれが余計に気になったんだろう。
寝返りをし始めたら痩せる? らしい??
眉唾もんだけど、部屋の端から端まで転がる子もいるらしいし、そう言う事もあるのかなーと思いながら、その日の朝、私は寝返りの練習をさせて見ようと思い立った。
何かのきっかけがあった訳じゃない。
ふと、思い立っただけ。
ごろん
「寝返りはこうやるんだよ~?」
ごろん
「ポッコリーナ、たのしい??」
やってみると、結構重い。
まだまだ小さい赤ちゃんで重いなんて言ってるんじゃぁ、近い将来に来ると思われる介護が思いやられるなとひっそり思う。
10倍くらいの重さあるもんね。
「もっかいやってみよかー。」
ごろん
ボキ
「!?」
うにゃぁ~!
大慌てだった。
後になって、なんにも考えないでコロコロしてるうちに腕の位置がずれてたらしいと思い当たったけど。
慌てて抱き上げて、謝りながらあやした。
やっと、泣きやんだところでまた床に寝かせると、一瞬だけどまた猫みたいな声を上げる。
「痛いの?? どこが痛い???」
ごめんね
ごめんね
何を失敗したんだろう??
うろたえながら、どこがおかしいのか必死で探した。
右肩?
……。
右ひじ??
にゃぁ~……。
泣いた。
右ひじを触られると痛いらしい。
痛いらしい場所が判ったところで途方に暮れる。
どうしよう?
時計を見ると、30分位はたっているっぽい。
まだ、痛いという事は肘の辺りの骨が折れたか、ひびでも入っているかも。
どうしたらいいか分からず、仕事中の夫に泣きながら電話した。
夫の指示で、子供をどこの病院に連れていけばいいのか判断してくれるところに電話すると、近所の小児科を紹介される。
一度、行った事がある場所だ。
とても高齢なお祖父ちゃん先生で、耳が遠くて話しが通じなかったのを思い出しつつ電話する。
……電話だと話しが通じて、ちょっと安心。
たらいまわし状態で、近所の整形外科に行く様に勧められた。
夫から、どうすることになったのか電話が入り、整形外科に行く事を告げる。
まだ、病院は開いてない。
そわそわしながら、小一時間、娘の頭を撫でながら過ごす。
該当部位を触らなければ、娘は泣かなかった。
やっと、病院の受付が始まる10分前。
娘を抱っこひもに押し込んで、いそいそと家を出る。
病院までは5分で着いた。
「今日はどうしたの?」
「娘に、寝返りの練習させようとして転がしてたら右手の方からパキッて音が……。」
「どれどれ?」
「右ひじを触ると泣くんですけど……」
診察すぐに終わる。
娘の右ひじを軽く握って、肩のあたりを触れただけで解るなんて、お医者さんてすごい。
「お母さん、僕の方に赤ちゃん向けてしっかり押さえててねー。」
そう言って、医師が娘の右手を引っ張ると、娘の口から泣き声が上がった。
慌てて自分の方を向かせて揺すってやると、すぐに泣きやむ。
「右肩が脱臼してたね。」
お礼を言って診察室をでて然程も経たないうちに、待合室に夫がやってきた。
時間からすると、会社に着いて仕事を始めようとしたくらいの時間に私からの連絡が入って、大慌てで帰ってきてくれたらしい……。
テンパリ過ぎだ。
なにやってんだか、私。
これくらい、1人で対応できないといけないのにな……。
夫に申し訳ないと思いながら、寝返りの練習は封印する事にした。




