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聖少女カシェリーナ  作者: 神村 律子
聖女カシェリーナ サードモンスタープラン
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その三十二 独裁者の最期

 ディズムはデイアネイラの格納庫に降りて、脱出用の小型機に乗り込んでいた。そこへカロンが現れた。

「逃げるつもりか」

 カロンは小型機に近づいたが、すでにエンジンが始動しており、小型機は動き出していた。しかもどこに潜んでいたのか、十人ほどの戦闘員が現れ、カロンの前に立ちはだかった。

「どけ、雑魚共。命が惜しくないのか」

 カロンは怒鳴った。

( こいつらも人格を操作されて、奴の言いなりになっているのか?)

 目も虚ろのまま自分に近づいて来る戦闘員を見て、カロンは苦々しく思った。その間にディズムはハッチを開き、デイアネイラから飛び去ってしまった。

「クロノスに戻ろう。あの小型機を叩き落とすんだ」

 レージンは来た道を引き返しながら叫んだ。

「わかりました!」

 ロイとロベルトは、レージンを追いかけた。


 ヒュプシピュレが廊下の突き当たりの大きな扉を押し開けると、その中はまるでテレビ局のスタジオのようなところだった。

「はっ!」

 カシェリーナは、その中央のテーブルに血まみれで突っ伏しいる三人の男に気づいてびっくりして後ずさりした。その三人は、全く同じ顔をし、同じ服を着ていた。

「ディズム総帥? まさか……」

 アタマスも目を白黒させて三人の死体を見ていた。ヒュプシピュレが、

「そいつらはディズムになり損なった影武者よ。カロンと一緒にいるのが、影武者同士の争いを制した奴なのよ」

 そして、

「こいつらが残っていると想定していたけど、まさか殺し合いをしたとは思わなかったわ」

 ヒュプシピュレはカロンだったら悔しがるかな、と思ってクスッと笑った。カシェリーナがそれに気づき、

「どうしたんですか、ヒュプシピュレさん?」

 ヒュプシピュレは笑うのをやめて、

「別に。扉を銃で破壊するから、下がって」

 カシェリーナとアタマスは元来た大きな扉のところまで下がった。ヒュプシピュレはそれを確認すると、銃の弾丸を詰め替えた。

「さてと。この銃、これで使い納めね」

 銃身を撫でて、彼女は扉に狙いを定め、連射した。さっきとは異質の、重い銃声がして、扉を破壊した。同時に、ヒュプシピュレは銃を投げ出した。威力のある弾丸を使ったため、銃そのものが壊れてしまったようだ。

「さァ、先に進むわよ」

 ヒュプシピュレは別の銃をドレスの下から取り出しながらカシェリーナ達を見て、中に入って行った。カシェリーナとアタマスは、それに続いて入った。


 クロノスは、ディズムの小型機を追っていた。

「叩き落としてやる!」

 ロイはディズムの小型機にクロノスを接近させた。機銃が唸り、ディズムの小型機の右主翼が火を噴いた。ディズムは脱出装置を作動させて小型機を脱出し、地上に降下した。

「逃がさないぞ」

 クロノスは低空飛行をし、ディズムを追った。ディズムは廃墟の中に逃げ込んだ。クロノスはディズムの前に回り込み、着陸した。ディズムは逃げ場を失って、立ち止まった。

「もうこれ以上逃げられないぞ」

 レージンとロイとロベルトが、エアロックを開いて外に出て来た。ディズムは歯ぎしりをした。

「おのれ……」


 カシェリーナ達が扉の中に入ると、その前方にガラス張りの部屋が見え、マーンが立っていた。

「先生!」

 カシェリーナが走り出そうとしたのを、

「お待ちなさい」

 ヒュプシピュレが止めた。

「マーンは人格操作をされて、貴女が誰なのかわからなくなっているわ。迂闊に近づくと、撃たれるわよ」

 ヒュプシピュレの警告に、カシェリーナは仰天した。

「撃たれる?」

 カシェリーナは唖然として、ガラスの向こうにいるマーンを見た。確かにマーンの様子は妙だった。こちらを見ているのに、カシェリーナ達に気づいていないようなのだ。

「ここで待っていなさい。私が先に中に入るわ」

 ヒュプシピュレは銃を構えてマーンに近づいた。カシェリーナとアタマスは、息を呑んでそれを見ていた。

「マーン」

 ヒュプシピュレはガラスの扉を押し開けて、マーンに声をかけた。マーンはその声に反応し、腰のホルスターにある銃を抜き、ヒュプシピュレを撃った。

「くっ!」

 ヒュプシピュレはそれを予期していたかのようにかわし、逆にマーンを撃った。しかしマーンは床を転がってそれをかわし、一気にヒュプシピュレに近づいて彼女の喉元に銃口を押し当てた。ヒュプシピュレは、思わず目を閉じた。

( カロン……)

彼女は死を覚悟した。死ぬ事など恐れてはいなかったが、カロンにもう一度会えないままのお別れは、とても悔しかった。

「やめてーっ!」

 まさしく、何分の一秒というわずかな時間だったはずだ。マーンが引き金を引く寸前にカシェリーナが飛び込んで来て、ヒュプシピュレを押し倒し、マーンの前に立ちはだかったのだ。

「先生! 先生! 先生ーっ!」

 カシェリーナは顔をグチャグチャにして泣いていた。それでも、声は力強かった。マーンの顔つきが変わった。静かな湖面にさざ波が立ったような現象が起こり、やがてそれがマーンの心の奥底まで伝わった。マーンは、銃を下げ、頭を抱えて苦しみ出した。

「うおおおっ!」

 しかし、まるでそうなることでより強く暗示がかかるようにされていたのか、再びマーンは銃をカシェリーナに向けた。

「危ない!」

 今度はヒュプシピュレがカシェリーナを押し倒し、銃弾から救った。

「そんなことでマーンを救えるほど、ディズムの計略は甘くはないわよ」

 ヒュプシピュレはカシェリーナを庇いながら、後ずさりしてマーンから離れた。マーンはヒュプシピュレに銃口を向けた。

「ダメです、先生! この人は貴方を助けに来たんですよ!」

 カシェリーナはヒュプシピュレの前に出て、マーンに叫んだ。マーンの頭の中に、以前見た事がある光景がよぎった。核融合砲基地で、カロン・ギギネイがディズムを撃とうとした時に、同じようにカシェリーナが飛び出した時の事が。

「カ……シェリー……ナ……」

 マーンの口からその言葉が漏れた時、カシェリーナはマーンに抱きついた。ヒュプシピュレとアタマスは唖然としてカシェリーナの行動を見ていた。マーンは銃を床に落としてしまった。

「先生……」

カシェリーナは頬を紅潮させて、マーンを見た。マーンの目に生気が蘇ったように見えた。

「カシェリーナ……」

「先生! 先生!」

 マーンはぼんやりとした意識ながら、カシェリーナを抱きしめ返した。

「やっぱりね……」

 ヒュプシピュレはそう呟いて、フッと笑った。

(この二人は男女の愛を超えた関係なのね。どちらも互いをとてつもなく信頼している。だからこそ、マーンに心が戻ったのね。私にはとてもできないことだわ )


 レージンとロイとロベルトは、ディズムを取り囲むようにして立った。

「貴様が本物であろうと偽者であろうと関係ない。何故こんなことをした?」

 レージンが尋ねた。するとディズムは、

「私の理想を実現するためだ。民主主義などという愚にもつかぬものを信奉している限り、人類は決して恒久の平和など手に入れる事は出来ない。絶対支配者による統治のみが、それを実現可能にするのだ」

「独裁者による支配がどんな結末を迎えたかは、歴史が示しているだろう。何を今更……」

 ロイが反論すると、ディズムはロイを睨んで、

「それは支配者に責任がある。体制に問題があるわけではない」

「それは理屈だ」

 ロベルトが異を唱えた。しかしディズムは、

「多数決の原理が支配する民主主義社会では、全てが遅くなる。災害時にも、有事の際も、何もかもが後手後手に回るのだ。そんな体制より、一人の神の如き支配者が全てを決定し、実行する体制の方が優れているのだ」

 再反論した。

「借り物の言葉を並べ立てるな、偽者め」

 カロンが車で追いつき、怒鳴った。ディズムはカロンを見た。レージン達もカロンを見た。カロンは少し身体のあちこちに傷を負っていた。十人を相手にして戦い、勝ち残ってここまで来た証だ。

「お前が偽者かどうかなど、この際どうでもいい。ただお前を生かしておくわけにはいかない」

「私を殺しても、別の私がいるぞ」

 ディズムはニヤリとして言った。しかしカロンはフッと笑って、

「あとの三人は、お前がディズムになるために殺したんだろう? だから偽者はお前だけだ」

 ディズムは驚愕していた。レージンやロイが止める間もなく、カロンはディズムの首の骨を手刀でへし折ってしまっていた。ディズムは首を横に向けたまま、地面に倒れ伏した。

「終わったな」

 カロンは誰にともなく言った。

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