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聖少女カシェリーナ  作者: 神村 律子
聖女カシェリーナ サードモンスタープラン
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その十四 動き出した魔物

 その頃シェリーは、クロノスの改造を一段落させ、帰途についていた。

( ロベルトは月へ行くって言ってたな。もう何ヶ月会っていないんだろう? )

 彼女はロードスターを運転していた。ショートヘアが風で激しく揺れている。着替えた黒皮のミニスカートから出ている黒いストッキングを履いた奇麗な脚は、ギョッとするような角度で広がっており、アクセルを踏む右足はそのままだったが、左足はフットレストに載っていて、カーコンポから流れる音楽に合わせて、リズムを取っていた。

( お互いの仕事を尊重し合っていたら、すっかり離れ離れになっちゃったな )

 シェリーのロードスターは工場の敷地を出て、ニューホンコンの街中に入って行った。

「おっ?」

 彼女はガールスが女と歩いているのに気づいた。ガールスはパステルカラーのスーツに着替えており、隣にいる女は、シースルーのワンピースを着ていた。ほとんど下着が見えた状態である。

( アバス社長が言った通りだ。とんでもないスケベ親父だね )

 シェリーはガールスを無視して交差点を左に曲がり、アパートに向かった。

 その当のガールスはと言うと、レトと夕食を食べるために、ニューホンコン最高のレストランである、「香港楼」に向かっていた。道行く人は、二人の歳の差に気づいていたが、誰も気に留める者はいない。それもそのはず。ニューホンコンの夫婦の四分の一が、十五歳以上歳の離れた夫婦なのだ。富める都市が必然的に生み出す、「自然の摂理」なのだろうか?

「私はあまりチュウカは食べた事がないのだがな」

 ガールスは少し嫌悪感を露にして言った。しかしレトはニコニコして、

「私はチュウカが大好きよ。四千年以上も伝えられている料理ですもの。奥が深いんだから」

 彼女のチュウカ好きは本当だ。ガールスとの接触をニューホンコンに指定したのは、レトの発案である。彼女にとって、この最低最悪の任務の仲で、唯一の楽しみがこのチュウカだったのだ。

「そうか」

 ガールスはレトを見てニヤリとし、腰に回した手でワンピースの上からそのふくよかなヒップを触った。

他人ひとが見てるわ」

「かまわんさ」

 そんな会話を交わしながら、宵闇迫る中を二人は「香港楼」に入って行った。


 そして何事もなく日は過ぎて行き、コペルニクスクレータの復興記念式典の当日の朝を迎えた。

「うっ……」

 レージンはベッドの中で、カーテンの間から射し込む人工光に気づき、目を覚ました。

「もう朝か。どうも月にいると、時間の感覚が狂うな」

 レージンは起き出し、隣で眠っているカシェリーナを見た。そして、

「朝だぞ、カシェリーナ」

 おはようのキスをした。カシェリーナはびっくりして起き上がり、

「お、おはよう。早いのね」

 眠そうな目でレージンを見た。レージンは全裸のままベッドから出て、

「さてと、夕べの汗を流すか」

 言いながら、バスルームに入って行った。その言葉を聞いて赤くなったカシェリーナは、

「もう、バカなんだから」

 シーツを身体に巻きつけ、ベッドから抜け出した。

「今日俺は八時に会場入りだ。君は十時だろ? もう少し寝ていろよ」

 パスルームからレージンの声がした。カシェリーナはムッとして、

「貴方が起こしたんでしょ!」

 レージンの笑い声がバスルームから響いて来た。


 パイアは朝早く起こされたので機嫌が悪かったが、非常に重大な情報だったので、部下を怒鳴りつける事はなかった。彼女はナイトガウンを直に羽織り、ブラシで髪をとかしながら、

「月に近づくもの? 地球のシャトルじゃないのか?」

「いえ、この時刻にシャトルは来ません。それに、その飛行物体は、対レーダーコートがされています」

「対レーダーコート? 何者なんだい?」

「わかりません。地球の軍のものかと思い、照合しましたが、合致するものがありませんでした」

「……」

 パイアは腕組みをした。彼女達の技術には対レーダーコートを凌ぐ索敵方法がある。宇宙線を利用したもので、対レーダーコートをしてあっても、その物体を捉える事ができるのだ。

( このこと、リノスの事や、マーンのことと何か関係あるのか? )

 パイアはしばらく思案していたが、

「テスを呼んで。何か知っているかも知れない」

「はい」

 部下は答え、部屋を出て行った。パイアは眉間に皺を寄せて、

「何だ? 何が起ころうとしているんだ?」

と呟いた。


 コペルニクスクレータのメインストリートを、地球共和国評議会議長の乗るリムジンが疾走していた。

「クロノスの準備はどうだ?」

 後部座席と運転席の間の仕切りが上がり切るのを待って、議長は尋ねた。彼はディズム政権下で評議会の執行委員を務めていた男で、反政府軍のリーダーによって追放されていたが、一年前の議長選でアバスの資金と票田をバックにして、議長になった男である。陰険で狡賢い性格が、顔と、その三段腹ににじみ出ている。

「はい。ご命令があれば、いつでも発進できるようになっております」

 そう答えたのは、議長の右腕であり、アバスとも繋がりを持つ、筆頭秘書官である。金縁の眼鏡をかけ、髪をポマードでベットリと固めており、口ひげが嫌らしい口の上に海苔のように張りついている男である。

「五年前、私達は反乱軍に追放され、クロノス計画は挫折してしまった。しかしまたこうしてチャンスが巡って来たのだ。今度こそ、月は地球の属州に成り果てる」

 議長はニヤリとして言った。秘書官はフッと笑って、

「五年前、ゲスが殺された後、大統領になったあの男は相当なボンクラです。我々の計画など、全く気づいていないでしょう」

 議長は目を細めて、

「何にしても、式典が終わり次第、ここを発つぞ。クロノスの攻撃開始は、コペルニクスクレータ時間の午後四時だ」

「はい」

 リムジンは会場の入り口に差しかかり、門が開くのを待ってから、再び走り始めた。

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