表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖少女カシェリーナ  作者: 神村 律子
聖女カシェリーナ サードモンスタープラン
53/77

その九 思わぬ出会い

「よく来てくれた、カシェリーナ」

 カシェリーナはドアを開いて出迎えたのがシノンだったので、少々面食らいながら、

「ところで、ナターシャさんは?」

 中を覗いた。シノンは奥の方をチラッと見て、

「寝室で休んでいる。まだ少し興奮気味でな」

「そう」

 カシェリーナは中に入ってから、

「さ、どうぞ」

 ロイとエリザベスの方を向いて言った。その時シノンは初めて二人に気づき、

「おや、君達は?」

「俺達、先生の講義を受けている、ガイア大生です」

 ロイが答えると、シノンは苦笑して、

「そんなことはわかっているよ。確か君はロイ・アマギ。それから、そちらの品のいいお嬢さんがエリザベス・イトー。そうだね?」

 ロイとエリザベスはびっくりしてしまった。

「な、何で知っているんですか?」

 ロイは尋ねた。シノンは得意そうな笑みを浮かべて、

「私のコンピュータには、クロノス事件の全容が納められている。君達の他に、ロベルト・トキワとシェリー・キモトという子がクロノスに搭乗したということも、知っているぞ」

 ロイとエリザベスは驚きを通り越して、呆然としてしまった。

「全く、相変わらず、ハッカーみたいなことをして、あっちこっちから情報を引き出しているのね」

 カシェリーナも呆れ顔で言った。シノンはカシェリーナに目を転じて、

「まァ、そう言うな。そのおかげで、警察の動きもわかったんだからな」

「警察の動きが?」

 カシェリーナはリヴィングルームのソファをロイとエリザベスに勧めながら、自分も腰を下ろして言った。

「ああ。マーン君のことでいろいろと調べていたら、警察も少しは動いている事がわかったんだ。連中、誘拐と失踪の両面で調べている」

「何か掴んでいるの、警察は?」

 カシェリーナはロイとエリザベスをチラッと見てから、シノンを見た。ロイとエリザベスも、シノンを見た。シノンは三人を見て、

「掴んでいると言えば、掴んでいるな。警察は、ディズムの影武者らしき人物を見かけたという情報を得て、そのことで動いていたんだよ」

「総帥の影武者?」

 カシェリーナはギョッとしてエリザベスを見た。エリザベスはカシェリーナ以上に驚いていた。ロイも同じだ。

「そこへディズムの息子であるマーン君が行方不明という情報が入って来たので、腰の重い警察も、放っておくわけにはいかなくなって、捜査を開始したということらしい」

 シノンは続けて言った。カシェリーナは黙って頷いた。

「教授、ナターシャさんが目を覚ましましたよ」

 奥からテミスが現れた。その声にエリザベスがハッとした。

「あら、テミスじゃない? どうしてここにいるの?」

 ロイもテミスを見て、

「あ、ホントだ。テミス、どうしてお前ここにいるんだ?」

 テミスはギクッとして、

「あ、あんた達こそ、どうしてここにいるのよ?」

 カシェリーナとシノンは、しまった、という顔で見合った。

 テミスとシノンの関係は、カシェリーナがうまくロイとエリザベスに説明した。

「別に私の父とテミスは、何もやましい関係じゃないけど、大学で他の学生には話さないでね」

 カシェリーナは念を押した。エリザベスは微笑んで、

「話したりしませんよ。ね、ロイ?」

 ロイを見た。するとロイはニヤッとして、

「先生が、憲法と行政法と刑法の単位を保証してくれるのなら、いいですよ」

 カシェリーナはこんな時、全然ユーモア感覚を失ってしまう。彼女は思わず、

「ふざけないでよ!」

 大声で怒鳴ってしまった。ロイはビクッとして、

「す、すみません、悪い冗談でした」

 するとテミスが、

「私は別に話されても構いません。私は教授を愛しているのではなく、敬愛しているのですから。何も困る事なんかないです」

 開き直ったように言ってのけたので、ロイはテミスを見て、

「悪かったよ、テミス。喋ったりしないって。お前とは小学校も一緒だったんだから、そんな酷い事しないよ」

「信用できない」

 テミスはムッとした顔でロイを睨んだ。ロイはハッとして、

「な、何でさ?」

「だってあんたは、小学校一年の時、私と結婚してくれるって言ったのに、それから半年も立たないうちに、エリーと結婚の約束したじゃない。私、それが元で転校したのよ。あんたの顔見るの、辛くなったので」

「えっ?」

 ロイはもうこの上なく焦りまくってエリザベスを見た。しかしエリザベスは怒っている様子はなかった。それどころかニッコリして、

「ごめんね、テミス。それ、私が悪いの。私がロイに、私と結婚してくれなければ、一生呪ってやるって言ったのよ。だからロイは私と結婚の約束をしてくれたの」

 これにはテミスも返す言葉がない。ロイは真っ赤になってしまった。カシェリーナは呆れてシノンと顔を見合わせた。

「負けたわ、エリー」

 テミスは肩を竦めて言い、シノンを見て、

「教授、話を戻しますけど、ナターシャさんが目を覚ましました」

「わかった」

 シノンは立ち上がり、カシェリーナを見た。カシェリーナは頷いて、

「私、ナターシャさんに会って来るわ。あなた達はテミスとここにいて」

 シノンと奥に行きかけた。そして去り際に、

「もめないでね」

 ウィンクして奥に入って行った。ロイはムッとしたが、エリザベスはクスッと笑ってテミスを見た。テミスもニッコリしてからロイを見て、クスッと笑った。


 リノスは、全長が七メートルはあろうかというリムジンに乗せられ、ニューホンコンの市街を移動していた。しかし彼は目隠しをされており、リムジンがどこへ向かっているのかは知らされていない。

「俺をどこへ連れて行くつもりだ?」

 リノスは隣に座っている男に尋ねた。男は黒い防塵マスクを着け、大きなサングラスをかけた、オールバックの髪型で、ほとんどその表情は読み取れないが( リノスは目隠しされているので尚更だが )、明らかにニヤリとしたようだった。彼は、

「貴方は総帥閣下のご命令で、クロノスの設計図とマニュアルを盗むわけでしたが、失敗しました」

「……」

 リノスの全身に汗がにじんだ。彼はギュッと歯を食いしばり、

( 殺されるのか、俺は……? )

 しかしサングラスの男は、

「危害を加えたりしませんから、安心して下さい。貴方には、サードモンスターのパイロットになっていただきます」

「サードモンスター?」

 リノスはサングラスの男に顔を向けて尋ねた。サングラスの男はリノスをチラリとも見ず、前を向いたままで、

「そのことについては、今はまだお話しできません」

 リノスは警戒心を解かずにいた。

( サードモンスター……。どこかで聞いた事がある……。何だ? )

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ