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聖少女カシェリーナ  作者: 神村 律子
聖少女カシェリーナ外伝 もう一つの戦争
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もう一つのエピローグ 戦いの終息

 クロノスがニュートウキョウ上空に現れた事により、軍本部でも内部分裂が始まった。

「何ということだ! クロノスと、あのカシェリーナとかいう女のせいで、本部にまで造反者が現れおったか」

 本部長は基地の各部署で起こっている小競り合いに苛立っていた。

「ディズム総帥は行方不明だと言うし、長官は反乱軍に投降したという噂が流れているし……」

 本部長は外で聞こえる爆発音と銃声にギョッとした。

「ついにここまで来たのか? 嫌だ。私は銃殺されるのは嫌だ!」

 彼は見苦しくも、逃亡を図ろうとして基地の裏手に向かって走った。しかし無駄な抵抗であった。本部長はほどなく造反組によって捕獲され、監禁された。


 各地で抵抗していた正規軍も、クロノスが味方ではないと知り、次々に投降した。

 反ディズム軍は軍本部に突入し、地下室に監禁されているレージン・ストラススキーを救出した。

「ここが、ニュートウキョウか。ほとんど焼け野原だから、どんな街かよくわからないな」

 スクリーンに映るニュートウキョウの風景に、ロイが呟いた。

「ヒュプシピュレと連絡がとれない。彼女の屋敷に、誰もいないみたいだ。困ったな」

 ロベルトが言うと、シェリーが嬉しそうに、

「良かったじゃない、ロベルト。相手が行方不明じゃ、取引は無効だね」

「二億がパアだ」

 ロベルトは酷く落胆していた。シェリーはそんなロベルトを見て、

「あんた、やっぱり金のためだったの? ホント、どうしようもない奴だね」

「うるせェよ」

 ロベルトはスネて顔を背けた。ロイとエリザベスはそれを見て顔を見合わせ、笑った。ロイはロベルトに、

「良かったな、ロベルト、軍が崩壊して。もし反対派が負けていたら、士官学校の学生のお前は、軍法会議にかけられていたかも知れないぞ」

と肩を叩きながら言った。ロベルトはそれでも、

「関係ねェよ。二億に比べりゃあな」

とスネたままだ。シェリーはロベルトの頭をポカンと殴り、

「バカは死ななきゃ治らないみたいだね」

「いてェな!」

 ロベルトの反応を見て、ロイ達は大笑いした。


 ロベルトが取引するわけだったヒュプシピュレは、クロノスの話を直接確認していなかった。彼女の側近が、半分独断で進めていたのだ。

 だから、軍が瓦解し、体制が変わってしまったため、クロノスの価値が暴落したと判断し、逃亡したのだ。

 もちろん、ヒュプシピュレ自身も、恋人である殺し屋のカロン・ギギネイと共に姿を消していたのだが。いずれにしても、ロベルトの手元に二億という大金が転がり込むことはなかったのである。


 やがて軍本部も完全に制圧され、ニュートウキョウの戦いは終息した。

「カシェリーナさんが来てるらしいぞ」

 反対派の通信を傍受したロイが嬉しそうに言った。途端にエリザベスの機嫌が悪くなった。ロイはその異変をすぐに察知したが、遅かった。

「だから?」

 彼女はロイに詰め寄った。ロイはエリザベスの声に全く抑揚がないのに気づき、

「いや、その、なんだ、ここまで来たついでに、地球を救ったヒロインのご尊顔を拝謁しようかな、なんて思ったんだけど」

と恐る恐る言ってみた。するとエリザベスは、

「いいわよ、別に。どうぞご勝手に。そのかわり、帰りは歩きでお願いします」

「お、おい、エリー!」

 今度はロイが笑われる番だった。エリザベスは、

「戦いはニュートウキョウだけで起こっているんじゃないでしょ? 他の場所にも行って、止めないといけないわ」

と提案した。ロイは渋々それに同意し、

「わかったよ。ニューペキンも戦闘が終結していないらしいから、ニューペキンに飛ぶぞ」

「了解!」

 ロイがカシェリーナに会いに行くのを断念したので、エリザベスは上機嫌で応えた。

「絶対、尻に敷かれるぞ、お前」

 ロベルトが嬉しそうに小声で言った。ロイはムスッとして、

「お前に言われたくないよ」

と言い返した。


 ニューペキンは、ニュートウキョウに次ぐ激戦地だったが、クロノスが上空に現れると、次第に戦いは沈静化に向かった。ニューペキンの正規軍も、ニュートウキョウの話を知っていたためである。

 クロノスの情報は、様々な手段で地球中に伝わり、戦いは終息に向かって行った。


 ロベルト達に騙されたリノスは、正規軍が崩壊して、反対派が軍本部を制圧した事を知ると、たちまちチョーフから逃げ去った。

「ロベルト、覚えていろよ。この礼は必ずさせてもらうぞ」

 リノスは調達したボロボロのトラックの助手席で、酷い揺れに悩まされながら呟いた。

 そんな捨て台詞を吐いたリノスだが、その悪行が祟って、一新された共和国軍と警察にマークされ、逃亡生活に入らざるを得なくなった。ロベルトに「お礼」をするどころではなくなってしまったわけである。


 ロイ達は知るべくもなかったのであるが、彼らの行動がディズムを核融合砲のある基地に行かせる遠因となり、同時にクロノス以降を考えて、秘密裏に進められていた「サードモンスタープラン」が挫折するきっかけにもなった。


 ロイ達はクロノスをディズム反対派にマニュアルと共に引き渡した。

 本来なら大変なことをしたわけだが、クロノスを開発したディズム派の一団が崩壊し、体制が変革したため、彼ら四人の行動は何のお咎めもなくなった。

 ロイ達はしばらく事情聴取を受けた後、軍のジェットヘリでカンサイ地区まで送ってもらった。


 戦いは確かに終結した。

 しかし、ディズムの影武者のうち、生き残ったはずの四人の行方が、地球共和国と月連邦の終戦協定が結ばれた頃には、すでにわからなくなっていた。

 本当に戦争は終わったのか? ロイはそう思った。

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