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聖少女カシェリーナ  作者: 神村 律子
聖少女カシェリーナ外伝 もう一つの戦争
40/77

追跡

 クロノス追跡隊が発進した頃、クロノスはトウカイ地区に差しかかっていた。

「ちょっと、ロイ、少しスピード落とせない? Gがきつくて気持ち悪いんだけど」

 シェリーが言った。ロイは、

「悪いけど、もう少し我慢してくれ。今、スピードを落とすと、追いつかれる可能性がある」

「えっ、どういうこと?」

 エリザベスがギョッとして尋ねた。ロイはエリザベスを見て、

「カンサイ支部から、戦闘機10機、哨戒機3機が発進しているんだ。レーダーに捕捉される恐れがある」

「それってやばいじゃないの。仕方ないわ、我慢する」

 シェリーは物わかりはいい女の子である。エリザベスと比較して、そこだけは彼女の方がいいなと、ロイが唯一認めるところだ。

 エリザベスに知られたら、引っぱたかれてしまうだろうが。

「それにしても、慌てて脱出したから、いろいろ不都合なことがわかって来た」

 ロベルトが言った。シェリーとエリザベスはギクッとして彼を見た。

「クロノスは元々発進予定がなかったから、エネルギーである燃料電池を本来五基搭載していなければならないんだが、三基しか積んでいない」

「ということは?」

 シェリーが恐る恐る尋ねる。ロベルトは、

「つまり、このままだと、どこかに降りなければならないってことだ」

「ええっ? 捕まっちゃうじゃないのよ!」

 シェリーは大声で言った。するとロイが、

「大丈夫だ。今、対レーダーコートをした。これで少しは時間が稼げるよ。スピードを落とすぞ」

と答えた。シェリーとエリザベスは、ホッとして互いに微笑み合った。

「あっ、そうだ!」

 スピードダウンして楽になった身体で、シェリーはバッと立ち上がり、

「この!」

とハイヒールでロベルトの頭を殴った。

「いってェ! 何するんだよ!」

 ロベルトは涙目でシェリーを睨んだ。シェリーは仁王立ちで、

「さっき私のプロポーションのことを鼻で笑ったお礼よ」

「チェッ、執念深い奴だな」

「何ですって?」

「ちょっと、二人共!」

 取っ組み合い寸前のシェリーとロベルトの間にエリザベスが割って入った。ロイが、

くつろいでいる場合じゃないぜ。お空の目はまだ俺達をキッチリ捉えているし、各支部のソナーに引っかかる恐れもある」

「そうか、監視衛星があったな。ソナーの探知を逃れるのは、クロノスにもできないしな」

 ロベルトがシェリーから離れてロイに言った。ロイは頷いてロベルトを見て、

「今現在、どこの基地からも追跡機は発進していない。カンサイ支部の追跡隊は完全に振り切ったから、いますぐに何かあるわけじゃないが、これから向かう先は、軍本部のあるニュートウキョウだからな」

「そうだな。やばいよな、確かに」

とロベルトは真剣な表情で呟いた。


 支部長は、クロノスがレーダーから忽然と姿を消したという報告を受け、絶望的になっていた。

「クロノスを奪った子供達は、クロノスのマニュアルでも持っているというのか。対レーダーコートを使ったようだな」

「はァ」

 参謀もその言葉に応じるだけで、何も考える気力がないようだった。

「すでに本部はクロノスの動きを監視衛星で捕捉しているだろう。我々は軍法会議にかけられてしまうな」

「……」

 支部長の言葉に、参謀は血の気が引いてしまった。そうなれば間違いなく銃殺刑だからだ。


 リノスのヘリは、すでに朝靄煙るチョーフの飛行場跡地に到着していた。彼は同行した5人の部下と共にヘリを降り、ロイ達の到着を待っていた。

「傍受した軍の無線によりますと、クロノスはトウカイ地区に入った辺りで、レーダーから消えた模様です」

 部下の一人が報告した。リノスはニヤリとして、

「うまくやったらしいな、ロベルトの相棒は。予定ではあと一時間ほどで到着する。楽しみだな」

と言った。すると別の部下が、

「しかし、軍本部の監視衛星が稼働しているようですし、各支部のソナーも探知する可能性があります。まっすぐここに辿り着けるかどうか……」

と報告を付け加えた。リノスはその部下をキッと睨みつけ、

「その程度の事をくぐり抜けられなくて、何が秘密兵器だ! 何の問題もない。クロノスはここに来る」

と言い返した。部下は恐れおののき、身を縮ませて下がった。


 カンサイ支部の支部長の心配していた通り、軍本部はクロノスの動きを捕捉していた。

 本部はすぐに、クロノス撃墜を決定した。

 奪還するのは不可能と判断したのである。

 敵の手に渡るくらいなら、破壊する方が得策と考えたのだ。

 本部から次々に戦闘機が飛び立ち、クロノス撃墜に向かった。

「クロノスがいくら強力な兵器とは言え、盗み出したのがガキでは、たかが知れている」

と本部長は呟き、ニヤリとした。

 本部は各支部に秘密で、調査員を潜入させていた。だから支部の動きなど筒抜けなのである。隠し事をしているつもりでも、全部知られていたのだ。

「責任はカンサイ支部に押しつけ、手柄だけ私が頂くとするか」

 本部長は狡猾な笑みを浮かべて、一人悦に入っていた。


「ロベルト、どうやら軍本部が動き出したようだぞ。5機の戦闘機が、こちらに向かっている」

 ロイがレーダーを見ながら言った。ロベルトは舌打ちして、

「やばいな。そこら中の基地から、クロノス撃墜の戦闘機が飛んで来たら、武器らしい武器を積んでないから、ホントにまずいことになるぞ」

 ロベルトの言葉に、シェリーが、

「ちょっと、何言ってるのよ? 何とかしなさいよ。考えなさいよ!」

「うるせェな。そんなこと言われなくたって考えてるよ。どうすりゃいいのかな!」

 ロベルトは苛ついていた。

 逆にロイは冷静だった。

 エリザベスの頼みは、ロイのこの冷静さだった。

「なァ、ロベルト、ホントにクロノスは装備が不十分なのかな。俺にはそんなことはないように思えるんだけど」

 ロイの楽観的な言葉に、ロベルトは呆れたようだ。

「クロノスはプロトタイプで、実戦に対応していないんだ。武器はついてないし、燃料電池だって、十分じゃないだろ。だから、まずいんだって」

 ロベルトの反論に、ロイは、

「その燃料電池なんだけど、さっきからほとんど消費していないんだよ。俺もちょっと意外だったんだけどさ」

「どういうことだ?」

 ロベルトは燃料電池のゲージを見た。確かにまだ十分残量があった。

「クロノスの実体は、カンサイ支部にすら、隠されていたんじゃないかな? いや、もしかすると、軍本部にも」

「まさか。じゃあ、真実を知ってるのは誰なんだよ?」

「ディズムだけってことさ」

 ロイの答えに、ロベルトはギョッとした。

「あのオヤジなら、やりかねねェな」

「ああ」

 それがロイの冷静さの根拠だったのだ。クロノスがただのプロトタイプだったら、四人の運命は風前の灯火であるのだが。

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