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聖少女カシェリーナ  作者: 神村 律子
聖少女カシェリーナ外伝 もう一つの戦争
34/77

急転の時

 夕方になった。カンサイ支部には、ネオモント墜落の情報が入っていた。

「一体どこに落ちるのだ?」

 支部長は参謀に尋ねた。参謀は、

「只今計算中です。ニホンではないようですが」

「ニホンかどうかなど、関係ない! あんなものが地球に衝突したら、それがどこであろうと、只ではすまないのわかりきったことではないか!」

 支部長は怒鳴った。

「それはそうなのですが」

 参謀は、私に怒鳴っても仕方がないだろう、という顔で言った。彼とてそんなことはわかっているのだ。


 一方ロイ達は、ネオモントが地球に向かって落下中だという軍内部の情報をインターネットの裏サイトと呼ばれている、限られたネットユーザーのみにしか知られていない極秘サイトで知った。

「月の連中、とんでもねェことを考えやがるな。あんなものを地球に落とされたら、大変なことになるぜ」

 ロベルトがディスプレイを覗き込んで言うと、ロイはキーボードを叩きながら、

「そうだな。計算してみたら、あと15分で地表に到達する。その時起こる衝撃は、マグニチュードで換算すると……」

と言いかけたが、

「ダメだ、計測不能だ。あれほどの規模の隕石の衝突は、地球の歴史にない。どうなるかわからないな」

「ええっ?」

 ロベルトとシェリーが異口同音に叫んだ。エリザベスはロイの肩にしがみついて震えている。ロイはそのエリザベスの手を優しく握りしめ、

「大丈夫。お前は俺が守る。何があってもな」

「ロイ……」

 エリザベスはその言葉に感激し、ロイの頬にキスした。ロベルトとシェリーも抱き合い、互いに頬にキスしていた。

「畜生、こんなことで終わっちまうのかよ、俺らの人生はよ!」

 ロベルトが叫んだ。四人はほぼ同時に窓に歩み寄り、見えるはずもないネオモントを見つけ出そうと、空を眺めた。

 その空は、非常なほど青く澄んでいた。

「あれ、何かしら?」

 エリザベスが上空を指差して、誰にともなく言った。

 ロイとロベルト、そしてシェリーが、その指差す方を見た。

 そこには、一条の光が走っていた。その光は強烈なものだった。

「何だ、あれ?」

 ロイが呟いた。ロベルトは首を傾げ、シェリーは眉をひそめた。

「まさか……」

 ロイは恐ろしい事実に思い当たった。ロイの思った通り、それは地球軍の秘密兵器である核融合砲の光であった。

「何だよ?」

 ロイの言葉にロベルトが反応した。その時、光が消え、次の瞬間、はるか彼方の宇宙空間で凄まじい爆発が起こった。その爆発は閃光となり、ロイ達の視覚にも捉えられた。

「あの閃光は……」

 ロイは慌ててパソコンに向かい、サイトを検索した。しかし、情報は交錯しているようで、何も得られなかった。

「軍も大混乱しているみたいだな。何もわからないらしいぜ」

 ロベルトは携帯無線を調整しながら言った。ロイはパソコンから顔を上げて、

「あの光、もしかしてカシェリーナさんが言っていた、核融合砲じゃないか?」

「まさか……。もう完成したのか? いくら何でも早過ぎるぞ」

 ロベルトはビクッとして言った。ロイは、

「確かに早過ぎるよな。でも他に可能性は考えられないし。今のは核融合砲でセカンドムーンを撃ったことによる爆発の輝きじゃないのかな。情報が少な過ぎて確かなことはわからないけどさ」」

「もしそれが事実なら、月はセカンドムーンを失ったことになるから、敗北は決定的だぜ」

 ロベルトは上空を見上げて言った。ロイも空に目をやり、

「だな。セカンドムーンがなくなったとなれば、月は攻撃力を半減させられた事になるからな。そして、次に核融合砲が狙うのは、コペルニクスクレータだろう」

「ああ」

 ロベルトは気が滅入ったような声で応えた。エリザベスとシェリーは引きつった顔で互いを見合った。

「戦争、終わるのかな?」

 シェリーが言った。するとロベルトは肩を竦めて、

「そいつはわかんねえな。ディズムが何を考えてあんな破壊兵器を造ったのか、全く想像がつかないからな。終わるどころか、これから本格的に始まるんじゃねえかな。月の人間は、もう逃げ出す準備をしているかもよ。どこに逃げればいいのか、わからねェけどよ」

「……」

 シェリーは溜息を吐いた。ロイはエリザベスがほどんど動かなくなっているのに気づき、

「そんなに緊張しなくても平気だよ。言い方は悪いかも知れないが、セカンドムーンは墜落しないで消滅したんだからさ」

と言った。するとエリザベスは半泣きの顔で、

「でもそれは確かなことじゃないでしょ?」

「そりゃそうだけどさ。計算じゃ、もう地表に落下している時刻だ。未だにそれらしき兆候がないのは、爆発して消滅したと考えるのが妥当だと思うよ」

 ロイの言葉にロベルトが同意した。

「ロイの言う通りだ。もし爆発していないのなら、何かが起こってもいい頃だ。何もないのは、やっぱり爆発したってことだろ?」

「それならいいんだけどね」

 シェリーが言うと、エリザベスは悲しそうな顔で、

「月の人達、どうなっちゃうのかしら? ディズム総帥は、月を滅ぼすつもりなのかしら?」

とロイを見て尋ねた。ロイは腕組みをして、

「そこまでやるかどうかはわからないな。でも可能性は否定できない」

「酷い。酷過ぎるわ。どうしてそんなことを考えつくの、人間は?」

 エリザベスが涙声で叫び、顔を俯かせた。ロベルトが、

「月の連中の逃げ場があるとしたら、裏側だよな」

と言った。その言葉にエリザベスはピクンと顔を上げた。

「ねえ、もしかして、クロノスって月を殲滅するための最終兵器なのかしら?」

 エリザベスの言葉に、ロイもロベルトもシェリーも、ギョッとした。

「核融合砲で叩けるのは、月の表側だけだ。裏側を叩くには、月まで行く必要があるからな」

 ロイが付け加えた。ロベルトとシェリーはハッとした。

 月は自転周期と公転周期がほぼ同じため、裏側の大半を地球側に向ける事がない。月が裏側にも基地や居住施設を保有しているとなると、核融合砲ではそこを叩く事ができない。

「クロノスは一機で戦艦並みの破壊力を持つ事になるらしい。そんなにものが量産されたら、大変なことになるぜ」

 ロベルトが口にした。ロイは、

「全く、人間て奴は、途方もない事を考える生き物だよな」

と独り言のように言った。するとロベルトは、

「だからこそ、俺はクロノスを軍から盗み出して、それを阻止したいんだ」

と真顔で言った。シェリーが呆れ顔で、

「嘘言わないの。あんなに、金、金って言ってたあんたが、そんなこと思ってるわけがないよ」

「ハハハ、バレたか」

 ロベルトは頭を掻いた。ロイとエリザベスは、呆れて顔を見合わせた。

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