恋とウイスキー
僕はウイスキーが好きだ。
飲み方はロックで、時間をかけてゆっくりと飲むのが好きだ。
そして更に言うと、ウイスキーを飲むときは、一人で飲むのが好きだ。
一人で想い出に浸りながら飲むウイスキーはとても美味い。
想い出……僕の脳内の引き出しに仕舞われている恋の想い出だ。
ウイスキーを飲むときに、その引き出しを開けて丁寧に想い出を取り出すのだ。
お気に入りの想い出はいくつかあるけれど、今日は「たかみちゃん」のことを想い出すことにした。
たかみちゃんは、僕がこれまで付き合った女性の中では最も我が侭で、感情の起伏が激しい女の子だった。
だからたかみちゃんとは付き合い始めて1ヶ月で別れてしまった。
そしてたかみちゃんの性格が悪い事は、実は付き合い始める少し前から解っていたことだった。
僕と気が合わないことは解っていたのだ。
ではなぜ付き合ったのかといえば、たかみちゃんの容姿がとても可愛かったからだ。
あまりに下らない理由だし、話のネタにもならない動機だとは自分でも思っている。
人は見た目ではなく中身が大事。そんなことは言われなくても解っているのだ。
けれど、僕は明確に覚えている。
初めて食事に二人きりで出掛けた帰り道、僕が初めてたかみちゃんをデートに誘ったあの瞬間。
たかみちゃんは頷いて、顔を真っ赤にして照れていたあの表情を。
何を話してたかとか、どんな料理を食べたかなんて全然覚えていないのに、たかみちゃんの
照れた顔だけは忘れることができないのだ。
結局、僕は今でもたかみちゃんのことが好きなのだと思う。
それとも、そんな感傷は、今飲んでいるウイスキーの仕業なのだろうか。
僕は、人前では決してウイスキーのロックは飲まない。
想い出はひっそりと心にしまっておくべきなのだ。
そしてたまに、旧くなってしまわないように、きちんと取り出してあげるくらいでいいのだ。