第99話 結婚式(3)
無事、式を終えて晴れて僕等は夫婦となった。
シルフィもアイシャも笑顔を浮かべて喜んでいるようだ。
うん、これから二人と一緒に暮らすんだ、頑張って稼がないとね!
祭壇前の籠の中で眠っているわっふるを起こさないようにそっと抱き上げる。
「完全に眠ってるね」
鼻提灯をつくってすやすやと寝ているフェンリルの子供。
余りの愛らしさに一同、笑顔を浮かべる。
「本当にわっふるは可愛いな」
シルフィが思わず漏らしたこの言葉は恐らくこの場にいる全員の総意だろう。
わっふるの話で盛り上がりながら、祭壇の部屋から笑顔で僕等が出てくると、王家の面々が出迎えてくれた。
「「姉上、ご結婚おめでとうございます」」
「姉様、おめでとうですわ!」
「シルフィ、おめでとう!」
兄弟達から一斉に祝福を受けるシルフィ。
……待てよ、今になって気が付いたよ。
アイシャの家族はどうしてるんだ!?
王家の面々のインパクトが強すぎて、全く今まで気が付かなかったよ!
「……あ、アイシャ」
僕がそう声を掛けるとニッコリと僕に笑顔を向けてくる。
そして、周りに聞こえないよう小声で「私の家族の事でしょう?また、今度話すわ」と僕の耳元で囁く。
何かあるのかな?笑ってはいるけど少し心配だよ……。
「マイン、アイシャ殿……妹の事を頼んだぞ」
お義兄さんが僕の肩に手を乗せて、声を掛けてきてくれた。
……やっぱり心配なんだろうね。
確かに今の僕はまだ「幸せにします」と大手を振って言う事が出来ない。
年齢的にも人生の経験的にも、だ。
だから、一生懸命頑張って奥さん二人と共に成長し、胸を張って王家の方々にそう言えるようになろう。
そんな思いを込めて心から誓いの言葉を返す。
「はい!頑張ります!」
「はい、姫様と一緒に幸せになって見せます!」
僕達の決意を感じ取ってくれたのか、お義兄さんはいつものように僕の背中をバンバンと叩いて励ましてくれる。
「おう、二人とも頑張れよ!」
その様子を見ていたエアリー、ルイス殿下、レクタル殿下達、王子王女の方々からも声を掛けられる。
「お姉様!今度遊びに参りますわ!
アルト兄様もルイス兄様も行かれたのでしょう?
何でも凄いお風呂があるとか!私今から楽しみなんです!」
「エアリーが行くなら僕だって行きますよ!
僕もそのお風呂の事が気になってるんですから!!
アルト兄さんが、マイン義兄さんの家のお風呂に入った事をすっごく自慢してましたから!」
……お義兄さん、一体何を自慢してるんですか……。
「……ええっと、お二人とも来て頂くのは構わないのですが……。
我が家は、小綺麗でもなく、広くもなく、本来ならば決して王族の方を迎え入れるような家じゃないんですが……」
そう、お義兄さんもルイス殿下も、本当にいきなり、家に尋ねてきたからね。
……ついでにシルフィもそうだったな……。
あれ、待てよ?王族の人達って……ひょっとして全くそう言うの気にしない……とか?
僕の出した結論にシルフィが肯定の言葉を告げる。
「他の国の王族なら分からないが、少なくとも我が家族はそんな事は気にしないぞ」
本来は気にすべき所なんだけど……。
うちの家を気にしないのは兎も角、身の安全をもっと心配して欲しいよ……。
まあ、それでもこの国は王家の善政のおかげでどの町も治安についてはそれなりに良い。
冒険者ギルドも治安維持に対して頑張っている事もあるのだが、治安の良さについてはやはり王家の功績が大きいだろう。
そう言う意味合いでは、気軽にうちに来てもいいという事なのかもね。
「それに、マイン義兄上。
義兄上がいれば、王宮と義兄さんの家なんて一瞬で移動出来るだろう?」
ニヤニヤとルイス殿下まで、会話に参加し始める。
「……分かりました、何時でもお越し下さい」
僕の敗北宣言に、王家の面々がワッと喜びの声を上げる。
……ちょっと待って下さい?何で国王様と王妃様まで喜んでるんですか?
来るのですか?来るつもりなのですね?……いや、お二人も来るんですね??
ふぅと溜息を付きながら、肩を落としていると笑いながらシルフィが僕の右腕に自分の腕を絡ませピタッと寄り添ってくる。
いきなりの肉体的接触に僕が顔を赤らめていると、僕の腕の中ですやすやと眠っていたわっふるが目を覚ました。
皆の笑い声とシルフィが腕を組んで来た事で、体が動いた事で目が覚めちゃったのかもしれないね。
「わ~ふ~」
大きく口を開けて大あくびをするわっふるに全員がほっこりとした気分になる。
そしてそのまま定位置である僕の頭の上によじ登っていき、右手を挙げて「わふっ!」とみんなに挨拶する。
そのまま、和やかな時間がいくらか過ぎ、再び神殿長さんが僕等を呼びに来た。
「皆様、本日はおめでとうございます。
お三方並びに親族の皆様の人生にとって最良のこの日を心よりお慶び申し上げます。
これより、一般市民への御広目を行わせて頂きます。
恐れ入りますが、こちらにご移動頂けますでしょうか」
ああ、とうとう来てしまったよ……。
僕の場合は王族となるわけでは無いけれど、親戚筋に名を連ねる事になる。
その為、一般市民にこんな人間が王族と結婚しましたというお披露目をしなければならないらしい。
それはアイシャも同様との事だ。
そして、シルフィ自身は純粋に結婚をしたという事で結婚のお披露目をする事となる。
僕の緊張を察したのかわっふるが頭をいつものようにぺしぺしと叩いて励ましてくれる。
『まいんー、おれがついてるぞー、がんばれー』
『……うん、頑張るよ』
神殿長さんが大きな扉の前でその歩みを止める。
……いよいよだ。
「では、よろしいですかな?
この扉を開けますとベランダがございます。
そちらで市民の声に手などをお振り頂いてお応え下さい」
神殿長さんの言葉が終わらぬ前に扉がギィギィと音を上げながらゆっくりと開いていく。
『『『『『『『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!』』』』』』』
扉が開ききると、その向こう側から地鳴りのような歓声が聞こえてくる。
シルフィは堂々とベランダの端まで歩いていき、集まった市民達に笑顔で手を振っている。
僕とアイシャは手を繋ぎ、恐る恐るシルフィの隣まで歩いていった。
市民の皆さんが僕とアイシャの姿を見つけると、再び地鳴りのような歓声が沸き上がる。
そして、シルフィが手を振る度に同じような歓声が沸き上がる。
なんなんだ、この群衆は……。
ひょっとして王都の市民が全員集まってるんじゃないんだろうか。
10分程、そうして手を振り続けていただろうか。
神殿長さんが、何かしらスキルを使用したのが目に入った。
“お集まりの皆様、ご静粛にお願い致します。
これよりシルフィード殿下とその伴侶であらせられますマイン殿からお言葉を頂きます”
ちょっと、まったっ!!!
え?お言葉って何?
聞いてないよ、それは絶対聞いてない!
僕も話すの?この群衆の前で?冗談……だよね?
動揺する僕を尻目にシルフィが話し出す。
“シルフィード・フォルトゥーナだ。
今日は我々の為にこんなにも大勢集まって貰えた事、非常に嬉しく思う”
シルフィの声が先の神殿長さんのスキルの効果でか、神殿前の広場全体に広がっていく。
……流石はシルフィだ、場慣れしてるというか凄く堂々しているよ。
そして、彼女が一言話す度に歓声が響き渡っている。
“……では、私自慢の旦那様を皆に紹介したいと思う”
一際大きな歓声が沸き上がり、すぐに今までが嘘のようにシーンと静かになる。
皆さんの視線が僕に集中しているのがよく分かる。
アイシャが握っていた手をぎゅっと強く力を入れて応援してくれる。
わっふるがぺしぺしと頭を叩いて応援してくれる。
そして、シルフィが僕を優しい目で見ている。
よし、覚悟を決めよう。
シルフィの……、アイシャの伴侶として恥ずかしくない姿を見せなきゃ!
僕は大きく深呼吸をする。
そして、気持ちを込めて話し始めた。
“皆さん、こんにちは!僕の名前はマイン、マイン・フォルトゥーナです!”
……こうして、僕達は夫婦になった。
え?市民のみんなの前で何を言ったかって?
そんなの恥ずかしくて言えません!
シルフィもアイシャも顔を真っ赤にして照れていたと言う事だけ言っておきます。
何時もお読み頂きありがとうございました。
今後とも宜しくお願いします。
次回で、なんと100話です!
記念という訳では無いですが”閑話っぽい”話を書きました。
本編としても問題無い感じになってしまったのですが……。
そこら辺は軽く流して頂ければと思います。
一応、2~3話で終わる予定です。