第98話 結婚式(2)
「……そう言えば、マインのご両親は亡くなっているのだったな」
唐突に国王様が僕に問いかけてくる。
「はい、僕が10歳の時に流行病にかかってしまって……」
お父さんとお母さんの優しい顔を思い出し、思わず言葉を詰まらせてしまう。
「すまなかったな、辛い事を思い出させてしまったか。
いや、シルフィから町の英雄だったと聞いたのでな……。
どのような人物だったのかと……良かったら名前だけでも聞かせてくれぬか」
「父の名前はダイン、母の名前はユキノ……父は腕の良い狩人でした」
お父さんとお母さんの事を思い出すと今でも悲しくなってくるよ。
今日の結婚式、二人にも参加して欲しかったよね。
……あれれ?国王様が急に静かになったよ?どうしたのかな?
急に喋らなくなった国王様を見てみると、顔を真っ青にしてワナワナと震えている。
……どうしたのかな?体調でも悪くなったのかな?
「国王様、大丈夫ですか?」
「父上、どうしたというのだ?」
僕とお義兄さんが問いかけるも、国王様は何も言わない。
ルイス殿下とレクタル殿下も首を傾げて、国王様を見ている。
「……そうか、そうだったのか。
ルーカスの町と聞いた時点で、この可能性は思いついただろうに……」
「国王……様?」
なんだろう、国王様の様子がおかしいのは、お父さんとお母さんの名前を聞いてから?
お義兄さん達の反応を見る限り、状況を理解出来ていないのは僕だけでは無さそうだ。
「……マインよ、改めてここで明言しよう。
お前を我が娘シルフィード・オーガスタの伴侶と認め、我が家族の一員として迎える事を!」
な、何が起こっているのか分からないけど、認めて……って今まで認めて貰えてなかったの!?
呆然としていると、国王様が少しだけ困ったような、申し訳ないような表情で僕に話しかけてきた。
「そんな顔をしなくてもいい。
どうせ今まで認めて貰えてなかったのか?と思っているのだろう?」
僕は素直に「はい」と答えを返す。
「そうだな、今の宣言はどちらかというとお前宛では無く、お前の両親に向けた物だと思ってくれ」
「……はい?」
なんで、お父さんとお母さんに向けて宣言するんだろう?
「私がまだ国王になる前、私とお前の両親、そして我が妻ガーネットとパーティを組んでいたのだ」
!!!!
……え?初耳だよ!?
国王様のパーティって言ったら多くの功績を残したって今でも語り継がれている凄い集まりだよ!?
そんなパーティに僕のお父さんとお母さんが居た!?
「こ、国王様、それは本当なんですか?」
「ち、父上!?私も初耳ですよ!本当なのですか!?」
「ああ、間違いなく本当だ」
僕が詳しい事を教えて貰おうと国王様に更に質問をしようとした時……。
再び、ドアを叩く音が室内に響き渡った。
口に出しかけた国王様への質問をぐっと飲み込んで、ドアを開けると厳かな衣装を身に纏った神殿長さんが立っていた。
「マイン殿、そろそろ時間ですぞ、儂についてきてくだされ」
ちらっと国王様を見ると、無言で頷いて付いていくように促される。
……うん、お父さん、お母さんの事も気になるけど、今日の主旨を忘れちゃいけないよね。
しかもわざわざ、神殿長さんが迎えに来てくれたんだ。
きちんとお礼もしなきゃね!
「はい!わざわざありがとうございます!今日は宜しくお願いします」
僕がそう挨拶を返すと神殿長さんが少し驚いた顔を見せてからにっこりと笑顔を見せてくれる。
そしてそのまま、祭壇まで神殿長さんの後を付いていく。
なにやら、通路が狭く入り組んだ所を進んでいくので、不思議に思い聞いてみると基本的に新郎新婦は人目に触れぬように通常の通路では無く隠し通路を使うのだそうだ。
隠し通路というだけあって、複雑に入り組んでおり、とてもじゃないが神殿の方の案内が無ければ目的の祭壇まで辿り着けない。
という訳でわざわざ神殿長さんが僕を呼びに来たという訳だ。
そんな複雑な隠し通路を歩く事、約五分。
目的地である神殿で尤も重要と言ってもよい場所、神を奉る祭壇に到着した。
「では、ここで立ったままお待ち下さい、間もなく新婦様が見えられますので」
神殿長さんはそう僕に告げる。
恐らく式での自身の立ち位置であろう祭壇前にある小さな台の上まで歩いていき、こちらを向いた状態で目を瞑る。
そして、神殿長さんの言葉通り、婚礼用の衣装に身を包んだ二人の美女が祭壇のあるこの部屋に入ってきた。
恐らく神殿関係者であろう少し変わった服装をした女性に手を引かれ、二人が僕の横にやってくる。
右側にシルフィ、左側にアイシャといった並びだ。
二人を誘ってきた女性は僕に軽く会釈をして、そのまま退出していった。
そして、わっふるはと言うと……。
シルフィとアイシャと一緒に部屋に入ってきた後、僕を見つけて「わふっ!」と一声吠えてからトコトコと祭壇の前まで歩いていく。
事前に用意されていたわっふる専用の籠の中に入って寝そべる。
神の代理人ならぬ代理神獣といった立ち位置なのだろう。
「……では、僭越ながら私がお三方の結婚式を執り行わせて頂きます」
僕達の準備が整ったのを確認した神殿長さんがそう話しかけてきた。
緊張した面持ちで僕等三人が頷くと、神殿長さんは聞いた事が無い言葉で粛々と歌い始める。
何でも祝詞の一種で、神様に僕達が結婚しますよという事を報告しているとの事だ。
神殿長さんの祝詞が終わった瞬間の事だ。
突然、僕達三人とわっふるの体が蒼白い光に包まれた。
「……おおっ!!」
それを見た神殿長さんが感嘆の声を上げる。
「……父上の言っていた事は本当だったんだな」
シルフィが自分達の体に包まれた光を見ながらそう言った。
この祝詞が終わった後、稀にではあるがスキルを得た時のように、神様が新郎新婦に特別な加護を与える事があるらしい。
まさに今、僕達が体験しているのがそれだった。
……殆どの人達は何も起こらないものなのだけどね。
「素晴らしい!マイン殿、シルフィード殿下、アイシャ殿……そしてわっふる殿。
あなた方は神から直接祝福を頂けたのです!
私が知る限り、この祝福を受けた方々は何かしらの偉業を成し遂げております!!」
神殿長さんはかなり興奮しているようだ。
【鑑定・全】で見てみると、確かに【女神の祝福】という加護が付いていた。
【女神の祝福】:病気や怪我、状態異常などに強い耐性を得る。
……コレ、何げに凄いかも。
家族が健康になるって事だよね?
過去にこの加護を貰った人達も同じ【女神の祝福】を貰ったのだろうか。
鑑定で見たわけでは無いだろうから今となってはわからないけど、これで偉業を成せないと思うから別の加護だった可能性が高いよね。
神殿長さんの興奮も冷めやらぬまま、式は進んでいく。
「マイン・フォルトゥーナよ、汝はこの二人を生涯愛し続けると神の前に誓うか」
「はい!誓います!!」
「シルフィード・オーガスタ、並びにアイシャ・ローレルよ、汝らはこの者を生涯愛し続けると神の前に誓うか」
「「誓います!」」
僕等の誓いの言葉が終わり、神殿長さんからの祝福を受け、いよいよ式次第も最後の項目となる。
……そう、誓いの口づけである。
神殿長さんの前では、正直ちょっと恥ずかしい。
けど、これを行わないと式は終わらない。
……覚悟を決めて、まずはシルフィを抱き寄せて、口づけを行う。
そして、次はアイシャを抱き寄せて同じく口づけを行った。
「これにて、お三方の結婚は成されました!おめでとうございます」
神殿長さんの宣言が高らかに部屋中に響き渡り、僕達は晴れて夫婦となったんだ。
ちなみにわっふるが妙に大人しいと思っていたら、暇だったのか籠の中で熟睡していたのは内緒だ。
何時もお読み頂きありがとうございました。
今後とも宜しくお願いします。
【改稿】
2017/01/09
・全般の誤字を修正。