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第95話 模擬戦(3)

冒頭、カール視点となります。

……なんと言う事だ、本当に最近まで素人丸出しだった奴と同一人物なのか?

突然、無手で構えたのは直前に見せた拳打での攻撃に切り替えたとばかり思っていたが……。


私の動きを読む為に、回避行動に集中する為だったとは……。

……騎士団期待の新人などと言われても、私もまだまだ甘いな。


詳しく聞いてはいないが、彼は素晴らしいスキルを持っているとの事だ。

そのスキルを使い、先日から騎士団内でずっと追いかけていたクロード事件を解決に導いたと聞く。


何でもブラックドラゴンと交渉をして、アドルの町を救い、国王様から”ドラゴンミディエイター”なる称号も賜ったという。


だが、そんな武功を立てた彼もスキルを除けば、ただの平民だ。


しがない狩人風情だというのに……私の憧れていたシルフィード殿下と結婚までするという。


実績を積み上げ、騎士団長になり、誰からも文句を付けようがない武功を立てて……シルフィード殿下を娶る。


……勿論、分かっている。

これが下らない自分勝手な妄想に過ぎないなんて事は。


そんな、しがない新人騎士の夢を打ち砕いた男……その男が目の前にいる。


彼に対し、言う事は何もない。


だが、この模擬戦だけは……絶対に負ける訳にはいかないのだっ!!!


攻撃を見切られ、避けられたのは痛いが、まだ負けた訳ではないし、状況的に言えば私の方が押している。


短槍を前に構え、ゆっくりと円を描くように対戦相手(マイン)の動きを観察する。

……相変わらず、無手のままで短剣を構える様子は無い。


事前に短剣を持っていたから、彼の得意武器は間違い無く短剣だと思う。

しかし、先程見せた拳打は中々の鋭さだったからな……油断は出来ない。


そう考えた瞬間、彼は動いた。

猛烈な勢いでこちらに突進してくる。


なんだ?戦いを諦めて玉砕覚悟の突進か?


いや、そんな事は無い筈だ!私の決め技を見破った後なのだ、そんな玉砕紛いの特攻をしてくるわけがない。


……だが、なんだこの隙だらけの突進は?全く、意図が読めないぞ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



よし、カールさんの動きは大凡掴んだ。

……多分、いけると思う。


上手くいけば、儲け物だしね!頑張ってみよう!


僕は頭の中で動きを反芻し、自分の考えを形に出来ると自信を持つ。


さて、反撃開始だっ!


僕は無手のまま、全力でカールさんに向かって突進する。


ふふ、きっとカールさんから見たらやけくそになってるように見えるだろうね。

カールさんの心境を予想すると、少し笑みが浮かんでくる。


よしっ、ここで急制動をかけて……っと……ぐっ、思ったより衝撃がきつい。


カールさんの懐に潜り込んで、一気に回転をする。

そして回転をしている最中に腰の短剣を右手に装備し、そのまま”右足を軸”にして突き出した。


当然、カールさんは避ける訳だが、ここで右肩を内側にたたみ込み、更に短剣を奥へと突き出した。


……そう、先程カールさんが僕に見せた攻撃をそのままやり返したんだ。


僕の突き出した短剣はカールさんの右胸に直撃した。


「ぐわっ!!」


そのまま衝撃で後ろに倒れ込むカールさんを追いかけ、倒れた所で短剣を顔面に突きつけた。


「そこまでっ!!」


騎士団長が戦闘終了を宣言する。


ふう、ぶっつけ本番だったけど、上手くいって良かったよ。


僕は大きく息を吐いて、そのまま座り込む。


「……驚いたよ、まさか僕の技をそのまま使ってくるなんて思いもよらなかった」


うん、僕も驚いた。

勿論、出来るだろうと思ってやったんだけど、予想以上に上手く出来たと思う。


「流石、ドラゴンミディエイターといった所かな?」


「……その呼び方……止めて下さい……」


ああ、宰相さんの目論見通り、この称号……順調に広まってるみたいだ……。

ほんと、恥ずかしいから止めて欲しいんだけどなあ。


カールさんと話をしていると、騎士団長さんとお義兄さん、それにシルフィとアイシャ、わっふるが僕達の所にやってきた。


……あれ?なんでうちの家族までいるんだろ?

訓練中は顔を出さないって言っていたのにな……。


「お見事でしたね!マイン殿!!」


騎士団長が手を差し出しながらそう労いの言葉をかけてくれた。

差し出された手を握り替えし、お礼を言う。


「いえ、カールさんのおかげです!僕はカールさんの真似をしただけですから!!」


「……そんな簡単に初見の技術を真似出来ないはずなんだがな」


お義兄さんが呆れた口調で話しかけてくる。


……いや、そんな事言ったって出来ちゃったんですからしょうがないじゃないですか!


「わふっ!」


わっふるがシルフィの頭の上から大きくジャンプして僕の方へ飛んでくる。


……いや、わっふる?何度も言うけど君が乗っていたのはこの国の王女様だからね?分かってるの?


僕の心の声が聞こえたのか、聞こえていないのか……。

わっふるは僕にそのつぶらな瞳を向けて『なに?なに?』と尻尾を大きくふりながらよじ登ってくる。


『……いや、何でもないよ……』


まあ、シルフィも特に気にしてないみたいだから、いいか……。

わっふるって、仮にも神獣様だしね。


「旦那様!凄いじゃないか!!この数日の訓練の成果が出てるんじゃないか!?

 ……カールと言ったか、すまなかったな、怪我はしていないか?」


「……大丈夫であります。

 それよりもシルフィード殿下、ご結婚おめでとうございます!」


「ん?ああ、ありがとう」


「殿下の武勇をお聞きし、心より尊敬しておりました!」






何やら、シルフィとカールさんが話し始めちゃったね。


「マイン君、お疲れ様でした!」


今度はアイシャがタオルを僕に渡しながら、声をかけてきた。


「……姫様も大変ね」


「本当ですなあ、カールの奴まさかとは思っていましたが……」


なんか、今度はアイシャと騎士団長がシルフィとカールさんを見ながらよく分からない会話をしている。


『わっふる、わかる?』


『わかんないー!』


だよね……。


まあ、分かんないものは仕方ないや。

それよりも、模擬戦も終わった事だし、これで訓練は一応完了って事かな??


僕がお義兄さんに尋ねると、そうだなと完了を認められた。


「今回の訓練は確かに終了だが、時間があるときはこちらに来て参加するように。

 こういった訓練は継続する事で身になる物なのだからな。

 私の方から騎士団には話は通しておくから、安心して来るといい」


短い期間ではあったけど、凄く勉強になったよ!新しい技術も学べたしね!

しかも、これからも参加してもいいって……!


こんな機会を作ってくれた、お義兄さんに感謝、感謝だね!








「えっ?カールさんがシルフィを……?

 けど、さっき『ご結婚おめでとうございます』って言ってたよね?」


ううん、全く気が付かなかったよ……。

アイシャと騎士団長が話したのは、この事だったんだね。


って!だめだよ!!!


シルフィは僕のお嫁さんだよ!?そんな事言われても困っちゃうよ!!

あたふたしていると、アイシャが溜息をついて「落ち着きなさい」と僕の頭をぺしっと叩く。



……わっふるに似てきたぞ、アイシャ……。


「”姫様が好意を持ってる”では無く、カール殿が姫様に好意を持っていると言ったのよ。

 マイン君以外に姫様が靡く訳ないでしょう?

 それにもう結婚まで決まってるのよ、王家が許す訳ないじゃない。

 多分、他にも姫様を想っている人はいっぱいいると思うわよ?」


ああ、そうか。

そうだよね、ビックリしたよ。


姫騎士の人気を改めて思い知らされたよ……。


「ところで、マイン君?その姫様だけど困ってるみたいよ。

 そろそろ、連れてきてあげた方がいいんじゃないかしら?」


よく見たら、シルフィがチラッチラッとこっちを見て、縋るような視線を送ってきてる。

あれは、カールさんから逃げるに逃げれなくなってるのかな?


よし、迎えに行こう!


訓練もお義兄さんから無事終了とお墨付きを貰ったんだ。

さっさと部屋に戻って休憩をしなきゃね!



「シルフィ、そろそろ帰るよ!」


僕がそう声をかけると、すごく嬉しそうに顔を綻ばせて大きく頷く。


「ああ!分かった、旦那様。

 訓練も終わったようだしな、部屋に戻ってゆっくりしよう。

 そんな訳ですまんな、カール。これからも精進するのだぞ」


シルフィはそう言って、そそくさと僕の腕を取ってカールさんから離れて……いや、逃げていく。


カールさんをちらっと見てみると、非常に残念そうな、そして悲しげな顔でこちらを見ていた。

僕が見ているのに気が付くと、一瞬怖い顔を見せたのだけど、すぐに会釈を僕に向かってしてくる。


うん、やっぱりいい人なんだよね……。

けど、当然シルフィは渡さないからね!


そんな意味不明な決意を胸に僕等は王宮の部屋へと帰るのだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「聞いてくれ!アイツはな……。

 私が話を終わろうとすると上手く会話をかき混ぜて、違う話題にしていつまでも話が終わらないのだ!」



部屋に着いてからと言う物、ひたすらシルフィは先程のカールさんとの会話に文句を言い続けていた。

人目がある所では立場上、どうしても口に出せないよね。


彼女にしては珍しい事だし、ここは全部吐き出して貰うのがいいだろうね。


……ちなみにわっふるとアイシャは逃げ出して、シルフィの愚痴を聞いているのは僕だけだ。


シルフィの愚痴は同じ内容をひたすらリピートしているだけなんだけど、二人?は三周目に突入した瞬間に逃げ出していった。


え?今何周目だって?……十五周目……だよ。

相当、ストレスが堪ってたんだね。



「失礼します!国王様がお呼びです。

 シルフィード殿下、マイン殿、アイシャ殿、わっふる殿……。

 至急、国王様の私室までお願いします」


メイドさんが呼び出しを伝えに来た。


……国王様からの呼び出し、なんかイヤな予感がするよね……。

何時もお読み頂きありがとうございました。

今後とも宜しくお願いします。


次話、ついに以前皆様から募集しましたマイン君の家名が発表となります。

随分、お待たせしまして申し訳ありませんでした。


【改稿】


2016/12/23 

・全般の言い回しを修正。


2016/12/27 

・全般の誤字を修正。

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