表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/291

第94話 模擬戦(2)

「それでは、模擬戦を開始するッ!お互いに礼!」


模擬戦とはいえ、スキルを使わない初めての戦闘だ。

緊張からなのか、口の中が妙に乾いているのが分かる。


相手は騎士団期待の若手、カールさんだ。

初見の相手だけにどんな戦い方をするのか、全く予想がつかない。


ちなみにお義兄さんから【鑑定・全】の使用も禁じられている。


だから目に入ってくる情報だけで判断し、戦わないといけない。


カールさんの使用武器は槍だ、それも右手に長槍、左手に短槍を構えている。

……【二刀流】スキルなんだろうか。


けど、この戦闘はスキルの使用が禁じられている。

それは僕だけじゃなく、カールさんも同様な筈、だからスキルでは無い筈だけど……。


僕の戸惑いも関係なく、騎士団長さんから戦闘開始の合図が出される。


「戦闘開始ッ!!!」


掛け声と共にカールさんが僕とのゆっくりと距離を縮めてくる。


「ふふっ、マイン殿、戸惑っているようだね?もう戦いは始まってるんだよ」


……ああ、確かにそうだ。

戸惑っている暇なんかどこにも無い。


油断なんかしてたら、以前、戦った芋虫の時のように痛い目にあってしまう。

まして、これから僕は家族を持つんだ。


この油断が原因で家族を残し、逝ってしまうなんてあってはならないのだ。


僕も両手に短剣を持ち、カールさんと対峙する。

スキルを使わなくても、スキルを使ったときの感覚は確かに体に残っている。


だから、決してこの二刀流は付け焼き刃なんかじゃない。

……恐らくカールさんもそう言う事なんだろう。


「……なるほど、その構え……見事に様になっていますね。

 決して、私の構えを見て真似したわけでは無いと言う事ですか」


そう口にして、カールさんは長槍を前に突き出した状態で、突進を開始してきた。


は、速いッ!


……だけど、以前に見たお義兄さんの踏み込みに比べればっ……!


ここは、踏み込んで来るカールさんの動きを予測して、バックステップで回避。

その後、懐に踏み込んで一撃をいれてやる!


一瞬で、そう判断し、僕は槍がぎりぎり届かない範囲まで後方へとジャンプする。


「よしっ!避けた!!」


そう思って反撃をすべく、飛び込もうとした刹那、避けた筈の槍が伸びて……きた!


「えっ!?」


状況を理解し、慌てて回避行動に出たが……既に遅かった……。

反撃を狙いにいった瞬間、カウンター気味にカールさんの長槍は僕の脇腹へと命中する。


「ぐはっ!!」


木製の長槍とはいえ、その威力は絶大だ。

よろめいて思わず倒れ込んでしまう。


……これが真剣ならば、僕は死んでいた。


一体、何が起きたんだ?

間違いなく、カールさんの一撃を僕は避けた筈だ。


!!!!!


考え事をしてる場合じゃない、倒れ込んだ僕に止めを指すべく、カールさんが突っ込んできた。


……今度は短槍を振り下ろしてきた。


「くっ!!やらせるか!」


脇腹の激痛を堪え、両手の短剣を十字に重ね、短槍の一撃を受け止める。

そして、右手に持っていた短剣をカールさん目がけて投擲する。


武器を手放すとは思っていなかったのだろう、カールさんは驚いた表情で回避をする……が、驚いた分、動作が大きくなっており一瞬の隙が生まれた。


この隙を見逃す手は無い!!


僕は短剣を放り出した右手をぎゅっと握り込み、全力でカールさんの鳩尾を目がけて振り抜いた。


……まさか、残った短剣を使わず拳で殴りに来るとは思わなかったのだろう。

僕の拳は寸分違わず、カールさんの鳩尾に命中した。


スキルを使っていなくとも、拳を使った攻撃は今日初めてでは無い。

多少のふらつきはあったが、決して馬鹿に出来ないダメージは与えれたと思う。


「ぐぅっ!」


カールさんの体がくの字に曲がる。


今のうちに距離を取って、少しでもダメージを回復しなきゃ……!


カールさんも同じ事を考えたのだろう。

僕と同じく、バックステップを取り離れていく。


「くっ、まさか武器を投げ捨てて、殴り掛かってくるとはね……」


さて、何とか奇策で逃げ切ったけど、状況は不利なのは間違いない。

カールさんの初撃、あの伸びる槍の正体を見破らないと勝機は無い気がするよ。


一体、何だったんだ?

確かに避けた筈なんだけど……。


ひょっとして距離を測り間違えたのかな?


……いや、そんな事は無い。


ぎりぎりだったけど、確かに避けた筈なんだ。

けど、その後、槍先がぐいって伸びてきた。


……よし、試してみるか。


僕は左手で持っていた短剣を腰に差し、無手となる。

そして、体から力を抜いて自然体で構えを取る。


カールさんは僕の様子を見て、一瞬顔を顰めたがすぐに表情を元に戻し、話しかけてくる。


「……勝負を諦めた……という訳では無さそうですね?

 さてさて、何を考えているでしょうね」


気にするな、僕の考えを読む為に、ゆさぶってるだけだ。

今、僕がやらなきゃいけない事は回避に全力を注ぎ、カールさんの攻撃の秘密を知る事だ。


訓練で学んだ相手の呼吸、筋肉の動き……そういった物から行動を予想するんだ。


僕の行動の意味が良く分からないからか、カールさんは慎重に様子を伺っている。

流石に不用意には飛び込んで来ないみたいだ。


よし、じゃあ……。


「……どうしたんですか?カールさん、丸腰の僕が怖いんですか?」


似合わない挑発なんかしてみたけど、どうだろう?


「あからさまな挑発……。

 それは分かっていますが、いいでしょう。乗って上げますよ!」


アハハ……バレバレみたい。


けど、結果的には良かったみたいだ!


彼は笑みを浮かべながら、猛然と僕に突進を開始した。


「何を考えているか知りませんが、これで終わりにしてあげましょう!」


カールさんが選択したのは、初撃と同じ長槍の一撃だった。

そう!僕はまさにそれを待っていたんだ。


僕に向かって繰り出される槍の一撃。

うん、ここまでは全くもって普通の攻撃だ。


特に何か特別な物が……ん?なんだ?肩の筋肉の動きが……何か違和感があるぞ。

あれ?何だろう、肩だけじゃない、この妙な違和感は?


今回の攻撃、先程とは違って、反撃をするつもりはない。

ギリギリで避けるのでは無く、大きくバックステップを行う。


そして、槍を避けながらも、しっかりと違和感のあったカールさんの右肩を集中して観察する。


するとカールさんは肩の関節部分を内側にたたみ込んで前に押し出す動作を行う。

更に右の軸足を一歩踏み出してくる。


そうか、さっき感じた違和感はコレか。

左右の軸足を逆にして踏み込みしていたのか。


軸足を一歩進め、肩を内側にたたみ込む事で槍が手前に押し出され、相手からは伸びて見える。

なるほど、確かにこれは”技術”だ。


回避に専念していた分、余裕を持って今回の攻撃は完璧に避けきる事が出来た。

カールさんをちらっと見てみるとかなり悔しそうな表情を見せている。


自信の一撃だったのだろう。

事実、先程はこの攻撃のおかげで負ける一歩手前に追い込まれたのだから。


だが、カラクリが分かればこちらの物だ!


ここから反撃開始といくぞ!

何時もお読み頂きありがとうございました。

今後とも宜しくお願いします。


【改稿】


2016/12/23 

・全般の言い回しを修正。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ