第91話 力を求めて努力をしよう
目的のスキル【獲得経験十倍】を何と、予想に反してたった一日で家族分手に入れる事が出来た。
長時間、ひたすらスライムだけと戦い続けるのはとても苦痛なので、すごく助かったよね!
しかも、わっふるのおかげで、なんか新しいスキルとアビリティも手に入ったしね!
【隠蔽】:任意の対象に期間発動を定めて発動。
このスキルを受けた対象は外部の干渉から姿を隠す事が出来る。
【気配遮断・全】:任意のタイミングで発動。
使用者の気配は完全に遮断される。如何なる方法でも確認出来なくなる。
あのスライムを倒した時にいきなり姿を見せたのは【隠蔽】の効果がなくなったからだね。
【気配遮断・全】は使っていなかったのかな?
もし、これをあのスライムが使っていたら、わっふるといえども見つける事は出来なかったかもしれないね。
ああ、このスキルを使っている個体もいたのかもしれないね。
見つける事が出来たのは最初のを併せて二体だけだったし……。
【気配遮断・全】はアビリティなので、僕は使う事は出来ないからわっふるに貼り付けた。
この前、わっふるに貼り付けた【迷彩】と併せて使用したら……わっふる無敵なんじゃないかな?
何にせよ、今回のスキル集めについては大成功だったと言えるだろう。
たった三人+一匹のクランだけど、純粋な戦闘力という部分だけを見るならば、この前出逢ったカシューさんのクランにも負けてないと思う。
「旦那様、お疲れ様」
スライム達との死闘?を終え、座り込んでいる僕の頭にシルフィが優しくタオルを乗せてくれた。
シルフィもアイシャも新しく得たスキルの感触は存分に確かめる事が出来たようで随分機嫌が良いように感じる。
「ありがとう、シルフィ。どうだったかな?新しいスキルの感じは……?」
「……そうだな”凄まじい”というのが正直な感想だな。
元々、私が授かったスキルだけでも、強いと感じていたのだが……
旦那様から頂いたスキルを併せるとまさに規格外の強さを感じるよ」
わっふるを抱っこしたアイシャも話しに加わってくる。
「マイン君がオーク・キングと戦った時の事を思い出したわ。
あの時はどうなるか心配だったけど、今はなるほどねって思う。
こんな力があるのなら、あの場面では戦うという選択肢は有りよね」
うん、良かった。
二人とも問題無く、受け入れてくれているみたいだ。
「よし、それじゃ王宮に帰ろうか」
僕はそう言って【固有魔法・時空】で王宮内の僕らの部屋へ空間を繋ぐ。
この魔法の使用頻度が、ここ最近非常に多かったからだろうか、空間を繋ぐのに掛かる時間がぐっと短くなってきた。
以前は結構しっかりしたイメージを作らないと繋ぐ事が出来なかったんだけど、今はぱっと思い浮かべるだけで瞬時に繋ぐ事が出来る。
目の前に出現した黒い渦に、アイシャ+わっふる、シルフィの順に入っていく。
そして、何時も通りに僕が最後に通り抜け、黒い渦がその場から消失するのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
スキル狩りから帰り、王宮内に用意された部屋でしばらく休んでいるとお義兄さんから呼び出された。
「こんな時間に……なんだろ?」
シルフィに心当たりを聞いてみたけど、全く分からないと首を振る。
お義兄さんは国王様と一緒に例のクロード事件の後処理で忙しかった筈だけど……。
何はともあれ、取りあえず、行ってみよう!行かなきゃ分からないもんね!
そう考えをまとめ、部屋を出ようとすると、わっふるがとててっと走ってきて僕の背中に飛びつく。
『まいん、おれもいくー!』
そう言いながら、よいしょよいしょと定位置の頭の上に乗ってくる。
定位置についてご満悦なのか「わふ」と軽く喉を鳴らし、さあ行けとばかりに僕の頭をぺしぺしと肉球で叩いてくる。
何時も通りのわっふるに苦笑を浮かべて、僕はお義兄さんの私室へと足を向けた。
「……おお、来たか義弟よ。すまないな、急に呼び出してしまって……。
ラジャ、義弟と……わっふる殿にも何か飲み物を用意してくれ」
私室を訪ねると、お義兄さんがラジャさん?と言う猫耳メイドさんから紅茶を丁度受け取っている所だった。
猫耳……亜人さんかな?ルーカスの町では余り見かけなかったけど。
冒険者ギルドで何人か見た程度かな?
さすが、王都だなあ……。
妙な事に感心しつつ、奨められた椅子に腰を降ろした。
ラジャさんが、僕等の飲み物を持ってくるまでの間、お義兄さんと簡単な世間話に興じる。
五分程、歓談をしていると、猫耳ラジャさんが僕にお義兄さんと同じと思われる紅茶を。
わっふるには何か分からないけどスープみたいな飲み物をお皿に入れて持ってきてくれた。
うん、美味しい!
やはり僕が一生飲む事が無いだろうなと思う程、高級な紅茶なんだろう。
次期国王様が飲む物だ、当然高級品なのは当たり前だよね。
「……すごく美味しい紅茶ですね!、はぁ、僕なんかじゃ……一生縁がない飲み物ですね」
僕がそう溜息を付くと、何が面白いのかお義兄さんはプッと吹き出す。
「確かに美味い紅茶だがな、そんな高いヤツじゃないぞ。
これが美味いのは、茶葉よりもラジャの腕前のおかげだ」
へえ!そうなんだ!!
紅茶を入れる技術って事なんだ!
僕が尊敬の目をラジャさんに向けると猫耳がピクピクっと動き、尻尾がユラユラと揺れ始めた。
表情は普通なんだけど、態度で喜んでいるのが丸わかりだ。
「わふっ!」
急にわっふるが声を上げたので、慌てて見てみると……多分、ラジャさんに対抗しているのだろう。
耳をピクピク動かして、激しく尻尾を振っている。
違うのはラジャさんの表情は普通なんだけど、わっふるはすっごいドヤ顔な所。
いや、わっふる?俺もできるんだぞーって顔しても凄くないですからね?
しばらくわっふるの愛らしさに癒されていた僕達だが、しばらく経ってからお義兄さんが表情を引き締め、僕に声をかけてくる。
「さて、呼び出したのは他でもない。
以前、話していた訓練の話を覚えているな?」
「はい!覚えてます!」
うん、しっかりと覚えてるよ!
スキルに頼らず、戦う事が出来るように今度訓練を付けてくれるって、確かに言われていた!
「そうか、帰り際に渡した鍛錬の方法はきちんと実践しているか?」
「はい!毎朝……とは流石にいかないですけど、出来る限りの時間を取ってやってます!」
僕の答えに満足したのか、お義兄さんはうんうんと頷いて喜んでいる。
「例のクロード事件の後処理が粗方終わったからな、明日から騎士団の訓練の指導を再開するんだが……」
ああ、そうか。
お義兄さん、時間が取れた時は騎士団の指導をしてるんだったよね。
……けど、ここしばらく忙しくてそれどころじゃなかった。
その忙しかった理由こそ、先のクロード事件だったと言う訳だね。
「それで、だ。その訓練にお前にも参加して貰おうと思う。
確かにお前の能力は凄まじく強い、それはあの能力を聞いた者、全員が認めるだろう。
だが、今後相対する敵は魔物だけでは無くなってくるだろう。
だからこそ、その力の使い方をしっかりと学んで貰いたいのだ」
お義兄さんの言葉を聞いて、ヨルムンガンド様の背中から見た”あの”ヒューム族の姿が一瞬、脳裏に浮かぶ。
「結局はな、さっき、お前が褒めていたラジャの紅茶を入れる技術、あれと同じ事なんだ。
唯の茶葉が技術によって高級な茶葉に負けない味になる。
では、高級な茶葉に技術を加えて入れたらどうなる?
今のお前は高級な茶葉だが、技術が伴わない入れ方で出された紅茶と言うわけだな」
ああ、確かにその通りだ。
これからきっと僕の戦いはスキル任せの単純な物だけでは済まなくなるだろう。
知能を持った敵、この前のブラックドラゴンのようにその力を鑑定出来ないような敵も居るはずだ。
うん、お義兄さんの言う通りだよね。
僕はこの先、家族を守っていかなければならない。
その為にはもっともっと努力をしなければダメなんだ。
「はい!是非色々教えて下さい!」
僕の返事にお義兄さんは、嬉しそうにうんと頷き返してくれるのだった。
何時もお読み頂きありがとうございました。
今後とも宜しくお願いします。
【改稿】
2016/12/18
・全般の誤字を修正。