第87話 戦い終わって、後始末(3)
……うん、ヨルムンガンド様の不穏な呟きは聞かなかった事にしよう。
もの凄い速度で流れていく周りの景色をちらっと見てみると前方から、火の手が上がってる様子が見えた。
ん?なんだろう……とんでもなく広範囲が燃えている??
ヨルムンガンド様に速度をおとして貰い、燃えさかる場所を【視力強化・中LV2】でよく見てみる。
!!!!!
なんだ、何処の国なのか分からないけど、大量の魔物が攻め込んでいるぞ!
い、生きてる人は!?
……駄目だ、見渡す限りでは、既に命を落とした亡骸ばかりだ。
亡骸の中には小さな子供までいる。
生き残った人達が何処かに隠れているのかもしれないが、見つける事は出来ない。
くそっ!もっと早く来ていれば……。
『ん?どうした』
ヨルムンガンド様が激昂している僕に気が付いたのだろう。
声を掛けてきた。
『……あの惨劇は一体なんなのでしょうか?』
『魔人国が仕掛けた戦争だな、全く厄介な事をしてくれるものだ』
何でもヨルムンガンド様が言うには、最近になって魔人国に新たな王が誕生したらしい。
この王様が比較的穏健だった前王を殺害し、他種族を支配しこの世界の王になると宣言したそうだ。
その宣言の元、魔族による大規模な侵略行為を魔人国の周辺国に対し、仕掛けていると言うのだ。
既に一国が壊滅直前にまで追いつめられているらしい。
ヨルムンガンド様やフェンリル様、神獣は神様から与えられた役割から外れている事象なので干渉する事は無いとの事だ。
「なんてひどい事を……」
僕がそう呟くのを聞いたからなのか、ヨルムンガンド様は再び”牢獄の迷宮”に向かい加速していく。
気持ちを切り替えて燃えさかる町から目を離そうとした時……ソレを見つけた。
な、何だアイツ……?
魔物の中に何でヒューム族がいるんだ?
何で魔物と一緒になって町に攻め込んでいるんだ!?
僕がそんな事を考えていると、不意にそのヒューム族の男が空を見上げる。
……そして、僕と目が合った!!!
そう、そんな事が有るわけ無いのに、目が合ったと理解出来るんだ。
ヤツは僕に向かって間違いなく……ニヤっと笑った……んだ。
「鑑定を!」そう思った時には、既に【視力強化・中LV2】の感知外へと至っており、確認をする事が出来なかった。
一体、アイツは何者なんだろう?
……なんか、途轍もなくイヤな予感がするよ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『さあ、着いたぞ、此処が”牢獄の迷宮”の入り口だ』
先程の悪夢のような戦場から移動する事、約一時間。
目的地である”牢獄の迷宮”へと到着した。
周りの様子をしっかりと見て、脳裏に記憶する。
これで次回は【固有魔法・時空】でここまで来れる筈だ。
『ありがとうございました、では戻りますね』
僕の言葉を聞いて、ヨルムンガンド様は大きく頷く。
『スキルを切り取りに来る時は気をつけて行うがいい。
此処に閉じこめている龍種の自由は奪ってはあるが、スキル自体は勿論使用してくる。
罪を犯した荒くれ者共だ、殺しても構わないが、逆に殺されぬようにな』
『わかりました、気をつけます』
先程の惨劇を見た後だ、まだまだ僕は強くならなければならない。
与えられたこの機会は有効に使わなければならないだろう。
だが、種族スキルという僕が把握出来ないスキルもドラゴンは持っている。
どうせなら、そのスキルも切り取りたい所だ。
此処に来る前に、まず【鑑定】のレベル上げを優先すべきだね。
僕はヨルムンガンド様にお礼を言い【固有魔法・時空】で”神霊の森”へと移動する。
『ただいまっ!!』
僕がそう言って黒い渦から出てくると、二つの紫色の塊が体当たりしてきた。
ぼふっという音と共に僕は倒れ込む。
『『まーいーんーっ!!!』』
ああ、わっふるの兄弟達か。
久しぶりと言っても、それ程経った訳では無いのだが、子フェンリル達の歓迎具合が凄まじい。
尻尾はブンブンと揺れ動き、顔中をぺろぺろとなめ回してくる。
僕はよしよしと背中や喉元を優しく撫でてやると、更に激しくじゃれついてくる。
すると……。
『おれもまぜろーーー!』
わっふるまで突撃してくる始末。
いや、君達?歓迎してくれるのは凄く嬉しいんだけど、ちょっとやりすぎじゃないのかな??
フェンリル様も微笑ましいものを見るように、見守るだけで介入する気は全く無いようです。
15分程かけて、子フェンリル達の熱烈な歓迎を受けた後、王宮に帰る事を告げる。
すると、子供達は文句を言いながら再び僕に体当たりをしてくる。
流石に先程は傍観を決め込んでいたフェンリル様も一緒に説得に回ってくれ、以前同様、渋々ながらも離して貰う事が出来た。
お土産を持ってくる事を約束させられたのは内緒です。
また、遊びにくるから待っててね!
『わっふる、いくよ』
僕がそう呼びかけると、いつも通りに「わふっ!」と一言声をあげてから定位置である僕の頭の上にのっかってくる。
わっふるの準備?が完了したのを確認した僕は早速【固有魔法・時空】を使用した。
繋ぐのは、王宮内に用意されている僕と婚約者達が滞在する部屋だ。
ふう、これで本当に一段落……だよね?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「マイン君!!!」
僕の帰還を最初に気が付いたのはアイシャだった。
僕がアイシャに返事を返そうと手を上げかけた……よりも先にわっふるがアイシャに向かって「わふ!」と右手を上げて挨拶する。
尻尾を振りながら手を上げているわっふるの姿を見て、苦笑を浮かべながら僕も「ただいま」と口に出す。
そのやり取りで気が付いたのだろう、シルフィも奥の部屋から走ってやってくる。
うん、部屋がいくら広くても走ったらダメだよね?
「シルフィもただいま!……あと走ったら危ないよ?」
「……おかえり旦那様!……じゃない!!!
ど、ドラゴンはどうなった?旦那様が無事な姿と言う事は上手くいったのか!?」
まあ、気になるよね。
「うん、安心して!万事解決したよ」
『おれも、がんばったー!』
僕がそう言うとシルフィとアイシャが揃って「はぁ」と深い安堵の溜息をついた。
こっそりわっふるも自己主張する事を忘れない。
「取りあえず、国王様に報告したいんだけど、どうしたらいいのかな?」
王宮での作法なんて、僕は全く分からない。
多分、いきなり国王様に会いたいと尋ねて行ったとしても門前払いにあうだけだろう。
こんな時はシルフィに尋ねるのが一番だ。
「父上ならすぐに会えるぞ、旦那様が帰ってくるのを今か今かと待ちわびていたからな」
そう言って、彼女は僕の手を引いて部屋を飛び出した。
アイシャも慌てて後を追いかけてくる。
そして、わっふるは僕の頭の上です。
自分の活躍話を話したくて、しょうがないのか目がいつもよりも輝いているように感じるよ。
『わふわふ、わふわふ~♪』
ああ、やっぱり!!
まあ、確かに今回、わっふる大活躍だったもんね。
そりゃ褒めて貰いたいよね!うん。
後でいっぱい褒めてやろう!
「父上、旦那様が帰ってきたぞっ!」
謁見の間?多分、そんなような名前の豪華絢爛な大きな部屋へシルフィは有無を言わさず入っていった。
そう勿論、僕の手を引いたままで。
……この部屋って……そんな入り方しても大丈夫なの?
正直、心配でならないんだけど、誰も咎める人はいない。
「マインっ!!!どうなった!!!?」
そして、国王様……。
僕の顔を見た瞬間、もの凄い大声で顛末を聞いてくる。
「はいっ!無事ドラゴンの子供を保護、親元に帰しました。
神獣ヨルムンガンド様と今回の件で以後、ヒューム族の町へと攻撃しない約束を取り付けました!」
大きな声でそう報告すると、ワッと部屋中から歓声が上がった。
国王様だけは、なんか脱力してるっぽいけど……。
ほっとしたのかな?
何はともあれ、長かった子ドラゴン誘拐事件?は無事終結を迎えたのだった。
何時もお読み頂きありがとうございました。
今後とも宜しくお願いします。
活動報告にご報告がございます。
まだお読み頂いてない方がおりましたらご確認下さい。
【改稿】
2016/12/13
・全般の誤字を修正。
2016/12/16
・氾濫に関する記述を修正。