第86話 戦い終わって、後始末(2)
『姉さん、マインは他人のスキルを切り取りする事が出来るんだったよな』
ヨルムンガンド様はフェンリル様にそう尋ねる。
……ん?なんでそんな事聞いてくるの?
『ああ、間違いないよ』
フェンリル様の返事を聞いて、少しヨルムンガンド様は考える素振りを見せる。
そして、今度は僕に尋ねてくる。
『死んだ者からも切り取れるのか?』
『……やった事が無いので分かりません』
『……では生きていれば、どんなスキルでも切り取れるのか?』
『ええ、目に見えれば……あ、けどお父さんドラゴンから【ブレス】を取れませんでした。
というか、【ブレス】を持ってるなんて分かりませんでした』
『……なに?【ブレス】を鑑定出来なかったのか……』
そう、そのせいで大苦戦に陥ってしまったんだ。
確かに【鑑定】した時に【ブレス】なんて無かったのは間違いない。
切り取ったスキルを戻した時にも再鑑定したけれど【ブレス】なんて何処にも無かった。
一体なんだったんだろう。
『……ブレスという事は……種族スキルか』
ん?ヨルムンガンド様?今何を言いました?
種族スキル??知らない言葉が出てきたな。
……まて、以前にもこんな事があった気がするよ?
えーっと……えーっと、なんだっけな。
!!!
思い出した!!!!
そうだ【鑑定】のレベルが上がった時だ!!
あの時、レベルが急に見れるようになったんだったよ!
すっかり忘れてた。
と言う事は、今回の件は【鑑定】のレベル不足が原因の可能性が高いよね。
鑑定・全LV3 (269/300)
まだ、少し熟練度が足りないか。
けど、LV4でその種族スキルが見れるようになるかどうかは分からないよね。
LV5なのかもしれないし……。
……どちらにせよ、現状では種族スキルを持った魔物がいると言う事が分かっただけでもありがたい事だよ。
スキルを全て奪ったと思って安心していたら、今回のようにピンチになっちゃう可能性が高い。
より一層気を引き締めないとダメだね。
そう言う意味では今回のブラックドラゴン戦、危険ではあったけど得る物が大きかったと言えるね。
ちょっと違う気がしないでもないけど、父ドラゴンさんに感謝!だね!
『……ふむ、その顔だと何か分かったようだな、まあいい。
とにかく、種族スキル以外は切り取れるという事だな?
姉さん、マインと姉さんの子供に補償の意味も含めて、ある仕事を定期的に頼みたい』
……仕事?ヨルムンガンド様が僕とわっふるに?
しかも、補償の意味も含めてってどういう意味だろ、全く予想できないや。
『ふん?なんだい、言ってみな』
『ああ、龍族で罪を犯した者達を死ぬまで閉じこめておく牢獄の迷宮があるのは姉さんも知ってるな?
その迷宮内にいる龍族のスキルを好きなだけくれてやろうと思ってな。
どうせ、そこに入ったら死ぬのを待つだけだ。
ならば、そのスキルを有効活用した方が効率が良いだろう?
そのスキルを使って更に問題を起こされても面倒だしな。
定期的に切り取りに来てくれれば、そんな面倒事がなくなって一石二鳥だ』
……なんか凄い申し出だよ?
龍族のスキルを取り放題って、なんかトンでも無いスキル持ってそうな予感がする……。
けど、いいのかなあ……。
『……ふん、マイン、坊やそれでいいかい?』
『おー、おれ、またそらとぶぞー!!!』
『……僕に異存は無いですけど……本当にいいんですか?そんな事しちゃって』
『なに、龍を司る神獣である我が良いと言ってるのだ、全く問題はないぞ』
……問題ないらしい。
何だか、凄い大事になっちゃったなあ。
フェンリル様もヨルムンガンド様も許可を出してるんだ、受けない訳にはいかないよね。
わっふるはすっごい乗り気みたいだし……。
フェンリル様の上で【空中浮揚】でぷかぷか浮かんでバタバタ手足を動かしてる。
……ついでに尻尾も激しく揺れている。
きっと空中を飛んでるつもりなんだろうね。
『……分かりました、ありがたく頂きます。
ただ、後日でも良いですか?一度、戻って報告をしないと家族が心配してると思うんです』
うん、今もきっと国王様やお義兄さん、シルフィにアイシャ、みんな心配してるだろう。
『ああ、それで構わない。
ただ、お前が見せた先程の移動スキルは一度行った場所しか行けないのだろう?
取りあえず、今から牢獄の迷宮まで移動だけしてくれないか?
我もそう度々外を彷徨く訳にはいかんからな、今日済ませてしまいたいのだ』
そんな訳で”牢獄の迷宮”まで移動し、今回の一件は終了する事になった。
ちらっとフェンリル様を見ると、ブラックドラゴンの夫婦に説教をしているのが目に入る。
わっふるは……相変わらずプカプカと浮いてバタバタとやっている。
取りあえず、楽しそうにしてるから置いていくか。
”牢獄の迷宮”→”神霊の森”→”王宮”で移動すればいいもんね。
わっふるに説明だけしていこうかな。
説明が終わるとわっふるは手をシュタッと上げてこちらに肉球を見せながら『いってらっしゃい』とばかりに手を振り始める。
『はい、では行きましょう。
どうやって”牢獄の迷宮”まで行きますか?』
僕がそう言うとヨルムンガンド様は有無を言わさず僕を口で咥えて、その背中に降ろす。
『我の背中に乗っていろ、飛んでいくぞ』
え?
理解が追いつく前にヨルムンガンド様は飛び立つ。
あっという間に天高く舞い上がり、神霊の森が点になってしまった。
やばいやばいやばい、落ちたら死んじゃう。
慌てて【ペースト】でヨルムンガンド様の背中に靴の裏をくっつける。
『さて、いくぞ』
そうヨルムンガンド様が言った瞬間、景色が凄い速度で後ろへと流れていく。
「うぎゃあああああああああああああ」
圧倒的なスピードと風圧で僕の体は大きく仰け反る。
『よ、よ、よるむんがんど様……さ、寒いです……死んじゃう』
僕がそう訴えると『おお』と忘れてました的な呟きをした後、僕の周辺にうっすらと緑色の壁が出来上がる。
『風魔法で作った障壁だ、それで問題はなかろう?』
『……はい、ありがとうございます』
最初からやっておいて欲しかったよ……。
それにこれ僕じゃなかったらとっくに振り落とされちゃってるよ?
僕が恨めしげな視線を向けているのに、気が付いているのかいないのか……。
上機嫌そうなヨルムンガンド様は快調に”牢獄の迷宮”へと飛び続けるのだった。
『……完全に忘れておったわ』
え?
何時もお読み頂きありがとうございました。
今後とも宜しくお願いします。
活動報告にご報告がございます。
まだお読み頂いてない方がおりましたらご確認下さい。
【改稿】
2016/12/12
・全般の誤字を修正。
・ヨルムンガンドの台詞を一部修正。
・ユニークスキル→種族スキルに変更。