第78話 僕の秘密とクロードの秘密
「僕が神様から授かったスキルは……」
そう言うと、その場にいる全員が息を飲むのが分かる。
……勿論、僕も緊張して喉がカラカラだよ。
「【鑑定・全】と【カット&ペースト】の二つです」
すると、アイシャ以外の全員がおや?っと言う表情を浮かべる。
「……ふむ、神殿から受けた報告の通り、と言う事だな?
その二つが授かったスキルというなら、神獣様が後ろ盾に付かなければならない理由にはならないだろう?」
お義兄さんがそう尋ねてくる。
……そう、確かにこの二つだけ単体で見ればその通りなんだよね。
「国王様、国王様は世間から英雄と呼ばれています。
その大きな理由は持っているスキルの組み合わせにあると言われていますよね」
「ああ、確かにそれを理由に私をそう呼ぶ者達がいるのは承知している」
国王様が僕の言葉を肯定し、返事を返してくれた。
「……僕のスキルも組み合わせる事で、トンでもない能力を発揮するんです」
「ふむ、確かにスキルという物は組み合わせによってより大きな力となる事があるが……。
マインの得たスキルの組み合わせ……何も思いつかないが……」
確かに個別のスキル能力をきちんと理解していなければ、思いつかないだろうと思う。
当然の反応だよね。
「……僕は鑑定で見た他人や魔物のスキルを切り取り、別の所に貼り付けする事が出来るんです」
僕がそう言ってもみんなイマイチ、ピンと来ないようだった。
……だけど、アイシャとシルフィはしばらく考えた後、大きな声を上げた。
彼女達は僕とオーク・キングの戦いを直接見ているからね、今僕が言った意味を理解出来たのだろう。
「だ、旦那様……そ、それって……まさか……!?」
「マイン君っ!!?」
二人以外はまだ理解出来ないようだ。
「うん、そうだよ。
オーク・キング達のスキルを【カット】して僕自身に【ペースト】したんだ。
さっき、フェンリル様を呼ぶ時に使ったスキルはオーク・キングから手に入れたスキルなんだ」
!!!!!!
今の言葉でその場にいた全員が理解したようだ。
全員が呆然とした表情を浮かべている。
「……そうか、だから私との模擬戦の時、あれだけ沢山のスキルを使えたのか!」
お義兄さんも以前の模擬戦を思い出し、合点が言ったらしい。
「……僕がスキルの事を言えなかったのは、この事を知られれば僕を利用しようとする者が出てくると思ったからです」
何故、今まで黙っていたのか、隠していたのかを説明していく。
利用される事を避けるため、僕を怖がり避けていく人が出るのが怖かった事、洗いざらい思っていた事を口に出した。
「よく分かった、マインよ。
……確かに、神獣様が気になさる訳だ……」
「義弟よ、模擬戦の時、私から何故スキルを切り取らなかったんだ?
そうすれば恐らく私に勝てたのでは無いか?
お義兄さんがそう言ってくるが、答えなんか最初から決まっている。
「僕は人からスキルを切り取る時は……。
自分や家族、知り合いの命に危険が迫った時だけと決めているんです!
あの時、お義兄さんは純粋に僕の為を思って模擬戦をしてくれました。
だから、僕はその心に正々堂々と応えたかったんです!」
そう僕が答えると、お義兄さんは笑顔を浮かべ、以前うちに来たときのように僕の背中をバンバンと叩いてくる。
……ついでに子フェンリルも僕の頭をペシペシと叩いてくる。
うん、何度も言うけど止めて欲しいよね。
「……なるほど、その言葉を信じても良いのだな?
神獣様の後ろ盾がある以上、信じるしか道は無いのは分かっているが大事な事だ。
きちんとお前自身の言葉で答えてくれ」
国王様は僕が無差別にスキルを奪う事を気にしているんだろうと思う。
これは為政者として当然の反応だろう。
僕が秘密を打ち明けられなかった一番大きな理由が、それを信じて貰えるか自信が無かったからだ。
だから、国王様がこう聞いてくるのは予想通りの事だった。
……だから僕は信じて貰えるように、心から祈りながらこう答える。
「はい、絶対に無差別にスキルを取る事はしません!」
僕の宣言を聞き、明らかにほっとした表情を見せる国王様。
「……よく分かった……信じる事にしよう。
しかし、予想もしなかった能力だな……。
なるほどオーク・キングを単独撃破という話も今なら理解出来る。
正直、オーク・キングの遺骸を見ても中々信じる事は出来なかったからな」
その後、幾つかの質問を受け、解散する事となった。
何しろ、王様達は例のドラゴンの子供の件もあるし、僕も神霊の森から帰ったばかりだった。
ここで、時間を取り休息を取る必要があると国王様が判断したからだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
マインから衝撃の告白を受け、本来ならゆっくりと考えをまとめたい所ではあったが、先ずは緊急の案件を片づけなければならない。
ここは、凶悪犯罪者を捕らえる為に王城の地下に作られた地下牢の一室だ。
先のゲームの不正により、捕らえられたロゼリア家の継嗣、クロードが投獄されている。
騎士団長を従え、牢の中へと入った私は獄吏へと問いかけた。
「……どうだ、吐いたか?」
「いえ、まだです」
獄吏の言葉に眉を顰め、壁に繋がれたクロードを見やる。
恐らく、鞭でかなり叩かれたのだろう。
無駄に金を掛けた衣服の所々に裂けた跡が見られ、うっすらと血も滲んでいる。
ここに投獄され、間もない筈だがその様子から、相当の尋問を受けた事が分かる。
本来ならもっと時間を掛けて、口を割らせるのだが今回に限っては時間が無い。
今、こうしている間にも成体のドラゴンが何処かの町にその姿を現すかもしれないのだ。
子供を奪われ、怒りに我を忘れたドラゴンなど決して見たいものでは無い。
被害が出る前に、何としてもドラゴンの幼体を解放しなければならないのだ。
もう、手段を選んでいる場合ではないのだ。
「……クロードよ、素直に幼体のドラゴンの隠し場所を言うのだ」
「っ陛下!聞いて下さい!これは陰謀です!私は嵌められたのです!
そう、あのマインとか言う平民に嵌められたのです!!!」
必死になって、弁明するクロードを尻目に、私は懐からある物を取り出した。
そのある物を見た途端、弁明していたクロードの動きがぴたりと止まり、急に静かになる。
そう、これはマインから預かった”隷属の首輪”だ。
「陛下、これお渡ししておきますね。
この子達に付けられていた”隷属の首輪”です。
クロードが雇った冒険者達が持っていたと思われます。
何かの役に立てればと思いまして……」
マインから受け取った”隷属の首輪”を見た私は内心、小躍りをしてしまった。
この首輪は、これ以上ない物的証拠となる筈だ。
すぐに騎士団長を呼び寄せ、彫られている製造番号から王家に登録している奴隷商を割り出させる。
そして、三十分もしないうちにその奴隷商を特定する事が出来た。
「でかしたぞ!すぐにその奴隷商の身柄を押さえろ!
そのままそいつの店舗にドラゴンの幼体が捕まっていないか探してくるのだ!
時間が無いぞ、急げよ!!」
静かになったクロードに再度、私は問いかける。
「クロードよ。もう一度問うぞ、幼体のドラゴンの隠し場所は何処だ?」
「……」
そうか、まだシラを切ると言うのだな。
「獄吏よ、クロードの指を一本落とせ」
「!!!!!」
私が感情を込めずに獄吏へ指示を出すと、クロードが慌てて顔をこちらに向けてくる。
「……待って下さい!陛下!!陛下!!私は何も知らない、知らないんだ!!
止めて下さい、ひぃぃ~」
この期に及んで、話さないというならば仕方ない。
話したくなるまで手を緩めない、ただそれだけだ。
私が無言で、獄吏に向かって合図する。
「ぐぅぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!指がぁぁぁぁぁ私の指がぁあああ!!!!!」
合図を受けた獄吏も無言で、クロードの指を一本切り落とした。
「……どうだ、話す気になったか?」
「ぐっ……くぅ……はぁ……はぁ」
さすがにしぶといな。
まあ、罪を認めたら、指が落ちる程度では済まないからな。
簡単には認めぬか。
すると、騎士団員が二人の男を連行してきた。
一人は例の首輪を登録していた奴隷商。
もう一人はロゼリア家現当主、すなわちクロードの父親だ。
「陛下!?何故儂がこのような場所に……ク、クロード!!!!
何故、お前がそんな目に!!」
ロゼリア卿は拘束され、拷問を受けている自分の息子の姿を見つけ、大声で叫ぶ。
私はここまでの経緯を全てロゼリア卿に説明する。
説明を受け、状況を理解するにつれてロゼリア卿の顔色はみるみる悪くなっていく。
……それはそうだろう。
これが本当なら……いや裏付けが取れているから本当なのだがロゼリア家は間違いなく取り潰しだ。
ロゼリア卿と私が話をしている間に奴隷商もクロードの隣に拘束された。
「さて、改めて尋ねよう。
ドラゴンの幼体を何処に隠した?次は指一本では済まぬぞ。
よく考えて話せよ」
「……」
「……」
ふん、二人ともだんまりか。
「ロゼリア卿、息子を説得しては貰えぬか?
説得し、ドラゴンの幼体が何処にいるかを聞き出せたならロゼリア家の取り潰しだけは許してやろう。
まあ、全くのお咎め無しは無理だがな」
その言葉を聞いたロゼリア卿は必死になって息子を説得し始める。
説得している様子を見る限り、ロゼリア卿は今回の件には関わっていないのは間違いなさそうだ。
しばらくその様子を見守っていたが、一向に埒があかないので、再度獄吏に指示を出す事にする。
「獄吏よ、奴隷商の指を一本落とせ。
その後、クロードの指を二本落とすのだ」
私の声を聞いた奴隷商は絶望的な表情を見せる。
……クロードは憎悪に満ちた目でこちらを見ているな。
「もう一度聞くぞ、幼生のドラゴンは何処だ!」
「……言います!言いますっ!!!言いますから勘弁して下さい!!」
「……なっ貴様っ!!!」
ほう、奴隷商が折れたか。
クロードのヤツが奴隷商を睨み付けているが、これで何とかなるか。
「ほう、良い心がけだな。して、何処に隠した?」
「……アドルの町でございます……」
よりによってアドルだと!!!!
あんな人の多い町に隠したというのか!?
不味い、しかも王都からアドルは遠すぎる!!!
くっ、何か良い手は無いものか!
何時もお読み頂きありがとうございました。
今後とも宜しくお願いします。
子フェンリルの名前、遅くなってしまい申し訳ありません。
なんか、どんどん遅れてしまいました。
次回79話で確定します!
既に書き上がっており、予約投稿しております。
楽しみにされている方、もう少々お待ちください!
【改稿】
2016/12/10
・マインが国王様に返事をする言い回しを一部修正。
・アルトのスキルを奪わなかった説明の台詞を修正。