第77話 神獣の契約
「神獣……フェンリル様……」
誰かが、そう呟いた。
森で始めて出会った時に僕は気が付かなかったけれど、こうして間近で見ると確かに威厳?のような強い力を感じる。
”神獣”と伊達に呼ばれている訳じゃないって事だよね!
「……ヒューム族ノ、王よ。我ニ何カ、話ガアルト聞イタガ何用ダ」
「……お目にかかれて、恐縮です、神獣様。
我が娘の伴侶たるマインの後ろ盾になられると聞きました。
神獣様がヒューム族を……。
いえ、名指しでたった一人の人間を守らんとする程の秘密が彼者にはあるとお聞きしました」
王様が神獣フェンリル様と話しを始める。
僕やアイシャを始めとして、その場にいた全員がその様子を固唾を飲んで見ている。
「ウム、我ガ友ニハ大キナ<力>ガ、有ルノハ間違イナイ。
我ガ友ハ、見テノ通リ、心優シイ。
ソノ<力>ガ露見スレバ、必ズ、ソノ優シサニ付ケ込ンデ利用シヨウトスル者ガ出ルダロウ。
故ニ、我ガ彼者ノ後ロ盾トナルノダ」
王様と神獣フェンリル様との会話はその後もしばらく続いた。
結局、王様はどういった場合において、神獣フェンリル様が僕の為に行動に移すのか大雑把な基準が欲しかったみたいだ。
まあ、確かにそうだろうね。
本人にそのつもりが無かったとしても知らず知らずのうちに逆鱗にふれてしまったら目も当てられない。
結局、大雑把にこの二点みたい。
・僕を害する者、騙し利用しようとする者、そうした者達の命を奪う事すら厭わない。
・僕が自らの意思を持って協力する事についてはその限りでは無い。
「……よく分かりました。
我ら一同、重々このお話を理解し、私利私欲を満たすためにマインを利用しないと約束しましょう。
つきまして、お伺いしたいのですが……。
神獣様のお力で制約を破った場合、その者に罰を与えるという物があるとお聞きしましたが
誠でございましょうか?」
ん、何か風向きが変わってきたよ?
国王様、何を言い出すつもりなんだろう……。
「フム、確カニアルゾ」
「……ならば、それを我らにお使い頂けぬでしょうか。
それを我らの覚悟とご理解頂けないでしょうか。
勿論、その制約を望まぬ者には、マインの能力は決して漏らさぬ事も併せて誓います」
!!!!
神獣様の罰って……トンでもない事じゃないの!?
一国の王様が約束していい事じゃないよ!!!!
「……国王様、それは……絶対ダメです!」
僕が間に割り込んでそう話すと
「何、約束を破らねば問題ない話だろう?」
そう笑顔で返事を返してきた。
いや、そうじゃない、そう言う事じゃないんだよ……!
「……ソレハ、構ワヌガ、本当ニ良イノカ?」
神獣フェンリル様の問いかけに力強く頷く国王様。
そして、その場に居た僕以外の人達にその制約を受けるかどうか確認していく。
結果、受けると決めたのは国王様、第一王妃様、お義兄さん、ルイス殿下、エアリー。
そして、僕の婚約者二人の七名。
受けないと決めたのは、第二王妃様、レクタル殿下の二名だ。
レクタル殿下は受けたそうにしていたが、実母の第二王妃様に諭され、断念したようだ。
万が一の事があって、制約を受けた人間が全員死んでしまったら、王家の血が絶えてしまう事を恐れたらしい。
全く以ってその通りなので、国王様も黙って頷き、それを受け入れる。
「ククク、人間ト言ウモノハ、面白イ。良カロウ、制約ヲ”授ケテ”ヤロウ」
そう神獣フェンリル様が言った瞬間、その紫色の体から淡い光が浮かび上がる。
『制約を”授けた”ぞ、我の声が聞こえるか?』
あれれ?念話?
僕が不思議に思っていると、制約を受けた者達が驚いた表情をしているのが目に入ってきた。
「……こ、これは」
お義兄さんも戸惑っているようだ。
『ヒューム族の王よ、お前が言う”制約の力”だが、正確には”神獣の契約”と言う物となる。
これは我がマインに授けた”神獣の加護”と基本は同じ物だ。
ただ、今我の前で誓った事を破れば全身に堪えきれぬ程の激痛を受ける事となる。
だが、代わりにこうして我と念話で会話をする事が出来るようになるのだ。
契約があるからと言って先程の約束を忘れるでないぞ?』
ファーレン・オーガスタ
種族:ヒューム
LV:51
性別:男
年齢:52歳
職業:オーガスタ王国国王
【スキル】
片手剣・聖Lv9
腕力強化・大
【神獣の契約】
念話 ≪フェンリル≫ new!
……確かに増えてる。
『但し、マインのそれとは違い、何処でも我ら一族と会話出来る訳ではない。
ある程度の距離内に我ら一族が居る必要があると覚えておくが良い。
尤もお前達が我らに声を掛けるような事はあるまいがな……』
神獣フェンリル様がそう話をした途端、僕の頭の上の子フェンリルが声をあげる。
『ぼくがいるよー!ぼくがいるのー!』
そう声をあげた瞬間、神獣フェンリル様が呆れた声を出す。
『……そうか、ぼうやはやっぱり帰らないつもりなのだな?』
『かえらないよー!まいんのそばがいいのー!』
そう言って、僕の頭を再びぺしぺしと叩いてくる。
……いや、だから頭をぺしぺしするのを止めて欲しいなあ。
「”神獣の契約”の件、しかとお受け致しました」
状況を理解した国王様が神獣フェンリル様にそう話しかける。
『うむ、では我は帰るとしよう。マインよ、我の住居へ繋いでもらえるか』
「わかりました!ありがとうございます!!」
再び【固有魔法・時空】を使用すると、目の前に先程同様に大きな黒い渦が出現する。
帰っていこうとする神獣フェンリル様に手を上げて「わふっ!」と子フェンリルが声を掛けると……。
『その子を頼むぞ、マイン』
そう言って、渦の中へと消えていった。
神獣フェンリル様という圧倒的な存在感がこの場から消えた事で、空気が明らかに軽くなる。
「……ふう、流石に神獣様だ。恐ろしいまでの存在感だった……」
お義兄さんがそう言葉を漏らす。
その言葉に僕を除く全員が頷いている。
「……さて、神獣様の契約を受けていない二人は退出をするように」
国王様の声を受けて、第二王妃様とレクタル殿下の二人が部屋から退出をしていく。
レクタル殿下はやっぱり少し残念そうな表情をしている。
こればかりは仕方ないよね。
「……では、マインよ。話を聞かせて貰おうか」
いよいよ、僕の秘密を話す時が来た。
さあ、勇気を出すんだ!
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【改稿】
2016/12/04
・【場面全盤】会話における言い回しの一部を修正。
何時もお読み頂きありがとうございました。
今後とも宜しくお願いします。