第75話 後ろ盾
騎士団の皆さんとベースキャンプの片づけをしていると騎士団長が声を掛けてきた。
「そういえば、マイン殿。
マイン殿が狩ってきた魔物を集計していなかったのですが、如何しますか。
せっかく狩ってきたのですから集計しましょうか?」
そうだね、せっかく苦労してナマズとかやっつけたんだし……。
見て貰おうかな。
「お手間で無ければ、是非お願いします!」
「はい、喜んで集計させて頂きますよ。それではそこに出して頂けますか?」
僕が狩った分だけを言われた場所に置いていく。
最初はふんふんと余裕の表情を見せていた騎士団長と周りの騎士達だったが、量が積み重なっていく毎に驚きの表情へと変わっていった。
「マ、マイン殿……こんなに沢山本当に狩られたのですか?」
「はい、この子が魔物を見つけるのがすごく上手で、索敵に時間が全く掛からなかったんですよ!」
騎士団の人達が一斉に僕の頭の上で”ふわぁ~”っと欠伸をしている子フェンリルに視線を向ける。
そしてしばらく子フェンリルを見つめた後、彼らは再び積み上げられた素材を確認する作業に戻っていく。
騎士団の皆さんが作業を開始して10分程経過し、騎士団長が大声を上げた。
「こ、こ、これはっ!??」
大声を上げ、騎士団長が指さしている先を見ると……ナマズの素材でした。
「……マイン殿、これはまさかとは思いますが……ナマズ型の魔物……キャットフィッシュでは?」
「はい!おっきなナマズさんでした!」
僕が元気よく返事をすると、子フェンリルも「わふっ!」と片手を上げてその通りと主張する。
「……マジですか……」
なんか、言葉使いが急に砕けたよ?
「はぁ、アルト殿下が太鼓判を押す訳だ……」
騎士団長が言うには、何でも、このナマズ君。
過去に討伐記録が数える位しかないらしい。
肉は見た目とは裏腹で非常に上品な味でかなり美味しいのだが……それしか素材の価値がないと言うのだ。
いや、というよりも体の殆どの部分を食べる事が出来るので、食材こそがこの魔物の価値の全てといえる。
だが、コイツを倒すのは非常に骨が折れる。
なにせ、水中から殆ど出てこないのだ。
僕が戦った時もそうだったが、水面から出てくるのはほんの一瞬しかない。
しかも、その一瞬の間に強力な魔法をこちらに向かって放ってくる。
強力な遠距離攻撃を持っていない人間には厄介極まりない魔物だ。
それ故、一般の冒険者や騎士達ではまず倒す事など出来ない。
そんな訳だから、確かに美味い食材ではあるし、高値で売れるのだが……。
入手する手間暇と被害を考えると、皆が敬遠する魔物なのだ。
そんな滅多にお目に掛かれない魔物が解体されて目の前にある。
そりゃあ、騎士団長だって声を上げるだろう。
その後も定期的にあちらこちらで上がる感嘆の声を聞きながら、査定の終わるのを待つ。
量が多かったので時間も掛かったけど、子フェンリルが暇つぶしの相手をしてくれているので、全く退屈する事はない。
『がおがおっ、わふぅ!』
そう言えば、一緒に暮らす事になるなら名前がいるなあ……。
戻ったらシルフィとアイシャに相談してみようかな。
そんな事を考えながら、子フェンリルの肉球をぷにぷにしていると、騎士団長が疲れた声で話しかけてきた。
「マイン殿、お待たせしました。
集計結果が出ました……結論だけ言いますと、頑張りすぎです。
まず、素材の解体も完璧です。
物量についても不正をした冒険者達の半分程度でしたが得点の高い、強めの魔物ばかりです。
正直言いますと、彼らの不正を見なかった事にしてもマイン殿の勝利でした……。
ほんと、やりすぎですよ」
何故か、呆れられてしまったけど、頑張ったんだからいいんじゃないのかな?
そのまま素材を買い取って貰う事にして、僕等は王都へと帰る事になった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『それじゃあ、国王様にはフェンリル様の事を話していいんですか?』
『ああ、それでいい。
この度のヒューム族の不始末、マインに免じて特別に許すが二度目は絶対に許さぬ。
王とやらに我の言葉を正しく伝えるが良い。
我の言葉を軽くその王が考えるならば……その時は身を以て後悔する事になろうぞ』
ああ、これは責任重大です。
僕の説明が上手くいかなければ、神獣vsヒューム族という恐ろしい事になりかねないや。
かなり緊張してきたよ。
『なに、それほど深く考える事などない。
よほどの愚か者で無い限り、神獣と知っていてその言葉を軽く見る事などないだろうよ。
もしなんなら、お前の力も国王に話すがいい。
我がお前の後ろ盾となろうではないか。
神獣フェンリル様の後ろ盾を持つ者に敵対しようと考える者などおるまいて、クククッ』
なにげに物騒な事を言ってます。
この神獣様。
……けど、僕の能力を打ち明ける……か。
そういえば以前、考えた事があったよね。
余程の後ろ盾を持たない限り、打ち明ける事が出来ないよねって。
……確かに神獣様ならば、僕が考えていた余程の後ろ盾としては十分だと言えるだろうね。
結婚後に打ち明けて、怖がられるよりも結婚前に打ち明けて破談になる方がいいのかもしれないな。
「……マイン殿、マイン殿」
「え?」
「え?ではありません。間もなく王都につきますぞ」
今朝、神獣フェンリル様とこれからの話をしている時の事を思いだしているうちに王都についてしまったらしい。
……さて、王様に会って神獣フェンリル様からの言付けを伝えなきゃね。
「わふ?」
僕の様子を見て、心配してくれたのだろう。
珍しく頭の上ではなく、膝の上で丸まっていた子フェンリルが僕の手を舐めてくる。
『……大丈夫だよ、心配しなくても』
『げんきだせー、げんきがいちばんだぞー、がおーっ』
子フェンリルに励まされ、思わず笑みが浮かんでしまう。
うん、そうだね!笑顔が一番だよ!
どうせ、いつかは通らなければならない道なんだ。
天下の神獣様が後ろ盾になってくれるって言うんだ!
こんなに嬉しい事はない。
勇気を出すんだ、マイン!!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「おお、マインっ!無事に戻ったようで何よりだ」
王様が満面の笑みで僕を出迎えてくれる。
今回のゲームの成果が予想通りに上手く運んだから、そりゃ嬉しいよね。
現在進行形で、クロード達はきつい取り調べを受けているらしい。
はやくドラゴンの幼体を保護して、親元に返さなければならないからだ。
……騎士団長はうまく言葉をごまかしていたけれど、恐らく拷問とかも行われているんだろうね。
自業自得だとはいえ、余り気持ちがいい物ではないから聞かなくて正解だよ。
配慮ありがとうございます、騎士団長!
「して、マインよ。
私に何か報告があると聞いたがどんな話であったかな?」
「取りあえず、今回のゲームの報告になるんですけど……
出来れば人払いをお願い出来ないでしょうか」
僕がそう言って周りを見渡すと国王様は、周りの側近達を下がらせ王族のプライベートルームへと移動をする。
「流石に二人きりと言う訳にはいかんからな。アルト、お前も付いてこい」
国王様に言われてお義兄さんも一緒に移動をする。
「……さて、聞こうか」
僕は神霊の森で起こった事を順番に話し始めた。
そして神獣フェンリル様に出会った事、クロードが雇った冒険者達がその子供に隷属の首輪を付けて敵対していた事などを話す。
「あの大馬鹿どもめっ!!!!」
国王様、お義兄さん、揃ってクロード達の愚行に激怒する。
まあ、当然だよ。
僕だって同じ事を思ったもの……。
「……まて、マイン……神獣フェンリル様の子供と言ったか?
お前の頭にのんびりと乗って寛いでいる狼は……まさか……」
「はい、神獣フェンリル様の子供です」
自分の事が話されているのに気が付いたらしい。
「わふっ!」と右手を挙げて挨拶をする。
……いや、可愛いんだけど、国王様と次期国王様に君は何をしてるんだい??
そして興味を無くしたのか、再び僕の頭の上で寛ぎ始める。
「……し、信じられん……目の前に伝説の神獣様が居るとは……」
余りの衝撃だったのだろう。
二人とも目に見えて動揺、いや狼狽えている。
ただ、何時までもこのままでは話が進まないからね。
強引に話を進めちゃうよ!
僕は収納袋から”隷属の首輪”を三つ取り出した。
「国王様、これがこの子とその兄弟に付けられていた”隷属の首輪”です。
何かしらの役に立つのではないかと思って持ってきました」
お義兄さんに首輪を手渡した。
「……確かに”隷属の首輪”だな。
こいつには製造番号が彫られているからな、これをクロード達に流したヤツも捕まえる事が出来るだろう。
お手柄だったな、義弟」
と、その時急に何かを思い出したようにお義兄さんが、僕を見て問いかける。
「まて?”隷属の首輪”と言うのは付けた本人しか取れない筈では無かったか?
なんで何事もなく外れているんだ?」
!!やっぱり来たっ!!!
さあ、勇気を出すんだ、マイン。
「……僕のスキルを使いました」
予想外の答えだったのだろう。
僕が自分のスキルの事を話すとは思わなかったみたい。
二人とも顔を見合わせて意外そうな顔をする。
「……そのなんだ?お前はスキルの事を話したく無いのでは無かったのか?」
「……はい、確かにそうなんですが……。
取りあえずはその話は後にして、報告を続けさせて貰ってもいいですか?」
二人は「ああ」と首を縦に振り、僕に続きを促す。
そして、神獣フェンリル様から預かった言葉を二人に伝える。
「……次は無い、か」
「父上、寧ろ不幸中の幸いだったのでは無いでしょうか?
義弟が取りなしてくれたおかげで今回の件を許して貰えた訳ですから……。
何しろ神獣様の子供を刺し殺し掛けたのに、即時行動をしないと言ってる訳ですからね」
「……確かにな、マインには礼を言っても言い尽くせぬか」
そして、子供の命を救った僕を友と呼んでくれた事。
子供達に懐かれた事、置いてくるはずだったのに付いてきてしまった事。
神獣の親子と僕の関係を更に話していく。
「……そして、神獣フェンリル様はこう言いました。
お前の後ろ盾になってやろうと。
必要とお前が考えるならば、スキルの事を恐れずに話すがいい、と」
「……神獣様が人間の、個人の……後ろ盾になる、だと……!!?」
「わふっ!」
話の流れを読んだのか、子フェンリルが吠える。
今の話を肯定するが如く。
「……なるほど、お前のスキルに何かしらの秘密があるのは分かってはいたが……
神獣様がかばい立てをするという事は……そこまで凄い事なのか……」
僕が無言で頷く。
「ふむ、マインよ。我ら王家一同、お前のスキルを聞く前に神獣様にお会いする事は出来ぬか?」
国王様が何かを思いついたようで、そんな事を僕に尋ねてくる。
「……聞いてみないと分かりませんが、多分大丈夫だと思います」
急遽、僕と王家の一同が神獣フェンリル様と話をする事になりました。
さて、どうなる事だろうか。
願わくば、上手く話が纏まりますように。
何時もお読み頂きありがとうございました。
今後とも宜しくお願いします。
子フェンリルの名前、沢山頂きましてありがとうございます。
集計結果(簡易版)を活動報告にまとめております。
良かったら見てみて下さい。
多分、76、77話辺りで決まった名前が出てくると思います。
今後とも宜しくお願いします。
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【改稿】
2016/12/04
・神獣フェンリル→神獣フェンリル様に修正。
・【場面序盤】査定及びナマズ戦の説明文を修正。
・【場面中盤】神獣フェンリルとの会話の一部を修正。
・【場面終盤】国王、アルトとの会話の一部を修正。




