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第74話 神霊の森でのゲーム(7)

「……ところでマイン殿、さっきから気になってるんですが」


うん?


「その頭に乗ってる子供の狼はなんですか?」


……ああ、そりゃそうなるよね。


僕が頭を下げている間、落ちないように必死にしがみついてブラブラしている姿を見てたんだ。


よくお互いに笑わずに真面目な話が出来た物だと今更ながら感心する。

騎士団長も微妙に笑いを堪えている気がするよ……。


騎士団の人達は僕の頭をぺしぺしとその手で叩いて喜んでいる子フェンリルを興味深そうに見ている。


「……森の奥深い所で、悪い魔物に襲われていたから助けたんですけど……

 見ての通り懐かれちゃって……。

 なので、僕の従魔として登録しようかな、って思ってます」


うん、嘘は言ってない!

悪い冒険者に襲われてたのを助けたんだから、間違いない!


「ほぉ、珍しいですね。

 野生の狼がこんなに懐くなんて……。

 しかし、可愛いですな。こうして見てみると」


騎士団の一人がそう言ってまじまじと子フェンリルを見つめる。


「わふ?」


反対に見つめられ『なに?』と首を傾げる子フェンリル。


……うん、むちゃくちゃ可愛いよね。


そばで見ていた騎士団の人も含め、その可愛らしい仕草に全員が笑顔を浮かべる。


そんな感じで子フェンリルの愛らしさに全員が和んでいると、騎士団の一人が森の方から走ってベースキャンプに戻ってきた。


「団長殿、クロード卿からゲームの参加委任を受けております冒険者達が間もなく戻って参ります!」


若干息を切らせながら報告をする騎士の言葉を聞いて、和んでいたその場の雰囲気がピーンと張りつめる。


「……分かった。いよいよ彼らに引導を渡す時が来たという訳だな。

 全員、持ち場につけっ!万が一、彼らが逃亡を図ろうとした場合に備えるのだ!」


騎士団長の気合いの籠もった指示を聞き、部下達は一斉にそれぞれが担当する持ち場へと走っていく。

団長もそうだけど、全員の気合いの入り方が凄い。


「マイン殿、いよいよこの時が来ましたな。

 貴方を危険なゲームに参加させてしまってまで行った一大捕り物です。

 決着をつけに参りましょうか」


にやりと笑顔を見せると、団長はゆっくりとこのゲームの判定を行うための広場へと歩いていく。


『……僕等も行こうか』


『よくわかんないけどいくー!』


……緊張感が一気に台無しです。

まあ、この子からすればそんなもんなんだよね。


所詮、人同士の争いごとだからね、神獣にはそりゃ興味ないと思うよ。


若干、気合いが抜け気味ではあるが、僕と子フェンリルも団長の後を小走りで追いかける。

勿論、子フェンリルは僕の頭の上で、自分の足では歩いていません。


……まあ、いいんだけどね。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ほう?逃げなかったのだな?平民よ。

 騎士共が騒いでいたからな、魔物にでも喰われたのかと思っていたぞ。

 無事で何よりだな」


相変わらず嫌みたらしく、声を掛けてくるクロード。

その態度をいつまで取っていられるだろうね?


「……ん?貴様、その頭の狼はなんだ?

 随分、変わった狼ではないか……。

 ふむ、いいだろう。私が貰ってやろうではないか。

 光栄に思うがいい、貴族である私に飼って貰えるのだからなあ!フハハハ」


……なんだって?コイツ頭おかしいんじゃないの?

僕はむっとしながらも、取りあえず丁寧に断りを入れる。


「この子は僕の大事な家族の一員です。

 申し訳ありませんが、お譲りするわけにはいきません」


そう言い切ると、一昨日の時のように一瞬でクロードは怒り狂う。


「貴様っ、一昨日も私に舐めた態度を取っていたであろう!

 私を誰だと思っている?ロゼリア家の次期当主、クロード・ロゼリアだ。

 貴様のような平民風情が口を聞くことすら叶わぬ存在なのだ!

 ……今なら、その狼を渡せばこれまで無礼を許してやると言っているのだ。

 さっさとその狼を渡せっ!!!」


ダメだ……こいつ、会話にならないや。

これ以上は、時間の無駄だね。


……ちらっと騎士団長の方を見ると、僕に頷き返し、会話に割り込んでくる。


「クロード卿、何度言えばお分かりになるのですか?

 マイン殿は国王様が認めたシルフィード殿下の婚約者なのですよ。

 このゲームの国王様の認可がおりた事で行われていると言う事をお忘れですか?

 対戦相手で王族の婚約者相手にこれ以上の無体を働くと言うなら……」


そこまで騎士団長が言うと、昨晩の顛末を思い出したのだろう。

如何にも渋々な態度ながら、引き下がっていく。


露骨に態度に出すと言うのも、貴族としてどうなんだろうと思ってしまうよね。


「……それでは、これより狩ってきた魔物を収納袋から出して頂く。

 まずはクロード卿、そして貴族の方々より検分させて頂こう」


騎士団長がそう言うと、クロード達が雇った冒険者達が次々に解体した素材を取り出していく。


「フハハハッ、どうだ!この量は!!!

 冒険者でも無い平民如きが狩れる分量では無かろう?論ずるまでもなく私達の勝ちだっ!!!」


勝利を宣言するクロードであったが、やはり提出されている素材はどれも明らかに傷み始めていた。

その素材を見た騎士団長は、表情を崩さないままクロードに問いかける。


「……クロード卿、一つお聞きしたいのですが宜しいか?」


騎士団長は淡々とした口調で、素材の傷みについて確認を始めた。


「……傷みだと?そんな物はこの平民とて同じであろう」


その言葉を聞いて、僕は無言で収納袋から素材を出していく。

僕の素材は当然、解体したばかりの状態で傷みはおろか、未だみずみずしさを保っている。


「……あきらかに違いますが?如何ですかな?

 それにクロード卿の雇った冒険者達が持ってきた素材……。

 明らかに時間経過による劣化ですな?」


騎士団長がそう言って、貴族達と冒険者達を見回す。

すると、心当たりがありすぎる冒険者達、貴族達の挙動が目に見えておかしくなる。


「そう言えば、ゲームの開催前に随分な人数で狩りをされておりましたな?

 ちゃんと騎士団にて確認しておりますぞ。その時の素材は何処にあるのですかな?」


事前の狩りの事まで、口に出された彼らは……はっきりと動揺を浮かべる。

クロードも若干顔を引きつらせているのが分かる。


「……貴様、何が言いたい?」


「持ってこられた素材の傷み具合と、ゲーム開始前に狩りをされていた事実。

 実に奇妙な一致だと思いませんか?

 傷み具合も見た所、一日程度放置したような感じですね?

 何とも不思議な事だと思っているだけですが?」


「……」


「それにゲーム中にそちらの冒険者達が狩っておられた様子も我々は確認しております。

 今、出された素材の量は明らかに狩っておられた量よりも多いですね?」


……あれれ、黙り込んじゃった。

ここで黙り込んだら認めているような物だと思うんだけどなあ……。


「クロード卿、国王様にあなた自ら提言して開催されたこのゲームで不正をなされましたな?」


「……そんな事はしていない」


「取りあえず、王都で申し開きを聞きましょうか」


騎士団長のその言葉を聞いた冒険者達が、一目散に逃げ出していく。


……そりゃ、そうだよね。

もし不正が見つかったら彼らも当然裁かれる事になる。


”雇われただけ”と弁明をしても、やってはいけない事かどうかの判別はつく筈だ。

やってはいけない事をやってしまった自覚があるからこそ、こうして逃げるのだ。


そして、逃げ出すという事は……罪を認めたと言う事だ。


「逃がすな!一人残らず捉えろ!!」


その命令を聞いた騎士団員達が一斉に逃亡している冒険者と貴族の子息達を捕まえるべく動き出す。


クロードも逃げ出していたが、団長自らに捕らえられていた。


「は、離なさんかっ!!無礼者!離せと言っている!!!」


暴れるクロードを数人がかりで抑え付け、縄で拘束していく。

大声で喚き散らしながら、連行されていくクロードを見て、僕は思い出した。



「あっ、家の悪口を言われた借り……返せなかったよ。とほほ」


こうして長かったゲームは幕を閉じたのだった。


何時もお読み頂きありがとうございました。

今後とも宜しくお願いします。


頭ボケボケ中なので、後で手直しをするかもしれません。

ごめんなさい。


さて、ここで緊急企画です。

子フェンリルの名前を募集します。


現在の本命は”ぽち”です。

これよりも【可愛い】名前を是非考えてみてください。

締め切りは、明日の20:00です。

活動報告に記事を作ってあります。


誰からも書き込みがなければ、ぽちとさせて頂きます。


宜しくお願いします。


…………………………………………………………………


【改稿】


2016/12/03 

・まあ、彼からすれば→まあ、この子からすればに修正。

・【場面中盤~終盤】クロードとの会話を修正。


2016/12/10 

・【場面序盤】騎士団長とマインの会話に子フェンリルの様子を追加。

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