第72話 神霊の森でのゲーム(5)
子フェンリル達に案内され、森の更に奥へ奥へと進んでいく。
先程のナマズとの戦いで、僕が疲れているのを知ってか、子フェンリル達のサーチ&デストロイが復活している。
魔物を倒す度に尻尾を大きく振りながら『ほめて、ほめてー』と魔物の死骸を口に咥えて持ってくるので、収納袋の中にどんどん魔物素材が溜まっていく。
解体で【カット】するのも随分と手慣れてきたのか、もはや一体に三十秒程度で完了する。
……というか、子フェンリル達のペースが早すぎて、それくらいで捌かないと、間に合わないのです。
”ほめて”と言われれば、頑張ってるので当然褒めてあげます。
けど、褒めた事でますますやる気になって、サーチ&デストロイが更に進んでいくという好循環なのか悪循環なのかちょっと判断が付かなくなってきてる……。
それでも、少しずつ目的地に近づいてきているようで『もうすぐつく、つくー』と一匹、僕の背中にへばりついている子フェンリルが話しかけてきた。
到着した彼らの住処は大きな洞窟だった。
中は力の迷宮と同じように壁から明かりが浮き出ていて、それなりに明るい。
そして、洞窟内の温度も魔法か何かで制御しているのか、暑くもなく寒くもない快適な温度に保たれている。
『中々、いいところに住んでるね!』
子フェンリル達に話しかけると『かいてき、かいてきー!』と床をゴロゴロと転がって遊び始めた。
神獣フェンリル様は僕等よりも先に着いていたようで、僕と子フェンリル達がじゃれついているのを見て嬉しそうに微笑んでいた。
『子供達のお守り、ご苦労だったね。どうだい、役にたっただろう?』
僕に向かって少し自慢げに語りかけてくる神獣フェンリル様。
うん、少し親馬鹿が入ってるよね。
一瞬、そう思ったけど役に立ったのは間違いがないので「はい!助かりました」とお礼を言う。
『ままー、やくにたったー、ぼくたちやくにたったー?』
僕の肩に貼り付いている子以外の二匹は神獣フェンリル様に向かって走っていき、そのままダイビングアタックを敢行する。
ぼふん、と軽い衝撃音がして、そのまま親である神獣フェンリル様に擦り寄ったりペシペシと肉球で叩いたりと甘えまくる。
神獣フェンリル様も子供達のやりたいままに任せてその様子を眺めていた。
一方、僕にへばりついている子供はというと……。
足場が無い中、背中から一生懸命によじ登り、そのまま僕の頭の上まで辿り着き、やり遂げたドヤ顔をしている。
当然、僕の頭の方がこの子よりも小さいのでかなり不安定な状態の筈なんだけど、中々頑張っている。
まあ、飽きるまでやらせておけばいいか。
この子、冒険者に刺された子なんだけど……なんか懐かれちゃったよね。
名前:フェンリル(幼体)
LV:31
種族:神獣
性別:♂
状態:テイム中 (マイン)
【スキル】
神獣の双撃
重力の魔眼
超再生
【アビリティ】
大咆哮≪ウォーセカムイ≫
健脚
……え?本当ですか??
【テイム】使ってないよ?
なんで、なんで??
『フェンリル様っ!?ちょっと不味い事が!?』
僕が慌てて、神獣フェンリル様に声を掛ける。
『ん?どうしたマイン』
『……なんでだか分からないんですけど、この子……僕にテイムされちゃってます……』
『テイム……使役か?……確かスキルにそのような物があったな。
マイン、お前それをその子に使ったのか?』
『いえ、全く……。そもそも確かに持ってますけど使った事がないんです』
『……ふむ、ぼうやちょっとおいで』
神獣フェンリル様が僕の頭に乗っかっている子フェンリルに声を掛けると「わうん」と一声吠えて僕の頭から飛び降り、一目散に母親の元へ走っていく。
しばらく二人?で何やら話していたが、再び僕の元へ子フェンリルが戻ってくる。
そして、再び背中をよじ登り、そこがベストポジションと言わんばかりに頭の上にのっかってくる。
『その子と話してみたが、特に何かをお前にされた訳ではないのは間違いなさそうだ。
助けて貰った事でお前の事が大好きになったと言ってるから、自ら望んでそのテイム状態になってるみたいだな。
そもそも我ら神獣がテイムされるなどあり得ないからな、前例が無いだけに私もよく仕組みがわからんのだ』
う~ん、いいんだろうか?
そう思って頭に乗っている子フェンリルを両手で優しく持ち上げて目の前に持ってくる。
『なーに?』と嬉しそうに尻尾をパタパタ振って僕を見つめてくる。
本人?が気にしていないようなので、特にいいのかなあ……。
『まあ、お前がしっかりとしていれば、別段問題はなかろう』
うん、親からもお墨付きを貰っちゃったぞ。
『けど、僕……明日には帰っちゃいますよ?』
『!』
僕がそう言うと、目の前で尻尾を振っていた子フェンリルの尻尾の動きがパタっと止まり、悲しそうな目でこちらを見てくる。
『いっちゃいやー、いかないでー』
そう言いながら、僕の腕をカプカプと軽く噛む。
そんな事を言われても帰らないわけには行かないし、この後王都に帰って結婚式が控えてるからね。
僕が困った顔を神獣フェンリル様に向けると、やっぱり困った顔をしている。
結局、僕と神獣フェンリル様の二人?がかりで、数時間かけ「また来るから」と説得をして、なんとか納得をして貰う事に成功する。
説得の途中で、残りの二匹も僕が居なくなるのいやだーと一緒になって泣き出すので本当に大変だったよ。
ちなみに残り二匹はテイム状態になってはいなかったよ。
結局、何故一匹だけテイム状態になっていたのかは分からずじまいだった。
長い説得の後、やっと眠る事になったんだけど、子供達三匹が『いっしょにねるのー』とやってきたので、そのまま一緒に寝転がる。
子供達のモフモフした体毛がすごく気持ちよくてあっという間に眠れそうだ。
……うん、今日は一日本当に色々あったよね。
明日で、この勝負も終わりだから精一杯、がんばろう!
それでは、おやすみなさい!!!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「マイン殿の行方を見失っただと!?」
部下からの報告を聞き、一瞬目が眩みそうになる。
マイン殿は平民ではあるが、第一王女であるシルフィード殿下の婚約者だ。
万が一があっては絶対にいけない。
「何故、見失った!?」
私がそう声を荒げると、部下の一人が申し訳なさそうに返事を返す。
「……実はマイン殿、今回のゲームで想定しているエリアを越えて更に森の奥へと進んだようで……
担当していた団員が追いかけようとしたのですが、魔物に阻まれてしまい戦闘している間に見失ってしまったと……」
なるほど、エリア外に出ていったという事は、相当な強さの魔物がいた可能性がある。
そんな魔物と戦闘になったら、確かに時間が掛かってしまうか……。
だが、それこそ不味いのでは無いか?
たった一人でそのようなエリアに足を踏み入れては、それこそ命の危険がある。
今回のゲームの勝敗は既に決まっている、いわば出来レースだ。
そんな茶番の為にシルフィード殿下の婚約者が命を落とすなど、あってはならん。
事の成り行き上、参加して貰わなくては計画が成り立たなかったのは理解している。
だが、私から言わせると、身の危険を考えて、本当は参加などして欲しくは無かった。
……今更言っても仕方ないし、彼なら大丈夫だとアルト殿下もシルフィード殿下も太鼓判を押していた。
今はその言葉を信じて、無事な事を祈るしかあるまい。
「……至急、王都に連絡を取り第一騎士団と第二騎士団から二小隊を呼び寄せろ。
彼らが到着次第、マイン殿の探索に出るぞ」
「はっ!了解しました!」
間に合ってくれよ、私は心の中でそう願う。
マイン殿は平民だけあって、普段我々が接している貴族と違い、非常に好ましい性格をしている。
昨晩の彼との会話は実に気持ちが良い物であった。
あのような人物が王族の一員となるというのは我々騎士団にとっても歓迎出来る事だ。
そう、新しい王室。
今の王室に不満は何も無いが、マイン殿が加わる事で更に何かが変わる気がする。
少しだけの会話であったが、そんな期待を感じさせる人物だった。
間もなく行われる結婚式はその記念すべき第一歩となるはずなのだ。
……だから、こんな所で彼を失う訳には絶対にいかない。
間に合ってくれ、再び私は心の中でそう呟くのだった。
何時もお読み頂きありがとうございました。
今後とも宜しくお願いします。
本格的に風邪を引いてしまったようです。
頭痛がひどく文章をまとめる事が出来なくなってきました。
明日の更新、ひょっとしたら本気で無理かもしれません。
その際はご容赦ください。
更新出来れば、長かった神霊の森編は終わるんじゃないかと思います。
宜しくお願いします。
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【改稿】
2016/12/03
・遺体→死骸に修正。
・神獣フェンリル→神獣フェンリル様に修正。
・住処に着いた際の神獣フェンリルとの会話を若干修正。
・【場面終盤】騎士団長の台詞の一部を修正。