第71話 神霊の森でのゲーム(4)
子フェンリルと一緒に狩りに出たけれど、彼らは確かに優秀だった。
特筆すべきはその索敵能力だ。
『こっち、こっちー』
あっという間に魔物の位置を特定し、駆けだしていく。
そして、僕が何かをするまでもなく殲滅してしまう。
まさにサーチ&デストロイである。
そして、倒した魔物を口に咥え、僕の方にズルズルと運んできてくれる。
『『『ほめてー、ほめてー』』』
尻尾をもの凄く振って、愛らしくじゃれついてくる姿にほっこりとした気分になる。
……いやいやいや、ほっこりしてたら、だめだって!
僕が倒さないといけないんだって!
子フェンリル達の頭を撫で、喉もとをモフモフしてやりながら、自分自身に突っ込みを入れる。
『凄いね!だけど、僕が倒す分も残して欲しいなあ。
あと、出来るだけ強い魔物を捜してくれないかなあ?』
子供達にお願いをすると、すぐに『まかせてー!』と駆けだしていく。
流石に子供とはいえ、神獣フェンリルである。
その運動量はハンパなく、一時間も一緒に行動すると僕の体力が限界になってしまった。
『……ごめん、ちょっと休ませて……』
僕が座り込むと、子フェンリル達は再び僕のそばに寄ってきてペタンと座り込む。
『『『なでてー、なでてー』』』
僕が撫でてあげると、グルグルゥと気持ちよさそうに目を瞑る。
ここまでで、僕が倒してきた魔物は四十体程。
フォレスト・エイプやサイドワインダーが多くはあったが、こんなヤツらも倒す事が出来ている。
名前:ミッドナイト・マンティス
LV:32
種族:マンティス族
性別:♂
【スキル】
両手鎌・極
豪腕
【アビリティ】
迷彩
これは大きなカマキリで、いきなり背後から現れたのは驚いた。
子フェンリル達が警戒してくれていたので事なきを得たけど、僕一人だったら怪我の一つもしたかもしれない。
アビリティにある【迷彩】のせいで接近に気が付かなかったみたいだ。
名前:ミッドナイト・ドラゴンフライ
LV:29
種族:ドラゴンフライ族
性別:♀
【スキル】
範囲魔法・風大
【アビリティ】
麻痺息吹
空中浮揚
大きなトンボ。
コイツの吐き出す息吹を少しでも吸い込むと体が麻痺してしまい、身動きができなくなってしまうらしい。
なので、基本的には一撃必殺で戦うのが良いとされている。
まあ、僕の場合はアビリティをすぐに奪ってしまうので関係はないのだけどね。
ちなみに先程のカマキリもそうだけど、元々は小さかったトンボが魔物化して巨大化した物らしい。
何故、普通の生物が魔物化するのかは、詳しくは分かっていない。
一説によれば、迷宮内の魔物と同じく何かしらの魔力を吸収しているのでは?とも言われているらしい。
名前:フォレスト・ドリル
LV:37
種族:エイプ族
性別:♂
【スキル】
豪腕・極
腕力強化・極
武技:重撃拳
【アビリティ】
咆哮
フォレスト・エイプは素早い動きや攻撃に特化した魔物だったけど、同じエイプ族でもこいつは力業重視の魔物みたいだ。
武技まで使用してくる結構やっかいな魔物なんだけど、単独行動が多いみたいで僕にとってはいいカモだった。
ちなみにお肉はとんでもない高値で売れるようで超高級品との事だ。
沢山狩ってアイシャとシルフィへのお土産しようと思います。
休憩を取りながら、倒した魔物を確認作業も合わせて行っていく。
「……なんか索敵に時間が掛からないから、狩りのペースが凄い事になってるなあ」
収納袋の中身を確認しながら、そう呟くと念話ではない筈なのに、子フェンリル達が
『『『ほめてー、ほめてー』』』
と、顔をすり寄せてくる。
全く持ってこの子達のおかげなのは間違いないので、感謝を込めて喉もとを優しくモフってやる。
どうも、喉もとを触られるのが好きなようで、三匹とも気持ちよさそうにしている。
よし、十分休憩も取ったし、狩りの続きに行こうかな。
『よし、もう一踏ん張りがんばろうか?』
『『『頑張る、おー!』』』
まあ、頑張るも何も、へばってたのは僕だけで子フェンリル達はずっと余裕だったわけだけど……。
再び、子フェンリル達に導かれ、森の奥へ奥へと進んでいくと大きな池……いや湖?が目の前に現れた。
『ここにも魔物が居るの?』
僕がそう子フェンリル達に尋ねると『『『いるよー、大きいのいるよー』』』と返事が返ってくる。
……大きいの?
ぱっと見た感じ、そんなの居ないけど……。
けど、この子達がそう言うならきっといるんだろうなと思い【気配察知・中LV3】を使ってみた。
……すると……いたっ!!
何だ、コレ!?何処からって、ええええええええ!?
僕が【気配察知・中LV3】で、その存在を確認したのとほぼ同時に湖面が波打ち、巨大な黒い魚?っぽいのが飛び跳ねた。
名前:フィリス・キャットフィッシュ
LV:63
種族:キャットフィッシュ族
性別:-
【スキル】
アース・クエイク
気配察知・大
魔法・水極大
【アビリティ】
咆哮
丸飲み
う、これは……ナマズの魔物!?
子フェンリル達が大きいと言うだけあって、ホントに大きい!
六~七メートルはあるんじゃないかという巨躯が飛び跳ねる光景は中々に迫力だ。
レベルも僕より高く、久々に現れた強敵という感じだ。
……けど、水の中に居るヤツをどうやって倒そう?
倒し方を悩んでいると、いきなり大きく地面が激しく揺れだした。
やばい、コレはナマズのスキルじゃないか?
飛び跳ねたのが一瞬だったので、スキルを奪えなかったのが痛い。
揺れの余りの激しさに思わず転んでしまう。
子フェンリル達もキャンキャンと鳴きながらしゃがみ込んでしまっている。
……取りあえず、この揺れを止めないと何とも出来ないな。
【気配察知・中LV3】でヤツのいる場所を特定して【リアライズ】で巨大な石を作りだし、その頭上から落下させる。
水の抵抗で、簡単に避けられたものの揺れはひとまず収まった。
よし、再びヤツが水面に向かって上昇してくるぞ。
ヤツが飛び出てくる場所を予想して、スキルを奪うべく待ちかまえる。
同時に手頃な大きなの石を拾い【身体強化・大LV3】【腕力強化・極LV2】【豪腕・聖】を発動する。
そして、ヤツが遂に水面から凄まじい勢いで飛び跳ねてくる。
素早く【アース・クエイク】【気配察知・大】の二つを奪った……のだが、ヤツもこの瞬間を狙っていたようで凄まじい勢いで巨大な水球がこちらに向けて飛んできた。
くっ!!【魔法・水極大】か!?
飛び跳ねた一瞬で奪えるスキルはどうしても一つ、二つと限られてしまう。
その一瞬で奪えたスキル以外を使ってくるとは……なんて運が悪いんだ!!!
この距離では避けれない、それによけたら子フェンリル達に当たってしまうかもしれない。
ここは持ちこたえるしかないっ!!!
【水属性・耐性】【ディフェンダー】を使用し、ヤツの放った魔法を受け止める!!
魔法が僕に直撃する音が辺り一面に響き渡り、水球が弾けて周りに水をまき散らす。
防御系スキルを事前に使ったおかげで随分ダメージを押さえれる事が出来たが、それでも膝を付いてしまう。
僕がダメージを負ったのを見て、子フェンリル達が水面に向かって吠えているのが見える。
【魔法・回復大】を何度か掛け、取りあえずは急場を凌ぐ。
『危ないから下がっててね、次で倒すから』
子フェンリル達にそう声を掛けて、再度【気配察知・中LV3】でヤツのいる場所を確認する。
さっきの交差でやつの【気配察知・大】を奪った影響なのか、先程はまっすぐに水面を目指していたがフラフラと泳いでいるのが分かる。
【アース・クエイク】も奪ったんだ。
ヤツはもう水面から攻撃するしか、手段が無い筈。
……ならば、待っていれば向こうから仕掛けてくるだろう。
予想通り、やつは再び水面目指して動き始めた。
見てろ、次はこっちの番だっ!
そして再び、水面から凄まじい勢いでヤツが飛び跳ねてくる。
今度は【魔法・水極大】をきっちりと奪い、全力で持っていた拳大の石を投擲する。
……だが、全力投擲した力に投げた石が耐えきる事が出来ず、ヤツに命中はした時には石のサイズは元の半分以下になってしまっていた。
止めこそさす事が出来なかったが、それなりにダメージを与えたようでヤツが再び潜っていった後から血が浮かび上がっていた。
「飛び道具が無いのが痛いなあ、魔法を使ってみるしかないかなあ……
だけど、僕の持ってる魔法で強力なのは範囲魔法だし……範囲魔法を使う?」
と、そこまで考えた所で、一つアイデアが閃いた。
「……これなら、いけるんじゃないかな?」
三度目の正直と言うし、これで倒してみせる!
傷を負い、怒り狂っているであろうヤツは再び水面に向かって猛スピードで突っ込んできている。
スキルが無くなっている事に気が付いていないのかな?
攻撃手段がヤツにはもう無いので、逃げられる事も考えていただけにこれはありがたい。
そして三度、ヤツが水面から飛び出してくる。
……今だっ!!!!
僕が使ったのは【固有魔法・時空】だ。
ヤツが空中を飛び跳ねる軌道上に黒い渦を出現させ、飛び込ませる。
……勿論、飛び込んだ先に繋がった場所は、僕から数メートル離れた”地面”の上だ。
水に潜れなければ、苦戦なんてするもんかっ!
鋼鉄短剣を装備し、地上をビクンビクンと跳ねているナマズの体に突き刺す。
そして短剣を突き刺したまま、真横に向かって僕は走り出す。
凄まじい絶叫を上げるナマズから飛び離れ、残っていたアビリティを全て奪い、小石に貼り付けておく。
体が大きいだけあって、それでもすぐに絶命する事はなく、激しく体を揺すって暴れ続けている。
あれだけ派手に暴れられていると、近づくのも躊躇われてしまう。
時間が掛かるかもしれなけれど【魔術の極みLV2】を掛けて【魔法・風】を使い、遠距離からダメージを与えていく。
……【魔法・風】を十発ほど撃っただろうか。
ようやく、暴れていたのが収まってくる。
防御系のスキルを一通りかけて、慎重にヤツの頭の方に近づき、僕は額に鋼鉄短剣を突き立てた。
一瞬、ビクッと体を揺らしたナマズはそのまま完全に沈黙する。
「ふぅ、終わった~」
そう言って、地面にへたり込むと子フェンリル達が凄い勢いで僕に飛びついてくる。
心配してくれてたんだろうな、猛烈に顔を舐められる。
『『『だいじょぶ?だいじょぶ?いたくない?』』』
『うん、大丈夫だよ!心配してくれてありがとうね!』
しばらく、子フェンリル達に癒されてから、ナマズの解体を始める。
「……これを持っていけば、結構加点されるんじゃないかな?多分」
流石にちょっと疲れたので、今晩の狩りはここまでにしよう。
そう考え、神獣フェンリル様に念話を送ると彼らの住処を案内してくれる事になった。
『『『おうち、あんないするっ!』』』
こうして、僕の今夜の寝床は神獣フェンリル様の住処となった。
本来は単独で狩っている以上、夜通し戦わないといけなかった事を考えると実にありがたい話だった。
本当にこの子達と神獣フェンリル様には感謝だねっ!
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名前:マイン
LV:63 (61→63) LevelUp!
種族:ヒューム
性別:男
年齢:15歳
職業:狩人
【獲得スキル】
両手鎌・極 new!
武技:重撃拳 new!
アース・クエイク new!
気配察知・大 new!
魔法・水極大 new!
何時もお読み頂きありがとうございました。
今後とも宜しくお願いします。
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【改稿】
2016/12/03
・ナマズに石を投げつけた部分の表現の修正。
・神獣フェンリル→神獣フェンリル様に修正。