第70話 神霊の森でのゲーム(3)
「……そんな訳でモンスターを沢山狩らないといけないんです!」
と、神獣フェンリル様に説明し、立ち上がろうとすると子フェンリルが僕に向かって飛びついてくる。
そして「きゅーんきゅーん」とまるで連れて行けと言っているかのように尻尾を振って、僕の顔をじっと見つめてくる。
僕が神獣フェンリル様に顔を向けると「アキラメテ、連レテ行ッテヤレ」と止めの一言。
「いや、だけどモンスターと戦うんですよ?危険なんですよ?」
そう言うと神獣フェンリル様は、一瞬怒りの表情を見せて、こう言った。
「ソノ首輪ヲ、付ケラレ命令ヲ、サレテナケレバ、ソノ辺ノ魔物ゴトキニ、子供デアッテモ負ケヌ」
……言われてみれば、子フェンリル達は全員黒い首輪を付けていた。
名前:隷属の首輪
特性:首に取り付けて使用する。
隷属魔法が封じられた首輪。
……これが隷属の首輪、か。
聞いたことがある。
この首輪を取付けて、特定の段取りを行い、魔力を流すと首輪の持ち主の命令に逆らえなくなってしまう。
能力が能力なだけにこれを扱うには、国の許可を得なければならない。
奴らは違法にこれを入手したのか、それとも許可を国から得ている者が絡んでいるのか。
どちらにせよ、これを国王様に渡せば何か分かるんじゃないかな?
それにしてもこんな物をこの子達に付けるなんて……改めてさっきの冒険者達に怒りが湧いてくる。
……何とかコレ外す事はできないかなあ。
力ずくで外そうとすると、爆発するとか聞くから不用意な事は出来ない。
う~~~ん。
何かいいアイデアは無いだろうか。
僕の能力で可能性があるとすれば【固有魔法・時空】くらいだろうか。
取りあえず、実験をしてみるか。
掌にのせた小石に向かって【固有魔法・時空】を発動。
黒い渦をイメージするのではなく、小石そのものを別の空間へと弾き飛ばすイメージ。
……だめだ、何も起こらないや。
前に検証したときは黒い渦を使って別の場所へと一瞬で移動する事が出来た。
ならば、小石その物に黒い渦を薄く纏わせるイメージ。
そのイメージに更に先程ダメだった小石を弾き飛ばすイメージを重ねてみた。
すると、小石は掌から消え失せ、少し離れた空中に出現し……地面へと落下した。
「出来たっ!!」
思わず、声に出して叫んでしまう。
「……マインヨ、今 何ヲシタ?」
じっと僕の様子を見ていた神獣フェンリル様も何が起こったか分からないみたいだ。
「オーク・キングから切り取った【固有魔法・時空】を使ったんです。
……いいか、お前達、動かないでくれよ」
そう言って、さっきから僕にすり寄ってくる子フェンリルの首に付いている首輪に【固有魔法・時空】を使用する。
焦って黒い渦を子フェンリルに触れさせてしまったら、不味いと思い、慎重にゆっくりと作業を行う。
「……よしっ!……これで……成功だ!!!!」
先程の実験結果と同じように目論見通り、首輪が消え失せてさっきの小石と同じように少し離れた空中に現れて地面に落ちていく。
そして、続けて他の子供達の首輪を取り外していく。
「ウオォォォォォォォォォォ」
子フェンリルの首から首輪が無くなったのを見て、神獣フェンリル様が歓喜の声を上げる。
取り外した”隷属の首輪”は国王様に渡すため、放置せずにきっちりと僕の収納袋に放り込んでおいた。
今回の件を解決する一助になればいいんだけどね。
その後、神獣フェンリル様に思い切り感謝され(具体的には飛びつかれて顔中を舐められまくった)、子フェンリル達も全員掛かりで体中を擦りつけてこられた。
……これ、きっと外から見たら僕って複数の狼に襲われているようにしか見えないんだろうね。
そして彼らの強烈な感謝の気持ちを受けた僕は見事に全身ボロボロ?になっていた。
「……首輪の事ですっかり後回しになっちゃったけど、取りあえず狩りに行ってきます」
体中に付いた泥や神獣達の毛を手で軽く払いながら、そう言うと突然頭の中に声が響くような感じで聞こえてきた。
『そうだな、お礼の意味も込めて我々も狩りを手伝ってやろう』
……え!?何、今の声?
『驚く事はない、今我がお前に加護を与えたのだ』
この声ってまさか、神獣様っ!?
名前:マイン
LV:61
種族:ヒューム
性別:男
年齢:15歳
職業:狩人
【スキル】
疾走 new!
直撃 new!
追撃攻撃 new!
【神獣の加護】
念話 ≪フェンリル≫ new!
『うわっ、何か増えてる!?念話って……この加護ってヤツのおかげで声が聞こえるの?』
『その通りだ、口に出さずとも我ら一族とこのように会話が出来るようになる。
そして、望みさえすればどれだけ離れていても話をする事が出来る。
何か困った事があれば何時でも相談するが良い』
……なんか、益々凄い事になったよ?
さっきは友達、今度は加護!?僕なんかがいいんだろうか。
『さて、何をぼさっとしている?狩りに行かねばならんのだろう?
まあ、先程も言ったが、我ら家族も手伝うゆえ、すぐに終わるだろうがな』
そう言って、神獣フェンリル様は森の中へと消えていった。
……で、子フェンリル達は僕をじっと見つめて『かりにつれてってー、つれてってー』と足下でじゃれついている。
『フハハハ、マインよ。よほど気に入られたようだな。
連れていってくれぬか?子供達も喜ぶだろう。決して邪魔にはならぬよ』
ふう、親である神獣フェンリル様の太鼓判があるんだ。
きっと戦力的に問題は無いんだろう。
……それにこんな風に懐かれたら、連れて行かない訳にはいかないよね。
『……じゃあ、一緒に行こうか!けど、無理は絶対にしちゃダメだよ』
『『『やった、やった、やったー!!』』』
こうして、僕は子フェンリル達と一緒に狩りに出かけたんだ。
……けど、これってルール上、反則になるだろうから好意だけ受け取って、ゲーム用の収納袋には僕が狩った分だけしまう事にしよう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「何?森の奥に行った別働隊が帰ってこないだと?」
珍しい魔物を捕まえてくるように指示を出した冒険者達が未だに帰ってこないと報告が入った。
”神霊の森”等と言う大袈裟な名前の場所だ。
森の奥に行けばきっと珍しい魔物がいるだろうと推測し、ゲームに参加しないB級冒険者を中心とした二十名を派遣していたのだ。
先日、偶然捕まえたドラゴンの幼生体のような金になる獲物を捕まえて来る事を期待して送り出したのだが……。
もし、本当にこのまま帰ってこないというなら、とんだ金の無駄遣いだ。ちっ、使えない奴らめ。
「クロードよ、本当に大丈夫なのか?」
同盟者であるビルトティルド家の継嗣、ヘルケスが心配げに声を掛けてくる。
こいつは頭はいいのだが、今ひとつ頼りないと言うか、物足りないと言うか。
貴族たる者、もっと堂々としていなければならない筈だ。
まして、継嗣ともあろう者ならば尚更である。
「ヘルケス、大丈夫とは何に対してだ?」
「全てに対してだ、今回のゲームだってそうだ。
仮にも王家がシルフィード殿下の相手に認めた男だぞ?
いくら策を打ったとはいえ、この程度で本当に勝てるのか?
クロード、もし負ければ、我々は廃嫡されるという事を覚えているのだろうな?」
なんの事かと思えば、そんな事か。
「……ヘルケス、君はまずもっと自分が貴族だと言う事を理解したまえ。
貴族たるもの、もっと優雅にドンと構えていればいいのだ。
それにあの餓鬼が予想以上の実力だったとしても、こちらは事前に30人掛かりで
狩りをおこなっているのだ。その差をたった一人で覆せる訳ないだろう?
我々の勝利は最初から決まっているのだ、安心したまえ」
……そう、勝利は最初から決まっている戦いなのだ。
明日の今頃、私達は勝利の美酒に酔いしれている事だろう。
早く、明日が来て欲しいものだな。
何時もお読み頂きありがとうございました。
今後とも宜しくお願いします。
風邪を引いたかもしれません。
皆さんも体調にはくれぐれもお気をつけください。
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【改稿】
2016/12/03
・神獣フェンリル→神獣フェンリル様に修正。
・【場面序盤】フェンリルの言葉の一部を漢字に修正。
・【場面中盤】唸り声を上げる→ 歓喜の声を上げるに修正。
・【場面終盤】ヘルケスの言葉を一部修正。