第07話 オークよ、再び
まだお昼前だし、早速オークを狩りに出かけてみようかな。
僕を信じて収納袋を先に預けてくれた事に何としても報いたい。
オークの生息域は森の結構奥の方だけど、さっきのヤツみたいに単体でウロウロしているのもいるだろう。
大きな収納袋があるから兎や羊なんかもついでに狩れるといいな。
一度家に帰って、昨日の残り物の干し肉を囓ってから、再び森へと向かう事にする。
朝の門番さんは交代したんだろう、違う人に変わっていた。
この門番さんも顔見知りなので、送り出してくれるときに「気をつけてな」と声を掛けてくれたのが嬉しかった。
こういったささやかな事が活力になるもんだなあと気分よく森に入る事が出来た。
森の奥へと進んでいくと朝同様、兎が何度か現れたがオークとの戦闘でコツを掴んだんだろう。
あっさりと倒して、収納袋に放り込んでいく。
三匹ほど兎を狩ったあと、新たなモンスターを発見した。
フォレスト・クロウラー、芋虫だ。
名前:フォレスト・クロウラー
種族:クロウラー族
性別:無し
【スキル】
補助魔法・速度低下
お?魔法を持ってるぞ、こいつ。
早速、奪ってしまおう。
んじゃ、さっくと倒してしまおう。
僕はきっと油断、いや慢心していたんだろう。
オークを倒した自分がこんな芋虫に負けるわけがないって……。
クロウラーの真正面に立ち、短剣を構える。
そして【脚力強化・小】を使い、一気に距離を縮める。
短剣を振り上げ、後は突き刺すだけ、そう思った時、ヤツは口から何かを吐き出した。
ヤバイと思って後退したときには既に遅く、吐き出された何かは僕の右足の膝下へと命中した。
「うわっ」
痛みは無い、痛みは無いのだが、僕の右足には真っ白な糸のような物が絡まっていた。
そして、その糸のような物は強力な粘着力で、僕を地面に貼り付けてしまった。
「あ、足が動かないっ」
慌てて足を動かそうとするが全くびくともしない。
そして僕の意識が自分の足に集中している隙に、ヤツは体当たりをしてきた。
「痛っ」
そして思いもしなかった鋭い歯で僕の腕を噛みついてくる。
「ぎゃああああああ」
やばい、やばい、やばい、何とかしなきゃ。
短剣を振るうが、足が思うように動いてくれないため、踏ん張りが効かず全く命中しない。
そんなあがきをしているうちに更にヤツは糸のような物を吐き出してくる。
今度は体に命中した。
目に見えて僕の動きが悪くなる。
そうだ……【魔法・風】ならっ!
僕は滅茶苦茶に風の魔法を連発した、連発したうちの数発が命中し、クロウラーから緑色の血が噴き出す。
その血を浴びながら【豪腕】を発動し、全力で短剣を突き出した。
突き出した短剣はヤツの眉間に命中し、短剣の根本まで突き刺さっていく。
ヤツはそのままゆっくりと地面に倒れ込んだ、何とか倒せたみたいだ。
「……た、助かったあ……」
僕は何を思い違いをしていたんだろう。
確かにいくつものスキルを手に入れて、前よりは強くなったかもしれない。
だけど、所詮成人したての狩人見習いなんだ。
オークを倒せた事だって、慎重に戦ったから何とか勝てただけだ。
慢心して、いい加減に戦っても勝てる訳がない。
芋虫だから、この程度で済んだけど、これがオークだったら……。
大いに反省しよう、そして自分は半人前なんだ、と心に刻もう。
じゃなければ、早々に僕は命を落とす事になるだろう。
クロウラーとの戦いは良い教訓になった。
そんな反省を心の中でしながら、今の自分の状況を見てみる。
体中にクロウラーの体液を浴びて緑色だ、流石に気持ちが悪い。
そして右足と体全体にクロウラーが吐き出した白い糸のような物が巻き付いている。
まずはこの糸をどうにかしなければ、どうにもならないな。
【カット】を使い、糸のような物を体と足からどんどん切り取っていく。
「この糸?も売り物になるかもしれないな、持って帰るか」
そういいながら、お父さんの遺してくれた方の収納袋に入れていく。
小物類はこちらに入れて、大物を新しい袋に分けて入れておくつもりだ。
そして、同時にポーションを取り出し、クロウラーに噛みつかれた腕に振りかけておく。
ジュウジュウと煙を出しながら、傷口がゆっくりと塞がっていく。
「ふう、もしもの備えのポーション、持ってきていて良かったな」
僕の持っていたポーションは一番安いランクの物だが、それなりの値段がする。
ギリギリの生活を送っていた僕にはまさにとっておきの1本だった。
お金に余裕が出来たら錬金術屋さんから買わないとなあ……。
ん?錬金術?僕、持っていたぞ?
【錬金術】:各種素材を調合し、新たな物質を創り出す技。熟練度が上がるほど効果の高い物を創り出せる。
おお、まさに錬金術だ!
ひょっとしてポーション創れるんじゃないか!?
【下級ポーション】:効果が少なめのポーション。薬草と綺麗な水を調合する事で創る事が出来る。
綺麗な水って言う位だから、普通の水じゃダメなんだろうけど……。
取り敢えず薬草を見かけたら集めておこう。
それとなく錬金術屋のお兄さんの作る所を見せて貰うのもいいかもしれないな。
よし、あとはクロウラーを解体して、っと。
何が買い取って貰えるか分からないから、そのまま全部持って帰ろう。
これ位ならまだ小さな方の収納袋に入るしね。
クロウラーを収納し、再び奥へと進んでいく。
暫く歩いていると、何匹か兎が出てきたので油断なく倒していく。
更に進んでいくと、朝の目的だった羊を発見した。
名前:フォレスト・マトン
種族:大羊族
性別:♀
【スキル】
補助魔法・睡眠
【アビリティ】
突撃
予想通りのスキルを持っているな、当然これも奪っておく。
アビリティも切り取って、捨てておく。
よし、油断なく戦おう。
背後に回り込んで、必勝パターンの【魔法・風】を叩き込む。
勿論、命中し、羊は一瞬で血まみれとなる、何が起こったか分からない状態で暴れまわる羊に一気に近づいて【豪腕】を使い、一気に短剣で引き裂いた。
呆気なく羊は倒れ込み、勝敗は決した。
多分、この羊は訳の分からないうちにその命を散らしただろう。
他のモンスターが近づいてくる前に解体を済ませて、小袋の方に収納する。
そろそろ、一杯になりそうだ。今朝までならここらで退散する所だけど、収納に余裕があるからまだまだいける。
まだ、肝心のオークを倒してないから、当然前進あるのみだ。
勿論、油断しないで慎重に!だ。
その後も、羊や兎を数匹倒しながら奥へと進むと、遂にオークを発見した。
しかも、三匹いっぺんにだ。
一匹ずつなら多分、問題無いと思うけど、奇襲が通じるのは一匹だけだろう。
これを打開するには、先程手に入れた二つの補助魔法だろう。
【補助魔法・速度低下】【補助魔法・睡眠】だ。
先ず、睡眠で一匹眠らせる、そこで気が付かなければもう一匹眠らせる。
眠らなければ距離があるうちに【補助魔法・速度低下】を掛けて【魔法・風】を叩き込む。
その後は流れかな。
最初に二匹眠ってくれれば、かなり楽になるんだけどね。
まず【豪腕】【脚力強化・小】【視力強化・中】を事前に掛けておく。
勿論、事前にスキルとアビリティを奪っておく事を忘れない。
出来るだけ距離を取って、そして後方からタイミングを見計らって……今だ!【補助魔法・睡眠】!!
よし、寝たみたいだ。もう一回【補助魔法・睡眠】!
……ちっ、ダメだ、気が付かれたせいかレジストされたみたいだ。
作戦通り、【補助魔法・速度低下】を掛けながら向かってくる二匹のオークに突っ込んでいく。
速度が鈍くなっているオークをかわし、全力で短剣を繰り出す。
うまく、右腕を切り裂けたようだ。大声で叫んでる。
そして、動きが鈍くなっているヤツに突っ込んでいき【魔法・風】を顔面目がけて叩き込む。
オークもまさかここで魔法が来るとは思っていなかったのだろう、狙い通り顔面に直撃した。
これでどちらのオークも手負いとなった、動きも怒りのせいか単調になり、ダメージのせいか動きも悪くなっている。
顔面を潰されたオークは後回しで問題ないだろう、腕を切りつけたオークを先に倒す事に方針を定める。
そう思ったとき、背後からいきなり大きな衝撃を受けた。
「ぐぉっ」
狙いを定めたオークの拳が先に僕の背中に直撃したみたいだ。
足下がふらつきながらも僕は立ち上がり、少し距離を取る。
再び【魔法・風】をヤツの足下に向けて撃ち、怯んだ瞬間を狙って再び距離を詰める。
そして全力で短剣を振るい、オークののど笛を一気に切り裂いた。
断末魔の悲鳴を上げ、倒れたオークを尻目に顔面を潰され、滅茶苦茶に持っている石斧を振り回している。
目が見えない相手に近づく必要は無いので【魔法・風】を離れた所から連発し、息の根を止める。
これで、残りは寝ているヤツだけだ。
いきなり起きられても困るので、再度距離を取り【補助魔法・睡眠】を重ね掛けする。
動かないのを確認し、背後から心臓の位置に全力で短剣を突き立てた。
苦戦をしたが、何とか無事三匹のオークを倒す事が出来た僕はその場にへたり込んでしまった。
【改稿】
2017/03/11
・全般の誤字を修正。
2017/03/19
・全般の誤字を修正。