第69話 神霊の森でのゲーム(2)
子供達を捕まえていた冒険者の一人が、その手に持っていた短剣を神獣の子供へと振り下ろした。
「きゃうううう……ん」
刺された子供の泣き声が……森に響き渡った。
その鳴き声を聞き、短剣を突き立てられ、身動きをしなくなった子供を見て神獣の怒りは更にヒートアップする。
「わ、わかったかっ!?俺達に逆らえば残りの子供達もこうなるぜ。
そこで、お、俺達が出ていくのを大人しく待ってるんだな!!!
いいか、子供が可愛ければ言う事を聞けっ!」
まずい、刺された子供が本当に死んでしまう。
僕は慌てて自分の収納袋から、とある小石を取り出した。
そして、その小石に貼り付けてあったスキルを【カット】し、今まさに命が尽きんとしている子供に貼り付けた。
するとぐったりと横たわっていた子供の傷がみるみると塞がっていくのが見える。
……ふう、間に合ったよ。
取り出した小石に貼り付けてあるのはトロールゲイザーからカットしていた【超再生】だ。
トロールの【再生】ですら、あれだけの回復力を持っていたんだ。
その上位スキルとも言える【超再生】なら、あっという間に回復するだろう。
これで、あの子供は助かる筈だ。
だが、問題が片づいたわけでは無い。
僕は隠れていた木の陰から、飛び出した。
突然、現れた僕にその場にいた神獣、冒険者……全員が何が起こったか分からないようだ。
そして、その混乱した状況を僕は見逃さず、冒険者達に目がけて【王の威圧】を発動する!
「ぐあああ、何だ何が起こったんだぁぁぁ……!!」
【王の威圧】をまともに受けた冒険者達はあっという間に恐慌状態に陥り、身動きが取れなくなる。
僕は身動きできない奴らから、子供達を助け出し、神獣の元へと連れて行く。
「貴様、何者ダ?今ノスキルハ”王ノ威圧”ダナ?
何故、人間ガ ソレヲ 使ウ事ガ 出来ルノダ?
ソレニ ボウヤハ 間違イナク 刺サレタハズダ……ドウイウ事ダ」
「神獣様、あの愚か者達に代わりお詫び致します。どうか、お許しください」
僕は混乱した様子を見せる神獣様にまずは心からの謝罪をする。
僕が行った事では無いが、ヒューム族が行った事だ。
神獣様から見れば、僕もあいつらも一緒だろう。
だから僕は心から頭を下げる。
「……フム、オ前ハ ヤツラトハ 違ウヨウダナ。
マズハ 礼ヲ 言ワセテ貰オウ。子供達ヲ助ケテクレタ事、心カラ感謝スル。
刺サレタ子ガ、助カッタノモ、オ前ノ オカゲナノダロウ?」
神獣相手に隠しても無駄なので、素直に認める。
「はい、僕がやりました」
僕がそう言うと、未だ血まみれのままの刺された子供が僕の足下に顔を擦りつけてくる。
……お礼を言ってるのかな?
「ソノ子達モ、オ前ニ感謝シテイルヨウダ」
うん、やっぱりそうか。
僕は足下にいる子供をそっと抱き上げてる。
「……痛かったよね、ごめんね」
そう言って謝ると、気にするなと言わんばかりに僕の顔をペロペロとなめ回してくる。
いや、可愛いし、嬉しいんだけど……そろそろやめて欲しいかな?
その様子を見て、和んでいた神獣様だったが、再び怒りの表情を見せ、恐慌状態で動けない冒険者達を睨み付ける。
「オ前ニハ、感謝シテイルガ、アノ愚カ者達ヲ、我ハ許ス訳ニハ、イカヌ」
まあ、そうだろうね。
同族とはいえ、僕も奴らには嫌悪しか無い。
どうなろうが知った事では無い。
神獣様の子供を連れ去り、更にその子供をあやめようとするなど、人間のやる事では無いと思っている。
恐らくあいつらはクロードをはじめとする馬鹿貴族達の命令で何かしらの獲物を探しに森の奥へと足を踏み入れたのだろう。
そして、偶然?神獣様の子供を発見した。
首尾良く子供達を確保したのはいいが、親である神獣に見つかり、今に至ったのだろう。
神獣様に返り血が付いていた事から、既に何人かの冒険者は殺されているのかもしれないね。
まあ、ただの予想ではあるけど、それほど間違っては居ないはずだ。
「はい、勿論です。僕もあいつらを許せません」
ハイロゼット
種族:ヒューム
LV:23
性別:男
年齢:31歳
職業:冒険者(B級)
【スキル】
短剣・極
俊足(大)
料理
チョロキュウ
種族:ヒューム
LV:24
性別:男
年齢:29歳
職業:冒険者(B級)
【スキル】
両手斧・聖
投擲・極
グルーニー
種族:ヒューム
LV:20
性別:男
年齢:33歳
職業:冒険者(C級)
【スキル】
視力強化・大
鉄壁
研磨
流石に神霊の森に踏み込んでくるだけあって、結構な強さの冒険者達だと思う。
……けど、こいつらは人としてやってはいけない事をやってしまった、そう僕は思うんだ。
ドラゴンの子供もそうだけど、自分達の行為がその後どういった事を引き起こすのか。
誰に迷惑を掛けるのか、こいつらは全く考えていない。
だから、僕は神獣様が彼らにどんな罰を与えようと、阻止する気は全く無い。
もし、ドラゴンの親や神獣様がルーカスの町や王都にやってきて僕の大事な人達を殺してしまったらと思うと本当にぞっとする。
「こいつらをどうするのですか?」
「勿論、殺ス」
……ああ、やっぱりそうか。そりゃ、そうだよね。
目の前で自分の子供を短剣で刺されたんだ。
それ以外の選択肢なんかあるわけが無いよね。
自業自得とはこの事か。
僕が止めないのを確認して、神獣様は空に向かって雄叫びを上げる。
すると、空中に黒い矢のような物が大量に現れ、一斉に……まるで雨のように三人の冒険者達へと降り注いだ。
何千?いや何万かもしれない。
凄まじい量の黒い矢が次々に冒険者達が居た場所に突き刺さっていく。
そして矢の雨が収まり、もくもくと巻き上がる粉塵が消え去った後……そこには冒険者だったモノが原型を留めず転がっていた。
凄まじい威力……これが神獣様の力なのか。
あっさり、本当にあっさりとB級冒険者を含めた三人の冒険者の命が無くなってしまった。
余りの圧倒的な力に呆然としていると、神獣様が僕の目の前まで歩いてくる。
そして、さっきまで神獣様の子供にされていたように、ペロっと顔を舐められた。
「改メテ、礼ヲ言オウ。オ前ノ名ハ、何ト言ウノダ?」
「ま、マインです。神獣様」
「マイント言ウノカ、私ノ事ハ《フェンリル》ト呼ブガヨイ。
我ガ子達ノ、命ノ恩人故、私ノ名ヲ呼ブ事ヲ特別ニ許ソウ」
自己紹介?がお互い終わり、神獣フェンリル様に僕が何をしたのか。
そして、何故【王の威圧】等という規格外のスキルを使えるのか、問いかけられた。
……正直に打ち明けるべきなのか、非常に悩んだ。
しかし、神獣様はこの世界とは隔離された理の中で生きる存在だ。
そして、何よりも神様の使いでもある。
悩んだ末、フェンリル様に僕は神様から授かったスキル、そして今日までの戦いの事を話していく。
「……ナルホド、神ガ言ッテイタ”規格外”トハ、マインノ事ダッタカモシレヌナ」
え?何か不穏な言葉が聞こえたよ?
気のせいかな??気のせいだよね?神様が僕の事を噂してたとか……。
「面白イ、コノ出会イハ、神ノ導キダロウ。
マインヨ、オ前ヲ我ガ友ト認メヨウ。光栄ニ思ウガヨイ」
ああ、なんか神獣様が言ってます……。
どうやら、神獣様が友達になってしまったみたいです。
先程の冒険者達の圧倒的な力による死の驚きも、更に大きな驚きに上書きされてすっかり隅に追いやられてしまいました。
そして、難しい話は終わったの?とばかりに子供達も僕にまとわりついてきます。
一体、何なんでしょうか……この状況は。
馬鹿貴族との勝負だった筈なのに……。
何時もお読み頂きありがとうございました。
今後とも宜しくお願いします。
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【改稿】
2016/12/03
・全般の誤字を修正。
・神獣→神獣様に修正。
・神獣との会話中の文章を一部追加・修正。
・冒険者達への所感内の文章を一部修正。
・冒険者達の末路「物」→「モノ」に修正。
・【場面終盤】フェンリンルとの会話の一部を修正。