第66話 オーガスタ王家
この人が英雄と呼ばれた……国王様なのか。
今、僕の目の前には噂でしか聞いた事が無い英雄ファーレン・オーガスタ陛下がいる。
国王様と言えば、国で一番偉い存在で一番のお金持ちというイメージがある。
しかし、目の前に居る国王様と言えば僕が持っていたイメージ。
すなわち”国王様=豪華絢爛な服”という感じだったのだけど、実際の国王様は違っていた。
比較的、飾りも少ない一般的な衣類と言っても良い服装で身をかためていたのだ。
……まあ、それでも、僕なんかが一生着る事がないだろう高級品なのだろうけど……。
寧ろ、クロードというあの馬鹿貴族の方がよほど僕のイメージに近い国王様らしい衣服だったと思う。
……恐らく、国王様の性格なのだろうね。
贅沢出来るのに、それをしない。
僕の中の国王様への印象はかなり良い物になったよ。
そして、僕が通された部屋は謁見の間と呼ばれる部屋では無く国王一家の私室である。
僕の立場は娘の婿という事なので、家族の場であるこの部屋へと通された訳だ。
今、この部屋に居るのは国王様の家族達だ。
ファーレン・オーガスタ
種族:ヒューム
LV:51
性別:男
年齢:52歳
職業:オーガスタ王国国王
【スキル】
片手剣・聖Lv9
腕力強化・大
言わずと知れた国王様、噂通りのスキルを持っているね。
お義兄さんでも勝てないという位だ、やはり相当強いんだと思う。
ガーネット・オーガスタ
種族:ヒューム
LV:37
性別:女
年齢:41歳
職業:第一王妃
【スキル】
錬成
高等算術
固有魔法・氷
【▼≠◇&】
¬☆▼◇≠仝
@仝#¬仝
……え?どういう事?
な、な、な、何???読めない文字があるぞ?
ひょっとして鑑定のレベルが低いせいなの!?
いや、だけどレベルが低くて”見えてない”項目があるのなら分かるけど、見えてて”読めない”なんて無かった。
僕が呆気に取られていると、ガーネット様が「ふふ」と笑って、ほっぺたをきゅ~っと抓ってきた。
そして、耳元に小声で「女性を気軽に鑑定しちゃだめよ」と囁かれた。
!!!
……そうか、王家は僕が【鑑定・全】を持っている事を知ってるんだった。
王様を見ると僕が困惑している理由が分かっているのだろう、ニヤニヤと笑みを浮かべている。
「気になるだろうけど、今は忘れなさい。
……そのうち、貴方にもきっと分かるようになるわ」
混乱している僕にガーネット様が優しく声を掛けてくれる。
「……分かりました、勝手に鑑定してすみません……」
僕がそう謝ると、ぎゅっと抱きしめられて頭をぽんぽんと叩かれた。
「うん、いい子ね。ちゃんと謝れる子は私大好きよ」
そのまま、ガーネット様にされるがままでいると「ん、んっ!!」と咳払いをするシルフィの姿が目に入ってきた。
「あら、どうしたの?風邪でも引いたのかしら?
シルフィ、あなた結婚式がすぐにあるのよ、ダメじゃない」
「私は極めて健康ですっ!……そんな事より母上!旦那様から離れてください!!」
「あら~、あなた焼き餅焼いてるの?……馬鹿ねえ。
……けど、私この子気に入っちゃったわ!こんなに可愛いんだもの」
「母上っ!!!!」
そんな母娘の心温まる?会話を聞いているうちに少しずつ動揺が収まってきた。
母娘の会話は留まる事を知らず、知らない間にアイシャとエアリーまで巻き込み、中々の混沌ぶりとなってきた。
……あれが噂に聞く女子トークと言う奴なのかな?
中々恐ろしい威力だよ。
ガーネット様から解放された僕に苦笑しながら、国王様とお義兄さん、ルイス殿下、ともう一人の僕と同じ歳位の男の子がやってきた。
「ルイスの事は知ってるな?」
お義兄さんが女子トークを何も無かったかの如く、スルーしてそう尋ねて来た。
僕がはいと答えると、まだ知らない僕と同じ歳位の男の子を僕の前に連れてくる。
「こいつが第三王子のレクタルだ。
母が我々とは違うのだが大事な弟だ、お前も仲良くしてやってくれ」
「はいっ!マインと言います!レクタル殿下、宜しくお願いします!」
僕がいつものように元気よく挨拶すると、レクタル殿下は不機嫌そうに返事を返してくる。
「レクタルです、マインお義兄さんずるいです!
アルト兄様を、お義兄さんと呼んでるのに、僕はなんで殿下なんですか!!
エアリー姉様だって愛称で呼ぶんですよね?
僕もちゃんと義弟として名前で呼んでください!」
レクタル殿下がふんすと鼻息も荒くそう言うと、ルイス殿下も同じように不満を口にする。
……少しにやついてるのが気になるけど。
「そうだぞ、俺も義弟なんだから、ちゃんと名前で呼べよっ!」
いや、殿下?笑いながら言っても説得力ないですから……。
その様子を見て、国王様まで話しに乗っかってくる。
「……ふむ、それなら私もお義父さんと呼んで貰わないとな?」
そんな談笑をしばらく楽しんだ後、国王様が僕に話しかけてくる。
「マインよ、本当に今回はすまなかった。
連絡の行き違いもあり、余計な混乱を招いてしまっただろう。
私も立場上、簡単に頭を下げる事は出来んが、こういった家族だけの場なら許されるだろう。
本来ならば、お前達の婚礼にこのような無粋な話を巻き込みたくは無かったのだがな……」
先程のお義兄さん同様、国王様も僕達に謝罪をしてきた。
いや、本当にやめてください……、困っちゃうよ。
僕の様子を見て、苦笑しながら更に国王様が話す。
「まあ、こんな謝罪をされても、かえって困るか、まあ、そうだろうな。
……よし、謝罪はここまでだ、ただ覚えておいて欲しい。
私達は心から申し訳なく思っているという事を」
そして、国王様の宣言通り、謝罪の時間は終わり、この後のゲームへと話題が移っていく。
「クロードにつけている斥候の報告では、既に現地入りして金で雇った冒険者達に狩りを始めさせているようだな。
余りにも予想通りの行動を取るので、かえって何か企んでいるのでは無いかと思ってしまうわ。
……まあ、そんな頭が回るようなヤツではないがな」
「勝敗は既にこの時点で決まっている。
お前は無理をしないで狩りをすれば良いからな?
あの森はそれなりに強い魔物が現れる森だ、無理をして怪我をしたり死んでしまっては何にもならん」
その後、お義兄さんから注意を幾つか貰い、移動を開始する事になった。
「旦那様、兄上も言っていたが無理はする必要はないからな?
決して旦那様が魔物風情に遅れを取るとは思ってはいないが、世の中に確実という事は無い。
くれぐれも無理はしないでくれ」
「……マイン君、気をつけて……」
シルフィとアイシャと話を少しして、僕は再び王家の馬車へと乗り込むのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「……彼は随分と驚いていたようだな」
「ええ、今まで鑑定出来なかった事は無かったでしょうからね」
我が妻、ガーネットには秘密がある。
突拍子も無い大きな秘密が。
この事を知っているのは私と錬成士のマイヤの二人だけだ。
恐らく、未来永劫この秘密を他人に話す事はないだろう。
いや、話す必要など無いのかもしれないな。
今、私達は幸せなのだから。
「この事で彼は我々の事を警戒するかな?
私としては可愛い娘婿になるのだ、誤解なく我々と接して欲しい所なのだが……」
「大丈夫だと思いますよ、あの子はかなり頭がいい子のようです。
少しばかり警戒心が強いのが玉に瑕ですが、きっと大丈夫ですよ。
時間があの子を癒すでしょう」
確かにスキルを頑なに話そうとしなかったりする所など異常ではあるな。
だが、少し前まで孤児だったのだ。
警戒心がなくては生きていく事が出来なかったのだろう。
……だが、あの歳までよく歪まずに育った物だ。
周りの大人達が彼を影ながら守ってきたのだろう。
……恐らく彼は”家族”に飢えている。
娘との結婚がいい方向に向かうといいのだがな。
私がそんな事を考えていると、妻がポツリと呟くのが聞こえる。
「……それに、私を鑑定出来るようになってしまったら……。
きっと彼は苦難の道を歩む事になってしまうかもしれない。
私やマイヤのように……私達だけでもう十分よ」
妻の呟きに気が付かない振りをしながら私も思う。
確かに、このまま何も知らない方が彼にとって幸せだろうと。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「思ったよりも時間が無いぞ、貴様ら!今のうちに狩りまくるんだ!!」
ち、マインとか言う餓鬼の動きが思ったよりも早かったな。
行動も早かったが、王家の馬車まで使うとは……シルフィードが居るから当然と言えば当然だが……。
恐らく、あと数時間で此処にやつも到着するだろう。
流石に目の前にいるのに狩りを続ける訳にはいかん。
となれば、チャンスは今この時だけだ。
……まあ、ロゼリア家だけでもB級冒険者を五人も雇ったんだ。
他家の雇った冒険者達を含めて三十名以上の冒険者達が今、森に入ってる。
これだけの人数で得る素材を平民の狩人如きが上回る事など出来ないだろう。
私達の勝利は既に確実だ。
待っていろ、シルフィードよ。
お前はもうすぐ俺の物だ!!
何時もお読み頂きありがとうございました。
今後とも宜しくお願いします。
本日、出張のため、帰宅時間が読めません。
その為、明日の更新が出来ない可能性がございます。
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2016/12/03
・王様の服装に関する表現、記述を修正。
・【場面中盤】ガーネット王妃の台詞を若干修正。