第65話 王都についた
馬鹿貴族の用意したゲームを王家からの要請で受ける事に決まってから、結婚式の日取りは直ぐに決定された。
移動に掛かる時間等を考慮して、ゲームの日程は明後日となり、そこから二日間の日程で開催される事になった。
「正直言って結果が決まっている茶番に付き合うのは馬鹿らしいがな」
シルフィが僕とアイシャに愚痴をこぼす。
今、僕達は王家が用意した馬車の中だ。
結婚式はゲームが終了した翌々日に行われる事になっている。
結構な強行軍だと思う。
シルフィとアイシャは王都に到着したら、比較的ゆっくり出来るのだけど、僕は付いた途端、騎士団と共に”神霊の森”へと移動する事になる。
本当は大がかりな結婚式に対する心構えをしておきたかったんだけどなあ……。
けど、結婚式を終えたら、こういった貴族達の厄介事が増えていくのかもしれないね。
「けど、流石に王家の馬車ですね……揺れが殆どありません。
この前、アドルまで行ったときに乗った馬車は結構揺れたのですが……」
アイシャが心底感心したようにシルフィに話しかけている。
確かに馬車の乗り心地については僕も思ったよ。
ホントに全く揺れないんだ。
そして馬車の中も乗り合いでは無いから、こぢんまりとした居間のような作りになっていて凄く快適だ。
飲み物や簡単な食事まで用意されて、まさに至れり尽くせりだ。
まあ、王族が乗る為の馬車なので、当然といえば当然なんだけど、なんか随分と世界が違うと感じるなあ……。
シルフィが言うには魔導具を使って衝撃を吸収しているとの事だ。
そんな魔導具を作れるなんて、凄い錬金術士だよね。
そうシルフィに話したら、作ったのは錬金術士では無く錬成士との事だ。
件の時間停止の収納袋を作った人物と同一人物らしい。
この人物、非常に博識で他にも色々と便利な魔導具を作っているようだ。
素材が集まったら、始まりの短剣や弓、片手剣を錬成して貰えるよう頼んでみるのもいいかもしれないね。
……受けて貰えるか分からないけれど。
まあ、どっちにしても素材が無ければ何も出来ないから、まずはそこからだけどね。
乗り合い馬車だと半日かかる王都への道程も、この馬車のおかげで五時間程で到着する事が出来た。
アルドの町に行くときも思ったけど、会話をしながらだと五時間という長時間でもそれ程苦にならないんだよね。
王都に着いた僕等は正門から入るのでは無く、王家専用の通用門から町の中へと入っていった。
何でも既に町中に僕等の結婚の事が告知されていて、僕等の存在に住民が気が付くと町中が大騒ぎになる可能性があるとの事。
それを避けるための措置のようだ。
改めて、王都でのシルフィの人気の高さが分かるよね。
「シルフィード殿下、マイン殿、アイシャ殿、到着致しました」
随行していた騎士団員が王城に到着した事を知らせてくれる。
ご苦労、と一言声を掛けて、シルフィから順番に馬車を降りていく。
いくら快適な馬車での移動とはいえ、長時間体を動かせない状態が続いたのだ。
大きく伸びをして、体をほぐしていると後ろから声を掛けられた。
「お前達、良く来たな」
すると、見慣れた人物が迎えに来てくれているのが目に入った。
「お義兄さん!」
にやりと笑みを見せて、腕を組みながらお義兄さん(アルト)が立っている。
そしてお義兄さんの横に、もう一人女性が立っていた。
「エアリー、来てくれたのか!」
その女性を見てシルフィが声を掛け、歩み寄っていく。
エアリー?はて誰だろう。
僕が悩んでいるとアイシャがそっと耳打ちしてくれる。
「マイン君、第二王女のエアリアル殿下ですよ」
!!!
そうか、シルフィの妹か。
と言う事は僕にとっても義理の妹という事になるのか。
何でも体が余り丈夫では無く、普段は部屋に閉じこもって過ごしているらしい。
そう言えば、王家には王子が三人、王女が二人いたんだっけ。
長男がアルトお義兄さん、次男がルイス殿下。
三男はまだ見た事ないや。
長女がシルフィ、僕のお嫁さん。
次女が目の前にいるエアリアル殿下という訳だね。
「姉様、ご結婚おめでとうございます。
晴れの舞台ですもの、部屋に引きこもってはいられませんわ」
言われてみれば、シルフィに良く似ているかな?
僕が二人が話す様子を見ていると、エアリアル殿下はこちらをちらっと見てにっこりと微笑んでみせる。
「姉様、私にも旦那様を紹介して欲しいですわ」
「ああ、そうだな……旦那様、私の妹でエアリアルだ。
少し、体が弱くてな。普段は人前に余り出る事は無いのだが、仲良くしてやって欲しい」
エアリアル殿下に促され、シルフィが僕に妹だと紹介してくる。
「はじめまして!マインと言います!
平民なので色々ご迷惑を掛けると思いますが宜しくお願いします!」
「エアリアルですわ、良かったらエアリーと呼んでください、お義兄様」
そう言って僕に手を差し出してくる。
差し出された手を握り返し、小さな声で「……は、はい、えありー」と答えるとその様子を見ていたシルフィとアルトお義兄さんが大笑いしはじめた。
「義弟よ、なにを照れている。
確かにエアリーは可愛いが、そこまで照れる事など無いだろう?
お前も義兄として、しっかりして貰わねば困るぞ?
可愛い妹を守るのは兄の大事な仕事なのだからな、わかるな?」
いや、初対面の美人さんを目の前にして、照れるなという方が無理です……。
「くっくっく、旦那様、私の時も最初はそうだったな。
相変わらずで何よりだ、旦那様にはずっとそうであって欲しいな、なあアイシャ」
「ええ、全くです!私もそう思います姫様」
「ひどいや、三人とも!」
多分、その時の僕の顔は真っ赤に照れながらも笑っていたと思う。
何気ないやり取りで、ただ僕がいじられているだけなのだけど、すごく楽しくて仕方ない。
エアリアル殿下、……いやエアリーもその様子に何か感じる物があったのかニコニコしながらこっちを見ていた。
「ずるいですわ、私も仲間に入れてくださいまし!」
そんな和やかな会話をしばらく楽しむと、お義兄さんが真面目な表情になり僕に話しかけてきた。
「国の厄介事をお前達の結婚に絡めさせてしまった、申し訳なく思う」
ああ、お義兄さんも気にしてるんだな……。
「いえ、大丈夫です!僕もシルフィもアイシャも納得してますから!!」
そう言うと、お義兄さんは苦笑して「お前ならそう言うと思ったよ」と背中を叩いてくる。
……うん、お義兄さんのクセなのかな?この背中を叩くの。
結構、痛いんだけど……。
ああ、今回も誰も止めてくれないんだね。
「さて、話し込んでしまったな。これから父上の所に行って顔合わせだ。
義弟には悪いが、それが終わったらすぐに”神霊の森”へと向かって貰うぞ」
こうして、僕等は国王陛下へと謁見する事になるのだ。
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