第63話 更に面倒な事になってきた
「すまない、旦那様、アイシャ……私のせいだ」
居間でアイシャが煎れてくれたお茶を飲んで気を落ちかせていると、シルフィが僕達に頭を下げてきた。
「さっきも言ったけど、悪いのはシルフィじゃないよ?」
「そうですよ、姫様……悪いのはクロード卿です」
僕とアイシャがほぼ同時にシルフィの言葉を否定する。
当然だ、アイツがシルフィ目当てにやってきたのは間違いない事だ。
だけど、暴言を吐いた事はヤツ自身の資質の問題であって、シルフィが責任を負うような事じゃない。
「……だが、私が居なかったら起こらなかった出来事ではある」
相当、気にしてるみたいだ。
「それじゃ、シルフィは僕と結婚するのをあんな馬鹿の為に辞めるの?」
「そんな訳ないじゃないか!」
「……じゃあ、気にしないで」
流れるように会話が進み、僕の一言でシルフィの言葉が止まる。
僕の考え通りの展開で、これなら渋々でも納得してくれる……だろうと思う。
しばらくそれでも考え込んでいたが、少しずつ何時も通りのシルフィへと戻っていった。
「……しかし、解せんな」
「ん?何を?」
「父上が何故、あのような者の話を聞きいれたのかと言う事だ。
私達の結婚は既に決まった話だ、それをゲームの勝敗で覆す等と父上が言う筈がない」
ああ、そうか。
……そりゃそうだよね。
家の事を馬鹿にされて頭に血が上っていたから全く思いつかなかったよ。
既に王家親族を含む、有力貴族には結婚の通達が終わっている筈だ。
今回の件だって、噂が元で来たような様子を見せていたけど、そもそももっと前に奴らは知ってたはずだ。
……ひょっとして、この話って裏があるのかな?
シルフィの言葉を元に状況を整理していると、夕方のこんな変な時間帯にも関わらず、誰かが訪ねてきたようだ。
まさか、またさっきの馬鹿貴族か?
僕が立ち上がろうとすると、私がとアイシャが玄関へと向かっていった。
しばらくして、アイシャが誰かを連れて戻ってくる。
「ん?何か既視感を感じるな……」
アイシャの顔が何処かで見たような、畏まった表情になっている。
……まさか、お義兄さんか?
そう思った瞬間、シルフィが声を上げる。
「……ルイス!?何でお前が此処にくるんだ!?」
え?誰ですか??
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「はじめまして、俺はルイス・オーガスタ、そこにいるシルフィード姉さんの弟だ。
これから宜しく頼みますお義兄さん」
そう茶目っ気たっぷりに僕に挨拶をするのは、この国の第二王子。
ルイス・オーガスタ殿下だ。
ああ、なんで我が家は王族がこんなにホイホイとやってくるようになっちゃったんだろう……。
勿論、シルフィと結婚するからだからなのは分かってるんだけどね。
ほら、分かるでしょ?
普通は王族なんて一生に一度会うか会わないかなんだよ?
いや、会わない可能性の方が高い筈なんだ。
この前のお義兄さんといい、目眩がしてきたよ。
しかも僕の事をお義兄さんって呼んでるし……いや、間違っちゃいないんだけどさ……。
「ところで姉さん、クロード・ロゼリア卿は訪ねてきたかい?」
ルイス殿下は僕への挨拶もそこそこに姉であるシルフィに話しかける。
「……ああ、さっき来て私に喧嘩を売って来たので追い返してやった所だ」
「うわあ、間に合わなかったかあ……、あの馬鹿何か言ってなかった?」
「……随分と不愉快な事を言ってたぞ、ゲームをして自分達が勝ったら結婚を取り消せと。
しかも父上がそれを認めたとも言っていたが、どういう事だ?ルイス」
「はぁ……やっぱりね。あの馬鹿の言いそうな事だ。
まず一番の誤解を解いておこうかな、父上はそんな事は認めていない。
少し意図があって『まあ、考えておこう』と言ったんだ。
それを湾曲して姉さんに伝えたのだろうね」
ああ、さっきシルフィが言ってた通りだ。
国王様には何かの思惑があった……みたいだね。
その後、ルイス殿下から今回の顛末を詳しく説明された。
何でも、馬鹿貴族と一緒に結婚を反対し、ゲームなる物を企んだ連中が八名いるらしい。
このルーカスだけでは無く王都や近隣の町に居を構える貴族の子息達との事だ。
この八名の子息。
実はすこぶる評判が悪い。
貴族である事を鼻に掛け、市井の者達に無理難題をふっかけ私腹を肥やしまくっているらしい。
ただ、それだけならばそれ程珍しい事では無いのだが、過日ある奴隷商人から王様宛に告発があったらしい。
クロード一派が「ドラゴンの幼体を密輸した」と。
元々、奴隷商は人間や亜人だけでは無く、魔物も商売品として扱っている。
鑑賞用だったり、戦闘用だったり、需要は色々あるらしい。
そんな奴隷商が扱ってはならないとされている種族、魔物がいくつか法で定められている。
その扱うのを禁止されている中にドラゴンは含まれている。
では、何故ドラゴンを扱ってはならないのか?
ドラゴンと言う種族は極めて頭が良い。
古代種ともなれば、人語すら理解し、会話をする事すら可能だ。
当然、そんな大型の成体のドラゴンなど人間が奴隷として扱う事は出来ない。
……だからまだ幼体のドラゴンを取り扱うのだ。
そう、幼体のドラゴンを扱うのだ……。
幼体、すなわち子供のドラゴンを。
当然子供には親が居るわけで、子供が居なくなったら親はどんな反応をするか?
そんなのは成人前の人間だって分かる。
当たり前の事、答えは”取り返しに来る”だ。
どうやって、馬鹿貴族がその幼体のドラゴンを入手したのか分からない。
だが、親のドラゴンが何時までも黙って居るわけがない。
今、こうして話をしている間にも子供を捜しているのは間違いない。
……これは大事だよ。
どこに幼体のドラゴンを隠しているのかは分からないけど、その町に成体のドラゴンが襲撃に来ると言う事だ。
そんな事が起こったら……町は壊滅する。
オーク・キングどころの騒ぎではない。
「……その話、本当なのか?」
シルフィがルイス殿下に顔を顰めて問いかける。
そりゃそうだよ、簡単に信じれる話じゃない。
「……恐らく、としか今は言えない。
信頼出来る奴隷商からの密告だから、恐らく本当なのだろう。
だが、まだ裏が取れないんだ。
本当かどうか分からない事で、各町の有力貴族達に強権を使う事も出来ない。
もし、違っていたらいくら父上でもごめんなさいでは済まされない。
だから、今必死に証拠を集めようとしている」
……すごくやばい状況じゃない?コレ。
あれ?だけど何でこれが王様がゲームを認めるような発言に繋がるの?
「あの~、この話がどうして先程のゲームに繋がるんですか??」
ルイス殿下は我が意を得た、とばかりに説明を始める。
今回のドラゴン騒動の容疑者達は僕達の結婚に異を唱えてゲームを提案してきた人間と全く一致してるらしい。
ゲームの内容を彼らに確認をし、色々裏をとった所、不正をする気満々という事が判明したそうだ。
国王に陳情し、既に王命で決まっている婚姻に異を唱え、開催されたゲームで不正を行う。
これが発覚すれば、間違いなく彼らは拘束される。
どんな理由であれ、拘束してしまえばドラゴンの事も吐かせる事が出来るようになる。
そう国王様は考え、言質を与えない状態で許可を出した。
本当は彼らから僕達にゲームの事が伝わる前に僕達に今回の件を伝えるつもりだったらしいのだけど、何故か彼らの行動が早くなり連絡が間に合わなくなってしまったという事だ。
……奴らの行動が早くなった理由……。
思い当たります。
思い切り僕のせいじゃないか。
”噂”が広がったから、シルフィの居場所がばれたんだ。
ああああ、結局僕が一番大馬鹿だったって事かーー!!
猛反省です、いや本当に……。
「……なるほどな、では父上は今回のゲーム、私達に受けて欲しかったという訳か。
全く、私達の結婚を何だと思ってるんだ」
シルフィが盛大に愚痴をこぼし出す。
いや、だけどコレは仕方ないんじゃないかな?
他にもやり方はあるのかもしれないけど、スムーズに話を進めるには確かにチャンスではあるもの。
「だが、一つ疑問がある。
いくらアイツらが馬鹿とはいえ、成体のドラゴンが取り返しに来る可能性を考えない訳ないだろう?」
「……奴隷商が聞いた話だから本当かどうか分からないんだけどね」
いやはや、更に凄い話が出てきたよ。
……隣国に売り飛ばすつもりらしい。
魔国が攻めてくるという噂があって、使役されたドラゴンなら戦力になると……。
そして、売り払ってしまえばこの国に成体ドラゴンはやってこない。
なんて卑劣な事を考えるんだろう。
絶対に許せないよ、アイツら。
「なるほどな、想像以上に下衆だな……こんなのが我が国の有力貴族だとは……情けない」
「まあそんな訳だ、姉上。
済まないがやつらの提案を受けて貰えないか?
勿論、負けたからといって結婚が白紙になどならないし、なるわけがない。
……尤も、お義兄さんがあいつらに負ける訳ないけどね」
「……旦那様、すまないがそういう事だ。この話、受けても良かっただろうか?」
シルフィが申し訳なさそうに僕に尋ねてくる。
僕の答えは勿論、決まってる。
「うん、勿論だよ!」
……話のついで、家を馬鹿にされた怨みを晴らしてやるぞ。
え?だめですか?
何時もお読み頂きありがとうございました。
今後とも宜しくお願いします。
※活動報告報告にも書かせて頂いておりますが、本日23:59以降に感想欄をクローズさせて頂きます。
※マイン君の家名、色々ありがとうございました。近日発表です!
※先日ご報告通り、明日の更新時間はいつもと違います。午前中にはあげれると思います。