第61話 シルフィと
「……なんで、二人がここにいたの?」
お父さんとお母さんに挨拶を済ませ、共同墓地から出ていく時に聞いてみた。
だって、余りにもいいタイミングだったよね?
決して泣いてた事をごまかそうとしてないよ!本当だよ!
何でも、墓地に向かう途中で僕を見つけたのだけど、凄く思い詰めた顔をしてたから心配になって追いかけてきたんだって。
う~ん、僕はそんな事無いと思うんだけど、相当にひどい顔をしてた……らしい。
家を出る時はそんな思い詰めるような感じは無かったから、二人は何か事件に巻き込まれたりした訳ではないと判断して、様子を見る事にしたんだそうだ。
何かあったらすぐに対処出来るようって。
で、お墓で急に泣き出したのを見て、慌てて飛び出してきたらしい。
……なんか心配を掛けちゃったみたい。
二人とも、ごめんなさい。
アイシャが僕の右手、シルフィが僕の左手。
それぞれ、手を繋いで僕達三人は帰路についた。
家に帰る時に何で向日葵をお墓にそえたのかシルフィに尋ねられたので、父さんと母さんが好きだったんだと答えた。
するとアイシャが。
「マイン君、うちのお庭に……向日葵を沢山植えようか?
お義父様、お義母様もきっと喜ばれると思うわ」
と、言ってくれた。
そうだね、今までそんな余裕は無かったけど、これからは僕一人じゃない。
生活費も十分にあるんだ。
それ位してもいいよね、きっと。
「うん!そうだね!!一杯の向日葵を庭に植えよう!」
家に帰る前に、行きに寄ったお花屋さんに立ち寄って向日葵の種を沢山購入した。
うん、今からすごく楽しみだ!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「さて、旦那様。お互いの報告をしておこう」
家に着き、お茶をみんなで飲みながら寛いでいるとシルフィがそう告げる。
「うん、そうだね」
そう言って、姿勢を正して話が出来るようにする。
「まずは、私達から話そう」
クランハウスを建てる事の許可は無事に取れたらしい。
何でも町長さんもお父さん、お母さんの事を良く知っていたらしく、僕と結婚すると話したらあっさりと許可が出たらしい。
勿論、第一王女が頼みに来たのだから断るという選択など、最初から無かったと思うんだけどね。
町長さんが言うには、僕の両親はこの町の危機を救った恩人なんだって。
……お父さん、お母さん……何をしたんだろ?
家では普通のお父さんとお母さんだったから、正直よく分からないや……。
そういえば親方もお父さんに感謝してたよね。
う~ん。今度、聞いてみようかな?
「まあ、そんな感じだな。
近いうちに町長が此処に訪ねてくるので、その時に土地の売買契約をする事になる。
金額は正直、予想してたよりも圧倒的に安かった。
町長が値引きしてくれたのもあるが、この家の周辺は元々安いみたいだな。
上物の金額にもよるが、父上が用意した資金だけで十分お釣りが出そうだ」
おお、それは何よりだ!
けど国王様に全部押しつける訳にはいかないよね。
安くなったからこそ、僕が率先して出さなきゃダメだと思う。
「ねえ、シルフィ。建物代は全部家が出そうよ!
僕達の使うクランハウスだよね?だったら僕等も出さなきゃおかしいよ!
……それに、その方がきっと愛着が湧くと思うんだ!」
僕がそう言うと、シルフィもアイシャもキョトンとした表情を見せた後、お互いの顔を見合わせてくすくす笑い始める。
「私、マイン君のそういう所、好きですよ」
「そうだな、非常に好ましいと私も思う」
なんかよく分からないけど、賛成してくれてるみたいだ。
うん、良かった!
「じゃあ、次は僕の番だね!」
そう言って親方の所で決まった事を二人に話していく。
「なるほど、一週間後からという訳だな?それまでに土地の契約を済ませてしまう必要があるか……。
父上に早馬を出しておいた方が良さそうだな。
建物のデザインなどを手がける専門家を派遣して貰って、親方殿と打ち合わせをして貰おう」
その後、三人で色々意見を出し合い、大雑把な計画が出来上がった所で話し合いは終了した。
さて、お腹が空いてきたよ!夜ご飯を作ろうかな。
そうだ!夜ご飯は僕が作ろう!!今度は二人に休んで貰わないとね。
と言う事で、二人には居間で寛いで貰うよう話をする。
中々、納得してくれなかったけど、最終的にはお願いをして譲ってもらう事ができた。
楽が出来るならいいと思うんだけどな?働き者の奥さん達で良かったよ。
……あ、けど逆の立場だと同じ事しそうだ。
そんな事を考えながら、家族の為にとご飯を作るのは凄く楽しい。
きっとお母さんも……シルフィとアイシャもこんな気持ちでご飯を作ってくれたんだろうな。
楽しい気持ちで仕事をすると、あっと言う間に時間が過ぎる。
「ご飯できたよー!」
僕がそう言うと、二人が待ってましたと出来上がった料理をどんどん運んでいく。
そして、楽しい晩ご飯の時間がやってくる。
シルフィが力の迷宮の話を聞きたがるので、僕とアイシャで交代で話していく。
トロールゲイザーを僕があっさり倒したとアイシャから聞くと、シルフィは溜息を一つついて一言こう言った。
「……旦那様、やりすぎだ」
その言葉を聞いて、僕とアイシャは思わず顔を見合わせてしまう。
そしてくすくすと笑い始める。
「な、なんだ?二人して……なんで笑うんだ??」
その様子を見たシルフィが困惑する。
「姫様が今言ったその”やりすぎだ”って言葉、コカ・グリースをマイン君が倒した時に私も同じ事言ったんですよ」
アイシャが笑いを堪えながら、そう説明する。
うん、確かに言った。
「……マイン君、やりすぎだよ……」って。
その説明を聞いて、シルフィも笑い出す。
団欒に響く笑い声は晩ご飯をみんなが食べ終わるまで続いたんだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ふう~、風呂は命の洗濯だね♪」
……そう今僕はお風呂に入ってる。
楽しかった晩ご飯が終わった後、食器の片づけは任せて欲しいと二人に言われた。
腕まくりをして気合いを入れている二人にまさか僕がやるよとは言えず、そのまま任す事にした。
じゃあ、僕は何をしよう。
そう、僕しか出来ない事があるじゃないか!
という訳でお風呂を沸かしたんだ。
流石に湯加減の調節も慣れてきて、最高記録たった2分で用意が出来た。
なにげに、この石を使ったスキルの利用法は重宝するよね。
他にも何か使い道を考えたいなあ。
そんな事をぼーっと考えていると、ガラっと音がして誰かがお風呂に入ってくる。
湯気が凄くて誰が来たのかよく分からないな……。
アイシャかな???
シルフィがいるから今日は流石に入ってこないと思ったんだけど……。
しかし、待っていても中に入ってきた人物はそこから動かない。
ん??
「……アイシャ?」
僕がそう声を掛けると、その人物は体をビクっと振るわせる。
んー?おかしい、アイシャじゃない?
……待て?アイシャじゃない??
「……まさか……シルフィなの?」
すると、その人物は更に激しく体を震わせて、慌てて扉を開けて風呂から出て行ってしまった。
『……一体……して……逃げたら……ですよ!!』
なんか、うっすらと声が聞こえてくる。
あれはアイシャの声だよね。
……うん、何となく理解したよ。
しばらくして、再び扉が開き、中に人が入ってくる。
扉の開け閉めで湯気は先程よりも大分引いている。
扉を開けて入ってきたのは、予想通りシルフィだった。
顔を真っ赤に染め、体をタオルで隠している。
そして僕の顔を見ないで全然違う方を向いている。
うん、照れているんだね。あれは……。
多分、アイシャに怒られたんだろう。
目にうっすらと涙を浮かべて拗ねているみたい。
普段の凛とした彼女とは違って、なんて言うんだろう。
可愛い……そう、とても可愛い感じがする。
「……旦那様、背中を流しに来た」
ようやく、それだけ口に出して湯船に近づいてくる。
歩くたびにタオルで隠している部分がチラッチラッと目に入ってきてとても目の毒だ。
うん?毒じゃなく保養……かな?
アイシャと比べて少し小振りなようだ。
え?何がって……内緒です。
その後、タオルがずり落ちて生まれたままの姿をさらしてしまったり、隠すのを失敗してしまって僕に裸を見られたり……。
その度にシルフィの絶叫が風呂の中に響き渡る。
「……すまない、旦那様」
二人して湯船に浸かり、ようやく彼女も落ち着いたようだ。
きっとお風呂の外でアイシャもヤキモキしてるんじゃないかな。
「一応、王族としてこういった事は一通り、学んではいるのだがな……。
実際に裸を見せるのは、どうにも恥ずかしいものでな……」
「大丈夫だよ、僕だって恥ずかしいもん。
アイシャのおかげで大分慣れてきたってだけで……」
「そうか、旦那様も恥ずかしいのか……そうか、そうか」
湯船に浸かっている事でリラックスしてきたのか、シルフィも段々普段通りになっていく。
……涙目のシルフィなんて中々見る事が出来ないだろうから、もう少し見ていたかったんだけどね。
そして、風呂から出る時、彼女は覚悟を決めたようにこう言った。
「旦那様、アイシャには話をしてある……今晩は私を抱いて欲しい」
こうして、僕はシルフィと同じ布団で過ごす事になったんだ。
何時もお読み頂きありがとうございました。
今後とも宜しくお願いします。
予告です。
今週の土曜の更新ですが、いつも時間では無い時間に更新します。
かねてより告知しておりました「アルトの閑話」を上げる予定です。
その際、それに関わる話も同時に改訂します。
改訂作業が、自動では出来ない為、手動で更新を行うつもりです。
宜しくお願いします。