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第60話 向日葵の花

婚約者二人と別れて、僕は親方の工房へと足を運ぶ。


途中で錬金術屋の奥さんに会って、少し世間話を交えつつ、結婚の報告をする。


「あららあらあら~」


奥さんの何かに触れたんだろう。

それはもう凄い食いつきで色々僕に尋ねてくる。


「で、お相手は誰なの??」


「冒険者ギルドで受付嬢をしていたアイシャさんと……シ、シルフィード殿下です」


「は?」


うん、それはそうだよね。

面白い程に奥さんは固まってしまっていた。


「ご、ごめんねえ~、マイン君……おばさん聞き間違えたみたい。

 二人と結婚するって聞こえたのだけど~、しかもアイシャちゃんと誰って言ったのかな~?」


ああ、やっぱりシルフィの事は信じられないよね。

まあ、僕だって信じられないし……。


けど、アイシャの事は知ってるみたいだね。

やっぱり、人気受付嬢だっただけあって、彼女も顔が広いんだと改めて実感するよ。


「……シルフィード殿下です、二人と結婚するんであってます……」


「姫騎士、シルフィード殿下で間違いない?」


「……はい」


奥さん大騒ぎです。


いや、分かる……分かるんですけど辞めて欲しい、結構切実に。

あまりの奥さんの騒ぎっぷりに周りの通行人さん達が何事だと、どんどん集まってくる。


散々騒いだ後、僕が涙目になっているのに気が付いた奥さんはやっと冷静になったみたい。

慌てて何でもないのよ~ホホホと周囲に集まった人達を追い払っていく。


「ご、ごめんねえ……マイン君……おばさん動転しちゃって」


奥さんの様子から心配になった僕は言いふらさないように釘を刺しておく。

お世話になってるから、話したのに……。


「一応、まだ公式発表になってませんので、絶対に話さないで下さい。

 下手な事を話すと王家に迷惑が掛かるかもしれませんので……」


奥さんも自覚があるのか、神妙に頷いている。

シルフィから特に内緒にするようには言われてはいないけど、奥さんの反応でよく分かった。


これは話したらいけないヤツだ。

王家の名を出しておけば、流石に奥さんも話さないと思う。


「お兄さんにも絶対言わないでくださいね!」


散々、念を押して奥さんと別れた。

……なんか心配だなあ。


不安を抱えながら、親方の工房へやっと到着した。


「こんにちはーーーーーっ!」


いつものように挨拶して工房に入ると、この前受付してくれたドワーフの女性が声を掛けてきてくれた。


「おんやあまあ、マインさんでないの?この前はお世話になっただね!」


お風呂の代金を多めに払った事で、従業員全員にお酒が振る舞われたらしい。

なんでもかなり高価な酒が出たらしく、みんな僕に好意的なんだそうだ。


親方に相談があって来たと言うと、すぐに呼びに走ってくれた。

相変わらず、ドタドタと走っていくその様子は見ていてとても微笑ましい。


この前、お風呂を作って貰った時も思ったけど、ドワーフという種族は行動の一つ一つに一生懸命さがにじみ出ていてとても気持ちがいい。

人によっては気難しい種族だと言うけれど、僕はそんな事は思わない。


「おお、マインさ、よおくきたなあ!どうだ風呂の案配はあ?」


親方が満面の笑みでやってきた、相変わらずのいい笑顔が素敵なのです。


「はい!僕も同居人も凄く気に入ってます!素敵な物をありがとうございました!」


親方はそうかそうか、と喜んでいるようだ。

きっと親方にとっても満足がいく仕事だったんだと思う。


シルフィとお義兄(アルト)さんにして、王宮の風呂よりも豪華と言わしめた渾身のお風呂だ。

それは当然といえば当然なのかもしれないね。


「んで、今日はどうしただ?」


実は、とアイシャとシルフィと結婚する事、その流れからクランを設立する事になった事を説明する。

流石に親方は凄腕の職人だけあって、錬金術屋の奥さんみたいに騒ぎ立てたりしない。


……まあ、ちょこっと驚いていたけど。


「ふうむ、んじゃ何だ~?儂らにクランハウスを作って貰いたい、そういう事かの?」


「はい、勿論親方さんにも今やっている仕事があると思いますので、無理は言えないんですけど……」


そう言うと親方は腕を組んでむむむと考え込む。


そして、受付の女性に何やら話しかけていた。

しばらく二人は話し込んでいたが、纏まったらしく再び僕に話しかけてくる。


「いつからやればええんだ?」


「建てるのに時間かかると思いますので、早い方がいいとは思いますが、親方さんの都合でいいです!」


「わかった、請ける事にしようかの。

 一週間ほど手が離せない仕事があるでの~、そっからやらせて貰うだ」


うん、それ位なら全然問題無いよね!

詳細はシルフィとアイシャを交えて家で行う事になった。


手が空き次第、親方がうちに来てくれる事になった。


親方、すごく忙しいのに本当にありがとうございます!

感謝っ!



さて、親方との話も終わった事だし、これからどうしようかな……。




……あ、そうだ……。

結婚するって事……お父さんとお母さんに報告しなくちゃ、ね……。


僕は早足で、町の北側にある共同墓地に足を向ける。


途中で両親が大好きだったお花を買う事にしたんだ。

きっと喜んでくれるよね。


お花屋さんには、この花をお墓に添えるのかい?と怪訝な顔をされたのだけど、僕にはこの花しか選択は無かった。


その花の名前は「向日葵」


魔力で品種改良とか何とかで最近はどんな花でも一年中買う事が出来る。

けど、この花は元々夏に咲く花なんだ。


お父さんもお母さんもこの花が大好きだった。

……勿論、僕もね。


『なあ、マイン。向日葵を見てると元気にならないか?

 人々に笑顔と元気くれる花、素晴らしいじゃないか、お父さんもお母さんもこの花が大好きなんだ』


お父さんとお母さんは何時も笑顔だった。

出会う人、出会う人に笑顔で挨拶をしてた。


武器屋のおじさんが言ってた。

お父さんとお母さんの笑顔は向日葵のようだったって。


僕もそう思う。

だから、お父さんとお母さんに持って行く花は僕にとってはこれしかないんだ。


お父さん、お母さん……僕の結婚、喜んでくれるかな。

喜んでくれるといいな。


そして、僕はお父さんとお母さんが眠るお墓の前に到着したんだ。



「……お父さん、お母さん、久しぶりです」


勿論、返事は返ってこない。


「今日はね、お父さんとお母さんに報告があるんだ……。きっとびっくりするよ?

 ……僕ね、結婚する事になったんだ。凄いでしょ?びっくりだよね」


返事は返ってこないけど、僕にはお父さんとお母さんがびっくりしているのが分かるんだ。


「相手はね、実は二人もいるんだよ、どうびっくりした?

 もっとビックリする事があるんだよ?聞きたい?……仕方ないなあ」


僕の目から知らないうちに涙が溢れてくる。


「二人ともお母さんにも負けない位のすっごく美人さんなんだよ!

 え?何お父さん、お母さんには負けるって?そんな事ないよ!お母さんも美人だけど

 僕のお嫁さんもすっごく美人さんなんだ!

 しかもね、一人はこの国の王女様なんだ、すごくない?僕が一番びっくりだよ!

 何でも王族と結婚すると一夫多妻が認められるんだって!気が付いたらお嫁さんが二人だよ。

 ……きっと、お母さんはまた流されすぎだって言うんだろうね……」


目の前が滲んで何も見えないよ……。

お父さん、お母さんに見て貰いたかったよ、僕の結婚式。


お父さんとお母さんの向日葵のような笑顔で見て貰いたかったよ。


「今度、結婚式をするんだ。

 王都の神殿でやるんだって、遠いけど……二人ともちゃんと見に来てね、絶対だよ!」


お父さん、お母さん……なんで死んじゃったんだよ……。

寂しいよ、帰ってきてよ。


堪えきれずに号泣していると、後ろと左側の二ヵ所から暖かな何かが僕を抱きしめてきた。

溢れ出ていた涙を手で拭い、その何かを見てみると……今まさに両親に話していた二人の婚約者だった。


僕が驚いていると、アイシャとシルフィの二人は父さんと母さんのお墓に手を合わせる。


「お義父様、お義母様、はじめまして。シルフィードと申します。

 この度、マインさんと結婚をさせて頂く事になりました。

 お義父様とお義母様に代わり、必ず彼を幸せにしてみせます。どうか安心して下さい」


「お義父様、お義母様、アイシャと言います。

 私もマイン君と結婚させて頂きます。

 町の皆さんから聞きました、お二人のような素晴らしい夫婦に必ずなります。

 笑顔が溢れた家庭を作ります、どうぞ見守ってください」


呆気に取られた僕の手を二人はぎゅっと握りしめてくれる。

もう大丈夫、一人じゃないよ、そう言ってるみたいだ。


「……お父さん、お母さん、言ったとおりでしょ。

 二人ともお母さんに負けない美人さんだって……

 これからも僕等を見守ってください。僕、頑張るから」




       『しっかりやりなさい、頑張れ』




……二人の声が確かに聞こえたんだ。

何時もお読み頂きありがとうございました。

今後とも宜しくお願いします。


異世界に向日葵があるのか?という突っ込みは無しでお願いします。

この世界にはあるという事でご理解下さい。

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