第56話 家族の団欒
朝、目覚めると部屋の床で寝ていた筈の義兄さんが居なかった。
「……どこいったんだろう?」
布団の中はまだ暖かい事から、部屋から出て行ってからそれ程経っていない筈だ。
ちなみに僕の部屋で寝ると聞いた時、いつも僕が寝ているベッドを使って下さいと義兄さんに言った所
「私は床で構わない、突然やってきて贅沢は言わんよ」
そう言って固辞されてしまった。
全く、昨日初めて会ったときと随分態度が違うので、調子が狂っちゃうよ。
シルフィに言わせると普段は尊敬出来る兄なんだが……と苦笑しながら言ってたからきっとこれが本当の姿なのかもね。
突然、現れて戦いになって……一体何事かと思ったけど、まあそう言う事なのかな?
そんな事を思いながら大きく伸びをする。
パキパキと背中から骨が鳴る音が聞こえてくるのが、実に気持ちがいい。
「……よし、今日も一日頑張ろう!」
そう言いながら、ベッドから飛び起きて顔を洗いに井戸へと向かう。
朝、独特の澄み切った空気が気持ちがよく、まだ寝ぼけていた体を少しずつ活性化していくのを感じる。
うん、いつも思うけど早起きは気持ちがいいよね!
井戸水を汲んでジャブジャブと顔を洗う。
そう言えば、井戸水でポーションが作れたという事は【常時:水】の魔法水だと何が作れるんだろう??
一度、試してみてもいいかな?
そんな事を考えながら、炊事場に向かうと既にアイシャとシルフィが朝ご飯を作っていた。
「おはようございます!」
何時も通り、元気に挨拶。
お父さん、お母さんから受け継いだ、我が家の大事な約束事。
元気な挨拶は自分自身も元気にし、周りの人達も元気になる魔法の言葉だ。
僕のおはよう!を聞いた二人の婚約者は、顔を見合わせて同じように元気に挨拶を返してくれる。
「おはようございます!」
「おはよう!」
僕等はただ挨拶を交わしただけ……だけど、自然と笑い声が溢れてくる。
「僕も手伝おうか?」
「いや、旦那様は座って待っててくれればいい」
「そうよ、姫様なんて初めての料理なのに随分気合いを入れて作ってるんだから!」
初めての料理、確かシルフィに料理スキルは無かった筈だよね?
……ちょっとだけ心配だよ……。
僕の気持ちを察したのだろう、シルフィは少しだけばれちゃったと微妙な表情を浮かべ、アイシャはくすくすと笑っている。
……なんか妙に二人の仲が良くなってないかな?
アイシャの呼び方こそ、姫様と変わらないんだけど遠慮というか距離感と言うか、そう言う物が変わってる感じがするよ。
昨日は一緒にお風呂に入って、アイシャの部屋で一緒に寝たようだし、それがきっと良かったのかな?
うん、仲がいいのは良い事だよ!だってこれから家族になるんだものね。
「大丈夫よ、マイン君。姫様の手料理楽しみにしててね!勿論私のもよ?」
まあ、そんな事を言われてしまったら、手伝えないよね。
大人しく座って待つ事にしよう。
「……ところで義兄さん、知らないかな?」
「兄上なら外で鍛錬してるぞ、いつもの日課だからな」
なるほど、やっぱり日頃の鍛錬が大事って事なのかな?
僕も一緒に鍛錬した方がいいのかな?昨日鍛えてくれるって言ってたし。
「ああ、旦那様は行かなくてもいいぞ、昨日の疲れやダメージがまだ残ってるだろう?
兄上から旦那様が起きてきても来なくていいと言付かってるからな」
……ひょっとしたら僕が爆睡しているのを見て気を遣ってくれたのかな?
なら好意に甘えるのが正解だよね、うん、大人しく座っていよう。
そんな訳で大人しく居間で座って待つ事にする。
しばらくすると、炊事場からとても美味しそうなにおいが漂ってきた。
そんなにおいに釣られたのか、義兄さんがタオルで汗を拭きながら朝の鍛錬から戻ってきた。
「おはようございます!鍛錬お疲れ様でした!」
僕が挨拶をすると「ああ、おはようさん」と少し照れながら、挨拶を返してくれた。
うん、やっぱり挨拶は魔法の言葉だ。
「もう体は何ともないか?模擬戦とはいえ、ちょっとやりすぎたからな。
すぐに風呂に入って休んだから、さほどダメージは残ってないとは思うがな。
何か気になる事があれば聖弓殿に言って回復をしてもらうんだぞ」
頬を掻きながら、照れくさそうに僕の体を心配してくれる義兄さんを見て思わずクスクスと笑ってしまう。
どうも鍛錬に出る前に、シルフィに捕まって昨日に引き続き説教をされたらしい。
義兄さんはシスコンとシルフィに聞いたけど、やはり妹に説教されるとどうにも弱いらしい。
そんな会話をしていると、アイシャとシルフィが出来上がったばかりの朝ご飯を運んできた。
「……兄上、ちゃんと旦那様に謝ったのか?」
配膳しながら、ジロっとシルフィは義兄さんを睨み付ける。
すると、バツが悪そうに僕に顔を向けて「済まなかった」と謝られた。
別にそれほど気にしてなかったので、というより急展開の連続で訳が分からないまま、時間が過ぎ去ったので僕自身は何かあったという意識は無いんだよね。
なので素直に「気にしてないですよ」というと義兄さんは安心しながら、何故か感心されたのだ。
取りあえずの謝罪?が終わり、楽しい朝ご飯の始まりです。
「どれがシルフィ作ったヤツだ?」
「兄上、少しは遠慮したらどうだ、私の初めての手料理だぞ、旦那様に食べて貰う為に頑張ったのだ」
「いや、妹の初めての手料理だからこそ、私が……」
アイシャと二人で食べるご飯も楽しかったけれど、こうして四人で無駄な話をしながら食べるご飯はもっと美味しい!
家族ってこんなに嬉しくて楽しい物なんだね!
お父さんとお母さんと一緒に食べたご飯も美味しかったけど、今日の朝ご飯は別格の美味しさだよ。
しばらく無駄話を楽しんでいた僕達だけど、義兄さんが少しだけ真面目な顔に戻り、僕に話しかけてきた。
「義弟、妹と聖弓殿との結婚式を行わねばならんから、近日王都に来るだろう?
そこで本格的な修行を行おうと思っている。
王都に来るまでやっておいて欲しい鍛錬の内容を残しておくから、さぼらずやっておくようにしてくれ。
こう見えても王子という立場だ。王都でやらなければならん事もそれなりにある。
本当はずっとこっちで鍛えてやりたい所なんだがな……」
なんでも義兄さんは騎士団の訓練も担当しているらしい。
その訓練の日程が迫っていて、王都に戻る必要があるとの事だ。
そんなに忙しいのに何で僕を鍛えてくれるんだろうと聞いてみたら、僕を気に入ったからと豪快に笑って背中を叩かれた。
いや、シルフィにアイシャ、痛いんだから止めてくれないかな?
そこで笑ってないでさ。
後でシルフィに聞いた話では、最初はかなり結婚に対して反対してたから義兄さんのこの反応は予想もしてなかったらしい。
僕の何が気に入ったのかよくわからないけど、お嫁さんの家族と仲良く出来るのはいい事だよね?
楽しい朝ご飯が終わり、鍛錬のメニューと体の動かし方の注意などを細かく書いたメモを僕に渡し、そのまま義兄さんは王都に戻っていった。
渡されたメモは分かりやすくとても丁寧に書かれており、書くのに相当時間が掛かっている事が分かる。
僕にとってこのメモは大事な宝物だ。
義兄さんに心から感謝です。
さて、義兄さんも居なくなり、この家には今僕と婚約者二人の三人だけだ。
いよいよ、僕の秘密を告白する時が来た。
どんな反応が返ってくるんだろうか……。
正直、怖くて溜まらない。
だけど、反面期待もしてしまうんだ。
さあ、勇気を出して告白しよう。
何時もお読み頂きありがとうございました。
今後とも宜しくお願いします。
明日の更新、遅れるかもしれません。
ひょっとするとお昼位になるかもです。




