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第55話 転機

「……ん、ここは……」


ぼーっとする頭を振りながら、体を起こし周りを見てみる。

僕の部屋のようだ、なんで寝てるんだろ……。


「マイン君っ!!良かった、気が付いたのね!!」


アイシャの叫び声が聞こえてくる。


「僕は……あ、そうか思い出した。王子様に……負けた……のか」


どうやらアイシャが回復魔法を使ってくれたみたいだ。

頭はまだぼーっとしてるけど、体中の痛みは殆ど取れている。


アイシャにお礼を言おうと彼女の顔を見ると泣きはらしたのだろう目が真っ赤になっていた。

どうも心配を掛けてしまったようだ。


ごめんね、とアイシャに謝っていると、僕をコテンパンにした張本人が部屋に入ってきた。


「おう、目が覚めたか?」

「兄上、まだ話は終わってないぞっ!」


シルフィに怒られながら、僕に声を掛ける王子様は妙にニコニコしている。

だけど、激昂したシルフィが追いかけてきているので穏やかな雰囲気には全くならないのだけど……。


「どうだ、体の方は?聖弓殿が回復を掛けてくれているから、殆どダメージは抜けていると思うのだが?」


怒られているのを全く、気にせず王子様は僕の体調の事を気に掛けてくれる。

確かにダメージはもう無いかな。


全力で戦え!とか言われちゃうと無理だろうけど、普通に動く分なら問題は無さそうだ。


「少しだけ、まだぼぉっとしますが、概ね大丈夫そうです」


「そうか、やりすぎたな……済まなかった」


いや、次期国王様に頭なんか下げられたら、こっちが困っちゃうよ。

そもそも僕が納得して受けた模擬戦なんだから、謝って貰う筋合いすらない。


「いやいやいや、頭を上げてください!謝って貰う理由がありません!!」


僕が手を激しく振りながら、頭を上げて貰うべく、必死に声を掛ける。

すると、不思議そうな顔で僕を見ながら、頭を上げてくれた。


「……不思議なヤツだな……」


その後、アイシャと少しだけ怒りが納まったシルフィを交えて四人で世間話に花を咲かせる。

王子様はオーク・キングとの戦いがどうだったかを聞きたがっていたけど、スキルの事を話さずに詳しく説明出来ないから終始歯切れの悪い答えしか返す事が出来なかった。


「ところで義弟(マイン)よ、今日はこんな時間だからな、泊まらせて貰おうと思うのだが構わないか?」


「ええ、勿論です。汚い所ですが王子様さえよければ是非泊まっていって下さい」


「……その王子様はやめないか?シルフィと結婚するのだ、我々は義兄弟となる訳だからな。

 私は義弟(マイン)と呼ばせて貰うぞ」


う~ん、何て呼ぼうか……。

やはり無難に「お義兄さん」かな?


「え、え~と……お義兄さん?」


「……なんで疑問系なんだ……まあ、それでいい。

 家族になるのだ、遠慮なんかするな」


なんか、凄い違和感があるんだけど……そのうちに慣れるかな?

アイシャとシルフィの呼び方も最初は凄く違和感あったし。


お義兄さんが泊まって行くという事で、アイシャが晩ご飯を作りに炊事場に移動する。

僕も手伝おうとしたのだけど、婚約者二人に「休んでなさい」と強く止められたので大人しくしている事にする。


「そう言えば、さっき聖弓殿から聞いたのだが、この家には随分立派な風呂があるのだろう?

 せっかくだから、入らせて貰っても構わないか?」


ああ、そうだね。


せっかくだからお義兄さんにも入って貰おう。

よし、今のうちにさっさと沸かしてこようかな。


「分かりました、じゃあちょっと沸かしてきますね!」


そう言って、僕は風呂場へと急いで向かう事にした。




朝沸かしたから、小石のバランスは大体分かっている。

若干熱めに沸かすのがいいだろう。


食事を食べてから入ればいいものね。

それから、約五分で風呂桶に少し熱めのお湯が溜まったのだ。


【常時:水】×5、【常時:熱】×4で気持ち熱めに沸き上がるようだ。


小石を回収して、お風呂が沸いた事をお義兄さんに伝えると丁度食事も出来上がったようで、早速四人で食卓を囲む。

中々、話せない話題が多いから、楽しかったけれど、気もつかった晩ご飯となってしまったのが少し残念。





……そして、お風呂だったんだけど……一体、何故??


「ふぅぅぅ、この風呂は本当に素晴らしいな。木の香りといい、湯の沸き加減といい……王宮の風呂よりも上かもしれん」


「……はぁ、気に入って頂けたようで何よりです」


何故か、食事が終わるとお義兄さんに捕まり、一緒にお風呂に入る事になった。

うん、これは予想外だった。


「ところで義弟(マイン)よ、先程の勝負……何故お前が負けたか分かるか?」


……そうなんだ、スキルやレベルから考えれば僕が負ける事は考えられない筈。

仮に負けるとしても、あれほど一方的に負けるのは考えづらい。


あそこまで一方的に負けた理由が分からないんだ。


「……全く分かりません……」


「まあ、そうだろうな。先程の戦い……いくつのスキルを使ったんだ?私が分かったのは4,5と言った所だが……どうだ合ってるか?」


……そりゃ気づくよね……。

後でごまかす為に最初の強化だけで済ますつもりだったけど、余りにも一方的にやられすぎて結局沢山使ってしまった。


「…………」


「ああ、勘違いするな、私はな正直お前がどんな秘密を持っていようが全く気にしないし、興味もない。

 父上は随分気にされていたようだが……シルフィも結局、お前のスキルの事は王宮で何も言わなかったからな。

 何も聞いていないから知らないとあいつが言った後、父上が分かったら教えてくれればいいと説得しても

 絶対に話しませんと断固として首を振らなかったぞ。

 まあ、言いたくない事なんだろう?それで別に構わんよ。

 私が分かってるのは、お前が授かったスキル以外に何かしら力があると言うだけで詳細は知らん」


え?全く気にしないって……それでいいの?

信じていいんだろうか……。


……それに……シルフィも僕との約束を守って何も言わなかったんだ。

そっか、言わなかった……言わなかったんだ。


凄く嬉しい……。


あれ?じゃあ何でさっきの戦いで使ったスキルの事を聞くんだろ?


「ははは、不思議そうだな。さしずめ、何で気にしないというのにスキルの事を聞くんだ?と言った所か?」


僕は思わず、頷く。


「そうだな、まずお前は俺を殺さないように本気でというより全力でやってなかっただろう?

 そしてもう一つ、戦ってみて確信したが、お前は対人戦闘の経験が余り無いのだろう?

 さっきの戦いでお前が負けた負けた理由、それはな……スキルに頼り過ぎた戦い方と言うのが原因だ。

 所謂、戦闘勘とか、体の動かし方とか、そういった経験って奴が全く足りてないと言う事だな。

 モンスター相手ならそれで構わないだろう、しかし対人となれば話は変わってくる」


……なるほど、言われてみれば僕は人と戦ったのはライルとの一戦だけだ。

それも、初手を譲られての戦闘だったし、ヤツは僕の事を舐めていたから油断もしてただろう。


意思を持っている敵……、それに対抗するには絶対的に経験が足りないという事なんだ。


「と言うわけで、だ。これから私がお前を鍛えてやろう」


「へ?」


「聞こえなかったのか、私がお前を戦えるように鍛えてやると言ったんだ」


ど、どういう事!?そんな唐突に!?


「せっかく家族にこれからなるんだ。

 お前にはこれから大事な妹を守って貰わなければならないからな、その為に強くなれ。

 そして、今度は倒れずに必ず勝て!いいか義弟(マイン)


み、認めて……くれた?

僕の事を?王子様が平民の僕の事を認めてくれたの?


「という訳で、難しい話は終わりだ!

 ほれ、背中を流してやる!そこに座れ!」


こうして、僕はシルフィードの婚約者として正式にお義兄さんに認められ、そして師匠が出来ました。





……力任せに背中をゴシゴシとやられた僕はただひたすら痛みを耐えるばかりだった。

ひょっとしてまだ認めて貰えてないの!?


……どうせなら、アイシャに背中を流して貰いたかったよ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



決めた、スキルの事を話そう。


お義兄さんと一緒に風呂から出た後、アイシャとシルフィがお風呂に入る事になった。

二人がお風呂に入っている間、僕は色々考えた。


王様が僕のスキルの事が分かったら教えてくれれば良いとシルフィに言ったら、彼女は絶対に教えないと断言した事をお義兄さんが教えてくれた。

自分は嫁ぐのだから、旦那様が嫌がる事は絶対にしないと。


結局の所、僕のスキルを話すか話さないかは、僕が相手を信用するかと、相手が僕の事を信用するかという二点に尽きると言う事だ。


僕はアイシャとシルフィを信用する事にした。


誰にもスキルの事は言わないだろうと。

そして、秘密を知っても僕を信じて、家族で居てくれると言う事を。


お義兄さんも何となく教えて構わない気はするけど、今日出会ったばかりだし、これから修行をつけてくれると言う事だから、信用出来るかはそのうち判断出来ると思う。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ふぅ~、素晴らしいな……。何時の間にこんな凄いのを造ったんだ?」


肩まで湯に浸かりながら、一緒に入っているアイシャに問いかける。

この前、この家を訪ねた時には無かった筈だから、私が王都に戻っている間に造ったという事になる。


「実は姫様がここをたってから、すぐ二人でアドルに行ってきたのです。

 そこで高級宿に宿泊したのですが、マイン君……お風呂が気に入っちゃったみたいで帰ったら家に造ろうって。

 姫様も喜ぶだろうからと帰ってくるまで、何とかしたいとずっと言ってましたよ」


そうか、そんな事を言っていたのか……ダメだ、顔が勝手に緩んでくる。

今まで異性との付き合い等、経験が無いからなのか、こんな些細な事でも嬉しくなってくる。


「と、ところで留守中に何か変わった事は無かったか?」


照れ隠しにそんな質問をしてみる。

すると、少しアイシャの表情が曇り、大丈夫か?と声を掛けようとすると、急に私に頭を下げてきた。


「……申し訳ありません、姫様を差し置いて、私、マイン君に抱かれました」


ん~ん?

抱かれた?


……なにっ!?


「……詳しく、話してみろ」


自分でも意識しないうちに自然と厳しい口調になる。


何でもアイシャが言うには、旦那様がトロールを狩りたいと言いだしたので迷宮都市であるアドルに行く事になったらしい。

宿に泊まる時、ちょっとしたトラブルが発生し、本来は別々に部屋を取る予定だったのに一部屋しか部屋を取らなかったそうだ。


その夜に旦那様に誘われて、そのまま抱かれたとの事だった。


……旦那様が求められて、と言うなら私は何も言えないではないか。

そもそも、行きずりの女と関係を持ったわけではない。


私と同じく、旦那様の妻となるアイシャが抱かれたというなら、何も問題は無い…………そうだな、無いんだ。

だが、何か心にモヤっと来る物があるな。


「……分かった、他ならぬアイシャが相手というのなら是非もないだろう。

 その代わり今晩は私が愛して貰うぞ。否はないな?」


よし、アイシャの許可も取った。

かなり緊張するが、いずれにせよ子を成すには必要な事だ。


気合いを入れて望むとしよう。


「……あ、姫様……アルト殿下がマイン君の部屋で寝るとか言ってませんでしたか?」


!!!!!!


ああ、そう言えば……そんな事を言ってたような気がする!?

お、おのれ~、兄上めっ!!!


何処までも私の邪魔をする気だな、許さん!!!







「あれ?お義兄さん、どうしたんですか?」


「いや、何故か急に寒気がしてな……」


「……そうですか」



何時もお読み頂きありがとうございました。


活動報告にも書きましたが、皆様から頂いたご意見を参考にさせて頂き、自分なりに作品が良くなると

判断しました点を若干だけ近日、修正致します。


また、ひょっとすると11/11の更新が出来ないかもしれません。

決して心が折れて中断という訳ではないので、もし出来なくてもご安心?下さい。

すこし、用事があるのです。


今後とも宜しくお願いします。


※なお、心が折れてしまう可能性を考慮し、昨日の感想は全く目を通しておりません。

書いて頂いた方、申し訳ありません。

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