第51話 実験をしてみよう
10時間……再び、馬車に揺られながら僕等はルーカスの町に戻ってきた。
一人で乗り込んでいたら中々疲れる行程だったと思うが、アイシャが居てくれたおかげで苦痛に感じる間も無く、到着する事が出来た。
夕べの余韻を引きずりながら馬車に乗り込んだので、僕もアイシャも全く自重する事が無かった。
今、思えば同じ馬車に乗り込んでいた人達は恐らく相当辛い馬車の旅となったに違いない。
乗り合わせた人達には申し訳ない事をしたと思う……ごめんなさい。
「「ただいまっ!」」
たった二日間居なかっただけなのに、家に入った途端、体から力が抜けていくのが分かる。
気が付かなかったけど結構、気を張っていたんだなぁ……。
職人さんへのお風呂の依頼は明日だな。
「……姫様もまだ帰ってきてないみたいね」
うん、……実はちょっとほっとしたよ。
いくら10日間程で帰ると言って留守の間に帰ってきたら、シルフィも困ってしまうもんね。
行きの馬車の中で、急に心配になったんだよね。
アイシャにも相談したら、確かに可能性はあるかもしれないと言われて、結構ドキドキしてたんだ。
最初にちゃんと考えれば良かったと、反省です。
しばらく二人で床に寝転がり、休憩をしていたんだけど、僕のお腹がぐぅと音を鳴らした事で晩ご飯の準備に取り掛かる事にした。
アイシャが気を遣ってくれて、今晩は自分一人で作るから、休んでいてと言ってくれたので変わらず床に寝転がっている。
待っている間、やる事もないので迷宮で思いついた事を実験してみる事にする。
まず収納袋から折れた鋼鉄短剣の柄と刃を取り出す。
僕が思いついた事、そう【再生】を使ってこの短剣を復活させる事が出来るんじゃないか、と言う事。
ただ、復活させるだけでは面白くないので、もう一つ実験をしてみよう。
戦闘では結局のところ、部位欠損が再生で治るのかどうか確認出来なかったけど、この実験で確認出来るかもという期待もあった。
先ず、柄に【再生】を貼り付ける。
……すると、柄から欠損した筈の刃が”生えて”きた。
名前:鋼鉄製の短剣+12
攻撃:+30
階級:上級
属性:無し
特攻:人型
スキル:再生
……完全に直ったようだ。
よし、次の実験。
今、再生し終わった鋼鉄短剣にライトニングエッジを強くぶつけてみる。
すると鋼鉄短剣の方は威力に耐えきれず、ほんの少しだが刃こぼれする。
その刃こぼれした部分をじっと見ていると、徐々に修復されていく……そして一分程で元の姿に戻った。
……これ、持ってる装備品全部に付けておけば、メンテナンス要らないんじゃ……?
それに戦闘中にダメージを受けても戦闘中に勝手に直っていくんじゃないかな。
取りあえず、ライトニングエッジにも【再生】を貼り付けておく。
だけど、これ……僕に貼り付けておいて腕とか欠損したらきっと腕がうにょうにょと再生されるって事だよね?
再生されるのはいいんだけど、その過程を誰かに見られたら……。
うん、治す時に都度貼る事にして、普段は小石に付けておく事にしよう!
よし、更に実験をしてみよう。
今度は鋼鉄短剣に【豪腕】を付けてみた。
上手くいけば、かなりの威力で攻撃が出来るかもしれないよね?
「ちょっと解体小屋に行ってくるよ、すぐに戻るから!」
アイシャに声を掛けて、急いで解体小屋に向かう。
そしてトロールゲイザーの亡骸を作業台にのせて【豪腕】付きの鋼鉄短剣で斬りつけてみた。
しかし、その刃はトロールゲイザーの亡骸に小さな傷をつけただけだった。
……う~んだめだ、これは使えないや。
何となく予想はしていたけど【豪腕】は発動しなかった。
そもそも【豪腕】というスキルは使用者の意思によって発動するタイプのスキルだ。
対して【再生】は常時効果が出ているタイプのスキルである。
僕達みたいに意思がある者なら、スキルを発動するのは容易い事だが短剣に意思はない。
だから、スキルを意思によって発動させる事が出来ない……という事なのだろう。
つまり、道具などにスキルを貼り付け、その効果を得たいと言うなら常時発動型スキルじゃないとダメって事なんだ。
と言うわけで更に実験。
【常時:パワー】を三つ、鋼鉄短剣に貼り付けてみる。
そして、先程と同じようにトロールゲイザーの亡骸を斬りつけてみた。
先程と違い、今度は深々と刃が突き刺さる。
うん、予想通りみたいだね。
と、なると常時発動型のスキルは確保出来るだけ確保しておいた方がいいって事なんだろうな。
力の迷宮は【固有魔法・時空】で何時でも移動出来る。
スキル集めに暇を見て行ってみるのもいいだろう。
そう結論が出た所で、アイシャが呼びにきた。
「マイン君、晩ご飯出来たわよ」
収納にトロールゲイザーの亡骸、鋼鉄短剣二本を放り込み、アイシャと二人で母屋へと戻るのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
アイシャが作ってくれた晩ご飯は相変わらず絶品だった。
そう言えば、今までは二人で一緒に作っていたからある意味でアイシャ手料理初体験と言った所だろうか。
まだ結婚はしてないのだけど、気分はすっかり新婚さんである。
楽しい食事が終わり、アイシャは自分の部屋へと戻っていく。
何でもシルフィが来る前までに部屋の片づけを終えておきたいとの事だった。
明日でもいいんじゃない?と言うと早めに終わらせた方が余裕を持てるから、と言うので食器の片づけを引き受け彼女を送り出した。
「よし、まずは洗ってしまおう」
収納に入っている【常時:水】が貼り付いている小石を三つ取り出す。
小石三つの【常時:水】を一つにまとめて、食器を洗う水源にする。
このスキル、一つだけならじんわりとにじみ出てくるだけなのだが、三つ合わせれば食器を洗える位にはなると予想した。
若干、予想よりも多く水が流れ出たが、十分な量の水を確保する事ができた。
これで、井戸まで水を汲みに行く必要もない。
ちなみに試しと思って水を飲んでみたのだが、井戸水よりも美味しかった。
【魔力水】:不純物が一切無い、魔力に満ちあふれた水。
となっていた。
なお、小石を入れていた収納袋に結構な水が溜まっていて、水を全部取りだしたら洗い場が水で溢れそうになり、慌てて収納し外に捨ててきたのは内緒だ。
「~♪」
収納袋に溜まった水を捨てた後、気分を変える為に鼻歌を歌いながら作業を進めると、あっという間に食器を片づけ終わった。
さて、小石についたスキルを再び三分割して水の排出を制限する。
これを何も考えずに放置しておけば、先程の収納袋の二の舞になってしまう。
下手したら家の中が水浸しになりかねない。
そこで【常時:水】が貼り付いた小石だけは【固有魔法・時空】で作った収納に入れておくようにした。
この中なら時間の経過が無いから、水が湧き出るのを止める事が出来るんじゃないかと思ったんだ。
せっかく炊事場にいるので、もう一つ実験をしてみよう。
中型瓶に【常時:水】×3の小石と【常時:熱】×2の小石を入れておく。
すると、30秒程で中型瓶は満タンとなり手をいれてみると若干暖かくなっていた。
「……足りないか」
【常時:熱】を2から3に変えて、30秒待つ。
そして同じように手をいれると熱湯とまでは言わないが、手で触れると中々気持ちがいい温度になっていた。
そう、お風呂のお湯のような感じだ。
「うん、これでお風呂のお湯は問題無さそうだね。
大工さんに風呂釜を作って貰う時、内側に小石を置いておける位の窪みを作って貰えばいけそうだね。
工事は排水の配管だけで済む筈だから、そんなに時間を掛けずに設置できるかもしれない」
結果に満足しながら、僕は自分の部屋へ戻るのだった。
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名前:マイン
LV:61
種族:ヒューム
性別:男
年齢:15歳
職業:狩人
【スキル】
身体強化・小LV4(3→4) LevelUp!
身体強化・大LV3(2→3) LevelUp!
常時:パワー new!
ロック・スラッシュ new!
突進 new!
衝撃の魔眼 new!
魅了の魔眼 new!
豪腕・聖 new!
名前:小石
攻撃:1
階級:低級
属性:水
【スキル】
常時:水
常時:水
常時:水
名前:小石
攻撃:1
階級:低級
属性:熱
【スキル】
常時:熱
常時:熱
常時:熱
【保管スキル】
常時:パワー
常時:熱
常時:水
常時:風
常時:光
身体強化・小
豪腕
豪腕・極
ストレングスライズ
再生
超再生
名前:アイシャ・ローレル
LV:43 (29→43) LevelUp!
種族:ヒューム
性別:女
年齢:26歳
職業:弓術師
何時もお読み頂きありがとうございました。
今後とも宜しくお願いしますm(_ _)m
11/6
【超再生】も再生と同じなので、小石に貼り付けているのが分かるかなと思って表現を入れておりませんでしたが、感想欄を見て分かりにくかったと判断し、文末のスキル欄に保管スキルを追加しました。