第05話 アビリティと初戦闘
結局【カット&ペースト】を使って何かするって言うのは結構厳しいみたいだなあ。
解体屋位か……、いや待てよ?せっかくスキルが増えたのだから、狩人としてきちんと行動してみるか?
【短剣・極】【俊足(小)】【視力強化・中】【脚力強化・小】この辺りを駆使すれば兎みたいな小動物じゃなく大物も狙えるかもしれない。
……うん、その方向でやってみるか。
これなら新しくスキルが増えても、周りに僕しかいないからバレないだろうし……。
早速、明日狩りに出てみよう。
大雑把ではあるが、方向性が決まったので、夕食を食べたら早めに休むようにするか。
そんな事を考えながら、何時も通りの質素な夕食を作っていく。
今日は買い物をする余裕が無かったので、干し肉と黒パンだけだ。
量もそんなに無かったのであっさりと食べ終わったけど、いつもよりも美味しかった気がする。
多分【料理】が働いたんじゃないだろうか?
料理も繰り返して何とか熟練度を上げていきたいな。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
朝、まだ辺りは薄暗い時間に目覚め、早速狩りの準備を開始した。
革の胸当て、革の篭手、革の脛当を装備し、解体用の短剣を腰に履く。
いつもなら、罠を仕掛けて兎のような小動物を捕獲するんだけど、今日の狙いはフォレストマトン、所謂羊だ。
それ程、素早くは無いが鋭角な角を使った突進をしてくる事と睡眠攻撃がやっかいな為、見つけても今までは逃げていたモンスターだ。
ただ、やっかいな得物というだけあって、それなりに高く売れるんだ。
肉もクセはあるけど、旨味が強いし、角や蹄などは素材として高く買って貰える。
これを安定して狩る事が出来たら、生活は大分楽になるはずだ。
準備も完了し、初めての本格的な狩りにドキドキしながら、町の裏門から近くの森へと向かっていく。
門番さんに「今日は随分と早いな、気をつけていけよ」と心配されてしまった。
森に向かう道中にも新たに得たスキルの効果を実感する事が出来た。
そう【俊足(小)】だ。
軽く走るだけで、今までなら全力疾走しなければ出せなかった速度が出る。しかも息切れも全くない。
スキルという物の有用性、効果を改めて実感する事になった。
そんな訳で、あっという間に目的地に到着する事が出来た。
「さ~て、ここからが本番だ……」
緊張からか、思わず独り言を口に出してしまう。
慎重に森を進んでいくと、居ました。
名前:フォレスト・ラビット
種族:兎族
性別:♀
【アビリティ】
なし
目的の羊さんじゃなかったけど、何時もお世話になっている兎さん発見です。
……ん?なんだ?見慣れない言葉が鑑定結果にあるぞ?
アビリティ??なんだ、それ。
分かんない事は鑑定にお任せするか。
【アビリティ】:モンスターの体格や体の構造に依存する特殊な技、一般的にスキルと同一視されている。
……モンスター版のスキルって事?説明からするにモンスター専用スキルって事か。
体格とか構造とか言うのなら、カットしてもヒュームでは使えないのかもしれないな。
取り敢えず、いつもなら罠を仕掛ける相手だけど、正面から戦って自分の力を確認してみるか。
短剣を手に取り、フォレスト・ラビットの正面に立ちふさがる。
僕に気が付いたフォレスト・ラビットは怒りを顕わに飛びかかってきた!
【脚力強化・小】を発動させながら、ひらりと身をかわす、そして身をかわした瞬間に短剣を突き出す。
〈ピギャーーっ!!〉
肉を切り裂く感触とフォレスト・ラビットの悲鳴を聞きながら、血まみれになりながら地面に落下したフォレスト・ラビットを見る。
まだ息はあるようだが、かなりの深手みたいでピクピクと痙攣している。
僕は短剣を振り上げ、そのまま一気に心臓へ突き立てる。
「よし、倒した!」
随分あっさりと倒せた事に自分でも驚きながら、倒した兎を【カット】で解体する。
そして持ってきた収納袋に放りこむ。
これもお父さんの遺してくれた道具で50kg程度まで物を入れておく事が出来る道具なんだ。
生き物は入れる事が出来ないし、こうやって獲物を入れたあと、忘れちゃうと中で腐ってしまい大変な事になるけども非常に重宝する道具である。
さて、本命の獲物であるフォレスト・マトンを探そう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
20分ほど、森の中をウロウロして更に兎を二匹倒したが、肝心の羊は見つからない。
どうした物かと思案していると、遠くの方に大きな黒い影がノソノソと歩いているのが見えた。
【視力強化・中】を使い、黒い影を見てみると……なんとオークである。
オークといえば、特に”魔族”と呼ばれる人型のモンスターだ。
凶悪なほどの腕力を持ち、堅い皮膚を持つ、かなりやっかいなヤツだ。
そして、ヤツらは自分達とは違う他種族の女性を攫って、犯して繁殖を行う事でも有名だ。
だから、町の人達からは凄く嫌われているモンスターなんだ。
正直、僕では勝ち目は薄いと思う。
僕の腕力では堅い皮膚に短剣が通らないだろうから。
取り敢えず、鑑定してみるか。
名前:オーク
種族:魔族
性別:♂
【スキル】
豪腕
【アビリティ】
咆哮
む、スキルとアビリティを両方とも持ってる。
流石に兎とは格が違うと言う事か。
取り敢えず、スキルを奪っておこう。
アビリティは、奪ってその辺の木に貼り付けておくか。
ヒュームには使えないみたいだしね。
【豪腕】:任意発動型スキル、自身が望むタイミングで発動させる事が出来る。使用すると腕力が二倍になる。一度使用すると次回使用まで30分のクールタイムが必要。
……これなら、なんとか倒せないかな?
ヤツのスキルとアビリティは奪ったから弱体してるし、僕の懸念だった堅い皮膚も豪腕があれば何とか出来そうな気がする。
けど、真正面からぶつかるのは得策じゃないよね。
ああ、そうだ!魔法があったじゃないか!使った事が無いからすっかりと忘れてたよ。
背後から魔法で一撃を入れてから、戦おう。
そうと決めたら、ヤツの後ろ側に回り込んで、っと。
『くらえ!』
心の中で叫んで【魔法・風】を発動する。
オークまでの障害になっている木の枝を切り裂きながら、風の魔法がヤツの元へと飛んでいく。
〈ギャ?〉
木の枝を切り裂く音でオークが気が付いたのか、振り返りこちらを向いてしまった。
しかし、突然の事に対応する事が出来なかったんだろう、見事に風の魔法はヤツに着弾した。
〈グォォォォォォーーっ!!〉
今だっ!
【脚力強化・小】と【俊足(小)】を生かして一気にオークの懐に飛び込む。
そして、ヤツから奪った【豪腕】を発動し、その大きなお腹を一気に切り裂いた!
痛みにのたうち回るオーク、滅茶苦茶に腕を振り回している。
一端、後ろに下がり、再び【魔法・風】を発動する。
至近距離から、切り裂かれた腹に風の魔法は直撃し、オークの動きが目に見えて鈍くなった。
この隙に背後へと回り込み首に向かって短剣を思い切り突き刺した。
これが止めとなったようで、一際大きな叫び声を上げた後、ヤツは崩れ落ちた。
倒した・・・のか?
暫く、様子を伺うがピクリとも動かない。
【カット】で解体してみるか、生き物には使えないから、生死の判定も出来るしね。
……解体が出来る、と言う事は倒したと言う事か。ふぅ、ドキドキするなあ。
けど、オークを倒せた!僕でもオークを倒せたんだ!!
【改稿】
2016/12/18
・全般の誤字を修正。