第48話 力の迷宮(3)
あれから何体かのオークやゴブリンと遭遇したが、不思議な事に上位種には出会わなかった。
オークもゴブリンも狩り慣れている事もあるが、ペーストを併用する事でほぼ作業の如く簡単に狩り続ける事が出来ている。
アイシャも最初のうちはかなり慎重に戦っていたが、今では大分余裕が出てきたようでサクサクと倒している。
名前:アイシャ・ローレル
LV:29 (28→29) LevelUp!
種族:ヒューム
性別:女
年齢:26歳
職業:弓術師 Change!
レベルも28から29に上がっている。
一階のボスも含めてかなり沢山倒しているからか、いいペースじゃないかと思う。
スキル自体は変わった物は持っているモンスターは特におらず、ただ、ひたすら小石にペーストしていく作業の繰り返しだった。
地下に降りてきて一時間程、経過しただろうか。
突然、オークとは別種の叫び声が聞こえてきた。
……間違いない、オーガだ。
オークというモンスターは”豚”が元になっている魔族と言われている。
瘴気と呼ばれるヒュームや獣人、エルフ、ドワーフなどの体には害のあるいわゆる「悪い空気」を吸収してその存在が変化した物がオークと言われている。
余談だが、瘴気には濃密な魔力が含まれている。
だからなのかオークの肉は上質な豚肉のような味がする。
豚と違って一定の強さを持つ冒険者や騎士でないと倒せない事から流通量が少なく、高価買取されるという訳だ。
僕もオーク肉のおかげで結構儲かったしね。
そして、肝心のオーガだがやっかいな事に”鬼”が元となっていると言われている。
鬼というのは本来鬼族に分類されており、僕達ヒュームやエルフ、獣人達等おおよその種族と好意的な関係を築いている。
その鬼族の一部が瘴気を吸収し、姿を変えたのがオーガと呼ばれるモンスターなのである。
一説では迷宮を作る時に暗躍した魔人達が鬼族を捉え、無理矢理に瘴気を吸収させたとされている。
そして、オーガの特徴として力が非常に強く、俊敏、頑丈と三拍子揃っている。
持っているスキルは攻撃に特化しており、戦闘のスタイルとしては一撃必殺を得意としているらしい。
簡単にまとめるとオークの上位版、そんな感じだね、
……そのオーガが凄まじい咆哮をあげながら僕達の前に姿を現した。
名前:パワー・オーガ
LV:35
種族:魔族
性別:♂
【スキル】
ロック・スラッシュ
豪腕・極
【アビリティ】
無し
やはり、かなり強いな。
……え?オーガが右手を大きくスイングして、その手から何かをこちらに向かって投げてきた!
「アイシャ危ないっ!」
僕はアイシャを抱きしめ、そのまま横方向へと倒れ込み、飛んできた物体を回避する。
飛んできたのは物体は倒れ込んだ僕等の頭上を高速で通過し、背後にあった岩壁へと直撃し大きな破壊音を周囲にまき散らして砕け散った。
……飛んできたのは恐らく巨大な岩の塊だと思う。
現れた時にヤツの手にあんな巨大な岩は存在しなかった。
右手をスイングした時に恐らく出現したと思われる。
多分、スキルにあるロック・スラッシュが今の攻撃なんだと思う。
調べる前に使ってくるとか……今のは本気で危なかったよ。
「アイシャ、あれは僕がやるよ。遠距離で戦うには分が悪いと思う」
まあ、スキルはカットしたのでもう警戒する必要はないんだけどね。
ヤツの腕力を考えると、その辺の落ちている岩を投げてくるだけでも驚異だしね。
アイシャが頷き、後ろに下がるのを目で確認し、右手にライトニングエッジを装備してオーガへと走っていく。
僕を標的として認識したのだろう、先程と同じように右手を大きくスイングし始める。
「残念だったね!もうそいつは使えないよっ!」
僕は自己強化を掛けながらオーガに向かって走りながらそう宣言すると、スキルが使えない事に気が付いたオーガが凄まじい咆哮を上げる。
猛烈な勢いで繰り出してくるオーガの拳をかいくぐり、ライトニングエッジを一閃する。
鋼鉄短剣も凄まじい切れ味だったけど、このライトニングエッジは更にその上をいってるように感じる。
かなりの深手を与えたつもりだったけど、まだオーガは生きていた。
斬られた傷を気にする様子も無く、ブンブンと両腕を振り回し僕を捕まえようとする。
オークなら恐らく致命傷であろう攻撃だった筈なのに、恐るべき生命力だ。
この様子だと生半可な攻撃では止めはさせないと判断し、僕は次の手段を実行する。
そう【武技:シャークグロウ】だっ!
大振りな腕の振り回しを回避し、その懐に飛び込んで、必殺の一撃を見舞う。
激しい炸裂音が辺り一面に響き渡り、オーガは遂にその場に倒れ伏した。
「ふぅ」
「マイン君、お疲れ様。怪我はしてない?大丈夫?」
アイシャが心配げに走って近づいてくる。
「うん、平気だよ」
笑顔でそう返答し、オーガの亡骸を収納袋に放り込んだ。
「結構、強かったよね」
僕がそう言うと、結構じゃなく大分強いモンスターなんだけどねと彼女は苦笑する。
初めてのオーガとの戦闘の感想を話しながら、進んでいるうちに地下一階のボス部屋を発見する事が出来た。
あれ?ボス部屋の前にかなり沢山の人がいるな。
これからボスと戦うのかな?
ゆっくりと近づいていくと、ボス部屋の前の人達も僕等に気が付いたようだ。
「君達、ひょっとしてボス戦なのかな?」
豪華な鎧を装備した壮年の男性が声を掛けてきた。
その姿を見たアイシャが「あらっ」と声を上げる。
「ん?……聖弓か。冒険者を引退したと聞いていたが、何でこんな所にいるんだ?」
どうやらアイシャの知り合いのようだ。
「ちょっと用事で……ね。あなたがここにいるという事はこの人達は“舞い上がる砂塵”って事かしら?」
ん?“舞い上がる砂塵”……なんか聞いた事があるな。
それもつい最近に……なんだっけ……。
「ああ、うちのクランに依頼が入ってな。
ここにボス部屋で出るレアモンスター、コカ・グリースってヤツが落とすスピードシューズを取りに来たんだよ。
何せ、レアポップのモンスターだからな……全く出やしねえ。
こんな依頼受けるんじゃなかったぜ、全くよ」
ああ、思い出した。
元A級冒険者が結成したって言うクランだ。
確か、カシューとか言う名前の人がリーダーだったと思うんだけど。
この人かな?
名前:カシュー
種族:ヒューム
LV:42
性別:男
年齢:32歳
職業:統率者
【スキル】
片手剣・聖Lv7
罠作成Lv5
正面突破LV6
ああ、やっぱりこの人がリーダーのカシューさんだね。
それにしても凄いなあ。
流石、元A級冒険者って所だね。
強そうなスキルが三つもある。
「んで、アイシャよ。お前ら二人だけなのか?ここに来たって事はボスだろ?
二人だけでここのボスは厳しいというか無理だぜ」
なんか心配してくれているみたい。
イカツイ顔をしてるけど、結構いい人なのかな?
「まあ、なんとかなるわよ。ところで今どういう状況なの?」
アイシャがそう尋ねると、カシューさんは溜息をついて状況を説明してくれた。
なんでも一週間前から、何戦もここのボスと戦ってるらしく、そろそろ大分疲れてきたらしい。
そりゃ、一週間も迷宮なんかに籠もって何度も同じモンスターを狩り続ければ疲れもするだろう。
で、今は気分転換で休憩中との事だった。
「それじゃ、私達がボス部屋に入っても問題ないわよね?」
「……そりゃ、構わないが……マジで二人で入る気か?死ぬぞ」
僕等が本気という事が分かって、肩をすくめるカシューさん。
「オッケー、分かった分かった。んじゃ、俺らが一緒にいってやるよ。これで死なれたらこっちも後味が悪いからな」
いや、それは困る。
気持ちはありがたいが断固拒否だね。
「……いえ、僕達だけで大丈夫ですので……」
ここで僕が二人の会話に介入する。
急に僕が割り込んで来たので、驚いたんだろう。
なんだ、コイツという目で僕を見てくる。
「君が何者か知らんが、ボスを甘く見るなよ。
ここにいるアイシャは俺の昔からの知り合いだ。
わざわざ死ぬと分かってる所に行かせられる訳ないだろう?」
カシューさんが呆れたような、少し怒っているような口調でそう答える。
「カシュー、勝算無く私達は行く訳じゃないのよ。
気持ちは嬉しいけど、引いて貰えないかしら?
ここで問答をしてる時間が勿体ないわ」
僕に続き、アイシャにまで言われ、渋々カシューさんは引き下がってくれた。
まだ、何か言いたそうにしていたので、さっさと僕等はボス部屋に入る事にする。
“舞い上がる砂塵”のメンバー達も好奇の目で僕達二人を見ているみたいだ。
まあ、クラン単位で戦う相手にたった二人で挑むなんて普通は正気の沙汰では無いからね。
彼らの気持ちは理解出来るかな。
そんな好奇の目を尻目に僕達二人はボス部屋へ足を踏み入れるのだった。
ちなみにボス部屋は戦闘に入ると外からも中からも扉は開かなくなる。
ボスが死ぬか、挑戦者が死ぬか、どちらかが死ぬまで扉はそのままとなる。
さて、ボスは何だろうな。
名前:コカ・グリース
LV:42
種族:鳥族
性別:-
【スキル】
突進
【アビリティ】
フライングフェザー
石化
げ、カシューさん達が狙ってたレアボスだ。
何か、石化なんて物騒なアビリティがあるぞ……。
取りあえず、奪っておこう。
じゃないと怖くて近寄れないしね。
「……マイン君、あれレアボスよ……流石にきつくないかしら?」
アイシャが心配げに尋ねてくる。
「大丈夫だよ、コカトリス系のモンスターだよね?あれって。
ならば石化攻撃ありそうだから、遠距離攻撃主体で倒そうよ」
そう言って僕は【魔術の極みLV2】を発動する。
「じゃあ、行くよ」
そして、オーク・ジェネラルを倒したときのように【魔法・火】を連発する。
魔法・火を選んだのは何となくあの鳥の羽が良く燃えそうな気がしたから。
しばらくの間、轟音が鳴り響き、攻撃を辞めた後に残っていたのは全身が焼け焦げ、フラフラとよろめくコカ・グリースの姿だった。
僕は止めを刺すべく【豪腕・極LV2】【身体強化・大LV2】【腕力強化・極LV2】を使い、一気に突撃する。
そしてコカ・グリースの首元に狙いを定め、ライトニングエッジを一閃した。
スキルによって強化されたその一撃は呆気なくコカ・グリースの首を跳ね飛ばした。
「……マイン君、やりすぎだよ……」
アイシャの呟きがボス部屋に響き渡った。
何時もお読み頂きありがとうございました。
今後とも宜しくお願いしますm(_ _)m
感想でご指摘頂いておりますように私が以前やっておりましたFF11と言うネットゲームからスキル、武器名等を拝借しております。
どうしようかと思っておりましたが、名前の変更並びに一部スキル内容の変更を実施する事にしました。
ストーリーに影響はありません。
また、ご不快な思いをおかけした方々に、心からお詫び致します。
申し訳ありませんでした。
ご指摘を頂きました方にも心から感謝申し上げます。
ありがとうございました。
11/3 コカ・グリースとの戦闘描写を変更致しました。